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狐耳のじゃろり皇女

天照のヨリシロ、作中でもトップクラスの権能を振るう化け物よりも化け物然とした少女は、俺と水上先輩へと交互に視線を向ける。


ヤツカより少し小さい、くらいの背丈の彼女は、にんまりと口角を吊り上げる。


「ふむ、話には聞いておったが、妖刀憑きに鬼神の先祖返り、興味深いのぅ」


まるで新しい玩具を見つけたような子供のような目でこちらを見て、くくく、と愉快げな笑い声を溢す。


「殿下、戯れはその辺りに」


それを窘めたのは柘榴であった。先程までの胡散臭い様子は引っ込んでいて、いつの間にか綺麗な所作で跪いて、頭を下げている。


よく見ると、自分と水上先輩以外は皆、恐らくは彼女の声が聞こえたその瞬間に、跪いていたのだろう。


チラリと水上先輩の方へと視線を向けると、日輪殿下に見惚れているのか、惚けた様子で立ったまま。


「釣れないことを言うでない、勾の。それに今日は"お忍び"と言うやつじゃ。畏まる必要はない。皆、面をあげるがよい」


その言葉に、皆顔を上げて立ち上がるものの、張り詰めたような空気は消えないままで、息苦しさすら感じられる。


何で皇女殿下がいるんですかねぇ、誰だよ呼んだの、だなんて文句も浮かんだが、おそらくは柘榴か店長のどちらか、彼女が現れた際の発言から、柘榴の方であろうと見当をつけられる。


まあ、だからなんだ、と言う話ではあるが。


「では、そこの娘、名乗るが良い」


ゆるりとした動作で右腕を上げ、その指先を水上先輩に向けた日輪殿下。

告げられた言葉に、先輩は我に返ったのか、それとも貴人に声をかけられて動揺しているのか、慌てた様子だ。


「み、水上葵です!」


吃りながらも背筋を伸ばして名乗りを上げる。

緊張し過ぎているのがわかる様子に、日輪殿下は、くくくと、笑い声を溢す。


「緊張せずとも良い、妾の美貌の前では仕方のないことかも知れぬがのう。水上……だと母親と混ざってしまうのう、葵と呼ばせてもらうが構わぬかの?」


「は、はい!お姉さんみたいな綺麗な人なら是非!」


水上先輩の顔は真っ赤で、それは緊張だけではないのが見てとれる。見惚れていたのはその通りで、まるで魅了されているような様子。


「そこな妖刀憑き、主も名乗るが良い。……ああ、その胸元に潜ませた者も併せてな?」


幼い容姿に反して、ゾッとするほどの色気を見せ、にんまりと笑う。いっそのこと、寒気すら感じるようなそんな笑み。


こちらにむけてくる蠱惑的な目線は、全てを見透かすようで、その上で引き寄せられるような物があった。


心そのものを掴まれるような感覚と、ぴょこりと視界に映った金毛の狐耳に、水上先輩の様子を思い返す。


魅了されてるような、じゃない。魅了されてますわこれ。


そう確信を得ながら、小さく息を吸って、気を落ち着ける。


「八束漱と申します、日輪皇女殿下」


そう言って一礼をする。俺は上流階級の人間でもない、ただの一市民だ。多少の無礼は許して欲しい。そう考えながら、ポケットの中に手を入れて、ヤツカを出来うる限り優しく掴んでポケットから出す。


掌の上に乗せると、ヤツカは正座をして日輪殿下へと頭を下げる。


「わたくしは、ヤツカ、ともうします。にちりんのみこさま。どうぞ、よしなに」


言い切って、頭を下げると、掌の上で正座をしたまま、ヤツカは俺の方へと視線を向ける。


褒めるように、指先でその小さな頭を撫でてやると、日輪殿下は興味深そうに見つめる。


ぴょこり、ぴょこりと耳が揺れる。


「付喪神……それも座敷童か、随分仲睦まじいのう。妾の美貌に見惚れぬとはお主、筋金入りか?」


にまにまと、揶揄うように語りかけてくる。


筋金入りってどう言うことだこの狐耳ロリが、と思わなくはないが、口には出せない。彼女の発言から姿を偽り、魅了の術を使ってるのだろう。


それは天照の権能ではなく、別の力が為せる技だ。彼女が作中でも最強格な所以でもある。


白面金毛九尾の狐、『玉藻前』を名乗り国を掻き回し(かぶ)かせた大妖。


それを真正面から圧倒し、心をへし折り、屈服させ、自分に憑かせることでマガツキとしての力も得た、怪物よりも怪物じみた彼女は、九尾の狐としての力、多彩な術と、万人を化かす、或いは騙す力を持つ。


「殿下」


こちらを揶揄う日輪殿下を、再度窘めるように声を掛けたのは、やっぱり柘榴だった。


あんまり絡まれても困るだけだし、正直助かった。一庶民には皇族の相手はしんどいだけである。


なんせ、この世界の皇族はただの象徴ではない。表面上は前世と同じく象徴であり表向きの権力はないとされている。しかし、彼女ら皇族は虚の庭に関わる事象、つまりはこの世界の裏側に関わる事例に対しては絶大な権力を持つ。


なにしろ日本における主神のヨリシロ、代行者にして代弁者だ。表向き国政に関わらない、と言う姿は見せているが、一度(ひとたび)それが虚の庭の存在に関わることになれば、彼女たち皇族の管轄に触れる。


下手になにかやらかせば、秘密裏に消されることだってあり得るのだから、落ち着かない。


「勾の、お主は相変わらず真面目じゃのう。……分かった分かった、お茶目はこのくらいにしておく故、そのような目で見るでない」


柘榴の視線に、バツが悪そうに目を逸らせば、ひらひらと手を振る。


こほん、と一つ咳払いをすると、口を開く。


「顔見せはこの辺りに。本題に入るとするかのう」


そう言って、彼女は順番に指先を向けていく。


「葵、漱、お主らに仕事を任せる。見た限り、信は置けそうじゃからのう。主らには力を見せてもらう。


何、報酬は弾むぞ?」


にっこりと、まるで天使や女神とすら思える優しげな微笑みを浮かべながら、日輪殿下は告げる。


その笑顔が、俺には悪魔の笑みにしか見えなかった。

「あるじさま、あるじさま、むりは、むりはなさらぬよう」

「ヤバそうな案件なら逃げる……逃げれたらいいなぁ……」

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