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2005年夏競馬を振り返って

 こちらは新潟競馬場の検量室前の着順ゲート。新潟記念を走り終えたチェリープラネット号に乗った岡西がちょうど戻ってきた。1着のゲートに入り馬から降りた後、管理する小柴調教師など関係者とガッチリと握手を交わした。


「いい騎乗だったな。残念ながらサマー2000シリーズは制覇できなかったが一矢報うことはできたな。ご苦労さん」

「ええ、前走の函館記念ではコースロスのせいで短い直線で脚を余してしまいましたからね。反省が生かせてよかたっとおもいます」


小柴調教師のねぎらいの言葉に対して、バレットの道明に後検量に関係のないムチ・帽子・ゼッケンを渡しながら淡々と答える岡西。


「実はレース終わった今だから言えることだが、最終打ち合わせの前にわたしはキーンランドCの結果を知ってしまって、ポイントでリードされたことを言おうかどうか迷ってたんだ。あえて言わなかったことが幸いしたかな」

「ハハハ、なるほど。でも僕は思わぬ形で知ってしまいましたので……。結果的にはそれでよかったのかもしれませんけど……。言うか言わないかって使いどころ難しいんですよね。場合によっては気負ってしまう可能性がありますから」

「まあな」

「では後検量に行ってきます。表彰式の時にまた」


岡西は小柴調教師との談笑後、後検量に向かっていった。そして後検量も無事にパスしてレースは確定した。人気薄が2頭も絡んだために3連単で30万くらいの高配当ついたという。



「摩那舞、おめでとさん。お前今年の夏はずいぶん稼いだんじゃないのか?」

「あっ、ブっさん。ありがとうございます」


1人の騎手が岡西に話しかけてきた。岡西に「ブっさん」と呼ばれた彼は武者友二という名の騎手で人気薄の馬を好走させる騎乗に定評があり、さきほどの新潟記念では4着に入線した。彼もまた岡西と同じ13期生であるが、一浪して騎手学校に入ってきたため岡西より1つ年上である。騎手学校時代は1つ年上の立場として問題児だった岡西をよく諌めていたという。


「ハハハ、重賞勝ったんだから来週は調整ルームでみんなに馳走を振舞わないといけないな(※注釈)。それよりも須藤先輩達の粘着には気をつけたほうがいいぞ…。俺は裏開催でよくあの先輩達とよく当たるけど、その時の騎乗はごく普通なんだよな。お前と対戦の時は極端にああなるんだけど……」

「わかってますよ……。俺のせいで巻き込まれた人は過去にたくさんいますから……。レース以外でも……」


武者の言葉に表情を曇らせる岡西。須藤一味によって人生を狂わされた競馬関係者やその家族のことを嫌というほど知ってる。岡西は騎手学校時代から続く須藤一味との紛争のことで常に罪悪感を背負って騎手の仕事を続けているという。須藤一味との揉め事のたびに親が呼び出されて何度も騎手学校を辞めさせられそうになったこともあった。須藤達ブルジョアの保護者に対して一般的なサラリーマン家庭の岡西の両親は常に弱腰で岡西が迷惑をかけたことに何度も謝り、元々騎手学校に入学させるのを反対してた両親は辞めさせようとしていた。しかし岡西は頑なに抵抗、追い詰められた反動で騎手学校のプレハブ室に放火、そして保護者の1人の首筋に刃物を突きつけて人質にとり膠着状態という暴挙まで引き起こしたこともあるという。その時、人質にされて巻き込まれた保護者が須藤の母親だったという。放火自体は他の教官の通報で大事に至らずにに済んだが、膠着状態は5時間ほど続いた。最終的には校長の適切な説得により膠着は解けて退学にもならずに済んだが、岡西と須藤一味との紛争はその後もずっと続いたという。その事件の影響で須藤の母親はノイローゼになり今でも入退院を繰り返してるという。この頃から岡西は『自分を助けてくれるのは身内にもいない。1人で生きていくしか騎手では生き残れない』ということを悟ったという。


