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実質装備品のような猫又

ヤツカに羊羹を食べさせてもらう、というバカップルか、と言いたくなるような事があったが、食べ終えた後は2人で掃除をした後、俺は寝室に少しばかり籠った。


「ふぅ……」


思わず息が漏れる。それは達成感と感嘆が入り混じったものだ。


今日までに色々あったのもあり、我慢していたのだから、とてつもない爽快感すらあった。


「完璧だ……、綺麗にできた」


目の前には瓶の中に入れられた船の模型。俗に言うボトルシップ、と言うやつだ。大型の帆船の模型が、ボトルの中に堂々と佇んでいる姿に高揚感を覚える。


まあ何をしていたか、と言えばこれの組み立てであった。


工作、物作り全般が趣味な俺は、一人暮らしをする前は休日や、空いた時間で手慰みにプラモデルを組み立てたり、本棚や小物の収納ケースなどを自作していたが、こちらに来てからは家の修繕にバイト、家事と忙しく、ヤツカと出会ってからは少し落ち着いて趣味に走る余裕は出来たものの、程なくしてオカルト関連の厄介ごとに巻き込まれて、また趣味に興じる暇がなくなっていた。


だから、久々に趣味に没頭して、ついでに言えば作りかけであったものを完成させられて凄くスッキリだ。


「我ながら器用に出来たな。飾っとこっと」


ニヤニヤと口角を上げながら、寝室の片隅に置いた背の低い机の上に飾る。


うん、ゆくゆくは数を増やしたい……というか木材や発泡スチロール等で作ることを試してもいいかもしれない。うん、今度やってみる事にしよう。


(笑い方が気持ち悪いことになってるぞ宿主)


うるさい、ほっとけ。



***



「にゃぁん」


「ほめて、さしあげます。よいこ、よいこ」


茶々を入れてくる妖刀を無視しつつ、寝室から居間へと移動すると、ちゃぶ台の側でヤツカが正座して、クロ、以前拾った黒い猫又のことであるが、それを膝の上に乗せ、顎をわしゃわしゃと撫でてやっていた。


傍らには腹を上に向けて倒れ、ピクリとも動かない鼠が2匹。


どうやら鼠退治をしたクロを褒めているらしかった。とても可愛らしい光景である。


ごろごろと気持ち良さそうに喉を鳴らすクロはハッとしたように身を起こすと、こちらを向く。


ヤツカの膝の上から降りると、そのまま俺の方へと勢い良く駆け寄ってくると、ぴょんと飛び上がった。


「にゃっ!!」


「んがっ!?」


突然襲ってきた重みに蹌踉めきそうになるのを堪えつつ、顔面に飛び込んできたクロの体を両手で掴んで引き剥がす。


不満げに足をジタバタさせるクロを床に置くと、む、と顔を顰めたヤツカがクロが動く前にその体を持ち上げる。


「あるじさまに、ぶれいをなしてはなりません。めっ、でございます」


持ち上げたクロと目線を合わせてそう叱りつければ、しおらしく、にゃあ、とクロが鳴く。


反省した、と見たのか、よしと頷いてクロを抱き抱える。


「にゃっ!!」


再度俺の視界が黒く染まった。



***



「にゃぁん」


「あるじさま、もうしわけございません」


「まあ、妖怪とは言え猫だからな。ヤツカが気にすることでもないよ」


あの後何度か引き剥がしてみたが、執拗に顔面目がけて飛んできたため諦め、現在黒い猫又様は俺の頭の上で満足そうに鳴いていた。顔に貼り付かれるよりは頭の上に陣取ってもらっていたほうが楽であるが故の処置だった。


ここ最近は構ってやれてなかったから仕方ないのかもなぁ、寂しがってたんだろうなぁ、なんて思いつつ、申し訳無さそうにするヤツカの頭をぽんぽん、と優しく撫でる。


ここが定位置、と言わんばかりにふんす、と息を荒くするクロには苦笑が浮かんだが、まあそれはそれ。


「……はい。ですが、つぎこそは、きちんとしつけてみせます」


頭を撫でられるのが心地良いのか、表情を緩めて、けれどすぐにきりり、と引き締める。

気負わなくて良いと思いつつ、ふんす、と気張る様子にほっこりとしたものを感じる。


「ははは、まあほどほどにな?ただでさえ、いつも世話になってるんだし、適度に手を抜いてくれても構わないからな」


苦笑混じりに彼女に言う。


思えば、分身が作れるとは言え、である。片方は俺に同伴させて、もう片方は家のことをやってくれている。


休日はなるだけ、掃除などの家事は手伝うようにしているものの、いろいろなことを任せきりにしている状態であった。


特に、皇女殿下からの依頼の際は長期間家を空けていたし、その間のクロの世話なんかも引き受けてくれていたのだから、本当に頭が上がらない。


「それこそ、きにしないでくださいませ、あるじさま。わたくしは、あるじさまのおやくにたつことが、しじょうのよろこびに、ございます」


ゆるゆると頭を振りながら、ヤツカは柔らかく微笑む。


心の底から思っているのだろうし、ゲーム内の設定上でも、付喪神と言う存在、とりわけ彼女のような座敷童にとっては家主に仕えることこそが幸福であり、使命でもあるようで、主の為に行動することは、基本的には苦にはならないらしい。


それでも、感謝をしなくていい、なんて理由にはならないし、なんらかの形で、礼をしたい。恩に報いる、というほどではなくても、日頃の感謝を、なんらかの形で送りたい気持ちがあった。


「それでも、だよヤツカ。……なんか欲しいものとか、何かして欲しいこととかあったら遠慮なく言ってくれていいからな?」


だから、と少し考えてから口にする。


俺の言葉に、ヤツカは目を丸くして、その後、おずおずと、小さく首を傾げながら問うてくる。


「あるじさま、それは、なんでも、かまわないのでしょうか」


「ああ、俺のやれる範囲で考えてくれると助かる」


問い掛けに、笑って返す。世界をくれ、国をくれ、なんて言われても俺には出来ないし、やれる範囲、と言う枕詞は付く。


けれど、出来る範囲で構わないなら何かしてあげたい、と思うのは事実だ。


そう考えてると、ヤツカは少し視線を床に向け、また俺に向けて、もにょもにょと口元を動かす。


「ゆうげのしたくは……、すんでおります。せんたくものは……、だいじょうぶ……、ええと、ええと……」


ごにょごにょと、小声で確認するように家事の進捗だろうか、それを呟いて、壁にかけていた時計へと視線を向けて、ヨシ、と小さく意気込んだ。


「で、でしたら、あるじさま。めいわくで、ございませんのなら、その、ともねを、おねがいいたしたく、ございます」


ヤツカは、頬をほんのりと赤く染めて、もじもじと、恥ずかしげにそう口にするのだった。

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