熱闘!夏競馬in2005(第2週)
主な騎手の騎乗予定
土曜 日曜
岡西 小倉 新潟
鈴木中 小倉 小倉
時は2005年シーズンの8月2週土曜、天気は全国的に猛暑日和。重賞レースがないにも関わらず小倉競馬場では例年にはない客入りだった。客寄せパンダの原因はもちろんちゅんである。ちゅんが小倉に乗るということで冷やかし目的の客が多数来ていたのである。
「今日やたら客多かなぁ」
「たぶん大半が話題のちゅんば見に来たとばい!」
パドックの最前列の一部分で2人の九州訛の男性が談笑していた。
「それにしてもあの弾幕ば見てみんね~」
「うわ~、あがんカッコ悪かとば飾られたら俺が騎手ばしとったら恥ずかしくて逃げ出すばい!」
男達の目の先は先週函館で猛威をふるったトメさん自家製のちゅんの応援弾幕がいい場所に飾られていた。
「ところで1Rの買い目決めたとや?」
「ちゅん1着固定の馬単流しでいけるばい! なにしろ先週のちゅんは7戦7勝やけん!」
片方の男は高配当が自分の懐に入ることを夢見ながら楽しそうにパドックの出走馬の様子を観察していた。
(今日の小倉はずいぶん客が多いなぁ。先週の小倉記念より客入ってる感じがする。さっきから周りの騎手もほとんど落ち着きがない……)
岡西はパドック前の待機所でライバル馬をチェックしながら全体的にレース前のいつもの緊張感を感じないことに疑問に思っていた。
(そういや今日はちゅん君と直接対決だったな。ん? ちゅん君は1人隅のほうで目立たないように待機してる……。他の連中みたいにうわついてる様子ではないみたいだが……。なんだかんだで調子がいいみたいだから人気は関係なく油断はできないな)
「とま~~~~~~~れ~~~~~~~!」
岡西が周りの様子を確認しているうちに騎乗指令が下った。出走予定の騎手達はパドックに向かって一礼して各騎乗馬へ小走りで向かって行った。
「待っとったばい!」
「よかおなごば彼女にしたちゅんの騎乗が見れるばい!」
「よっ、色男騎手! 景気はどがんね?」
騎乗予定の騎手達がパドックに出てきたのと同時に次から次に九州訛の野次が容赦なくちゅんに降りかかる。九州弁を聞きなれていないほとんどのジョッキーは笑いをこらえるのに必死だった。
(ったくマナーの悪い客が多いなぁ。ちゅん君を除く他の連中は手で口元を押さえて笑いをこらえてるつもりだが、体が震えてるの丸わかりだよ。そうか、先週の函館が大荒れだったのはこのためか……。まったく野次くらいでだらしない……)
ちゅんの熱愛のいきさつを知り尽くしてる岡西だけは野次に対する聞く耳を持たず1人レースに集中していた。それと同時に厭戦気分の連中に勝てないようなら一生の恥さらしだと心の中に刻んで、レースに勝つためのモチベーションを一気に高めていった。
──1Rダイジェスト──
《実況アナウンサー》
4コーナーを過ぎて先頭は5番のウーマンポイント、2馬身のリード! 外からコバノパニックせまってきた! 残り200、先頭はここでコバノパニックに替わる勢い! 先頭はコバノパニック! ウーマンポイントも粘っているが…。コバノパニック完全に抜け出した! コバノパニック、ゴールイン! 2着にウーマンポイント! 勝ったのはコバノパニック。岡西騎手、1番人気に答えました。
【結果】
小倉1Rは岡西騎手騎乗の11番コバノパニックが4コーナーを過ぎて、逃げる5番ウーマンポイントを残り200Mのところで差し切って勝利。2着に人気薄の鈴木中騎手騎乗の5番ウーマンポイントが入り、中波乱の結果となった。
「う~ん、参りました。逃げ切れるかなと思ったんですけど……」
「ははは、まあこのレースでは俺の馬は人気背負ってて落とせないレースだったからね」
岡西とちゅんは1Rを走り終わらせた馬を誘導させながらお互いに話していた。
