ちゅんの秘密(追跡編)
時は2005年シーズンの7月4週、栗東市内にて1台の大型バイクが1台の車を追跡している。真夏が本格化した炎天下の運転はバイクを運転するライダーの体力を容赦なく消耗していく。気候に加えて趣味の悪いヘルメットを装着した同乗者、しかも1人しか乗れないタイプの大型バイクに深緑色の唐草模様の子座布団を敷かれて2人乗りに見せかけるという交通違反まで課せられている。通常ではありえないくらい精神的負担を背負ってるライダーにとって追跡してるターゲットのことはどうでもよかった。警察に見つからずに無事に家に帰ることだけをひたすら祈っていた。しかし、ライダーの祈りとは裏腹にターゲットの車は無情にも栗東ICへと入っていった。
『ちゅん君の車、インターに入りましたね』
『せやな、ここからやと神戸方面に向かうか名古屋方面に向かうかのどっちかやが、あのアホタレがどっちに行くか……』
ヘルメットのマイクを使って雑談するライダーの岡西と同乗者の押切。岡西はちゅんの車を追い抜かないように車の列に並んだ。そしてちゅんの車が高速道路の券を手に取るタイミングで岡西は後ろの車に順番を譲ってETC専用の入り口に向かって行った。
『おっ、岡西君ETC取り入れてたんかいな』
『ええ、これがあれば待たずにすみますので』
『かぁ~、さすが岡西君や~。持ってるものが違うなぁ。ん? ちゅんの車は神戸方面のほうに入っていきおったかぁ。アイツのことやからベタなデートコースで神戸市内に行くやろな。岡西君、よろしゅう頼むで~』
『あっ、はい……』
(ったく人の気も知らずに……)
岡西は気が乗らないオーラを押し殺してETCを通過して神戸方面へとバイクを向かわせて、名神高速道路に入った後、ちゅんの車から斜め横30メートル後ろを追走していった。ちゅんの車は2斜線目を走っていたが前の車を次々と追い抜いていた。
『ちゅん君ずいぶん飛ばしますね……。うわ、バイクの速度が140キロまで達してますけど……』
『あのアホタレは彼女が助手席乗ってるさかい、舞い上がっとるに違いあれへん。ホンマにわかりやすいやっちゃわぁ』
押切はそう言って岡西のバイクの速度メーターの写真を1枚撮った。
『押切先生、僕のバイクのメーターを撮影しても……』
『ワハハハハ、証拠写真兼カメラテストって意味や! おっ、きれいに撮れとるわぁ。このカメラやっぱええわぁ~。おっと、ちゅんの車から離れ始めたでぇ~。もうちょいスピード上げな置いてかれるでぇ』
『これ以上スピード上げるとかなり危険なんですけど……』
『大丈夫や大丈夫! ワシは200くらい平気で飛ばすでぇ』
『車とオートバイでは感覚全然違うんですけど……』
『な~に、ワシと岡西君が組めば怖いものナシやぁ。ワシらに不可能の文字はあれへん! 人間やればできるんやでぇ~、ワハハハハ!』
『はぁ……』
(ったくこの先生はマジで言ってんのかよ……。引き上げることもできん以上覚悟を決めないとダメなのか……)
スピード違反をはじめ複数のリスクを背負わされ、今までの人生でこれ以上ない崖っぷちの極限の精神状態に追い込まれた岡西は半分ヤケクソでスピードを上げてちゅんの車を必死で追走した。
──AM10:30頃──
栗東の若駒寮を出て約1時間が経過、ちゅんの車は吹田SAで休憩を取り始めた。岡西はハヤブサの残りガソリンを確認したところEMPTYまで1メモリという状態だった。
「押切先生、バイクのガソリンが残り少ないのでGSに行きたいんですけど」
「よっしゃ、わかったわ! ほなワシはアイツらの撮影に集中するさかい後で落ち合うか。このヘルメットにつけてるマイクは離れてても通話できるん?」
「残念ながら10メートル以上離れると話せなくなります」
「あ~、ホンマかいな~。ほなこの双眼鏡を岡西君に一旦貸しとくわ。ワシらが同じ場所に2人固まってても怪しまれるからなぁ。ほな、行って来るわ!」
