前途多難な巻き返し
時は2005年シーズンの5月4週木曜の追切日。場所は栗東トレセンの本岡厩舎内。先週オンリーゴールドがG1を勝利して士気が上がるかと思いきや、そのオンリーゴールドがコズミを発症させて長期休養という事態になり厩舎内はどんよりとした雰囲気だった。その様子はまるで今まで築き上げてきたものを天災で一瞬で失ったような感じだった。
「いかんなぁ、オンリーゴールドの故障がいろんな面で悪影響を引きずっている」
大西は険しい表情で厩舎内の士気の低下を悲観していた。
「う~ん、そうですね。ウチは競走馬7頭しかいないし、ましてや貴重なG1ホースの戦線離脱というのは超がつくほどの痛手ですからねえ。担当の菅野さんはもちろんのこと他のスタッフもみんなお通夜状態ですからねえ」
本岡はオンリーゴールドが故障して以来、残りの6頭でどうやって厩舎経営をしていこうかと頭をひねっていた。
「そうだな、ムードメーカーの西岡でさえ沈黙してるくらいだからかなりの重症だな。そういや岡西君には話したのか?」
「ええ、昨日電話をかけて話しました。やはり彼も相当ショックだったみたいです。思い入れの強い馬でせっかくG1を勝てたというのに後日怪我が判明したので、今は自分の騎乗のことで自問自答してるかもしれません」
「そうだろうなぁ。まあ引退が確定してるわけではないので前向きに気持ちを切り替えないとな。ゴールドはまだ3歳なので古馬になってから復活というのもありえるし、過去の名馬にもそういうタイプの馬はいたので」
「そうですね、わたし達も気持ちを切り替えないといけませんね」
「うむ…。そうだ、今いる管理馬について1つ提案があるんだが……」
「なんでしょうか?」
「わたしが担当しているユーロギャラクシーのことなんだが、長い距離の未勝利戦をどうにか勝ち上がって今は500万下のクラスにいるのだが走りからみてどうもスピードに欠けてるようなんだ。今の競馬はスピードが重視されているので今後こいつが勝ち上がるのは厳しいと思う。そこでわたしはこの馬を思いっきり障害レースに路線変更させてみようと思うのだが……」
「障害レースですかぁ。う~ん、ギャラクシーが出世できればいいんですけど問題は乗り役ですね……」
「そうなんだよ……。ウチは岡西君の騎乗でずっと支えられてきたようなものだから。その肝心な岡西君が障害の免許を持ってないというのが痛い……。誰か障害の免許を持ってるいい騎手がいればいいんだけどなぁ……」
ユーロギャラクシーの路線変更はしたいのはやまやまだが、岡西以外の騎手の確保が困難なのが本岡厩舎の欠点。本岡と大西はそのことで四苦八苦していた。
「そういや大西さん。むかし岡西君が障害に乗ってたのを知ってました?」
「知ってるも何もわたしが競馬会に入る前は障害のレースでよく岡西君の馬を軸にしてたので、かなり世話になったよ。2000年シーズンの障害重賞は岡西君の馬でわたしはおいしい思いをさせてもらったようなものだから」
「なるほど、だから岡西君の障害免許返上は大西さんにとってさぞ痛手だったでしょう」
「そうなんだよ、その影響のためかそれ以降の年の馬券はからっきしダメだったからなぁ……」
「ハハハ、なるほど。今わたしはパソコンで障害騎手の一覧を検索しています。う~ん、あまり知られていない騎手ばかりで誰がいいんだか……」
本岡は苦悩しながらパソコンの画面で障害騎手一人一人をチェックをしていた。最後のほうである騎手の名前が目に付いた。『ちゅん』こと鈴木中騎手である。
「あっ、ちゅん君は障害の免許を持ってたんだ。大西さん、彼なら引き受けてくれそうな感じがするんですけど」
「ん? どれどれ……。マジかよ……。またとんでもないのをチョイスしてきたなぁ。大博打もいいところだぞ……」
本岡のちゅん打診にしぶる大西。大西はちゅんだけでなく、押切厩舎自体にあまりいいイメージを持っていないためか色よい返事ができないでいた。
