不遇キャラと委員会活動
「少し友人と話し込んでしまって。すみません仕事を任せてしまって」
時間通り、とは言われたものの、いつもより遅れたことに違いはなく、俺は頭を下げる。
5分前、あるいは10分前行動は基本なのだ。
それは学生であっても同じこと、いや寧ろ学生身分であるからこそ、より意識する様に口を酸っぱく言われる事である。
「あはは、気にしなくても大丈夫だよ?遅刻してたら小言の一つは言わなきゃだったかもだけどね?」
冗談めかして水上先輩は笑いながら、パタンと、本を閉じてカウンターの上に置いて立ち上がる。
立ち上がるとその肉体の豊満さはより顕著になる。180cm近い背丈に、爆乳と呼ばれそうな大きさの胸、これまた豊かに実った尻肉に、むちむちとした太もも。
それでいて彼女は決して太っているわけではなく、むしろスタイルは良い方で、また人当たりも良いことから学内では少なくない男子から想いを寄せられている。
劣情を向けられているともいう。
ゲーム内でも彼女は非常に人気があり、プレイヤー達からも愛され、そしてその純情をへし折りまくった人でもあった。
なんせ彼女はヒロインではない。
『マガツキノウタ』においては最初の分岐、通常の紙芝居ゲーと呼ばれる作品にありがちなヒロイン分岐の選択肢以降、つまりは各ヒロインへのルート分岐を経た後に登場するのだが、そこでは露骨に彼女のフラグを建てられそうな選択肢が現れる。
そのビジュアルと性格から数多のプレイヤーがその選択肢に釣られて阿鼻叫喚の叫び声を上げた。
ルート入りしたかと思えば怪異現象により酷い目にあった挙句喰われる、洗脳された挙句妖の苗床になる、禍ツ人と化して殺される、など碌な末路が存在していない作中トップクラスに不憫な結末ばかりが用意された、このゲームが鬱ゲーだと世に知らしめたキャラが彼女だ。
ゲーム内の彼女の末路を思い返して虚ろな目をしていると、水上先輩はカウンターの内側から出てくる。
「ん?ぼーっとしてどうしたの?」
首を傾げながら心配するように問いかける姿は可愛らしいもので、悲惨な末路ばかりの彼女だが、その性格や過去に関しては地雷じみたものはなく、関わること自体に警戒する必要はない。
そもそも、ゲーム関係なしにわりかし世話になっている先輩なのだから、たとえ地雷原みたいなキャラだったとしても急に距離を取る、というのはなるべくならばしたくはないことである。
「いや、何でもないですよ先輩」
「そう?なら良いんだけど……、具合が悪いならすぐに言ってね?」
「大丈夫ですよ、それで、今日は一日図書館は閉めておくんでしたっけ?」
「そうそう。今月の本の貸し出し状況とかの確認もあるから本の整理とかも兼ねて一日丸々閉館日」
心配無用と笑って見せて、今日の活動について問いかけると、水上先輩はまたふんわりとした笑みを浮かべて答えてくれる。
図書委員会では定期的にその日の当番により蔵書と貸し出し状況のチェック、それの簡単な本の整理が行われる。
基本的に当番は二人体制、受付と整理に分担して行うが、この時のみ丸一日図書室を閉館して二人で作業を行う。
通常の学園の図書室より遥かに膨大な蔵書数を誇るこの学園なりのシステムなのかもしれないが、ある程度纏まった人数でやらせないあたり正気を疑いたくなる。
「昼休みは……とりあえず貸し出し状況の確認ですかね」
見渡せば、人一人通れる程度の感覚を置いて並べられた天井近くまである高さの本棚に、多量に並べられた本。これを二人で確認するのは気が遠くなる作業であるし、昼休みだけでは到底終わらない。
すぅっと、視線を逸らして水上先輩の方を向けば、同じように浮かんでいるのは苦笑であった。
「そうだね、それにもちょっとは時間かかっちゃうから」
そういって、水上先輩はカウンターの上に置いてある、仕切りがつけられた箱を手に取る。中にはハガキ大のカードのようなものがずらりと並べられていた。
これも何処の学校にもあるであろう、貸し出し管理用の貸し出しカードだ。貸し出した日、返却した日、借りた本の名前を書くようになっているものだ。
なお、この学園では本側にはバーコードが貼られていて、貸し出し、返却の際にバーコードを読み取って管理をしているため、カードの情報と合わせて確認する必要があったりする。
ともあれ、お仕事である。
「んじゃ、先にカードの方の仕分けしましょうか」
「うん。じゃあ、私は未返却の本データの方で出力しちゃうから先にやっててもらってもいいかな?」
「了解です」
箱を水上先輩から受け取り、本棚の隙間を縫うように奥の方へと向かう。
少しばかり歩けば、今度は教室二つ分程度の広さの、テーブルが並べられた空間にでる。その端からはまた本棚がずらりと並べられている。
このスペースは読書や勉強のためのスペースとして用意されており、ゲーム内でもとあるヒロインは常日頃からここで勉強をしていることが明かされていたし、我らが図書委員長も当番がない日はここでゆったりと本を読んでいたりする。
かくいう自分も時折ここで読書や勉強を行うのだが、そういう時ほど他の利用者を見ないのは不思議なものだ。
「っと、さっさと仕分けしてしまおう」
呟いて、箱をテーブルの上に置く。面倒なことはさっさと済ませるに限るのだ。
学級、学年ごとに仕切られた箱から、取り敢えずは、中等部の1クラス分の貸し出しカードを纏めて取り出せば、早速、仕分け作業に取り掛かるのであった。




