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贈り物・2

今日も今日とて美味しい夕食を堪能した後、風呂なども済ませて、居間に2人、並んで座っていた。


料理の並べられた皿は既に片付けられており、ちゃぶ台の上には二つの皿と、フォークが二つ、その上にそれぞれ乗せられたショートケーキが置いてある。


ヤツカの前には苺のショートケーキ、俺の前にはチーズケーキ。


正座をしたヤツカは目を輝かせながら、綺麗な所作でケーキの一部を切り分けたのちに、口に運ぶ。


もぐもぐ、とゆっくりと口を動かして咀嚼すれば、きゅっと目を閉じて、幸せそうな声を漏らす。


ごくり、と喉が鳴らされ、口に含んだ分は飲み込んだのだろう、ぷはぁと口を開いて息を吐き出す。


「おいしゅう、ございますね」


ふにゃりと、幸せそうに表情を蕩けさせるヤツカ。


洋菓子を食べさせると、いつもこのように蕩けきった表情を見せてくれるので、正直、イベントなど関係なしに食べさせたい気持ちはある。


まあ流石に金銭的に毎日、と言うわけにもいかないし、しょっちゅう食べてれば飽きもするだろうからこう言ったイベント時とか、気が向いた時に買う程度になる。


「こっちも食べるか?」


「い、いえ、そこまでしていただくわけには」


ゆったりとしたペースでケーキを食べていたヤツカは、わたわたと手を振りながら遠慮するが、無言で一口サイズに切り取った分を口元へと差し出してみる。


差し出されたそれをみて、俺の顔を見上げて、むむむ、と声を漏らす。


好意を無駄にする訳にも、けれどこれ以上は申し訳ない、とでも思っていそうな表情。


「……」


無言でずい、と差し出すと、ようやく、遠慮がちではあるものの、口を開いて、パクリと食べる。


ぱぁ、と目を輝かせるヤツカの口からフォークのみを引き抜いてやると、もきゅもきゅと、口元をゆったりと、味わうように動かす。


喜んでくれている様子に、にこにこと笑みを溢すと、こくり、と口の中身を呑み込み終えたヤツカが、じと、とこちらを見る。


「あるじさま、からかうのは、めっ、です」


小動物に餌付けしているようでほのぼのとしたことを見抜かれたのか、それとも強引過ぎたのか、ぷくぅと、頬を膨らませて、不満ですよ、とアピールするように、ヤツカは口にする。


「揶揄ってる……っていうか、ヤツカに食べて欲しくて買った訳だしなぁ……。ほら、全部食べていいぞ?」


ニマニマと笑いながら、本音で返す。


ヤツカに食べてもらうためなのは間違い無いので嘘は言っていない。


揶揄ってる事自体は否定しないが。


「……いえ、あるじさま。わたくしは、あるじさまと、いっしょにあじわいたく、おもいます」


ふるふる、と小さく首を振って、むぅと、唇を尖らせたまま、俺の顔を見つめる。


数秒ほど、そうしてこちらを見つめると、良いことを思いついた、と言わんばかりに笑顔になる。


苺のショートケーキを、また一口分フォークで切り分けて、ぷすりと刺す。


そうして、空いた手を皿にしながら、こちらへと向ける。


「あるじさま、どうぞ」


にこにこと、愛らしい笑みを浮かべるヤツカ。


「……ん、んまい」


あえて恥ずかしがる様子を見せずに、躊躇わずに、差し出されたそれを口に含む。


生クリームの甘さと苺の甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。美味しい。


羊羹のときに散々食べさせてもらったのでお返しの意味合いもあったのだが、独占よりもこうして施す方がお好みらしい。


まあ、喜んでくれてるからいいか、と苦笑を浮かべると、チーズケーキに手を伸ばす。


「こっちもうまいな」


「どちらも、たいへんおいしゅう、ございます」


食べさせ合いで機嫌が戻ったのか、元からあまり気にしてはなかったのか、ヤツカはふふ、と柔らかに微笑む。


そうして、暫くの間、2人でゆったりとケーキを食べ進めた。



***



「あるじさま、ごちそうさまでございました。ありがとうございます」


「喜んでくれて何よりだ。全部食べてくれてよかったんだけどな」


「あるじさまのごこういであれ、わたくしひとりだけしょくすなど、いけませぬ」


ケーキを食べ終えた後、お茶を飲んでのんびりとしていると、ヤツカが居住まいを正して礼を口にする。


気にしなくて良いし、全部上げるつもりだったのだが、どうやら何か譲れない部分があったらしい。


「ですが、たべさせあいは、よいものですね。また、おねがいしてもよろしいでしょうか?」


けれど、食べさせ合うのはお気に召したらしい。少し恥ずかしそうに、俺のことを上目遣いで見つめる。


「ああ、まあそのくらいならな」


「ありがとう、ございます!」


了承すると、眩いばかりの笑みを浮かべて、心底嬉しそうにする。


多少の恥ずかしさも、ヤツカが喜んでくれることに比べたら些細な問題だ。


嫌なわけではないし、役得だとポジティブに考えることにする。



時計を見ると、22時頃。


プレゼントは枕元に、と考えてはいたが、俺が眠る前にヤツカが寝静まった記憶がなく、そも付喪神である彼女に睡眠が必要かどうか、微妙な所であることに気付いた。


クリスマスケーキ自体が前倒しだし、今でも良いか、と考えた俺は立ち上がると、寝室へと行けば、机の上に置いていた物を手に取る。


そうして、再び居間に戻れば、キョトンとこちらを見るヤツカへと差し出す。


赤く染め上げられたそれは、簪のようにも、少し大きなヘアピンのようにも見える髪飾りだ。


ヤツカくらいの髪の長さでも使えるように短めに、髪を巻き込んだり、挟み込めるように作ったもの。


片側にはちりめんや組紐を使って作った桜の花弁が飾りとしてつけられている。

パッと、ヤツカをイメージした時に思い浮かんだ、その着物の模様をそのままに、今日作ったもの。


「あるじさま、これはいったい……」


「クリスマスは良い子にはプレゼントが配られる日なんだ。……ま、今日はその前日だけど、日頃のお礼も込めて、作ってみたんだ」


恐る恐る、と言った様子で、差し出した髪飾りを手に取ると、すっと、髪を片側に寄せて、着けてみれば、うるうると瞳を潤ませて、ケーキを食べている時以上に、感極まった様子を見せる。


「あるじさま、ありがとう、ございます。このみがつきるまで、たいせつに、あつかわせていただきます。


その、にあいます、でしょうか」


「ああ。似合ってる」


頬を赤らめて、はにかみながら問い掛けてくるヤツカは、いつも以上に愛らしくて、心臓がバクバクとうるさく脈打つ。


「ふふふ」


髪飾りの出来栄えと、ヤツカが喜んでくれたことに安堵しながらも、幼い容姿に似合わない、何処か艶やかな笑みに、顔に熱が集まっていくのを感じていた。

「あるじさまからのおくりもの……、ふふ、わたくしは、かほうもので、ございますね」

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