押切は双眼鏡を岡西に渡した後、子座布団を背中に装備、なおかつヘルメットをかぶったままちゅんが休憩してるところまで走り去っていった。
(うわぁ、その格好で行くんかよ! まてよ、これでいいのかも。双眼鏡を借りたことだしこれを使ってGSの位置から様子を見よう。今の格好の押切先生に同行すると俺まで変人扱いされるから……)
岡西は押切を呼び止めようとしたが、自分が巻き込まれることを懸念して押切がある程度離れたのを見計らってGSへとバイクを走らせた。この時、1人で乗ってるときの気楽さをいつも以上に岡西は実感していた。
──ガソリンスタンドにて──
「いらっしゃいませ」
「ハイオク満タンでお願いします」
「お支払いはどのように致しますか?」
「カード一括でお願いします」
「はい、かしこまりました。ではカードをお預かりします」
岡西は店員に自分のクレジットカードを渡し、自分の愛車のガソリン補給やマシンの乾拭きなどを任せて一息入れるためトイレへと向かって行った。
「よし、ここのGSでガソリン補給するぜ。目的地はまだ先だからなあ」
「あいよ~」
ちょうど岡西がトイレに行って間もなく大学のサークルらしき男女15人くらいのツーリング団体がGSへと入ってきた。それぞれのマシンは学生らしくみんなオーソドックスなタイプのバイクばかりであった。リーダー格の男の呼びかけでメンバーはその場でそれぞれ思い思いに一息入れ始めた。
「お、おい。あのバイク見てみろよ! あれ限定モデルのハヤブサじゃね?」
「マ、マジかよ! すげぇなぁ!」
「俺、懸賞のカタログでしか見たことなかったからなぁ。うわ、本物だ! やべぇ!」
数人の男達が岡西のハヤブサをマジマジと物珍しく間近で見ていた。
「おい、お前ら。勝手に人のに乗ったりするんじゃねーぞ!」
リーダー格の男はハヤブサを物欲しそうに鑑賞してる3人に注意を呼びかけた。その時、ちょうど岡西が戻ってきた。
「ん? 俺のバイクに何か?」
「あっ、持ち主の方ですか? 限定モデルのハヤブサに見入ってしまいまして……」
「懸賞で当てたんですか?」
「う~ん、これは知り合いの厩務員さんが当てて、その人は大型のバイクの免許持ってなくて俺が譲ってもらったものなんだ。その厩務員さん(本岡厩舎の菅野厩務員)やたらクジ運強いんだよねえ」
岡西は嫌な顔1つせずに興味津々の人達に自分自身に関する世間話を気さくに語っていた。
「ああ、あの人は! すいません、ひょっとしてJRAの岡西摩那舞騎手ですか?」
ツーリング団体の中の競馬好きの別の男が岡西に気づいた。
「あらら、ここにも競馬ファンがいたとは。やっぱりわかってしまいました?」
「うわ、すげ~! 本物だ~! 俺、今年のG1のうちフェブラリーSとNHKマイルCで岡西騎手の馬を軸にして大変お世話になったんですよ!」
競馬好きの男は岡西の手を間髪いれずに両手でガッチリ掴んで握手しはじめた。
「ははは、それはどうも……」
岡西は苦笑いしながら答えた。
「ったくお前もかよ……。岡西さん、スイマセン。ツレ共がいろいろとお騒がせしまして…」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
平謝りするリーダー格の男に岡西は笑顔で答える。アスリートによっては一般の人にプライベートの場で話しかけるのを嫌がる人もいるが、岡西は嫌がる素振りは微塵も見せない。その後、岡西はこのツーリング団体と一緒に記念写真に写り、その写真は大事に飾られたという。
──同時刻、食堂にて──
「あのアホタレはま~たスイーツ頼んでくっとるわぁ。彼女の前でホンマに浮かれとるやっちゃなぁ」
