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祝勝会と反省会

 ここは滋賀県栗東市にあるJR栗東駅周辺。時間は18時を過ぎて人通りも次第に多くなってきていた。栗東駅の東口に本岡厩舎のスタッフが待ち合わせをしていた。19時から繁華街にある居酒屋で「厩務員全員に勝鞍」という目標を達成した祝勝会をするためである。待ち合わせの場所にはすでにみんな揃っていてあとは岡西が来るのを待つのみだった。本岡厩舎は5レースで自分達が管理する競走馬のレースが終わったため、14時頃にはスタッフ全員阪神競馬場を後にして栗東トレセンに引き上げていた。しかし岡西は6レース以降ずっと騎乗予定が詰まっていたため、17時以降でないと競馬場から出られない状態だった。阪神競馬場から栗東市までは最低でも車で1時間以上はかかるために、祝勝会の開始時間を岡西が到着するまでの時間を逆算して19時というふうにあらかじめ設定していた。


「今、岡西君から電話があってあと10分くらいで着くと言っていた。彼はオートバイで来るみたいだ」


本岡は他のみんなに岡西の到着が近いことを伝えた。


「あれ? 彼は酒飲めへんのですか? 九州男児やから飲める思ってたんですけど」


西岡は九州男児は必ず酒飲みと思い込んでいたため驚いていた。


「うん、岡西君とはわたしが調教師になる前から何回か一緒に食事に行ったけど、彼がアルコールを口にしたことは一度もなかったね。どうも体質が合わないみたいだよ」

「ほんまでっか、いや〜酔っ払った岡西君見てみたかったんですけどそういう理由ならしゃ〜ないかぁ」


西岡は本岡の話を聞いて残念そうにしていた。


「別に九州出身だからって飲めるとは限らんだろ……」


大西は呆れながら西岡に冷静なツッコミを入れてくる。


 話している時、一台のオートバイが栗東駅東口に面した道端に止まり、クラクションを鳴らして本岡達に向けて一人のライダーが手を振っていた。そのライダーは黒のヘルメットに上下黄色ベースのライダースーツを着ていた。


「あれ、ひょっとして岡西君じゃないかしら?」


菅野は上下黄色のライダースーツを着ているライダーのところに駆け寄ってみた。そのライダーはヘルメットを脱いで素顔を見せた。


「すいません、お待たせしました」


素顔の主は岡西だった。


「競馬場からここまでバイクで来て寒かったでしょう? 今日はキムチ鍋の店で飲み放題と食べ放題よ」


菅野は今日の料理の内容を岡西に教えた。


「ほんとですか?僕、激辛料理大好きなんですよ。体が温まりそうですね」


岡西は好物の料理を聞いて上機嫌になった。


「うわ〜、自分ごっつええバイク持ってるなぁ。こりゃ乗ってみたいわぁ」


西岡は高性能パーツだらけの最新鋭のオートバイをマジマジと鑑賞していた。


「僕、このバイクの購入の時は店の人に全部お任せして最新鋭の装備にオーダーメイドしてもらいました。カタログのパーツやエンジンなどの内容言われてもなんのことかさっぱりわかんなかったもので……」


岡西は照れくさそうに話した。一般のバイクマニアの人にとって岡西が所有するバイクはぜひとも乗ってみたいという逸品みたいだが、岡西自身そういう認識というのは全くと言ってもいいほどない。性能がよくて走るのに不便さえしなければいいという意思で乗ってるのである。


「かなわんわぁ。トップジョッキーはやることがちゃうなぁ」


西岡は岡西の経済力にお手上げ状態だった。毎年100勝以上してる岡西の年収は一般のサラリーマンと比べて10倍以上もある。例えば未勝利戦の1着賞金が500万とすると、まず税金で賞金の20%差し引かれると400万残る。この400万うちの5%が騎手に渡るので計算すると20万円入ってくるシステムになっている。それを単純計算で100勝をかけると2000万円が年収ということになる。実際は重賞勝ち鞍やクラスが上のレースも当たり前のように勝ったり、1着以外の賞金圏内(2〜5着)に入るレースもたくさんあるため実際の岡西の年収はざっと見積もって1億前後はある。このように数字で比較すると一流騎手と一般の月収20万前後のサラリーマンとでは経済力の差がは明確である。


