贈り物・1
「さっむ……」
「あるじさま、あたたかいおちゃを、ごよういいたしました」
「毎度悪いな……、ありがとう」
「いえ、おきになさらないでくださいませ」
いつも以上に冷え込む朝。寝巻きとしても愛用しているジャージの上から、更に綿入れ半纏を羽織っても、あまりの寒さに身震いする。
ヤツカから差し出されたお茶を手に取り、息を吹きかけて軽く冷ましながら啜る。
温かさが口から食堂を通り、胃の中を満たしていく感覚に、ホッと息をつく。
「にしても、すっごい雪だよなぁ……」
閉め切られたガラス窓の方へと向けると、そこには白に染められた風景がある。
冬らしい風景ではあるものの、雪が余り降らないこの辺りでは珍しいこと。
「そうでございますね。そとにでるのも、たいへんそうです」
「だなぁ。雪かき、したほうがいいかねぇこれ」
溜息混じりで呟く。寒さもあいまって、外に出るのも憂鬱になってくる。
そもそも、雪かき用の道具なんて用意してないのだが。
「おとも、いたします!しばし、おまちくださいませ」
ヤツカはその呟きに反応して、意気込んで見せると、ぱたぱたと奥の方へと走り去っていく。
その姿を見つめながら、微笑ましく思いながらも、お茶を再度啜って、息を吐き出す。
「どうすっかなぁ……、プレゼント」
本日は12月24日。クリスマスイブであった。
***
真冬の寒空の下に立っていた。
見渡す限り真っ白で、歩く度にぎゅむ、ぎゅむ、と柔らかいものを踏み固めるような感触と共に、足が雪に沈んでいく。
雪国ほどでは無いだろうが、それでもかなり積もっていて、この分なら存分に雪遊びが出来そうですらある。
「えいしょっ」
通行人すら見当たらず、自分とヤツカしか世界にいないような錯覚を覚えながらも、可愛らしい声をあげながらスノーダンプを動かすヤツカを見る。
いつもの和服ではなく、赤い丹前を着た上で、首元にはこれまた赤いマフラーを巻いている。
もこもこの手袋もつけており、防寒対策はバッチリ。
はじめはいつもの格好のまま外に出ようとしていたが、流石に止めて着替えさせたのだ。
稀に見る大雪で、人通りどころか車一つ通っていない状況でなければ、流石に1人でやっていたが、今回は有り難く手を借りることにした。
「よい……しょっ、と」
俺自身もスノーダンプを扱い、家の周りの雪を除去していきながらも、頭ではヤツカに渡すプレゼントのことを考えていた。
折角だから、現代のイベントごとに疎いヤツカに、そういったものを体験させたいし、良い思い出にしてほしい。
その為には、彼女が受け取って嬉しいプレゼントは必須だろう。イベントの始まり、あるいは締め括り。
微妙な気持ちになると、楽しい記憶としては残らないだろうし、嫌な想いをすれば尚更だ。
だから、喜んでくれるようなものを渡したいのだが、妙案が思いつかない。
料理、ヤツカより美味いものは作れない。ケーキは買うつもりだが、それをプレゼント、というには寂しい気がする。
どうせ贈るなら形に残るものが良いと思うが、どんなものなら嬉しいだろうか。
考えて、考えて。
「ふぅ……、こんなものでしょうか、あるじさま。……あるじさま?」
いつの間に家の周りの雪かきは済んでいて、心配そうにこちらを見つめてくるヤツカの声で我に帰る。
「……そうだな、切り上げようか」
笑みを浮かべながらそう答える。
結局、これ、と言った答えは出なかった。
***
「あるじさま、どうかなされましたか?」
昼食を食べ終えた後、食後のお茶を用意してくれたヤツカは、不安げな表情を浮かべながら問い掛けてくる。
心配してくれてるのがわかる声音。
ずっと考え事をしていたから、食事中も割と上の空だったらしい。
「あー……」
はぐらかそうかと悩んで、言葉に詰まる。
心配を掛けてたのに、見栄を張り続けるのはどうなんだ、という気持ちと、驚かせたい気持ちが一瞬だけせめぎ合って、苦笑する。
「ヤツカの欲しいものって何かなって考えてたんだ」
素直に、そう答えると、ヤツカは目を丸くして、くすりと微笑んだ。
「あるじさま、わたくしは、もう、ほっするものはすべて、えております」
ふるふると頭を横に振れば、何も要らないと、意志を示す姿に、どうしたものかと考える。
思えば、つい先日も、して欲しいことは口にしたが、欲しいものについては何も言わなかった。
我儘を言わないようにしているだけ、とも思ったが、この様子を見るに、本当に欲しいものはないのだろうと思える。
「じゃあ、好きなものとかは……?」
「すきなもの、でございますか……?」
「そうそう」
苦し紛れに出した問い掛けに、ヤツカは人差し指を顎に当てて、少し思案すると、ゆっくりと口を開く。
「かんみと、かじ、でしょうか……?」
「甘いもの食べる時めちゃくちゃ幸せそうに食べるもんな……」
「……その、すこし、きはずかしい、ですね」
照れ臭そうにはにかむ姿は愛らしく、けれど肝心のプレゼントへのヒントにはならない。
家事、なら掃除道具かとも思ったが、何故か一通りは揃っているため、その選択肢は選べない。
食べ物は初めから候補の外。
何となく、照れ臭そうにするヤツカの頭を撫でてやれば、幸せそうに目を細める姿に頬が緩む。
「ふにゃぁ……」
蕩けきった声を洩らすヤツカに苦笑して、その着物を見て、一つ、思い至った。
これなら、というある種の確信を得る。
ヤツカの頭を最後にくしゃくしゃ、と少し乱暴に撫でてやると、一言声を掛ける。
「ちょっと寝室に篭ってるわ」
そう言って、作業をする為に寝室に篭ることにしたのだった。