「そう暗い顔をするなよ。お前がほんとのヒールだったらダービーはおろか、ここまで実績をあげることはなかったと思うぜ。俺らより実績あるんだからその点は胸を張ってもいいと思うぜ」

「あ、ありがとうございます……」

「まあ来週の調整ルームでは馳走になるぜ」

「ええ、どうぞどうぞ。そうだ、ブっさんには特別に大好物の焼きそばパンをダンボール一箱分買ってきましょうか?」

「オイオイ、俺を斤量オーバーにする気か?」

「ハハハ、冗談ですよ」


武者の励ましにより岡西の曇った表情は明るい表情へと一変して、ジョークを飛ばせるまでモチベーションを戻した。


「そうそう、さっき黒の上下レザーでサングラスをかけた人がウロウロしてたぜ。ひょっとしてお前を探してる噂の先生では?」

「あぁ~、確認してきます。ではまた」

(ったくあの先生はどこ行っても目立つからなぁ。さっきも近馬道でおかしな変装して潜伏してたからなぁ。ここは言ってやらないと……)


岡西は苦笑いの表情を隠し、武者との会話を切り上げて噂の先生の押切を探しに行った。



──競馬関係者席にて──



「ワハハハハ、いや~やっぱ人の役に立つことはエエことやなぁ。ワシの影のアシストが岡西君の重賞勝ちを呼び込み、そしてサマージョッキーシリーズ優勝を濃厚にしたさかい」


押切はベンチに座っていつものブラックアイスコーヒーを飲みながら自己満足に浸っていた。他の関係者に不審者の目で見られていたという認識は押切には微塵もない。


「あっ、押切先生。ここにいましたか……」


表情が硬い岡西が押切の前に現れた。


「おお、岡西君かいな! いや~、重賞制覇おめでとさん! やっぱ岡西君が乗ると違うなぁ! アホのちゅんに岡西君の爪垢煎じて飲ませてやりたいくらいやわぁ!」


人の心境などお構いナシに岡西をベタ褒めするノー天気な押切。


「あ、ありがとうございます……。あの~、1つ聞きたいことがあるんですが……」

「ん? どないしたん?」

「新潟記念の本馬場入場前の時に近馬道でおかしな格好をしてなにやってたんですか?」

「ん? 新潟記念にはワシの管理馬出走させてへんので1人で関係者席からレース観てたさかい多分人違いやと思うでぇ。そういや最近いかがわしいのが競馬場内にウロついてるって噂聞いてたさかい出くわしたらこのワシがシバいてやろう思っとったんやがなぁ、ワハハハハ」

(なんやて……あの完璧なワシの変装が岡西君に見破られてたんかいな? 恐るべし慧眼……)

「えっ……」

(まさか俺にバレてないって思ってるのか? どんな頭の作りしてるんだこの先生は……あんなセンスの欠片もないバレバレの格好してくる人って押切先生以外ありえないのに……)


数秒間お互いの思惑が交錯していた。


「まあまあ、夏競馬も無事に終わったさかいレース終わったら久しぶりにどっか飯食いに行かへんかい? 日本海の海産物とコシヒカリが同時に楽しめる店とかどっかあれへんかなぁ?」

「米と海産物……。寿司ですか?」

「おおお、エエねエエねぇ! ついでにワシんとこのアホ共を数人引っ張ってくるさかい、ほな後でな~!」

「あ、あの……。ち、ちょっと……」


押切は苦し紛れに話をごまかしてその場を走り去って行った。


(あ~あ、バックられた……。まあどうせそのまま帰っても家に飯あるわけないからいいんだけど……。それにしても押切先生絡みってなんでこんなに突発イベント多いんだか……。あんな下らない内容をこれ以上問い詰めるのもアホらしいから帰り支度を済ませてからミッチに日当渡して押切先生に合流しよう……)


ポツンと取り残された岡西は腑に落ちない表情で更衣室に向かって行った。押切の一連のノー天気ぶりに呆れながらも、重い過去を背負ってる岡西は反面羨ましいと思うところも一部あるという。