「あっ、駐輪場にバイク止めてきますね。そろそろ時間ですので」


そう言って岡西は駐輪場にバイクを走らせた。バイクを駐輪場に停めた後、みんなと合流して祝勝会をする店に向かった。この時、栗東駅の時計は18時45分をさしていた。


 一方こちらは栗東トレセンの押切厩舎の事務所の中。ここではちょうど緊急ミーティングが行われる前だった。しかし、ミーティングとは言っても実際の内容の殆どが押切のお説教の時間である。押切の機嫌の悪さは極限を極めていた。競馬場の控え室でちゅんを4時間説教後、緊急ミーティングという名目で小倉橋を除く押切厩舎所属のスタッフ全員が押切の無茶振り指令で事務所に集められていた。夕刻のトレセンは静かだが押切厩舎の事務所内だけは不穏な空気で充満していた。18時30分頃、怒りのオーラで満ち溢れていた押切が事務所に入ってきた。押切が来たことにより気まずい雰囲気がさらに増していった。押切は無言のまま事務所の一つの椅子にドッカリ座って腕と足を組んで他のスタッフ達を威圧して睨みつけていた。他のスタッフはみんな押切と目を合わせないようにそれぞれの椅子に座って下を向いて黙っていた。しばらく沈黙が続いた。そして数分後……。


「オマエらはやる気あんのか!!! ワシが開業してもう4年以上経つがトータルで勝ち鞍が二桁もないってどういうことや!!! 今年かて真向かいの厩舎の3分の1しかワシらは勝ってへんのやで〜! 向こうは管理馬7頭しかいないで6勝、ワシんとこは向こうの倍以上の管理馬15頭もいてたったの2勝やで〜! オマエらはワシを廃業に追い込む気か!!!」


数分間続いていた沈黙が押切の出だしの怒号で破られた。一喝するやいなや押切はちょうど目の前にあった机を蹴り倒した。ドスンという音が不穏な空気の中で強烈に響いた。他のスタッフの中で激高した押切に話しかけれるのは誰もいない。彼らの選択肢には黙って押切の説教に耐えるしかなかった。


「今日かて勝てるはずのレースで勝って馬房減らされるピンチ脱出できる思っとんたんやが、アホのちゅんが5着に沈めおって〜! ちゅんもちゅんやが元はといえば先週ユーロの出馬投票するの忘れたオマエも原因やろ〜が〜、古村こむら! 先週の未勝利戦やったら出走数も少なくてスピードだけで逃げ切れる京都で勝ち鞍挙げられるはずやったんがなぁ!!!」


押切はスタッフの一人である古村厩務員を睨みつけた。古村は押切が開業したときから厩務員としてずっと働いてきた古株のスタッフだが、毎回なんらかのポカをかましては押切に説教されてる厩務員である。「出馬投票」とは競走馬がレースに出走するために必要な登録申請のことで年始開催などの例外を除いては毎週木曜日に行われる。もし出馬投票をしていないとレースには出れないという規則になっている。先週、古村はユーロステイテッドの出馬投票を押切に頼まれたが、うっかり申請し忘れたためにやむなく今日のレースに出走せざるを得なかったという。針のむしろに立たされている古村は、ただ黙ってうつむいてるしかなかった。


「渡部! オマエかてこの間ロングロングロングに飼葉やる時、間違えて腐りかけのやったら下痢起こしおってレース出れへんようになった時、ワシはどれだけ馬主にクレームつけられたおもっとるんやぁ! あん時は小倉橋さんが仲介してくれたおかげで転厩させられずに済んだんやでぇ! 飼葉の区別はできへんわ汗臭い匂いはするわロクなことないやっちゃなぁ!」


古村に続いて次は渡部厩務員を睨みつけて罵倒し始めた。渡部は24歳くらいのやや小太りの体格をしている。ただ、汗っかきのため常に汗臭い匂いがする厩務員である。そのため押切と鉢合わせになるたびに「オマエ、臭いわ! 風呂入って来い! 風呂〜!」と怒鳴られてサウナ風呂に放り込まれるのがオチである。しかも仕事中に放り込まれるため仕事ができず、仕事が完了していないということで再び説教されるという悪循環。さきほど押切が言った飼葉のことも普通なら確認のために聞けばよかったのだが、渡部は押切に仕事中にサウナに押し込まれるのを恐れて聞くに聞けなかったのである。押切厩舎の厩務員の中で最も悲惨な扱いをされるのはだいたいがこの渡部である。ひどい時はちゅんがサウナに放り込まれた後に「ついでにオマエもサウナ行って来い!」と言われて仕事中放り込まれる時もあったという。


