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あーん

暫くシリアスは退場するかもしれません

あの後、妖怪の群れを切り抜けた俺たちは、力尽きた水上先輩と咲耶を拠点に運び込んだ後、奏の式神を警戒用に拠点に置いた後、後始末に奔走した。


俺は主に残骸の片付けに動き回り、奏には村人の方を対処してもらった。


虚の庭に関わる記憶が残っているのは都合が悪い。なんせこの村が『カイキ』したままとなってしまうのだ。化け物たちの巣になりかねないし、そうでなくてもその事実が広まってしまえば世界規模での『カイキ』が発生しかねない。


なのでまた虚の庭と現世を分ける為に、認識操作、記憶処理は行わねばならないのだが、俺にはそれはできない為、奏に一任して雑用を引き受けて駆けずり回ったわけだが、その過程で判明した事実があった。


化け物の姿を見たのはそもそもが神隠しが起きる前、だと言う証言が為されたらしい。記憶が朧げな可能性だってあるし、確実とは言えないのだが、紛れもなく村人の口から吐かれた言葉らしく、そこから十塚村はすでにある意味手遅れであったことを知った。


順番が逆だったのである。神隠しらしき事件が起きて『カイキ』が発生したのではなく、『カイキ』した後に神隠しが起きていた、と言うわけだ。


つまり、全部あの鴉天狗の仕業、と考えて良いだろう。


鬼一が原作でやった悪魔的な所業の中に人間を家畜として支配する『人間牧場』の運営、管理と、人間の改造というものがある。


神隠しは恐らくは後者、『カイキ』していたのは前者によるものであろうと想像が付く。


はっきりとした事はあの村の調査に赴いた時点で完全に後手に回っていた……というか、手遅れであった事だ。


奏が居なければ完全に詰んでいたが、皇女殿下もこれを見越して奏をつけてくれたのだろうと思うことにする。


ともあれ、皇女殿下からの依頼も終えて1週間ほどが経過した。



***



冬に入り、より布団から出られなくなってくる今日この頃ではあるものの、休日である今日も、平日と同じような時間に起き出して活動していた。


「ぐへぇ……」


「あるじさま、おみずをおもちいたしました」


「潰れた蛙みたいな声を出すなよ」


「仕方ねえだろ……、ありがとうヤツカ……」


ちゃぶ台に突っ伏す俺に、奏が呆れた様子で辛辣なことを言い、ヤツカは労うように水を置いてくれる。


依頼を終えた後は内容は変わったものの、俺の頼み通り、奏は訓練をつけてくれている。


式神によるリンチではなく只管にただ刀を綺麗なフォームで素振りを行った後に、刀を用いた模擬戦、と言う形ではあるが、容赦がないのは変わらず。これでも手加減はしてくれているのだろうが、肉体疲労がとてつもないのは変わらないのである。


とまあ、そう言うことで訓練をつけて貰った後、疲れ切った俺はだらしない姿を2人に晒しているわけだ。


今日の訓練はここで終わりではあるのが救いである。自分で頼んだ事とはいえ、大変な目に遭っている気がする。


「ほらシャキッとしろ。今日は話があるって言っただろ」


のそりと顔を上げる。話がある、と言われても疲労はどうしようもない。こちとら全身が悲鳴をあげているのである。


叶うなら横になって爆睡したいが、そんな願望を内心で呟くも、ゆっくりと体を起こして背筋を伸ばす。


「で、なんだよ」


ちょこん、と俺の隣に正座したヤツカと揃って奏に視線を向ければ、何か言いたそうにしつつも、小さく息を吐いた。


「まあ、聞く姿勢にはなったしいいか。先日の依頼の件だ」


「あー、『カイキ』してた村の調査依頼のやつ。俺らが行った時には既に手遅れみたいなもんだったんだろ?」


「そうだ。……とはいえ、妖共の『牧場』を完全に手遅れになる前に潰せたのは良かった。あの分ならまだ取り返しがつく範囲だったからな」


完全に手遅れ、というのは、住人が母体にされる前に、という事だろうか、それとも改造されたり、尊厳の全てを破壊つくされた廃人しか居なくなる事だろうか。


まあ、細かく聞いても良い気分にはならないだろうし、あそこで食い止められた事をよしとする。


「それに、僕たちがあの村の調査をしたからこそ、他の牧場も並行して一つ潰せたらしいからな。それもあって報酬がそれなりに出ているのが一つ」


「他にもあるのか?」


そう尋ねると、どこか気まずそうに目を逸らす。


なんか、すごく嫌な予感がする。


外れてほしい、と祈りながらも、現実は無常であった。


「殿下からの呼び出しと、僕の両親からの呼び出しがある。……どちらも年明け以降の話だけどさ」


「はぁ??」


「僕も細かいことは聞いてないけど、確かに伝えたからな。給金はお前の口座に直接振り込まれることになるから!」


「おーい、奏さんやーい、お前、逃げるなぁ!!!」


そのまま流れるような動作で家の外へと飛び出していく奏に、叫ぶことしかできない。


面倒ごとの予感がひしひしとするし、物凄く逃げ出したい気持ちであったが、まだ先の話、と考えて気持ちを切り替えることにした。



***



「あいつ言うだけ言って爆速で逃げやがって」


切り替えることにした、のだがやはり恨み言が口をついて出てしまう。

お偉いさんとか、そう言うのとあまり深く関わりたくないと言う気持ちが確かにあるからだろうな、と自分で思う。


「あるじさま、かんみでも、いかがでしょうか」


いつの間にか席を立っていたヤツカが、その手にお盆を持って、とてとてとこちらへと近寄ってくる。


盆の上には湯呑みと皿が置かれており、皿の上には羊羹が綺麗に一口サイズに切り分けて並べられていて、黒文字と呼ばれる菓子楊枝が一つ、用意されていた。


ヤツカなりの気遣いだろうか、今度こそ、本当に気持ちを切り替えることにする。


「ありがとう。頂くよ」


有難い、そう思いながら、ちゃぶ台に置かれたお盆から黒文字を取ろうとすれば、隣に正座したヤツカの手が、先にそれを摘む。


意地悪か……?と一瞬思ったが、ぷすりと羊羹を刺して、手を皿の代わりにすれば、上目遣いで彼女は俺の方へと体を向ける。


「あーん、でございます。とのがたは、こういったことで、よろこばれると、おききしました」


そう言いながら、いい笑顔で羊羹を差し出してくるヤツカ。


流石に気恥ずかしいものがあるので断って自分で食べよう、だなんて思ったが、じっとしてる俺の姿に笑顔を曇らせ、不安そうにヤツカは口を開く。


「ごめいわく、でしたか……?」


「あーん」


そんな表情をされては断るのも断れなかった。


気恥ずかしいのを我慢して、パクリと食べれば、ヤツカはぱぁと、表情を明るくする。


結局、羊羹は全て、ヤツカが食べさせてくれた。

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[良い点] この圧倒的幼妻!
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