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皇女様の訪問

サボりすぎた。今回からまた三人称で行きます。

冬季の長期休暇、俗に言う冬休みは終わり、学園が始まって、数日後。


広々とした、畳張りの客間。隅々まで手入れが行き届いて、丁寧に扱われていることが分かる部屋。


その部屋の奥、座布団の上にちょこんと座り、目の前に置かれた茶を啜る小さな人影。


モフモフの尻尾をワサワサと動かしながら、満足そうに頬を緩ませる。


じっと、赤い瞳がこちらに向けられ、にまりと口元が弧を描いた。


「何を縮こまっておる、楽にせよ。そもそもここはお主の家であろうに」


くくく、と愉快そうに笑う日輪殿下の姿に、なんでこうなっているのかと、遠い目をして今朝のことを思い返していた。



***



座敷童の権能によって生み出された運動用の広間。すっかりお馴染みとなった訓練所。


どうやらヤツカの力が働いているのか、この空間は外や、拡張されているわけではない、元からある部屋とは違って、冬の冷たい空気は流れ込んでは来てないらしい。


過ごしやすい気温の中、地面を踏み込む音と、金属同士を打ち合う甲高い音が響いていた。


奏が振るう刀を間一髪のところで防ぎながらも、その刀を振り払って切り掛かるが、その時には既に引き戻された刀がぶつけられ、鍔迫り合いになる。


ほんの数秒、力の押し合いが行われたものの、次の瞬間にはお互い弾かれるように後ろに飛び、距離が開く。


じりじり、と間合いを確かめながら、お互いに視線をぶつけ合い、痺れを切らして、漱は強く地面を蹴りつける。


「ッッッラァァァ!!!」


一気に加速し、手に持った刀を振り抜く。


「甘い」


振り抜いた刀は、あっさりと合わせられた相手の刀で逸らされ、弾かれたかと思えばそのまま、奏の持つ刀が漱の体を斬りつける。


ギィィィィン!!と、金属が擦れ合う不快な音が響いて、漱はそのまま仰向けに倒れた。


「あ゛ーーー!!勝てねぇ!」


金属質な輝きを放つ肌。斬撃を受ける直前、妖刀仕様に切り替えたことで怪我を負うことは無かったものの、ビリビリとした衝撃は残っている。


結局一本も取れないまま終わった模擬戦。


悔しげに声を上げる漱に、奏は呆れた目を向けていた。


「年季が違うからなそもそも。暫く持つようになっただけでも大したもんだよ」


刀を担ぎながら言う彼女の姿は、今日も今日とて男の姿。人目がなくても、男の格好をとるのはどこで誰に見られているものか分からないからなのだろう。


トントン、と刀の峰で肩を叩く奏を、寝転がったまま悔しげな目つきで見つめた漱だが、やがて諦めたように視線を天井へと向ける。


「あるじさま、ほんじつも、おつかれさまで、ございます」


とてとてとこちらに駆け寄ってきたヤツカはしゃがみ込むと、白湯が注がれた湯呑みを差し出してくれる。


身を起こしてそれを受け取ると、湯呑みの縁に口を付けて、少し口に含んで、ゆっくりと飲み込む。


じんわりとした温かさが口から喉へと移り、胃へと流れ着いて、ホッと息を吐く。


「ありがとうヤツカ。……うわ、汗だくだ」


落ち着けば、流れる汗に気付いて、不快感に顔を顰める。


そんな漱の吹き出す汗を、ヤツカは手に持ったふわふわのタオルで甲斐甲斐しく拭ってやっていて、その様子に奏は呆れた目を向ける。


「毎度思うけどほんと仲が良いよな」


ジト目で見つめる彼女に、ヤツカと漱は顔を見合わせる。


「わたくしは、あるじさまに、おつかえするのが、よろこびですゆえ」


「まあもう家族みたいなもんだし、仲が良いのはそりゃそうだろ」


ニコニコと笑顔を浮かべながら、漱の世話を焼くヤツカの姿は、よく出来た嫁のようですらある。


キョトンとした様子で、何を言ってんだ、とでも言う顔の漱の汗をある程度拭い終えたらしく、いつの間にか真新しい着替えが用意されていた。


「あるじさま、おめしもので、ございます」


「いつも悪いな、助かるよ」


「いえ、おきに、なさらず」


着替えを差し出され、それを受け取る。


漱の礼に、ヤツカは微笑みながら首を横に振る。


「夫婦か?」


その様子を見た奏は思わず、と言った感じに口にして。


「……」


「ふふふ」


漱は意識したのか気恥ずかしそうに目を逸らして、ヤツカは頬を朱に染めて、嬉しそうに笑う。


そんな姿に、奏は嘆息するのだった。



***



「ところで」


「なんだよ」


所変わって居間。


さして汗をかいていない奏は兎も角、漱はしこたま汗を掻いていたため、軽くシャワーを浴びた後に着替えを済ませた。


その為、現在進行形でタオルで頭を拭いている途中である。


ヤツカが。


一応彼のために弁明をしておくと、初めは自分で拭いていたのだが、ヤツカの申し出……ゴリ押しとも言うが、それに根負けして任せているだけである。


呆れた目を奏に向けられている漱は、流石に情けないと思ってるのか、どこかバツの悪そうな様子。


「……まあいいや」


さすがに慣れてしまったのか、はあ、とため息を吐くだけでツッコミを放棄した奏は、改めて漱を見る。


「去年伝えてた呼び出しの件についてなんだけど」


「ああ……、皇女殿下とお前の親御さんからのだっけ」


告げられたのは以前言われた覚えのあるもの。

具体的な内容は聞かされていない、と言う話だったし、記憶から消し飛んでいた漱は一瞬固まる。


思い出したかのように言えば、こくり、と奏は頷いた。


「うちの両親の方のはまだ何も細かい話は聞いてないけど、日輪殿下からのものの方はさっき連絡が来てな、内容と日取りが決まったらしい」


「おう」


「内容は、『マガツキ』であるお前を魔狩りとして正式に任命することと、先日の依頼について聴取……だとさ」


告げられた言葉に、漱は眉根を寄せる。訝しむような目つきになるが、奏は肩を竦めるばかり。


「いまさら、でございますか?」


疑問の声を上げたのはヤツカだった。


実際、今更の話ではある。報告時に奏の方から伝えられているはずであるし、それぞれに確認を取るにしても、依頼後の数日以内に勾一族から人を出せばいいだけだ。


出来るのにしないのなら、何かしらの思惑があるのだろうと、漱は勘繰っていた。


「今更なんだよな……。何を考えてるのかわからないのは僕もなんだけどな、まあ明日にでも迎えが来るはずだから」


困ったように笑いながら奏が口にすると、ピンポーン、とどこか場違いに思えるインターホンの音が鳴る。


通販を頼んだ覚えはないし、誰も来る、とは連絡をしていない。


セールスか何かだろうかと、勇んで対応しようとしたヤツカを制止しつつ、漱は玄関に向かう。


「はい、どちらさ……ま……」


扉を開けると、小さな銀色の人影一つ。


赤い瞳をこちらに向けて、ワサワサと、狐の尻尾を動かし、妖艶に微笑む、日輪殿下の姿。


「ふむ、何を惚けておる?客人を放っておくのは、些か無礼ではないかのう?」


明日じゃなかったのか。


漱はそう奏に問い詰めたかったが、日輪殿下が口を開いた途端に、マガツキとしての力に再現者としての力を併せてまで逃亡したのでそれは叶わなかった。


「相変わらずじゃのう、浦曲の跡取りは。……ほれ、案内せよ」


「はい……」


権力には勝てない。

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