 厩舎内にある時計はすでに19時を差そうとしているが、押切の説教はあと5時間続く予定。さきほど押切が渡部に言ったような、各スタッフの過去のポカの蒸し返しが殆どである。長時間のミーティング(押切の説教)が起こる条件は「ちゅんがレースで人気を裏切る」が7割であとは押切の気分次第でランダムで発生するという。これも低迷続きの負の連鎖が原因で、打開策は今のところメドが立っていない状態である。


 場所は再び栗東市内の繁華街に戻るが、本岡厩舎のスタッフ全員と岡西の合計9人は祝勝会の店に入って、円卓のテーブルを囲んで飲み物と料理が来るのを待っていた。しばらくして店員が生ビールとウーロン茶のジョッキを持ってきた。飲み物を配ってる時、別の店員が鍋料理の具を持ってきた。肉・野菜・シーフード類が目白押しに揃っていてみんな味に期待していた。


「先生、飲み物も食べ物も揃ったし乾杯の音頭をしないとな」


大西は本岡に乾杯の音頭の催促をした。


「そうですね、ではグラスを持って。えっと、今日はお疲れ様でした。おかげさまで全厩務員に勝ち星という目標を達成できました。来年は今年以上の成績を目指しましょう。乾杯!」


「カンパーイ!」


本岡の乾杯の音頭でみんな笑顔でグラスを合わせあって仕事の後の一杯を楽しんだ。ちなみに岡西だけは酒が飲めないため烏龍茶である。


「かぁ〜、ウマイなぁ! やっぱ生はええわぁ!」


西岡はめったにお目にかかれないご馳走と酒に有頂天だった。


「確かこうやってみんなで食事するというのは厩舎開業以来初めだな」


大西は冷えた生ビールを飲みながらしみじみと言った。


「あっ、鍋が沸騰してきましたので肉など長く煮込む具を入れますね」


岡西はそう言っていい具合に沸騰したキムチ鍋の中に肉・椎茸・豆腐などを手際よく入れていった。


「トップジョッキーに鍋奉行をしてもらえるなんてめったにないことやでぇ」

「いやいや、トップだなんて…。僕はまだまだですよ。リーディングになったことありませんし。それに今日のG1も18頭フルゲートの10着でしたし……」


調教助手の一人、三宮のヨイショに少し困惑する岡西であった。


「そういや今日のジュベナイルフィリーズに吉原さんの馬が出走してたみたいだが何着だったかな?」


本岡は鍋の中の具の様子を見ながら岡西に尋ねてきた。


「あの人の馬は確か2着です。僕がレース後のモニターで確認したところ、残り100Mのところで勝ち馬に差されて吉原さんは怒り心頭モードでした。1番人気でしたし無理もなかったですよ。レース後のそこの陣営は全員お通夜状態でしたし」

「なるほどね。ウチも来シーズンG1レースに出れるように頑張らないと」


本岡は岡西から今日のG1レースの結果を聞いて、来シーズンは自分が最初に吉原にG1勝ち鞍をプレゼントするという決意を固めた。


「フフフ、わたしの世話してる馬にあの時全くねぎらいの言葉をかけなかったバチが当たったのよ」


すでに生ビールジョッキ3杯飲み干してる菅野は酔った勢いで高揚していた。


「うわ〜、姐さんすごい飲みっぷりやなぁ」


日頃は競走馬の世話以外でもいろいろな面で厩舎をサポートしてくれる菅野だが、今日の彼女の一変ぶりにちょうど左横にいた西岡は驚きを隠せなかった。


「先生、肉がいい感じで煮込んできたのでそろそろ食べれるかと思いますけど」

「そうだね、そろそろ食べてみましょう」


岡西はみんなに鍋の具を入れようとお玉を取ろうとしたところ、酔っ払った菅野に取られてしまった。


「岡西君はお客さんなんだからそんなに気を遣わなくていいの」


そう言って菅野は手際よく他のメンバーの取り皿に鍋料理の具をついだ。また、岡西の取り皿の時には具を肉割増でついでくれた。


「うわ〜、姐さんズルいわ〜! 岡西君にだけ肉割増って!」


西岡は酔ってる勢いもあるが、具の取り分について大人気ない不満を言いはじめた。


「何言ってるのよ、彼は今日ウチに2つも勝ち鞍上げた立役者でしょ? それに比べてアンタは今週真向かいの厩舎のイベントを笑い転げてみてただけでしょう。ガタガタ文句を言わない!」