押切はブツブツ言いながらも遠くの位置からちゅん達を激写しまくっていた。ライダースーツは普通なのだが、キラキラのヘルメットをかぶったままで背中に唐草の子座布団を背負ってる姿を奇怪な目で見て通り過ぎる通行人。通行人の中にはこっそり携帯やデジカメなどで押切の写真を面白がってもの珍しそうに撮る人もいた。その写真はいずれ「バカ画像」に投稿されることになる。人の目も気にせず撮影に没頭している押切にはそれらのことは知る由もなかった。
「あ~、ちゅんの姿は写しやすいんやけど彼女のほうが後ろ向きがほとんどやから撮りにくいわぁ。ちょっと撮影ポイント替えるかぁ」
そう言って押切はちゅんと彼女が同時に横から見えるポイントへと走っていった。
「ねえ、ちゅん君。さっきから私達、誰かに付け狙われてるような感じがするんだけど……」
「え? そうかなぁ? 僕は騎手としてはまだまだ駆け出しなので、週刊誌のカメラマンが僕らを狙うなんてありえないよ。実績のない僕なんかでは記事にならないし……」
彼女は女の勘で薄々感づいていたが、ちゅんは何も気にせず好物のスイーツをほおばっていた。
「ちょっと食べ過ぎじゃない? 今週もレースあるのにそんなに食べて大丈夫なの?」
「アハハ、大丈夫だよ。僕がお世話になってる先輩騎手に課せられたトレーニングこなすのにものすごく体力消耗するから、今のうちに食べておかないと体持たないんだ」
「その先輩って合コンの時に武井さんが言っていた岡西さんのこと?」
「うん、そうだよ。あの人はすごいよ。毎年リーディング争いの常連だし、ダービーも勝ってるし。僕は少しでもあの人から騎乗技術を盗もうと思ってるんだけどこれが難しいんだよね……」
「ふ~ん、じゃあ乗りかえようかな」
「えっ、そそそ、そんなぁ~。岡西さんが相手では僕とてもかなわないし、それにいきなり言われても岡西さんが迷惑すると思うし……」
「フフ、冗談よ。それくらいわかってるわよ。ちゅん君ってわかりやすいしおもしろいね」
「も~、驚かさないでほしいよ~」
彼女の突発的な言葉に顔色を変えながらあたふたするちゅん。この時点でちゅんは尻にひかれるタイプという運命は確定していた。
「そろそろ出発しない?」
「う、うん。そうだね」
そう言って2人はレジに向かって行った。
「まったくちゅんのアホタレは遠くの位置でも顔色がカメレオンみたいに変色してるのが丸わかりやなぁ。おっとアイツら動き出した! 岡西君はGSでのんびりしてるやろな。ちょっと合図送るか!」
押切はキリのいいところでカメラを止めてポケットから赤と白の旗を取り出した。ちゅん達が店を出て車に向かいはじめたタイミングで岡西がいるGSに向けて押切は手旗信号をやりはじめた。ちなみに押切自身手旗信号の使い方は全く知らない。
場所は変わってこちらは岡西が休憩してるGS。岡西はツーリング団体が去っていってからものんびりとペットボトルの烏龍茶を飲んでいた。
(押切先生の位置丸わかりだよ。こんなに晴れてて例のヘルメットはイヤでも無駄に光ってるし……。ん? なんか押切先生がやり始めた)
岡西は押切から借りた双眼鏡でその様子を見てみた。するとあたふたと紅白の旗を振っている押切が見えた。
(て、手旗信号? 俺は解読できんぞ……。うわぁ、通りかかりの人はみんな変人の目で見てるよ。左方向にちゅん君達が歩いているということはSAを出発するということだな。たぶんあの先生はちゅん君達が動いたということを俺に知らせてるつもりなんだろうな。ものすごく行きたくねぇ)
岡西は再び卒倒しそうになったが、ちゅん達を見失うと状況がもっと面倒なことになるのでぐっと気持ちを引き締めてハヤブサを押切のところに向かわせた。そして、ちゅんの車がSAの出口に向かい始めたのと同時に押切を後ろに乗せて一気に加速し始めた。
『岡西君、ナイスタイミングやったでぇ! 紅白の旗を振って状況を察知するとはまるで某ロボットアニメのニュータイプのパイロットやなぁ! 双眼鏡貸しておいて正解やったわぁ! ワハハハハ!』