「僕の交際のことが知られてからというもの、パドックの観客の僕に対する冷やかしのヤジがひどくて……。今日もそうですけど先週はもっとひどかったですからね……」
「ちゅん君、どんな状況に置かれても常に勝ちに行く気持ちを切らしてはダメだぞ。特に厭戦気分の連中みたいなみっともない騎乗はしないように」
「は、はい」
岡西の一言でちゅんは一瞬で気持ちを引き締めた。話しているうちに着順ゲート前に到着して、岡西は1着ゲート、ちゅんは2着ゲートにそれぞれの競走馬を誘導した。その後、後検量を済ませて採決員の前で1~7着に入線した騎手が並んで整列をするのだが、3着以下の騎手が誰も来ていないことに裁決員の人達も不審に思っていた。
「岡西さん、みんなどうしちゃったんでしょうかねぇ?」
「さぁ、わからん……」
しばらくすると3着以下に入線した他の騎手達が慌ててやってきた。慌てて戻ってきた騎手達はみんな後検量を済ませて一目散にトイレに駆け込んだために並ぶのが遅れたのである。トイレが早くなってしまった原因はパドックでのちゅんに対する野次で笑いのツボにハマってしまったからである。
「レースの進行に影響を及ぼす遅延は慎むように」
「ス、スイマセン……」
遅れてきた騎手達は旬の話題を知らない裁決員に口頭で厳重注意をされて、申し訳なさそうに到達順位の通りに並んで、その後採決員の号令で無事レースは確定した。そして各騎手達は次の自分のレースの準備に取り掛かった。
「まなさん、次の2Rの勝負服です」
「ああ、すまんな」
ちょうど岡西が調整ルームで水分を補給してた時、道明が次の2Rの勝負服を届けにやってきた。岡西はその場で1Rで使用した勝負服を脱いで、2Rで使用する勝負服を受け取って着替えた。
「今日は幸先のいいスタートですね」
「フン、単勝2倍を切るド本命馬だったんだ。落とせるわけないだろ。それよりも今日の午後のレースは7R以外はみんな入ってるから手際よく準備するんだぞ。どこかでお前がモタついてたら後のレースに響くからな」
「は、はい……」
岡西は道明に一言言って次の2Rに出るためパドックに向かって行った。
(いつもだけどまなさんは競馬場内ではいつも険しい表情だなあ。他の騎手の人とのオーラが明らかに違う。さて、午後の分は6Rの分まで終わらせてるから8R以降のレースの準備をしないと。ひえ~、暑いし忙しいしこの仕事は大変だ。おっと、モタついてたらまなさんに怒られるから急がないと……)
道明は駆け足で調整ルームに入って、汗まみれになりながら準備に取り掛かった。
こちらはパドック席。さきほどちゅんの1着固定をしていた九州訛の男が馬券を地面に叩きつけて地団太を踏んでいた。
「あ~、岡西がいらんことばしよった~! アイツは今年ダービーば勝って調子乗りすぎばい!」
「ばってんこのレースでは岡西は外したらいかんやろ。アイツの乗る馬がド本命の時はほぼ鉄板やから。俺は裏ば買っといたから当たったばい」
「フン、次のレースで当ててやるばい。次は岡西とちゅんで行くわ」
馬券を外したほうの男は当たった男の的中など全く興味なく気持ちを即座に切り替えて次の2Rの買い目を考え始めた。
午前のレース(2~5R)の岡西&ちゅんの対戦結果
岡西 鈴木中
2R 2着 1着
3R 1着 なし
4R なし なし
5R なし 1着
5Rは障害レースのため岡西は騎乗不可。両者が出ていない4R以外は2人のうちのどちらかが勝っている。1Rの分を含めて午前中のレースを終えた時点で岡西とちゅんは共に3戦2勝2着1回と両者互角の争いをしていた。この通常では予想外のリーディング争いにほとんどの他の騎手がさらに笑いのツボにハマるという火に油を注ぐ結果となっていた。
──ジョッキールーム内にて──