そう言ったのと同時に菅野の平手が西岡の背中にクリーンヒットした。こういうときの女性は手加減を知らないためダメージも割増になる。


「ぎゃあ〜!!! 痛ぇ! アカン、今の一撃で背骨折れても〜たわ〜! 傷害罪やわぁ〜!」

「あれくらいで折れるわけないでしょ……。ほんと大袈裟なんだから……」


手痛い紅葉饅頭を食らった西岡に菅野は一喝した。周りのみんなは大笑いだった。


(こういう家族のような集まりでみんなでワイワイ騒いだことって、俺は騎手になってから今まで一度もなかったなあ……)


活気づいた光景に岡西はしばらくしみじみとふけっていて、なおかつ新鮮さを感じていて。


「どうしたのかね? 箸が進んでないみたいだけど」


物思いにふけっていた岡西に本岡が声をかけてきた。


「い、いえ。なんでもありません。ちょっと考え事をしてまして…。ではいただきます」


岡西は気を取り直して取り皿に入っている具を、息を吹きかけながらゆっくり食した。


「いい具合に辛味が効いててこれはウマイです。やっぱ有名どころのグルメ雑誌に掲載される店はいいですね!」

「うん、そうだね。この店はウチが目標を達成したのと同時に大西さんが予約してくれたんだよ」

「ははは、正確には5レースが始まる前なんだけどな。勝利は確信していたよ。わたしが馬券師だったら今日の3レースの9番・5レースの10番にそれぞれ単勝1万ずつ行ってたよ。馬券が買えたら約20万くらいの儲けで全額奢ってやれたんだがなぁ」


大西は今日のレースの自分の予想が冴えたのはよかったが、馬券が買えなかった事を残念そうに語っていた。


「ははは、大西さんらしいですね。まあ競馬法で馬主を除く競馬関係者(調教師・騎手・調教助手・厩務員・バレットなど)は、中央で馬券買うのを禁止されてますからそれは仕方ないですよ」

「そうなんだよなぁ」


岡西のツッコミに大西は苦笑いだった。


「2004年シーズンもあと3週を残すのみとなりましたけど、ほんと月日が経つのが早いですね。僕は今年もG1まだ勝ってません。残ってる朝日杯か有馬のどっちかは取りたいものです」

「う〜ん、G1勝ち鞍を欲しがる気持ちはわかるけど、もう少し楽な気持ちになってはどうかなぁ?岡西君のG1レースでの乗り方見てて思ったんだけど、どうも必要以上に気負ってるように見受けられるんだよねえ」


本岡はG1勝ちに固執して焦りを見せる岡西に助言をした。この助言の内容は数日前に大西が本岡に話していたことを踏まえていた。


「う〜ん、自分ではわかってるんですけど〜。今年も牝馬三冠のクラシック戦線で三冠とも2着という不名誉な記録を作ってしまって焦りに拍車がかかっていたかもしれません」


岡西は本岡の助言を元に自分なりに自己分析をした。


「君はまだまだ若いのに1000勝以上して一般の騎手より何倍もの実績を残している。現時点ではトップに君臨し続けてる武井匠騎手にはまだまだ劣るかもしれないけど、そのうち開花するシーズンも来るということだよ。過去の騎手でも今まで全くG1勝てなかったが、あるシーズンで一気に開花したという例もあるし」


大西の長年の競馬経験をふまえた助言が、張り詰めていた岡西の気持ちをを適度にリラックスさせた。


「そうですね。先生や大西さんがおっしゃる通り、長いスタンスで見ていかないといけませんね」

「うんうん、その調子で来シーズンも頼むね」

「ちょっと辛気臭い話になってしまったが、まだまだ具はあるのでどんどん食べないと他の連中に食べられてしまうぞ」


岡西の表情に焦りの色はもうなかった。すでに気持ちは来シーズンの準備に向いていたからである。大西に鍋のことを促された岡西は、再びキムチ鍋に下づつを打った。


「ふう、やっぱり辛くておいしいです。そういや激辛料理で思い出しましたけど、本岡先生がまだ調教師になる前に受験勉強の気晴らしでカレー専門店の『ナンバーワンカレー』に二人でよく行ってましたね」

