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ダートキングの登竜門

 時は2005年シーズンの7月1週。栗東トレセン内も夏の日差しが本格化し始めて、まるで夏競馬の到来を告げてるようにも思えた。押切厩舎の数頭の競走馬は来週の福島のレースのため既に移動していた。残った競走馬の中でユーロステイテッドが次走に向けて調整をしていた。しかし肝心の気性難による折り合いの課題は未だに完全に克服したわけではなかった。


「アカンわぁ、馬込みに入るとすぐムキになるところはどうにかなれへんものかなぁ?」

「そうですね、本番も刻一刻と近づいてきてますからねぇ」


押切と岡西は厩舎の事務所内でユーロステイテッドの折り合い難に頭を抱えて悩んでいた。重賞初制覇をしたとはいえこの先は負けられない戦いが待っている。いくら次走がベスト距離の2000Mとはいえ慣れない地方に輸送、ましてや競走馬が普段寝ている夜のレースのため陣営は課題を1つ1つ乗り越えないとこの先は厳しいと思っている。特に押切のほうはユーロステイテッドの折り合い改善の対策の試行錯誤をしていたためここ数日間寝不足であった。


「去勢はしたくあれへんのやけどこれしかあれへんのやろうか?」

「いや、去勢はマズいです。これだけの能力の馬の生殖機能を取り去るなんて後々に大損失を被ります……。僕的にはなにか馬具で対策を練るほうが賢明かと……」

「馬具かぁ……。せやったらメンコとかブリンカーあたりやなぁ」

「装着して一本通してみます?」

「せやな、とりあえずやってみるか! ほな2頭の併せ馬用意するさかい、岡西君はユーロを馬群の中で走らせて~な」

「わかりました。では準備に取りかかります」

「ほな、頼むで」


岡西はムチを持ってユーロステイテッドの場所へと向かって行った。押切は電話で小倉橋にブリンカー着用を指示、調教助手の亀島と小橋に併せ馬のアスカコーネルとアスカルーブルの準備を命じた。



──追い切り中──


(くっ、ダメだ……。ブリンカーの効果は装着してないときよりもあるとはいえ、これでも抑えてくれないとは……)


トラックコースCにてアスカ2頭の間にユーロステイテッドが入って併走させていたが、いきたがるところはあまり改善されていない。岡西は手綱でユーロを抑えるのに手一杯だった。


(テツ、亀嶋君、それぞれの馬のペースを少し上げてくれ……)


岡西はアイコンタクトで小橋と亀嶋にペースアップを伝えた。無理に抑えすぎてユーロステイテッドの機嫌を損ねるのを懸念していたからである。それでも時計自体は一般の条件馬よりもはるかにいいタイムだった。そのためトラックマンによって調教評価はまちまちだった。タイムで調教Aを評価する人が多数だが、目利きのベテラントラックマンの中には岡西の乗りにくそうな追い切りを見て調教Cというふうに評価する人もいたという。


「う~ん、アカンなぁ。岡西君をしてもあの走りとは……」


調教ルーム内で双眼鏡でユーロステイテッドの走りを折り合い難の走りに納得いかない表情の押切だった。走り終わったのを確認した後、押切はブツブツ考え事をしながら自厩舎に戻っていった。


 場所は再び押切厩舎の事務所内。押切と岡西はさきほどの調教を踏まえて再び対策を練り始めた。


「岡西君、さっきの走りでどない思った?」

「う~ん、僕が乗ってる感じつけてないときよりもつけていたほうが効果はありました。しかしそれでも10%……大目に見て20%くらいしか折り合いは改善されていません……」

「う~ん、もう1つなんか足りないと言ったところやなぁ」

「そうですね……」


押切と岡西は再び頭を抱えて考え始めた。数時間後には大井競馬場に向けてユーロステイテッドを馬運者で輸送しなければならない。不安だけがつきまとう一方だった。そんな重苦しい空気の中に小倉橋が入ってきた。