──夕刻、新潟市内某所の寿司店にて──


「おお、ここかいなぁ~。なんかごっつウマそうな店やなぁ」

「ええ、新潟市内のグルメガイドにも大きく紹介されていたオススメの寿司屋みたいです。4人以上割引のクーポンもありますので」

「ワハハハ、エエんちゃう? ほな入るか!」


ノー天気全開の押切は先陣を切って店内に入っていった。今回集まったメンバーは押切・岡西・ちゅん・調教助手の小橋の4人。店内に入った後は4名の席に案内されてそれぞれ席につく。入口側窓際から押切・ちゅん、反対側窓際から岡西・小橋の順番でそれぞれ座り、メニューを見てそれぞれ食べたいものの注文を取った後に雑談をはじめた。


「いや~、今年の夏競馬は岡西君の1人舞台だったんちゃう?」

「いえいえ、そんなことはないですよ。僕もけっこうちゅん君には苦しめられましたから。いちおう夏のリーディングのトータルでは1位になれましたけど、いろいろと反省点もたくさんありましたし」

「ワハハハハ、ちゅんが挙げた勝ち鞍なんて全部マグレやマ・グ・レ。ワシはコイツの付き添いでずっとレース観てたんやがずさんなレースばっかやったからあれで勝てへんやったら相当のアホやでぇ。それに重賞初制覇言っても所詮ジャンプのザコ重賞やさかい」

「そ、そんなぁ」


押切と岡西の間にちゅんが入るたびに「飴とムチ」合戦が飛び交う。そのたびにちゅんは高揚したり沈んだりを繰り返す。


「新潟ジャンプSの表彰式の時なんかひどかったでぇ。ちゅんのインタビューのコメントは常に噛み噛みやしあの時はワシの管理馬じゃなくてホンマによかったと思ってたでぇ」

「うわぁ、そんなバラさないでくださいよ~。僕、人前に立たされてすっごい緊張してたんですから……」


ちゅんは顔を赤らめて押切に嘆願してきた。


「ハハハ、俺はその時札幌にいたからねぇ。そのレース自体は最初から最後まで観てたよ。その後、札幌記念の出走だったから表彰式までは見れなかったけど」


岡西は水を軽く一口飲んだ後に淡々と語った。


「しかしよぉ、問題はその後やでぇ」

「ん? ちゅん君のインタビューの後になんかあったんですか?」

「あったでぇ、ま~たあのオーナーがいらんことしてくれたんやわぁ」

「村山さんがですか? 一体何を?」


岡西は自分が知らない裏話を知るため耳を傾けた。


「インタビューのコメントは相変わらずの抽象的な台詞ばっかでここまではいつも通りなんやが、その後航空自衛隊のブルーインパルス連れてきてアクロバットやりおったでぇ。新潟競馬場の上空で雲の勝利の弾幕出し捲くりや~。ホンマ金持ちの考えてることはわかれへんわぁ」

「ハハハ……相変わらずの奇天烈ぶり……。その場にいた本岡先生は相当リアクションに困ってたんでは?」

「ごっつ取材対応に困っとったでぇ。そのせいで翌日寝込んだ言ってたさかい」

「言われてすぐその光景を想像できる僕が怖いです……。そういや2週間後はユーロステイテッドのダービーGPでしたね? レース当日にあのオーナーが盛岡で何をしでかすことやら……」

「うわぁ、せやったなぁ。次はワシんところのターンになるわぁ。ワシと本岡さんは危険人物に関わりながらの厩舎経営やからなぁ。その辺の厩舎とは苦労の差が違うでぇ、ワハハハハ!」

「そ、そうですね……」

(てゆうか押切先生、あなたも村山さんと同じレベルです。今日だっておかしな変装してたくせに……)


