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正月・3

「明けましておめでとう御座います。八束さんに平沢さん」


おみくじを引こう、と意気込み運試しを賭けの材料にする算段を付けていると、背後から声が聞こえてきた。


振り返ればそこには巫女服に身を包んだ咲耶の姿。


その手には箒とちりとり、それにゴミ袋が握られていて、どうやら境内の掃除をしていたのだろうことが窺える。


「明けましておめでとう、木暮さん」


「木暮さ……ん、あけおめやで。家の手伝い?」


掛けられた挨拶に、こちらも同じように返しつつ、泰斗は言葉につっかえながらも問い掛ける。


絶面がなさそうな二人ではあるものの、泰斗は陰陽師であり、咲耶はヨリシロ、関係性としては上司と部下、と言ったところだろうか。


『虚の庭』に関わりがある人間しか居ない場所でもない限り、匂わせる程度であろうとも、その関係性は表に出さないようにしているのだろう。


「ええ、ここは実家ですし」


はじめ、畏まった態度であったのが咲耶の笑みで崩れ、普段通りの調子で投げ掛けられた言葉に、咲耶はこくりと頷く。


ここ、『津雲神社』で祀っているのが瀬織津姫、木花咲耶姫、及びに各付喪神。


また『マガツキノウタ』の世界において神社というのは『神々との交信出来る場所』であり、実際に特異性を持つ『聖域』でもある。


『虚の庭』と重ならないままに、けれど『神様の居る場所』でもあるが故にヨリシロの身に神を降ろすまでもなく意思の疎通が可能になる、とゲーム内では言われていた。


そんな神社の管理者、というのがヨリシロだ。


この世界において神主などは一部例外を除いて殆どがヨリシロである。神をその身に降ろす、という特性からきてるのでは、とか、契約した神を祀る為、とか考察はあったが、その辺りの理由は不明とされている、


ともあれ、例に漏れず、この津雲神社も管理者がおり、それが木暮家となる。


「お二人は初詣ですよね?男2人で寂しくありませんか?」


「非モテって馬鹿にしてる???」


「わいは好みのお姉さんがみんな用事あるだけやで……いやほんとほんと」


ヤツカもポケットの中にいるから厳密には野郎二人だけでは無いのだが、それはそれとして。


遊びに誘える程度の仲の女性が殆どいないのは事実ではあるが、言われるとなんとも言えない気持ちになる。


「いえ、家族連れの方や恋人同士の方が多いようでしたから、お二人にはその様な相手は居ないのかな、と」


キョトン、と首を傾げながらも悪意なくぶつけられた棘になんとも微妙な気持ちになりながら、くしゃりと表情を歪ませる。


素朴な疑問、と言った調子での問いかけなのが余計に心に刺さる気がする。


「まだ高等部1年だしそう言うこともある」


「居なくてもおかしくはないんやで」


「まあ、それはそうですね」


クスリ、と微笑んだ辺り実は揶揄ってきただけなのかもしれない。


「哀れな2人に良いことを教えてあげます」


微妙な顔を浮かべたままの俺ら2人を、愉快そうにくすくすと笑えば、すっ、と、とある方向を指差す。


そちらは元々俺らが向かって居た方向。おみくじがある方向。


告げられた言葉に泰斗は目を輝かせて、俺は苦笑した。



***



当初の予定通り、拝殿……先ほど参拝を済ませた場所の側にはおみくじの自動頒布機が置かれている。


そのすぐ側には長机が置かれており、一つ置かれたパイプ椅子には1人の女性が座っていた。


巫女服を着た彼女の前にはたくさんの人がずらり、と並んでいて、自動頒布機の方には全く人が立っていなかったくらいだ。


にこやかな笑顔で手に持ったくじを引き、参拝客に手渡していく。


並んでいるのは男女問わず、みんなから人気があるのだろう、というのが察せられた。


視線を向けていたからか、チラリ、とこちらに視線が向けられたかと思うと、すぐに逸らされる。


「並ぶ?並んじゃう?」


「並ぶか」


2人して、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。



なんだかんだで凄い数が並んでいて、自分達の番が来るまで30分程の時間が掛かった。


のんびりとだべりながら行列が消えていくのを待って、ようやく売り子の前に到着する。


長い黒い髪を一つに結わえた巫女服の彼女……というか、水上先輩は、金を払った俺たちにぽい、とおみくじを手渡してくれる。


「明けましておめでとうございます、水上先輩」


「あけおめです」


受け取りながら声を掛けると、恥ずかしそうに耳を赤く染めて、じとりとした目でこちらを見る。


「明けましておめでとう。でも2人して揶揄ってくるのはよくないと思うな。……ええと、平沢くんかな?それに漱くんも」


俺らの後ろにはもう並んでいる人がいないからか、少しだけむくれた様子で文句を告げてくる。


揶揄うような発言はしていないが、まあにやにやとしていれば揶揄っているように受け取られるか、と苦笑を溢す。


「揶揄ってないですよ。水上先輩はなんでここに?」


「バイトだよ。本当は私も初詣来ようと思ってたんだけど、お母さんに言われちゃって」


「先輩のお母さんって漱くんのバイト先の店長っすよね」


「うんそうだけど……、あ!お母さんナンパして振られてたの平沢くんだったんだ」


「なんで知られてるの???」


「お母さんが言ってたから」


がっくりと肩を落とし、悲しげにする泰斗に、あはは、と少し申し訳なさそうに苦笑する水上先輩。


泰斗には申し訳ないが、脳内で店長が笑いながら話してる姿が思い浮かんで、思わず吹き出してしまった。


「き、きさまぁ!ゆるせん……」


「流石に笑うのは悪いよ漱くん」


窘めるように水上先輩が口にし、泰斗は態とらしく怒りを露わにする。


「いや、簡単に思い浮かんで面白くて」


言いながらも、くつくつと笑っていると、泰斗がはぁ、とため息をつく。


「畜生め、奢らせてやる」


「ああ、確認するか」


一息ついて、良い加減横に退いて、引いたおみくじを開こうとすると、水上先輩が不思議そうにこちらを見ているのに気がつく。


「見せ合いっこ?」


「いや、運が悪い方が奢りって賭けしてて」


「あ、私も混ざって良い?」


楽しそう、だなんて罰当たりな事をする俺たちに便乗しようと、許可を求めながらもおみくじを引く水上先輩。


泰斗と顔を見合わせて、まあ良いか、と苦笑する。


「構いませんよ」


「んじゃ、開いて見せ合いっこやね」


水上先輩も引き終えて3人揃って差し出して。



結果、水上先輩には500円近くするコンビニスイーツを、泰斗にはコンビニのフライヤー商品を500円近くなるように奢る事になったのだった。



そうして、賑やかに正月は過ぎていく。楽しい時間は、ひとまず終わり、と言わんばかりに、夕焼けの帰り道で、烏が五月蝿く鳴いていた。

泰斗→吉

葵→大凶(待ち人だけ『すでに来ている』)

漱→白紙。「そんなことある????」

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