ここは競馬場内にあるジョッキールーム。中央のどの競馬場にも存在する騎手の控え室である。前にも述べた検量室同様、競馬関係者以外は立ち入り禁止である。ジョッキールームは基本的に騎手の休憩所みたいなもので騎乗レースまで時間が空いてる騎手が思い思いにリラックスしている場所である。岡西は4.5Rに乗り鞍がないため次の6Rまでのんびり体を休めていた。
「よう、摩那舞。相変わらず調子よさそうだな」
「ん? 大助か……」
1人の騎手が椅子に座ってのんびりしてる岡西に話しかけてきた。この騎手の名前は松中大助という栗東所属の騎手で彼もまた岡西と同期で騎手学校時代は元ルームメイトである。松中の騎手実績は岡西には遠く及ばないが、カラオケでの歌の上手さは騎手一と言われている。岡西もそれなりに歌は歌えるほうだが、歌唱力ではどうしてもこの松中には勝てないでいた。岡西は『いつか歌で大助のハナをへし折ってやる』と心の中に秘めているという。
「いや~、今日は例の奴がいるからレース中は精神的な拷問そのものだぜ」
「そうか? 俺は別になんら変わりはないんだけどな」
「信じられねえ。俺は九州出身だから九州訛のヤジは耐えられるけど、ちゅんの姿を見ただけでなんか知らんが噴いてしまうんだよ。例の話のせいで……」
「ふーん、俺はちゅん君を見慣れてるから。それよりもなんで1人の騎手の恋愛くらいであれだけ浮き足立つ理由のほうが俺にはわからん……」
「お前の耐性チート級だな。そういや俺さっきトイレで匠さんにバッタリ出くわしたんだけど、あの人慌てて大トイレに駆け込んでその後笑い転げていたよ。きっとみんなの前で自分の醜態を見せたくなかったんだろうな」
「匠さんが……」
(マジかよ……。匠さん、騎手の顔的存在であるあなたまで堕落してしまったら競馬会は終わりですよ……)
松中から裏情報を聞いてしまった岡西は両手で頭を抱えて競馬会が地に落ちてしまう妄想を抱き始めた。岡西にとって武井匠は宿敵でもあり孤高の存在でもある。ふがいない理由で堕落してしまった騎手に勝っても完璧主義の岡西は決して納得はしない。今は武井匠が自分の力で立て直すことを信じることしか岡西にはできなかった。
「おっとそろそろ時間だ。んじゃ俺は6Rに行って来るよ」
そう言って岡西はジョッキールームを後にした。レースモードに入った岡西はさきほどの会話のことはすっかりリセットして気持ちを引き締めた。
午後のレース(6~12R)の岡西&ちゅんの結果
岡西 鈴木中
6R 1着 なし
7R なし 1着
8R 2着 1着
9R 1着 なし
10R 1着 なし
11R 2着 1着
12R 1着 なし
午前の部と合わせると岡西は9戦6勝2着3回、一方のちゅんは6戦5勝2着1回と勝ち鞍では岡西のほうが上回っているが直接対決のところではちゅんが勝ち越しているという。これは岡西が乗った馬がいずれも仕上がりが悪い人気薄馬だったことが原因。またこの結果からして小倉までちゅんの応援に駆けつけてきたトメさんがまたもや数百万単位で大勝ちしたことは言うまでもない。
「なんやなんや~、今日の小倉のレースはなんかグダグダやなぁ。ちょっと結果でも見てみるか~」
押切は小倉競馬場全体が見渡せる最上階の席で退屈そうにふんぞりかえって座っていた。押切はモニタールームで1~12Rの結果を見て唖然とした。
「な、なんやこれ? ちゅんが5勝6連対やて~? しかも3鞍は岡西君より先着しとるわ~。これモニター故障しとるんちゃうか? 岡西君が6勝9連対というのはわかるんやけど」
しばらく押切は開いた口がふさがらなかった。
「あっ、押切先生ここにいましたか」
「先生、僕今日5勝してそのうち3勝は岡西さんに先着しました~」
押切の元に岡西とちゅんがやってきた。
「おい、ちゅん。オマエ一生分稼いだんちゃうか?」
「イ、イヤ……そんな一生分だなんて……」
「オマエ、今日のレースで運使い果たして次の日は不慮の事故であの世にいくんちゃうか? あぁ?」