「あの~、先生。ユーロステイテッドの折り合い難対策でわたしに1つ提案が思いついたのですけど」

「お~、小倉橋さん。それでどんな内容でっしゃろか?」

「ええ、ブリンカーの改良版でパシファイアーというのがあります。それを使ってみてはいかがでしょうか?」

「パシファイアーって言ったら網目状のブリンカーですよね?」

「そうです、気性難改善にもってこいの馬具です。あれを装着してレースに出すのです」

「しかし本来パシファイアーはパドックで落ち着かない馬に使うもので、発走直前に外すものですが……」

「常識の逆を突くのも作戦の1つです。時間もありませんしここは一か八か勝負に出ましょう」

「う~ん、せやなぁ。ウダウダ考えててもアカン。ほな、レース当日は小倉橋さんの案で行きましょう」

「そうですね、僕も小倉橋さんの案に乗ります」


こうして地方G1初制覇に向けてのプランは決まった。この後、小倉橋とユーロステイテッドは馬運車に乗ってジャパンダートダービーが行われる大井競馬場に向かった。残った押切と岡西はホッと一息事務所内でのんびりしはじめた。


「いや~、やっぱ小倉橋さんは頼りになるわぁ。あの人は神やわぁ」

「そうですね、まさかあんまり使われないパシファイアーを提案してくるとは僕も思ってませんでした。あっ、押切先生。ブリンカー使用の申請してきました?」

「おうよ、小倉橋さんが予め申請してくれてたのでそこは問題ない」

「さすが小倉橋さん……。用意がいいですね。そうだ、あのオーナーにもいちおうブリンカー使うことを報告してたほうがよろしいのではないでしょうか?」

「う~わ、村山さんかいな……。あのオーナーはワシも苦手やからなぁ」


押切は困惑した表情で電話をかけるのをためらっていた。


「お気持ちはわかりますがレース発走前くらいにいろいろとイチャモンつけられることも有り得ますので、念は押しておいたほうが言いかと……」

「せ、せやな……。ほんなら村山さんに電話かけてみるか……」


そう言って押切は村山の事務所に恐る恐る電話をかけた。


『うむ、余が村山だ』

「あっ、押切です。いつも大変お世話になってます」

『ふむ、押切殿か』

「お忙しいところスイマセン。実はユーロステイテッドの次走についてのことなんですが、レースでパシファイアーというブリンカーを着用して走らせようと思ってるのですが……」

『ふむ、気性難改善のための馬具のことだな』

「さようでございます」

『どのようなものを使用するか余のPCにその馬具の写真を送ってもらえるかな?』

「あっ、はい。少々お待ちください!」


押切はそそくさと村山のPCに添付ファイル付のパシファイアーのブリンカーの写真を送った。そのパシファイアーの色は無地の白であった。


「あっ、もしもし。今送りました」

『ふむ、では見てみるか……。ん?』

「どないしました?」

『これはならぬ!』

「え、え~~~!」

『押切殿、わからぬのか? 無地の白は戦場では降参を意味する! 戦わずして降参という雰囲気を持つブリンカーを着けてのレースは余にはできぬ!』

「そ、そんなぁ。ブリンカー着用の申請してしまったんですけど……」

『なぜ勝負服と同じガラを使わぬのか?』

「え? ガラですか? あの~、迷彩のブリンカーがなかったもので……」

『さようか、ならば大至急余が部下に命じて作らせる。届け先は大井競馬場でいいかな?』

「は、はい、そうです」

『承知した。では、健闘を祈る! グッドラック!』


そう言って押切は村山との通話を終わらせた。その後、押切はソファにドッと倒れた。


「アカンわぁ。ホンマあのオーナーは疲れるわ~」

「どんなこと言われたんですか?」

「使用するパシファイアーの色で逆キレされても~たわ。オリジナルの迷彩パシファイアーを大至急作らせるとか言ってたし~。あのオーナーはホンマわかれへんわぁ」

「村山さんは相変わらずキレるポイントがズレてますね。ある意味事前に話していてよかったのではないでしょうか? まあ準備も整いましたしあとはレースを待つのみですね」

「せ、せやな……」


試行錯誤の末、考えがまとまった陣営は数日後の地方重賞レースに挑むことになる…。



──レース当日──


 ここは東京都品川区勝島二丁目にある大井競馬場。通称は「東京シティ競馬」。1950年に八王子競馬場の代替として開場され、同年5月12日に初開催されたのが始まりで、1986年に全公営競技を通じて日本で初めてナイター競走が開催された競馬場でもある。この日は統一G1のジャパンダートダービーが行われるため大井競馬場のパドックやスタンドにはたくさんのお客が詰め掛けていた。出走できる競走馬の枠としてJRA所属が5頭、南関東所属が6頭、それ以外の地方の馬は5頭というふうに定められている。そのうちの11頭は各地区のトライアルを勝ち抜いてきて残りの5頭はJRAと南関東の補欠馬で補われて16頭フルゲートで争われる。枠順は以下の通り。