『あの~、わざわざ旗振らなくても携帯で僕に知らせたほうが早い思いますけど……』
『せやった、尾行に熱入れすぎて忘れとったわぁ! ワハハハハ! ガソリンはバッチシかいな?』
『ええ、満タン入れてきましたから。そっちはどうでした?』
『ワハハハハ! けっこうええ写真撮れたでぇ! 現像が楽しみやわぁ! ほな、再び頼むでぇ~!』
『は、はい……』
(押切先生の声デカ過ぎるよ……。これだけ音量下げてもまだガンガン聞こえてくるし……)
岡西は感情を押し殺してマイクの音量をかなり最小にしてちゅんの車を追走し始めた。ちゅんの車は名神高速道路に入って時速140キロペースで豊中・尼崎と通過、そして西宮に差し掛かかり阪神高速3号神戸線へと進んでいった。
『やっぱアイツら神戸いくでぇ。神戸のデートコース言うたら中華街とか神戸タワー、あとはモザイクあたりやな』
『モザイクとは? 僕はこのへんの土地勘がないもので……』
『正確な名前は神戸モザイクって言うんやけど、まあ簡単に言うと海と運河に面したレジャーランドという感じや。いろんな施設あるからおもろいでぇ。追跡がてらにワシらも楽しむのもありやで!』
『なるほど……』
(新しいレジャーの場所を知ったのはいいが、このリスクだらけの依頼の報酬代わりがこれだけでは割りに合わん……)
岡西は不満を押し殺してハヤブサを進めた。押切の予想通りちゅんの車は神戸モザイクがある京橋出入口ICで高速を降りて神戸市内の国道へと入っていった。この時時計は12:10分を差していた。そこから神戸市内の某所でちゅんは車を止めて押切と岡西も近くの駐車場に止めて、ヘルメットとライダースーツを脱いでちゅん達を徒歩で追跡し始めた。
「せや、念のためグラサンは伊達メガネに替えとくか」
そう言って押切は歩きながらいつものガラの悪いサングラスから誰でもかけてるようなメガネをかけた。
(なに、押切先生がサングラスを外した! ん? 目つきは案外やさしそう……。お、おい! ちょっと待てい! なんかものすごいのが出たぞ!)
はじめてみた押切の瞳に違う意味でのを感じた。目つきの悪い顔が来ると思いきや小動物系のつぶらな瞳だったという。
「ん? 岡西君、どないしたん? ワシの顔になんかついとるかいな?」
「いや、押切先生がサングラス外したの初めてみたもので……」
「確かに日頃あんまはずさへんからなぁ。超級のレアイベントやでぇ。レアなことに出くわしたさかい、岡西君にはこれからぎょうさんええことあるでぇ! ワハハハハ!」
「は、はぁ……」
(マズい……。正月の時に子供が遊ぶ『福笑い』より数百倍凶悪だ……)
めったに見せない素顔を岡西の前で見せて高笑いする押切。岡西は自分の妄想で作り上げた石化説を否定されても、なにか見てはいけないものを見てしまったような感覚を感じた。全体像の見かけとのギャップが激しい目つきに、岡西は目をそらさずにはいられなかった。岡西は別の意味で中毒を起こしそうな予感を感じていた。その後、押切と岡西はちゅん達を尾行するのに神戸タワーや中華街、神戸モザイクと合計5時間ほど費やした。
──PM17:00、クルージング内にて──
夕刻になり日差しも日中に比べて涼しくなった。押切と岡西はちゅん達を追ってモザイクから出港しているクルージングに乗り込んだ。神戸市内に着いてその後5時間も歩きつづけていたため岡西はさすがに疲れが出ていたので、窓際に座って神戸の夕暮れの風景をのんびり楽しんで疲れを忘れようとしていた。そして気に入った瞬間の風景をひそかに自分のデジカメにおさめていた。
「ま~たあのアホタレはバイキングでスイーツばっか食っとるわぁ。追い切り終わったらサウナ風呂に放り込んでやるかぁ。おっと絶好のショットやぁ!」