「そ、そんな……。あんまりですよ……」
ちゅんは押切の冷やかしにタジタジになる一方だった。
「ははは、押切先生。今日のちゅん君は頑張ってましたよ。悪質な客の野次にもめげずこれだけ結果を出したんですから」
「う~ん、岡西君がそう言うんやったら間違いないやろうなぁ。だがこのアホタレをあんま褒めすぎるとすぐ図に乗る奴やからなぁ」
「いえいえ、十分に褒められる結果ですよ。あっ、僕は今から小倉を出て新潟に向かいますのでそろそろ行かないと……。バレットを待たせてますので」
「ん? 岡西君、明日は新潟かいな?」
「ええ、関屋記念に乗りますので。それとちゅん君、今日は君に負け越してしまったけど次同じ競馬場で当たった時はこうはいかないぜ」
「あっ、はい。次も頑張りますのでよろしくお願いします」
「では押切先生、失礼します。次に会うのはユーロステイテッドの中間追い切りの時ですね」
「おうよ、気をつけて向かうんやでぇ」
岡西はちゅんにリベンジ宣告、そして押切に一礼してその場を後にしていった。その後、バレットの道明とともに公共機関を使って新潟に向かって行った。
──翌日──
《小倉競馬場》
昨日に続いて真夏の猛暑が続いていたが、ちゅんに対する客の注目度は勝ち鞍が出ているのと比例して注目度も増していった。しかもこの日の小倉は現在のちゅんに対抗できる岡西がいないためちゅんが出てくるレースは独壇場の雰囲気が出ていた。この日のちゅんの騎乗成績は5戦3勝2着1回3着1回だった。先着を許したのは武井匠と安城勝のベテラン。観客の野次に苦戦しながらもどうにかちゅんに先着した2人だったが、まだ本来の騎乗ができてない感じだった。
《新潟競馬場》
こちらは新潟市内にある新潟競馬場。この日のメインはG3重賞の関屋記念がおこなわれる。サマーシリーズの対象外レースではあるが今後の秋のG1戦線にも繋がるレースで、ここで勝って秋につなげたいと思う各陣営がしのぎを削り合う。馬柱表は以下の通り。
新潟11R 関屋記念 G3 芝1600M 良 15:45~発走
1枠 1番 サンダーマーテル 牡3 53 勝田 美・但馬
1枠 2番 アルマイヤエンゲツ 牡6 56 村井 美・木場
2枠 3番 ヘイザンヒコボシ 牡5 56 前藤 栗・野本
2枠 4番 グラリオリッター 牡5 56 柴畑善 美・小宮山
3枠 5番 アドニスリンゼイ 牡3 53 中竹 栗・河口
3枠 6番 シンダルサーペント セ7 57 北町 美・藤枝和
4枠 7番 ダイヤキュート 牝4 54 岡西 美・下原
4枠 8番 タイガベネット 牝5 54 大牧 栗・松本
5枠 9番 チェリーバーン 牡6 56 中田勝 美・小柴
5枠 10番 セイギノシルシ 牡5 56 吉井豊 美・古久保洋
6枠 11番 エアロファンネル 牡4 56 蛇奈 美・仁藤正
6枠 12番 ガロンプレシャス セ6 56 石田 美・国木田
7枠 13番 キルトロケーション 牡5 56 石垣修 美・尾方
7枠 14番 マイルガーランド 牡4 56 武者 美・光野
7枠 15番 マイルピッケル 牡7 56 小場田 美・稲田
8枠 16番 ソガノカーディナル 牡6 56 柴川 栗・松木博
8枠 17番 パフェデシャヴ 牡5 56 増岡 美・松川
8枠 18番 スクエアストーム 牡5 56 福沢 栗・池井朗
現在の1番人気は大外18番のスクエアストームで2.5倍と1頭抜けた人気になっている。ここ2戦強い勝ち方をしてるのと、この重賞レースに相性がいい福沢騎手が乗ってることも人気の要因であった。対する岡西が乗る7番ダイヤキュートは13.5倍の6番人気と伏兵サイド。最近『夏は牝馬』という格言が浸透してきているが、この重賞では牝馬にとってはかなり分が悪いレース。ここ10年間勝ち鞍はおろか3着以内にも来ていないという。このレースで岡西が下原調教師か授かった作戦は「道中は中団よりやや後方で脚をためて最後の直線勝負で他馬と併走する」というもの。事前に作戦を頭の中にインプットしていた岡西はスタート地点で輪乗りをしながらスタートの時を待っていた。そして新潟・福島で使用される重賞ファンファーレが鳴って各馬がゲートの中に次々と誘導される。