大井9R ジャパンダートダービー ダート2000M 良 20:15~発走


1枠 1番 カラークリムゾン  牡3 56 雨島  佐賀

1枠 2番 ネオワイバーン   牡3 56 柴畑善 JRA

2枠 3番 アステロイド    牡3 56 三橋  浦和

2枠 4番 アトミックブレード 牡3 56 堺   船橋

3枠 5番 ユーロステイテッド 牡3 56 岡西  JRA

3枠 6番 テオドラ      牝3 54 里崎  大井

4枠 7番 シャトルベース   牡3 56 木枯  北海道

4枠 8番 トルネードラグーン 牡3 56 内川博 大井

5枠 9番 カンフーアキレス  牡3 56 大牧  JRA

5枠 10番 ライフセイバー   牡3 56 吉野実 名古屋

6枠 11番 ポルカポルカ    牝3 54 武井匠 JRA

6枠 12番 スカイハイ     牡3 56 御厨  大井

7枠 13番 アラビアンナイト  牡3 56 田井中 園田

7枠 14番 バイオレットパサー 牡3 56 石垣隆 船橋

8枠 15番 イスラス      牡3 56 石田  JRA

8枠 16番 ダイダロス     牡3 56 菅田勲 盛岡


 この統一G1レースの歴史は1999年から始まり、それほど長くはないが、8割は中央で2割が南関東の馬が勝鞍を挙げている。岡西が乗るユーロステイテッドは3.0倍の1番人気、小倉橋の提案でパシファイアーを装着して悠々と強い踏み込み足でパドックを周回している。


(元々パドックではうるさいところは見せないが、道中で効果が出るかどうかだな。気になるのは石田さんの馬だな。おそらく3番と15番がハナを切るのでその2頭を追いかける形になるな)


岡西は控え室でユーロステイテッドの様子を見ながらライバル馬の動向を見てレースプランを頭の中で組み立てていた。しばらくして騎乗指示の合図がかかり、それぞれの競走馬に乗り始めた。岡西も小倉橋に支えられてユーロステイテッドに騎乗した時、いつもより大人しいことに気づいた。


「小倉橋さん、今日のコイツ大人しいですね。ブリンカーの効果出てるのわかりますよ」

「うんうん、今日は岡西君も折り合いつけやすいと思うよ」


岡西と小倉橋はリラックスした表情でユーロステイテッドを進めていた。そして本馬場入場が近づいていた。5番目に入場したユーロステイテッドはティンクルレースの照明を浴びながら悠々と力強く駆け抜けていった。


 その頃、大井競馬場の関係者席には押切と村山がいた。村山は相変わらずの武装モードでどっしりと腕を組んでレースが始まるのを待っていた。


「うむ、押切殿。余の馬はブリンカーを装着してから大人しくなったように思える。内なる闘志を隠してるようにも思えるがいいレースできればいいんだがなぁ」

「そうですね。人馬共に万全ですのでいいレース期待できると思いますよ」

「ちなみに今日は余のサバイバル仲間をゲストとして待機させているので表彰式の演出は任せておいてくれ」

「ま、まさか府中のときのように軍用ヘリでやってくるとかではないでしょうか?」

「それでもよかったんだがここは羽田から近いので旅客機との衝突の危険性があるので今回それは避けることにした」

「こ、今回だけって……。それにしてもユニコーンSの時はよくあれで捕まりませんでしたね? うちの厩務員が調べたところによると軍用ヘリでやってくるの法律にひっかかるみたいなんですけど……」

「知っておる。その点は防衛長官の知人に話は通しておいたので問題はない」

「そ、そうでしたか……。アハハハ……」

(アカンわ……。国の要人抱き込む力持ってるとは……。このオーナー今回なにやらかすんやら……)


