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ようとう

瞼を開いた瞬間、感じた熱気と、目の前に広がる光景に直感した。


あ、これ夢だわ。少なくとも、家で床に着いたのだ、何かあればヤツカが起こしてくれるだろう。だから、見覚えがあるようで、知らないこの場所は、夢、もしくは精神世界、というやつだろう。


俺が立っていたのは鍛冶場だった。鋼を打つ音が耳に届き、炉の中で轟々と燃え盛る炎の熱が鍛冶場全体を支配しているようでもあった。


金床には何かの塊が一つ。鍛冶場なのだろうから、玉鋼なのかと思えば、それは内臓にも、金属にも、人肌のようにも見える何かだ。赤く燃えてるようにも、黒く焦げてるようにも見えてしまう。


それが、宙に浮かぶ金槌に延々と叩かれて、延ばされ、畳まれ、炉の中で燃え盛る炎の中に入れられ、また叩いて、伸ばして、畳んでを繰り返す。


怨嗟の声が響く。痛い、熱い、苦しい。


鍛冶場全体に、その声が広がっている。


怨嗟、悲痛、悲嘆、憤怒、疑問、絶望。それらが、声を通して空間全体を埋め尽くしていく。


「うるせえ」


「随分辛辣だな、お前」


顔を顰めて言えば、耳に声が届く。荒っぽい口調の、可愛らしい少女の声音のようにも、野太い男の声のようにも、聴こうと思えばいかようにも聴こえる、不思議な声だ。


ダブって聴こえるのに、それぞれの声音がはっきりと認識できる、奇妙な感覚を感じながら、いつの間にか近くにいた人影に視線を向ける。


それは小さな影だった。背丈はおそらく140にも満たないだろう、ヤツカよりもさらに小さい。肩に掛かるくらいの白髪をお下げにした、真っ赤な瞳の少女がそこにいた。服装は赤い半袖シャツに、紺のオーバーオール、履いている足袋と下駄が妙な印象を抱かせる。


その可愛らしい姿を見た瞬間に、俺は目を見開く。


「おらぁ!!」


「っぶなぁ!?」


握り締めた拳をその顔へと振りかぶる。残念ながら、少女が勢いよく頭を下げたことで回避される。側から見たらどう考えてもやばい光景ではあるが、直感的にやるしかないと悟った。


そもそも夢の中だ、人の目を気にする必要はなく、またそんな空間で語り掛けられるなんて限られている。


「何をする!可愛らしい幼子をぶん殴るとか頭おかしいんじゃないかお前!」


「うるせえ勝手に人の体宿にしてる化け物相手に遠慮する必要性なんて感じねえんだよ鈍刀がよぉ!!」


姿を確認したからだろうか、耳に届く声は、可愛らしい少女のものに固定される。

抗議するように文句を言う少女、もとい妖刀への殺意を込めて拳を振るうも、その全てがギリギリで避けられる。


幼女に拳を振るう姿もだが、避けられる姿もなかなかに情けないが気にしないことにした。


「で、態々夢……ってか精神世界に引き込んで何か用か」


「急に落ち着くじゃないか……。なんなんだほんと……」


一通り殴りかかって意味がないことを理解した俺は、殴りかかるのをやめてそう尋ねる。


俺の豹変具合に困惑した様子を見せる妖刀。うん、自分でもこんな姿を見せられたら困惑する。でもお前がどんな姿でも容赦はしないと決めてるので仕方ない。


「いいから話せよ」


早く話すように促せば、妖刀は仕方ない、とでも言うべきにふるふると頭を振った。

その見た目は可愛らしいのが余計にムカつくが、余計な茶々は省くことにする。


「お前をここに呼んだのは謝罪と礼の為……だったんだが、言う気が失せた」


「おう、土下座しろよ」


「そう言うとこだぞ……。ったく、お前が我の負の感情の核を叩き折った上で、化け物を斬り殺してくれたお陰で、こうやって話せる程度には理性が得られた。憎悪と憤怒に呑まれていた製作者の意志というのが正しいがな」


「……この光景も関係が?」


妖刀の言葉に、ぐるりと視線を動かして、周囲を見る。


延々と、ナニカが、鍛造を繰り返している様子が存在している、鍛冶場。先程までと変わらない、同じ現象が起き続けている。


もしかすると、という考えが頭に浮かぶ。


「大有りだ。我が造られていく光景だからな」


その思考は、頷きながら放たれた言葉に肯定される。


妖刀の作成の光景、つまりは、これも妖刀の記憶、と言うやつか。

目を凝らすと、うっすらと見えて来る。


鉄を打ち続ける1人の男の背中と、転がる骸、炉の中で燃える肉体。そこにはもう助かりそうもないほど、無残な姿で、けれど何かを叫ぶ姿もあった。


絶望と、憤怒と、苦痛と、憎悪と、あらゆる負の感情が渦巻く死の炎で鉄は熱され、叩かれ、折り返し、また熱されて。


そうやってどうやっても助からない命を薪にして、一本の刀が造られていく。


鉄を打つ男の背からは、悲哀と、それ以上の憎悪と狂気、殺意が感じ取れた。それは、語られもしていないのに、ひしひしと伝わって来る。


化け物を殺せ、許すな、滅ぼせ。そんな声が、何処からともなく聞こえてきそうな気さえ、感じられた。


「我は物の怪を殺すために造られた刀だ。いくら憎悪や狂気に染まっていても、根幹はそこにある」


「なのに人を襲うのは本末転倒だろうがよ」


「そりゃ、薪にされた人間の憎悪も込められてるんだ、人間も襲う。優先度が物の怪、と言うだけだからな。化け物殺しのための刀が人まで襲うのは、まあ確かに皮肉な話だがな」


深い、ため息を吐く妖刀。だからと言って、同情する気にはなれない。少なくとも、自分を殺そうとしたり、肉体を奪おうとしてきた相手を許せるほど聖人君子ではないのだ。


そも、行く当てのない憎悪や憤怒には付き合ってなどいられない。

それは遥か昔で、今日(こんにち)まで持ち込んできていいものではないのだから。


「で?」


素気なく続きを促せば、妖刀は苦笑を浮かべる。


「なに、自己紹介のようなものだ。なんせ一蓮托生という奴になってしまったからな。お前は証を示した。


我を振るうに足る資格、我を従える資格を。


だから、なんだ。服従宣言、と言うやつだ」


すぅっと、視線を逸らして、どこかもじもじとしながらいった彼女に、俺は柔らかな微笑みを浮かべて、はっきりと告げた。


「いや、要らないからそういうの、クーリングオフって効く?」


一瞬固まって、青筋を立てる妖刀の姿に、胸がスゥッと、すっきりとするような感覚さえあった。


そうして、次第に、夢の中だというのに瞼が重くなっていく。


「一蓮托生って言っただろうが!!ってくそ!時間か!覚えてろよ!!」


ぎゃーぎゃーと叫び始める妖刀の声をどこか遠くに感じながら、視界はいっぱいの白に包まれていった。

「あるじさま、こんばんは、なにが、たべたいですか?」

「カツ丼かなぁ……」

「わかりました、ごようい、いたしますね!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 妖刀が本当にわからせられるメスガキじゃった。 物の怪だけを殺す筈が人も襲うように…獲物が居なくなったらその内使い手を自殺に追い込むまでしそうですね。
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