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夢での会話

ぱち、ぱち、と火が弾ける。くべられた(まき)はその身を削り、崩れて、囲炉裏の灰が少しだけ舞い、火が揺れて、また薪がくべられる。


天井から囲炉裏に向けて伸びる自在鉤の先には、鉄製の鍋が吊るされていて、ぐつぐつと湯が沸き立っている。


不思議と吹きこぼれることなく、湯が沸き立ったまま。囲炉裏の直ぐ側で火箸を持って、薪を突く白髪の少女は、鍋から視線を外して、こちらへと顔を向ける。


赤い瞳が細められ、にこにこと人懐っこい笑みを浮かべると、火箸を火から離れたところに置いて、こちらへと近寄ってくる。


「ん」


両手を前に差し出して、何かを催促するような姿の少女に、俺は無言で片手を上げる。


「っぶなぁ!?」


上げる、と言うか、振りかぶった。握り締めた拳をその顔面に叩きつけようとして、大きく飛び退かれ回避されたことに強く舌打ちをする。


「宿主はなんでいつも我に対してそう暴力的なのだ!?」


少女、もとい妖刀は青筋を立てて声を荒げる。


「逆になんでそうならないと思ったんだお前」


真顔で返す俺に、わなわなと拳を震わせる妖刀。


確信犯的に殺しにきた挙句、不利を悟れば人の体を乗っ取ろうとしてたんだからこの程度の扱いの悪さは軽んじて受けてほしい。


結果的に生きてるとは言え、殺しにきた相手を許せるほど心は広くない自覚がある。


「我、良い子にしてた」


そう言って、その場でまた両方の手のひらを上に向けてこちらに差し出す妖刀。


どうやらクリスマスプレゼントの催促らしい。


肉体を共有しているのだから、別に知っていても不思議はないのだが、こいつは何を求めているのだろうか。


「仮に俺がプレゼントを用意していたとしてもここには持ち込めないだろ」


「それはそうだが……、用意してくれても良いだろうに」


「嫌だけど」


ヤツカが羨ましくなったのだろうか。図々しくプレゼントを要求してくるが、キッパリと伝える。


少なくともこいつに送るプレゼントなどない。やるとしても拳だけである。


「いじめか?」


「自分の行い振り返れよクソがよ」


「幼子に殴り掛かる奴よりマシだと思うが」


「仮に少女の姿だろうと自分を殺しにきた相手に対して遠慮する必要ってあるか?」


「……ないな」


むすっと唇を尖らせながら抗議してくるが、知ったことではない。


はぁ、と嘆息すれば、小さく首を振って、困ったように眉根を寄せる。手を下ろせば、囲炉裏の側にまた座り込む。



***



ぱち、ぱちと、火が弾ける。


ゆらゆらと揺らめく赤い炎が鍋の底に触れて、這うように広がって生きながら上へと伸びていく。


時折継ぎ足される薪に、火が喜ぶかのようにその勢いを増す。


それを、妖刀の向かい側に座って眺めていた。


なんで眺めてるのか、と言われればここから出られないから。精神世界でもあり、夢の中でもあるこの世界は、現実で目が覚めない限り出ることはできない。


長さはまちまちだが、今回はまだ夢は覚めないらしく、こうして時間を潰している。


「なぁ、宿主」


「なんだよ」


視線は囲炉裏の中で踊る炎に向けたまま、向けられた声に短く返す。


炎と鉄鍋の向こう側で、妖刀は火箸で薪を弄りながらも、困ったように眉根を寄せている。


「これからも敵は許さない、とでも言い続けるつもりか?」


問い掛けの意図が上手く理解出来ないまま、胡座をかいたまま、頬杖をつく。


およそ人の話を聞く態度ではないことを自覚しながらも、気にした様子がないことを確認しつつ、言葉を返す。


「急になんだよ……、言い訳か?」


視線を動かして、妖刀の方へと視線を向ける。


「否定はしないが、そうじゃない」


ふるふる、と小さく首を振る妖刀。


「仮にどうしようもない理由があっても、それでも許さないと言い続けるのか、と聞いているのだ。我であれば正気ではなかった、とかな」


告げられた言葉に、俺は口を噤む。


憎悪に飲まれて、望んでいなくても凶行に走らされた目の前の妖刀もであるが、印象深いのは、やはり原作をプレイした記憶。


例えば、家の柵などが原因で望まずとも、妹のような存在を裏切ることになってしまった勾柘榴。


シナリオを読み進めるうちに、俺の中にあった彼へのヘイトが段々と失われて行ったのではなかったか?


裏ヒロイン、と名高い黒幕の1人の事だって、憎めなくなっていたのではないか。奏は、全てが終わった後とはいえ、彼女に許しを与えていたのではなかったか。


けれど、それはあくまでゲームの中の話で、俺自身は当事者ではなかった。あくまでも傍観者でしかない。


記憶を辿りながらも、自然と口から言葉がこぼれていた。


「……分からない」


思い返して、考えて、絞り出したのはそんな結論。


上手い言葉すら見つけられなくて、モヤモヤとした気持ちを誤魔化すように、がりがりと乱雑に頭を掻く。


「けど、少なくとも、まだ、お前のことは許せない。命も、体も奪われようとしたんだ。簡単に受け入れられない」


精神世界にまで巣食って、共に在り続けることになった、なってしまったが、事実は変わらない。


結局、殺されかけた相手と、殺しにかかった相手、と言う構図は変わらない。


それでも、襲われた当初、あるいはへし折ったばかりの頃と比べると、こいつへの怒りや憎悪が薄まっていること自体は事実だ。


だから、許せるのか、と言われたらまだ許せない、としかいえないし、分からない、としか答えられない。


「今はそれで構わん。……邪険にされ続けるのはそれはそれで心に来るものがあるからな、改善の余地があるなら万々歳だ」


そう言うと、妖刀は安堵したように笑う。


それと同時に、瞼が重くなっていき、視界が白んでいくのを感じた。


夜が明けて、目を覚ます時間が訪れたようで、瞼は落ち切って、なのに視界は真白に染まる。


「もう朝か、名残惜しくはあるが、今はここまでだな」


消えゆく意識の中、そんな呟きが耳に届いた気がした。

「……わるさをしているわけでないのなら、みのがしてあげましょう」

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