《実況アナ》
お待たせしました。本日のメインレース、G3重賞関屋記念芝1600M良馬場にて18頭フルゲートにて行われます。次々と係員に誘導されて各馬ゲート入り。最後に18番のスクエアストームが入りまして体勢完了……。スタートしました! まずまず揃ったスタート、1番人気のスクエアストームは後方からの競馬になります。まずハナを切ったのは最内1番のサンダーマーテル、半馬身離れまして染め分け帽子15番マイルピッケル、間を挟んで同じ勝負服14番マイルガーランド、その後ろに3番ヘイザンヒコボシ、その外に8番タイガベネット、さらにその外に10番セイギノシルシ、その後ろに内から2番アルマイヤエンゲツ、6番シンダルサーペント、16番ソガノカーディナルが並んで追走。その後ろに7番ダイヤキュート、その外に17番パフェデシャヴ、さらにその後ろに12番ガロンプレシャス、その内に5番アドニスリンゼイ、半馬身後ろに9番チェリーバーン、その外に13番キルトロケーション、お終いから3番目に11番エアロファンネル、その内に4番グラリオリッター、そして最後方大外に18番のスクエアストームという展開…。外回りの3コーナーを回って行きます。先頭は以前1番のサンダーマーテル、1馬身のリード、残り600の標識を通過、後続馬も徐々に前に進出。さあ直線を向いて1番のサンダーマーテルが1馬身のリード! 2番手に3番ヘイザンヒコボシ、ソガノカーディナル、シンダルサーペントも並んであがってきた! さあ横一線の叩き合い! 内からアルマイヤエンゲツ、中のほうからダイヤキュートも迫ってきた! 残り400を通過! 大外からスクエアストームやってきた! 連れて11番のエアロファンネルもやってきた! 先頭はダイヤキュートとアルマイヤエンゲツの争い! 残り200を通過! ここで先頭が替わる勢い! スクエアストーム前に出た! アルマイヤエンゲツ、ダイヤキュート粘ってるが! 先頭はスクエアストーム完全に差しきってゴールイン! 2着争いは微妙です! 勝ち時計1分31秒8、高速時計での決着となりました! 2着争いと4着争いは写真判定、レース確定までしばらくお待ちください…。
(クッ、福沢先輩の馬にやられたか……。残りの200Mで差し切られた……)
岡西は険しい表情で検量室前へとダイヤキュートを誘導させた。その後、下村調教師とレース内容をモニターで確認したところ騎乗自体は間違っていなくて、なおかつ勝った馬の末脚が他の馬より飛びぬけていたこともわかり陣営は納得の完敗を素直に受け止めた。ちなみに写真判定の結果、2着にダイヤキュート、ハナ差の3着にアルマイヤエンゲツ、クビ差の4着に11番エアロファンネル、クビ差5着に12番ガロンプレシャスが入りレースは確定した。
「まなさん、惜しかったですね……」
「ミッチ、これが競馬なんだよ。どんなにベストを尽くした騎乗をしても勝てない時は勝てない。勝てなかった悔しさを次週以降に繋げる。騎手という職業は毎週こんなもんだ」
「な、なるほど……」
「これ今使ったダイヤの勝負服。今日使用した勝負服はみんな洗ったか?」
「は、はい。あとはその勝負服だけです」
「わかった、んじゃ洗濯済んだら帰るぞ。今日の給料は電車内で渡すので……」
「は、はい。わかりました」
岡西はさきほどの関屋記念で使用したダイヤの勝負服を道明にわたしてロッカールームに帰り支度をするため向かって行った。
《モデル騎手紹介》
松中大助→松田大作(騎手)