「ああ、そうだったねぇ。岡西君の休みの日が基本的に月曜だけなのでその曜日に合わせてよく行ってたねえ」

「僕らが注文する辛さはいつも『激辛マックス』でしたねえ?」

「そうそう、あの辛さがいいんだよねえ」


本岡と岡西は数年前のことをしみじみと語った。


「げ、激辛マックス〜〜〜〜!!! 先生も岡西君も悪趣味やわぁ!!! あんなん食ったら舌おかしくなりまっせ〜〜!」


西岡は辛さの耐性が圧倒的に強い本岡と岡西に変人のレッテルを貼った。


「俺もあのチェーン店のカレーは2辛が限界やなぁ」


続いて西田が発言した。


「ひや〜、まさか身近な関係者にビックリ料理食う人がおったのは意外やわぁ」

「俺の激辛料理好きの連れもマックス挑戦して途中でヘバッても〜たんやけど二人揃って完食とは化け物やぁ!」

「味わからへんようになるのに……」


二宮・三宮・四宮の調教助手3人が立て続けに発言してきた。


「ちょっとみなさん、カレーは辛くないと意味ないでしょう? 辛くないカレーなんて邪道ですよ!」


岡西は自分のカレーに関する理論を展開した。


「いやいや、辛さの度数が尋常じゃあれへんのや〜! マックスなんてありえへんわ〜!」


西岡は本岡&岡西の辛さの選択について理解に苦しんでいた。


「いや〜、大丈夫ですよ。少しずつ辛さの度数を上げていけば最終的にみんなマックス食べれるようになりますよ! ねえ、本岡先生。先生もなんか言ってやってくださいよ!」


岡西はかなり感情的になっていた。


「えっ、う〜ん。まあ人それぞれということだと思うけど〜」


本岡は岡西に突然話をふられて、的確な結論を出す準備が整ってなかった。


「先生、そんな一般論じゃ誰も納得しませんよ!」


岡西はさらに感情の度数が増えた。本岡は苦笑いした表情で困惑していた。


「は〜い! わたしマックスに挑戦しようかしら〜!」


酔った勢いで高揚してる菅野が突如マックス挑戦に名乗りをあげた。


「お、いいですねぇ〜。今度の休みの時に行きますか?」

「行こう行こう〜!」


岡西の誘いに菅野はノリノリだった。


「うわ〜、ここにも悪趣味なのがおったわぁ〜!姐さん、女捨てたらあきませんでぇ〜!」


西岡は高揚して口を滑らせてしまった。


「誰が悪趣味で女を捨てるですって〜?」


高揚状態の菅野は西岡にプロレスの締め技をかけてきた。


「ぎゃあ〜! 痛い〜! わて全然関係あれへんのに〜!」


西岡は菅野の四の字固めの攻撃に険しい表情で耐えていた。このしょうもないキッカケで始まったカレー論争はお開きの時間である22時まで続いたという……。


 場所は再び栗東トレセンに戻る。本岡厩舎はドンチャン騒ぎの最中だが、押切厩舎内は未だに説教モードだった。18時半から始まった押切の説教はすでに4時間を経過していて他のスタッフ全員の疲労はすでに限界を超えていた。しかし押切の説教はいっこうに終わる気配がない。


「オマエら一人一人たるんどるんじゃボケ〜〜!!! 仕事もロクにできへんくせに給料だけは持って行きおって穀潰し共がぁ! 年末の順位で馬房減らされたらどうなっかわかっとんのかぁ!!! タダでさえ経営アカンのに競走馬おれへんごとなったらオマエらクビ切りやで〜! それか厩舎のため指にドス入れても金作ってくるんか? あぁ???」


ここまで来るとサラ金の取立屋の誹謗中傷みたいになってくる。しかも押切の容姿がよりリアルに迫力を助長してるため、スタッフはみんな蛇に睨まれた蛙の状態だった。この気まずい雰囲気は夜中の0時まで続いたという……。

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