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思った以上に非常事態

夢の中でまた妖刀とレスバとタイマン、という一悶着があったものの、依頼2日目の朝である。


朝食を摂り終えた後、各々身支度を整えて改めてリビングに集合する。


胸ポケットにはまた小さくなった(本人に言わせると力を本体に力を戻した)ヤツカ。

念の為、と点呼を取ってから、奏は真剣な顔付きで俺たちのことを見渡した。


「みんなは夜の間に異変を感じたりしなかったか?」


前置きのように問いかけを溢す。


「気付いてます」


奏の問いかけの意図を察したのだろう。咲耶はこくりと頷く。


「なんか、不気味な声がしたような気がした、かな」


水上先輩は聞かれた通り、感じた異変のようなものを答える。


「火の玉っぽいの浮いてたのを見たんだけどさ、これもしかしなくても」


「ああ、少なくとも夜の間は完全に虚の庭と重なっていた。『カイキ』してるぞ、この辺り」


だよなぁ、と嘆息する俺、心底面倒臭そうに顔を顰めた奏、ほんの少し眉根を寄せる咲耶に対して、事態があまり飲み込めてないのか、困ったような表情を浮かべる水上先輩。


「えっと、『虚の庭』っていうのと、私たちの世界の関係性が昔のものになってる、って奴だっけ」


おずおずと手をあげて口を開くと、自信なさげに問いかける。


「はい。具体的には……そうですね、ざっくりと明路(めいじ)より前、と考えてもらうといいかもしれません」


つまり大体は江都(えど)時代くらいまで、というわけである。


『カイキ』とは、手っ取り早く言ってしまえば回帰のことを指す。それの何が問題か、と言えば当時の価値観だ。


明路以降は外国との繋がりにより遅れていた文明は一気に進む。その際に何が起きるか、と言えば科学、化学の流入、発展によるオカルトの駆逐だ。


『マガツキノウタ』の世界においては大きな括りとして、『発展が進む土壌となった』明路と江都、前世における明治時代と江戸時代が『妖怪怪異がある』とされている世界と『あくまで空想上で実在はしない』とされている世界で分けているとされていた。


江都時代まで現世と虚の庭の関係性が戻っている、ということは認識が『オカルトは実在する』という価値観に戻っていることを表している。


当時の価値観でざっくりと言えば、である。


夜は魑魅魍魎が跋扈する時間であり、山や森には物の怪がいる、よく分からない現象はそう言ったものの仕業。


それは即ち。


「昼間は落ち着きますけど、夜になればこの辺りは化け物の巣窟ですね、面倒な事になりました。……環境も、良くありませんしね」


咲耶が溜息混じりに呟く。


俺と水上先輩が遭遇した『ゆらぎ』の時の重なりとは訳が違う。『カイキ』した際の重なり、繋がりは二つの世界をはっきりと一つに結びつける。


明確に言えるのは、ここら一体が完全に魔窟と化してしまっている、という事だった。



***



とは言え、日中まで至る所に化け物がいる、というわけではない。人里や日中をメインにした怪異譚というのはあまり見ないであろう。


そもオカルト、神話や民話、伝承に語られるような存在は、その大半が『よく分からない事』に理由をつける行為だ。


未知への恐れが引き起こしたものである以上、明るい時間で、更に何が起きたかを人が看過出来るような状況だとそうそう出没することもない。


詳しくは語られていないが、『カイキ』によって現世に現れる妖怪の類は昼間はそのまま虚の庭に戻っているケースが多いらしい。


その例に漏れず、夜俺が見た火の玉を再度見ることはなく、他の化け物の痕跡も見ない。


強いて言えば、木の幹の傷や、雑草等が踏み倒された後が見えるものの、それは獣の仕業、と言われても違和感のないものだ。


それでも、現世側に留まる化け物もいなくはないのが事実だ。きっと、昨日遭遇したアレも、現世に留まる事を選んだ妖怪の類なのだろうと思う。


「みんながお化けがいる、って信じてるから『虚の庭』っていう異世界と繋がっちゃうなら、もうどうしようもなくないかな?」


4人揃って、民家がちらほらと伺える道を歩いていると、水上先輩が小さく首を傾げながら疑問を口にする。


それは、ある種当然の疑問でもあるが、実のところ大した問題にはならない。


「いえ。信じることで繋がるのはそうですけど、そうなら『やっぱりいなかった』という事にすれば良いので、問題はありません」


水上先輩の疑問に答えるのは咲耶だった。ふるふると首を振る彼女に、水上先輩は困ったような顔をして少しばかり考え込む。


「『幽霊の正体見たり枯れ尾花』みたいにしちゃう、って事かな?」


「はい、そういう事です」


水上先輩の言葉に、咲耶は頷きながら小さく微笑む。


『幽霊の正体見たり枯れ尾花』というのは、怖い怖い、と思っていた事が実は大したことではない、という事を読んだ句だった気がする。怖い怖い、と思っていると全てが恐ろしく見えてしまうものだ、という内容だっただろうか。


つまり、咲耶も水上先輩も言っているのは『認識の上書き』だ。


『ある』を『ない』に変えるだけ。その為、虚の庭に関わる事象に関わる家の中には、記憶の書き換えによる情報隠蔽に特化した一族がいるくらいだ。


一番手っ取り早いのは、当事者からその記憶を消す事なのだから。


まあ、奏も、相手が一般人であれば記憶操作も片手間でできるであろうし、また分けるのはいつでもできる。


「問題は、この周辺に化け物、妖怪の類が潜んでるかもしれない、という事か。それの対処を先に行わないといけない」


でなければ、幾ら居ないと訴えても、記憶を操作しても意味がない。いたちごっこを続けるだけになってしまう。


小さく息をついて前を向けば、視界の先、どこか怯えるように農作業に従事する村人の姿が見える。


ちらりと、視線を道の脇、木々の向こうに視線を向けると、奥の方で枯れ草がかさりと動いて、鴉が飛び立つ。


「調査任務としてはこの時点で終了でもいい。けど、早急に対処する必要がある。先輩、宜しいですか?漱も大丈夫か?」


「うん。ほっとくと大変な事になっちゃうんだよね?出来ることがあるなら頑張るよ!」


「元よりそのつもりだったろお前。腹は括ってるよ」


奏の言葉に、意気込むように拳を握って見せる水上先輩に、嘆息しながらも頷く俺。


そもそも、ここで、放っておいたら酷い事になると分かっていて逃げれるような教育を受けた覚えはないし、引き受けた以上投げ出す選択肢はなかった。


「九十九さん、自分には聞かないのですか?」


「聞く必要あったか?」


淡々とした咲耶の言葉に、奏は短く返すと、咲耶の顔に笑みが浮かぶ。


「分かってるじゃないですか」


うっすらとした笑み。付き合いが長いか、自分のように表情差分一つとっても舐め回すように見ていた前世でもなければ気付けないほどのそれは、何処か猛獣を思い浮かべてしまうような、獰猛なものだった。

「あるじさま、おべんとうは、いかがいたしましょうか」

「昼飯用の食料は用意してあるから大丈夫だよ。ありがとうな」

「……はい」(用意出来なくて悲しげ)

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