押切は村山の恐ろしさをいつも以上に体感していた。時刻は20時を過ぎてレース発走の時刻が刻一刻と迫ってくる。そして20時15分、地方競馬のG1ファンファーレが鳴って各馬ゲートに入り始めた。


《実況アナ》


 大歓声が夜空に響いています。南関東クラシック最終関門の統一グレード、今年は16頭のフルゲート。各地区の強豪馬が集いました。2005年シーズン・ジャパンダートダービー、2000メートルの競走で行われます。各馬ゲート入りは順調。1番人気の中央のユーロステイテッドもすんなり収まりました。続いて偶数番の馬のゲート入り……。最後に16番の盛岡から参戦のダイダロスが入りまして体制完了……。さあ! ゲートが開いた! まずは最初の先行争い。好スタートを見せた3番浦和のアステロイドと15番中央のイスラスのハナの奪い合い。1番人気ユーロステイテッドは3番手で競馬、各馬コーナーを回って向こう正面へと進んでいきます。先手を取ったのはアステロイド、そのすぐ横にイスラス、4馬身ほど離れましてユーロステイテッド、半馬身後ろ内に佐賀から参戦のカラークリムゾン、外にダイダロス、その後ろにピッタリとついているのが2番中央のネオワイバーン、その外にじっくりと構えているのが羽田盃の勝ち馬14番船橋のバイオレットパサー、1馬身ほど離れまして内から4番アトミックブレード、東京ダービーの勝ち馬8番のトルネードラグーン、13番兵庫のアラビアンナイトが並んで追走。その後ろ内から牝馬の1角の6番テオドラ、その外に名古屋から参戦の10番ライフセイバー、半馬身後ろにスカイハイが続いています。お終いから2.3番手に9番カンフーアキレスとその外11番ポルカポルカいずれも中央。最後方に7番北海道から参戦のシャトルベースという体制。先頭は早くも残り800メートルを通過……。


(今までなら先頭を走る馬を見てムキになって追いかけていたが今日はやけに大人しい。パシファイアーは思ったよりも効果があるな。むしろもう少し気合乗りしてくれたほうがいいくらいだ。よし、残り800を切ったぞ。さあ前の2頭を抜き去るぞ! お前の底力を見せつけてやれ!)


岡西は残り800を切ったのと同時に手綱をしごいて追いに入った。今までは抑えてばかりだったため追いに入ったときにユーロステイテッドの気合乗りは他の馬よりも格段に上だった。そして前を走るアステロイドとイスラスとの差を次第に縮めていった。


《実況アナ》


 さあ最後の直線に入った! 先頭はここでイスラスに替わった! アステロイドも2番手で懸命に粘っている! 先頭はイスラス! 1馬身のリード! ユーロステイテッド内からすごい脚で迫ってきた! 3番手争いはアステロイドとバイオレットパサー! 先頭が替わる勢い! 残り200を切った! 先頭はユーロステイテッド! 1馬身2馬身とリードを広げる! イスラス粘っているが! ユーロステイテッド悠々とゴールイン! 2番手はイスラス、3番手に船橋のバイオレットパサー、4着には粘ったアステロイド、5着には8番のトルネードラグーンがそれぞれ入線! 今年も中央のワンツー決着でした。勝ち時計は2分4秒フラット!


(よし、これでユニコーンSに続きジャパンダートダービーも制した。残りはダービーグランプリで3歳ダート三冠の完成だ!)


岡西は軽くガッツポーズをしてユーロステイテッドの鬣をポンと軽く叩いてねぎらった。


「おめでとさん、途中までは勝てるかなと思ったけどあの脚を使われたらお手上げだったよ」


岡西に一人の騎手が話しかけてきた。イスラスに乗っていた石田であった。


「あっ、石田さん。ありがとうございます」

「パシファイアーを装着したまんま走る馬なんてめったに見かけないからなぁ」

「そうですね、陣営の作戦で勝利したようなものですのでこのレースはほんとにいい収穫になりました」


岡西と話している石田は園田のリーディングジョッキーで通算3000勝以上していて、中央からの騎乗依頼も来るほどの腕を持つ騎手。


「現在俺は園田所属だが来年は中央に移籍する予定なので本格的に君との勝負になるな」

「ほんとですか? お待ちしております」


石田が中央参戦すればリーディング争いは激化するのは確実である。武井匠のリーディング独走をとめるには地方の有力騎手の中央移籍も必須条件と岡西は心の中で思っていた。雑談をしながら岡西と石田はそれぞれの馬を着順ゲートまで誘導させていた。1着のゲートの先には村山・押切・小倉橋の3人がいた。