押切の裏話を苦笑いの表情で聞き、受け答えしながら必死で本音を隠す岡西。


「お~、ちゅん! オマエは彼女とはうまくやってんのかぁ? 一体いつになったら師匠のワシに紹介するんや? あぁ?」

「え、き、急に僕にふられても……」


突然の押切の話題ふりに困惑した表情で慌てふためくちゅん。


「ひょっとしてオマエがだらしないからもう風前の灯か? あぁ?」

「そ、そんなことないですよ……。ちゃんとうまくやってますよ……。彼女も仕事がありますし僕は休みが月曜くらいしかないからそんな頻繁には会えないんですよ……」

「ワシはオマエに彼女がおるということに未だに半信半疑や。まあオマエを熱心に応援するキチガイの競馬ファンもおるみたいやから認めるしかあれへんのやろうがなぁ」

「そ、そんな押切先生ひどいですよぉ」


押切の台詞にションボリするちゅん。


「そういやちゅん君って追いきり終わるたびにしきりに携帯のメールチェックしてるね」


押切の次に今度は小橋がちゅんに話をふってきた。


「ちょっ、ちょっと小橋さん! バラさないでくださいよ~」

「ん~? 小橋、どういうことやぁ? 話してみぃ」

「えっとですね」

「わ~、小橋さんストップ~! モガモガモガ……」


押切は必死に止めようとするちゅんをフェイスロックした状態で口を塞いで小橋に内容をしゃべらせようとした。


(テツ、お前なりにうまくやってるみたいだな……。あの事件がなければお前も俺と同じ騎手だったんだけどなぁ。俺のせいで……)


岡西は他の3人の漫才の光景を見ながら1人物思いにふけっていた。小橋は岡西と須藤一味の泥沼紛争に巻き込まれて人生を狂わされた1人であったため、いつかなんらかの形で小橋の無念を晴らしたいと岡西は心の中でずっと思い続けていた。


(ちゅん君のことで思い出したことが……。そういや調整ルームにいた時に騎手会長の柴畑さんがあることでしきりに他の騎手に署名を集めていたなぁ。確か内容は『パドックの客のマナー規制』と『応援幕の規制』についてだったなぁ。前者のほうはまだわかるとして後者のほうは納得いかなかったな。本音を言うとなんでたかが応援幕の種類ごときでイチイチJRAに申請する必要があるのかと思ったよ。もっと早急に改善しないといけない点は他にあるはずなのに……)


8月の夏競馬では殆どの騎手がちゅんの熱愛スクープによる冷やかしの野次やトメさんの応援幕で戦意を喪失して成績不振に陥ったことは記憶に新しいと思うが、その反省点を踏まえてマナーの悪い客の入場規制や無駄に派手な応援幕をパドックに飾らないという提案が他の騎手達から相次いだという。ちゅんのことをよく知っていてなおかつ周りの応援幕には全く目もくれず勝負のことしか考えない岡西にとっては腑に落ちなかったが、その提案の署名にやむなくサインをしたという。


「岡西君……岡西君?」

「あっ、はい。呼びました?」


1人別のことを考えていた岡西は不意に押切に話しかけられて反応が遅れた。


「ワシ、前から思っとったんやけど……。岡西君って付き合ってる女性っておれへんのかいな?」

「え? 僕ですか? いませんけどそれがなにか?」

「あれっ、おれへんやったんかいな。だってこんなヘタレのちゅんでさえ彼女おるのに、文句なしの実績を持ってる岡西君から浮いた話を聞いたことあれへんので気になっとったんやわぁ」

「な、なるほど……。まあいない理由を一言で言うなら恋愛してる暇がないためと言っておきましょう。僕はまだまだ一人前ではありませんので……」

「かぁ、岡西君は謙虚でガードも固いんやなぁ」


相変わらずの競馬一辺倒な岡西にただ感心するだけの押切。岡西が彼女を作らない理由は異性の好みがうるさいこともあるが、最も恐れているのは須藤一味になんらかの形で危害を加えられることである。他の人を巻き込みたくないという意思と、誰にも自分自身の弱みを人に見せることは許されないという自戒が現在の岡西の若者らしからぬ人格を形成しているという。


「いやいや、謙虚だなんて……。僕は当たり前のことを思ってるだけですので……」

「ワハハハハ、そんでもって具体的な目標は中央G1全制覇とかそのあたりかいな?」

「まあ最終的にはそうなりますけどね。当面の目標は3歳ダート三冠とクラシック三冠の2つですかね。ダブルでチャンス巡ってきましたのでまずはダービーGPと菊花賞の2つを獲りたいですね」