一方の押切は全くの疲れ知らずで、岡西がいる反対サイドでちゅん達の撮影に没頭していた。他の客は押切の一連の行動を不審な目で見ていたが、ただならぬ押切のオーラに危険を感じたためなのか、不思議なことに通報はされなかったという。相変わらず悪運だけは強い押切であった。
約3時間後、船でのクルージングが終わりそれぞれの客は家路に就き始めた。しかし押切と岡西の尾行はまだまだ続く。ネオンでにぎわう繁華街をちゅん達は歩いていた。船を出て約2時間後のPM22:00頃、2人はラブホテル街を歩いていた。そして手頃なホテルへとちゅん達は入っていった。押切は入っていく瞬間も逃さずバッチリ撮影して、バイクを止めてる駐車場方面へと引き返し始めた。
「よっしゃ! これで完了やぁ! エエ写真が撮れたでぇ! 岡西君、朝から付き合わせてもらってホンマに助かったわ! アイツの謎もわかったしこれでワシのつっかえてたのも取れたわ! ホンマにありがとな!」
「いえいえ、それで撮影した写真はどうするんですか?」
「もちろん証拠写真やぁ。ワシに報告もせずに異性と付き合うというのは許せへんので」
「なるほど、押切先生はちゅん君の交際には反対なのですか?」
「いやいや、これはこれでオモロイとワシは思うで。あのアホタレをからかうバリエーションが増えるさかい! ワハハハハ!」
尾行をを終わらせた2人はバイクに乗った後、来た道を使って栗東市内に向かって走り出した。途中京都市内に寄って食事をしたが、食事代は押切が出してくれたという。
──AM0:30分頃、栗東市内、押切宅前──
「いやぁ、家まで送ってもらってホンマにありがとな!」
「いえいえ、無事に帰れてよかったと思ってますので」
「せや、このヘルメットなんやけど……」
「ああ、その着ているライダースーツも僕の体には合わないのでセットで差し上げますよ」
「ほ、ホンマかいな! これはおおきに! 家宝にして大事にするさかい!」
「え、ええ、喜んでもらえれば……。それとこのことは僕らだけの秘密ですからね」
(大事にするのはいいけどトレセンに行くのにかぶったりするのだけは勘弁してくれよ……)
岡西は不安を抱きながらも必死で平常心を保っていた。岡西の疲労は限界をとうの昔に超えていて今でも倒れそうだった。
「もちろんやぁ! 秘密は絶対守るさかい! ホンマに今日はありがとな! 家に着いたらゆっくり休んで~な!」
「あ、はい。ではおやすみなさい」
岡西は押切に一礼して京都府内の別荘に向けてバイクを走らせた。
《押切宅にて》
「ワハハハハ、どんどん写真が仕上がってるでぇ。カメラの性能がよかったさかいブレとかが全くあれへん。この写真をあのアホタレに見せたときの反応が楽しみやわぁ」
岡西が帰った後、不敵な笑みで1人自室のPCを使って撮影した写真を次々とカラーコピーで印刷していく押切。朝からぶっ続けで活動していたにも関わらずいまだに元気だった。
《岡西別荘宅にて》
時刻はAM1:00を過ぎた頃に岡西はようやく自分の家に着いた。岡西は部屋に入ると無意識に着ていたライダースーツを脱ぎ捨ててベッドにうつぶせになってそのままダウンした。あれだけのリスクを背負わされて警察に捕まらなかったという悪運にも恵まれたが、押切に関わってしまった代償は計り知れないものだった。
「な、なんで……俺があんなリアルな無理ゲーをしないといけないんだ……。なんで、俺が栗東と神戸の往復で240キロも走らないといけなかったのか……」
岡西の体は完全に疲れきっていたが寝つけられないでいた。頭の中がいまだに名神高速道路を猛スピードで走ってる残像が頭から離れなかったからである。その後、岡西はうなされてほとんど熟睡できなかったという。しかし、この今日1日の出来事はのちに岡西の本業における精神力を格段に強くすることに繋がることになる。