「あの異様な容姿の2人はほんとに競馬関係者?」


石田は異世界の人間を見てるような感覚に陥っていた。その2人はもちろん押切と村山のことである。


「見た目からは想像つきにくいとは思いますが、迷彩の人がオーナーで黒レザーの人が調教師です。あの2人は例外の中の例外と思ってください……」


岡西は苦笑いの表情で石田に切り返した。そしてそれぞれのゲートに入っていった。


「いやいや、ご苦労さ~ん! これでワシもG1トレーナーの仲間入りやぁ。岡西君、ほんまにありがとな~!」


押切ははちきれんばかりの満面の笑みで岡西とがっちり握手した。


「うむ、岡西殿。大儀であった。特に最後の直線は王者の風格を感じさせる走りであった」


はしゃぐ押切とは対照的に村山は冷静沈着だった。


「ええ、G1初制覇をプレゼントできてよかったと思ってます。次走はダービーグランプリでしょうか? このレースを制覇すると3歳ダート三冠の完成になりますけど」

「ほんまいかな? んじゃ次走それ決定やな。次もよろしゅ~頼むでぇ。ワハハハハ!」


岡西の提案で押切は即で決めてしまった。うなぎのぼりに押切の機嫌はよくなる一方で岡西は押切のノー天気ぶりに苦笑いの表情。


(わかりやすい先生だなぁ。普通ジョッキーの提案で決めることはめったにないのに……。まあどっちにしてもローテ的にそうなるからなぁ)


ユーロステイテッド陣営の次の目標は盛岡競馬場で開催されるダービーグランプリに決まりまた1つ目標を持つことになった。その後、後検量も無事にパスしてレースは確定した。



──表彰式──



 レースも確定して表彰式に向かう押切達。ウイナーズサークルの前には村山と同じような格好をした武装兵みたいなのが左右対称に一列に横向いて並んでいた。まさに軍隊顔負けの整列だった。一人一人は模造銃を縦に向けていた。あまりの風景に観客が唖然とするのはもちろんのこと、押切・岡西・小倉橋は出てくるのをためらっていた。


「ん? いかがした?」


出るのをためらう3人に村山は尋ねてきた。


「い、いや~、あの~、待機してる兵の人がものすごく気になりまして……」

「なにかされそうな予感が……」


押切・岡西の順で胸のうちをこたえる。


「案ずるでない。この者達は余のサバイバル仲間だ。押切殿には特別席で言ったと思うが……」

「そ、そうでしたか……。ワハハハハ……」

(こんなにぎょうさんおるなんて聞いてへんぞ~。このオーナーはほんまにおっかないわ~)


押切はひきつった表情でウイナーズサークルへと歩いていった。ちなみにヒーローインタビューはユニコーンSの時と同じように岡西はまともなコメントで押切は調教師らしからぬノー天気なコメント、そして村山はツッコミづらい内容でいろんな意味で大井をざわつかせたという。


 表彰式終了後、村山は悠々と去っていき、並んでいた兵士達も2列に並んできれいな行進で村山に続いて去っていったという。押切・岡西・小倉橋の3人はレースに勝ってもあまりにも現実離れしている出来事に脱力感を感じだという。


「押切先生、小倉橋さん。なんで勝ってもこんなに疲れるんでしょうかねぇ? レースに勝ってもこんなに疲れることってなかなかないと思いますが……」

「せやな、まあ岡西君に出会う前に比べて厩舎経営はぐんとよくなってるさかい問題あれへんと解釈せなあかん。都内にきてるんやから3人でどっかに食べにいかへんか?」

「わたしはかまいませんけど」

「そしたら品川方面においしい串カツの店があるんですけどそこにします? 僕が案内しますので」

「おお、ええなぁ。ほな競馬場出たら行くかぁ」


3人はどうにか元気を取り戻して大井競馬場を後にしたという。

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