「ワハハハハ、今の岡西君なら楽勝やろ?」

「いやいや、油断はできませんよ。ダービーGPでは思わぬ地方の伏兵が出てくるかもしれませんし、菊花賞ではギガクロスブレイクに苦汁を飲まされた他の陣営に徹底マークされるのは必須ですし」

「な~に、楽勝や楽勝!景気づけにここの寿司でもぎょうさん食ってバァーっと憂さ晴らしや~!」


ノー天気な押切と冷静沈着な岡西。岡西絡みの話になると常にこういう展開になるという。


「あ、あの……。僕、トイレ行ってきます……」


そう言ってちゅんは席を立ってトイレに向かって行った。


「お待たせしました。○○定食のお客様?」


ちょうどちゅんがトイレに向かった時に注文していた品を店員が持ってきた。


「はいはい、どうもおおきに~。あ~、ツレが1人トイレに行っとるさかいそのまま置いといて~な」

「ハイ、かしこまりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「ああ、ええでええで!」

「では、ごゆっくりどうぞ」


店員はそれぞれのテーブルに注文の品を置いて伝票を置いた後にその場を後にしていった。


(ニヤッ)


押切は店員が去っていったのと同時に不敵な笑みを浮かべて内ポケットから市販の生わさびを取り出した。そしてちゅんが注文した寿司セットのネタをこっそりとめくり、シャリの部分にたっぷりとわさびを塗りこみはじめた。その光景を目の前でみた岡西と小橋は顔が真っ青になった。


「うわ~、また始まったよ」

「ちょっと押切先生……。これじゃあお笑い芸人の罰ゲームみたいですよ……。いくらなんでもこれは厳しいんではないでしょうか?」

「大丈夫や大丈夫や! アイツはアホやから死にはせ~へんわ。よっしゃ、準備完了や! ほな食うか!」

「あっ、はい……」

(うわぁ、ちゅん君悲惨だなぁ)


岡西はちゅんが悶絶する結末を思い浮かべながら自分が注文した寿司を食し始めた。しばらくするとちゅんがトイレから戻ってきた。


「お~、ちゅん。オマエがトイレ行ってる間に注文の品来たでぇ。はよ食べろや~」

「あっ、はい。うわぁ、これは美味しそうだなあ。ではいただきま~す」


押切に促され、ちゅんは嬉しそうに1つの寿司を箸で取り醤油ダレを付けた後、一口でその寿司を頬張った。それと同時にちゅんの顔は一気に緑色になった。


「わ、わさびが……わさびが……こ、これ絶対……おかしいですよ……」


ちゅんは鼻をつまんで涙を流しながら押切に訴えた。


「なんやオマエ、まさかこのごっつうまい寿司にケチつけるってんじゃないやろな? あぁ?」

「い、いや……ホ、ホントに……わ、わさびの量おかしいですよ……」

「それを綺麗に完食するかサウナ風呂に丸3日間放り込まれるのとどっちがええか? 好きなほうを選べや」

「そ、そんなぁ。どっちも嫌ですよ~」

「せやったら恋愛禁止令でもええなぁ」

「ひぃ、そ、そんなぁ。わ、わ、わかりました……食べます……食べますから恋愛禁止令だけは勘弁してください……」


その後、ちゅんは2時間かけて押切に仕掛けられた超得盛わさびつきの寿司を涙と鼻水を流しながら必死に平らげたという。その光景を押切はニタニタしながら楽しみ、岡西と小橋はあまりの惨状に目を向けられなかったという。

(※注釈)


 騎手の間では前の週で重賞を勝った人が調整ルームの飲み物を奢るという風習がある。ちなみにこの週では札幌記念を勝った武井匠と新潟ジャンプSを勝ったちゅんがみんなに振る舞い、次週は新潟記念を勝った岡西とキーンランドCを勝った隅田が他の騎手に振舞うことになる。これはベテラン若手関係なく行われるという。


《モデル騎手紹介》


武者友二→武士沢友治(騎手)

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