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ずっとわたしは綱渡りをしていた。
ちょっとでもバランスを崩したら、もうダメなんだよね。谷底まで真っ逆さまで、誰にも仲間に入れてもらえないの。
もともと見た目は派手じゃない。部活もそんなに上手じゃないし、勉強だってできなくはないというだけ。全部普通。そんなわたしが囲まれた社会で生きていくには、必死にみんなと同じようなことをするしかなかった。
同じようなものを持って、同じようなものを食べて、同じような話題ばかり話して。
面白くなくとも誰かと笑って、誰かを馬鹿にして、誰かにうなずいていた。
でもきっともうそれも終わり。そんな影追いすらできなくなってしまった。
清水さんの秘密を知った翌日のお昼休み。
いつも通りお弁当を持って立ち上がったわたしに、実里が首を傾げながら聞いた時にそれは決定づけられる。
「ああ。今日は食べるんだ?」
もうこっちに来るなよ。まじで迷惑。いつも本当は邪魔だったんだよね。
たった一言なのに、副音声が何重にも重なって聞こえた。
ぎくりと立ち止まる。それ以上二人に近づくこともできなくなったわたしなんて見ずに、沙耶香はお弁当を机に広げていた。境界線は目に見えなくともはっきりと引かれている。
胸につっかえた酸っぱい何かが熱くて痛くて、わたしはお弁当を抱えたまま教室を後にした。




