1.【レベル9】――ワード・リアライズ。
趣味作品、そのためユルユルと。
「――斑鳩陵介、報告を」
部屋に入るなり、上官である女性がそう言った。
茶色に染めた肩までの髪に、黒の瞳。顔立ちこそ整ってはいるが、常に眉間に皺を寄せているので男性は寄り付こうとしなかった。もっとも、本人も男や結婚に興味などない、といった振る舞いをしているが。
俺はそんな女性――如月凛に、こう答えた。
「犠牲者は窃盗犯の二名のみで、死因は異能石を長時間保持したことによる暴走。それと暴走者による捕食だった。到着時には肉塊状態になっていたので、殲滅作戦を決行」
「了解した」
「……もう、帰っていいか?」
その内容というのも、俺が先ほど対処した事案について。
第一報が入ったのは午前一時過ぎで、埠頭にいる窃盗犯に対処したのが二時前後だった。他に手の空いているエージェントがいないから仕方ないが、さすがに眠い。
大欠伸をしつつ訴えると、しかし如月上官は待ったをかけた。
「いや、お前にはまだ話がある」
「はぁ……?」
踵を返そうとしていたところを呼び止められ、少しだけムッとしてしまう。
この時間に呼び出しを受け、なおかつ他に仕事とはいったい何なのか。そう思っていたのが表情に出てしまっていたのか、上官は厳しい声色でこう言った。
「態度を改めろ。お前は【レベル9】である以前に、新入りだ」
「…………」
この場所【J・HeRO】――日本異能研究機構――にてエージェントは、上官の指示には絶対服従。古臭い軍隊のような階級制度と、その者の力量を評価するレベル制度が混在しているのだった。
日本らしいといえば日本らしいのか。
ある意味で先進的とも思える歪さに対して、不満を抱かざるを得なかった。
「分かったよ……」
しかし、ここで反発しても仕方ない。
俺は悪態をぐっと呑み込んで、上官に示されたソファーに腰かけた。すると彼女は一つ頷き、デスクから動かずに話し始める。
「――時に、斑鳩陵介。お前が異能を発現してから、何年経った?」
「何年、だって? そりゃ、エージェントになる三年前だから、五年くらいか」
「あぁ、そうだな。お前は中学に進学すると時を同じくして異能を発現、急遽こちらの区画に収容されることとなった」
「……で、いまはここのエージェントとして小間使いだよ」
何を今さらな話をしているのだろうか、と思った。
俺――斑鳩陵介は、元々は普通の学生。
いや、正確にいえば普通の学生になるはずだった。
でも現実は如月上官の言葉の通り。ある日、目が覚めたら俺は異能が扱えるようになっていた。そして意味も分からないまま研究機構に連れられ、異能使いが生活する区画への移住を余儀なくされたのだ。
「仕方あるまい、お前の力は有用だ。世界で唯一の【レベル9】である異能――【言語実現】が、どれほどのものか知らないはずがないだろう?」
「まぁ、そりゃ……そうだけど」
だが、嫌味に対して諭すような言葉を返された。
事実は事実なので、俺は大きくため息をついて自身の能力を恨んだ。
【言語実現】――読んでその通り、口にした事象や言葉を現実にする力。
火を起こそうと口にすれば、なにもない場所から火を起こせる。肉塊の攻撃を防いだのも、火炙りにしたのもすべて、この異能によるものだった。
「すべての異能を従える異能。それが、お前の異能だ」
「…………」
如月上官の言葉に、俺はただ黙り込む。
彼女の言うようにこの力は【異能の王】である、と呼ばれていた。
何故なら、すべての異能を意のままに操ることができるから。本来一人に一つしかない異能を複数、それどころかすべて所持しているのだ。
世界で唯一の【レベル9】というのは、そういうこと。
俺の出現により【8】までしかなかった制度が改正され、新設されたのだった。
「……それで、今さらなんだよ。こんな話をして」
だが、俺としては嬉しいことではない。
今の生活にだって満足していない。
だって俺は、普通の学生生活を送りたかっただけなのだから。
「あぁ、その話なのだがな……」
普通の生活で満足していた。
だからそんな苛立ちを、掘り返した相手にぶつける。
だがしかし、彼女は気にするどころか思わぬことを言うのだった。
「斑鳩陵介。お前は明日から――」
至って真面目な表情で。
「一般の高校に通え」――と。
それは、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃で。
「…………………………は?」
俺は長い間を置いてから、それだけを口にしたのだった。
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