「しかし岡西君が障害免許を持ってない以上、他の誰かに頼まないとギャラクシーの飛躍は見込めません。それにちゅん君は岡西君からいろいろと騎手に関する師事をしてもらっているとの話も聞いていますから……」
「ん? そうなのか? 初めて聞いたなあ。岡西君も物好きというかなんというか……。まあ決めるのは先生だ。よくよく考えたら逃げしかできない騎手には障害は向いてるかもしれんな。障害のレースはだいたい前残りが多いから」
「今は状況が状況ですので今から押切先生にお願いに行きますけど大西さんも来ますか?」
「いや、わたしはいい……。先生だけで行ってくれ。わたしはあのチンピラに対する耐性がまだ完全ではないので……」
「わかりました。ではちょっと押切厩舎に行ってきます」
本岡は一人押切厩舎へと向かって行った。
場所は変わってこちらは押切厩舎の事務所内。今日の追いきりも終わらせて押切は一人ソファーの椅子に座ってスポーツ新聞を読んでいた。
「いや~、先週はオモロかったなぁ。あれだけどんちゃん騒ぎしたのは久しぶりやったわ~。また西岡さんと飲みにいきたくなったわ~。西岡さんの連絡先は岡西君あたりに聞けばええか~」
押切は数日前のオンリーゴールドの祝勝会の余韻に浸っていて上機嫌だった。岡西と知り合ってからというものの、押切の怒鳴り声は大幅に緩和されて厩舎の経営自体も少しずつだが上り調子になってきている。上機嫌の押切だったがある記事に目が止まった。
『NHKマイルC覇者・オンリーゴールド戦線離脱!』
【記事内容】
今年NHKマイルカップを制したオンリーゴールド号(牡3歳・栗・本岡厩舎)はレース後に両前足にコズミを発症させたのが判明したため長期休養となった。復帰の日は今のところ未定となっている。
「うわぁ、こらキッツいな~。せっかくG1馬輩出したいうのにレース後故障って本岡さん気の毒やわぁ。せや、本岡さんで思い出した。馳走になったんやからお礼言いにいかなあかんのやけど、このニュース知ったさかい顔合わせづらくなったわぁ。会ってしまったらどんな言葉かければええか……」
押切は上機嫌モードから困惑モードへとスイッチした。競走馬の故障というのは痛手というのを同業者の押切自身もわかっている。ましてや恩人の本岡のため押切は自分のことのように心を痛めた。しばらく押切は腕を組んで首をかしげながら本岡に会ったときの対策を自分なりにシミューレーションし始めた。
「あの~、先生……。先生……」
「ん? ああ、なんや小倉橋さんかぁ。どないしました?」
対策を考えてるうちに寝に入ってしまって小倉橋に起こされる押切。
「真向かいの本岡先生がお越しですけど」
「も、本岡さんがですか? うわぁ~、このタイミングで来られても~たかぁ。まあとりあえずはお礼だけでも言っておかなアカンなぁ」
頭の中の考えもまとまらない中、押切は本岡が待つ入口に慌てて向かって行った。
「あっ、押切先生おはようございます。お忙しいところすいません」
「いやいや、そんなことはありませんよ。あっ、先週はホンマに馳走になりました。ああやって飲み会したのはホンマに久しぶりで、ワシも調子に乗って飲みすぎてオマケに介抱までしてもらってホンマにいろいろ世話になりましたわぁ」
丁寧な本岡の挨拶に対して押切もぎごちなくもお礼を言う。
「いえいえ、押切先生には場所まで提供してもらってみんなで楽しめたのでよかったと思います」
「あの~、お礼はいつかやろうと思いますさかい、その時はお願いしますわぁ。ところでウチに用事があって来たと小倉橋さんから聞いたんですけど……」
「ええ、そうです。実は押切先生に1つお願いをしに来まして……」
「ワ、ワシにですか? まあワシでよければ出来る限りのことはしまっせ!」
「そ、そうですか。ありがとうございます。実はわたしの管理馬にユーロギャラクシーという馬がいるんですけど、平場ではスピードに欠けるために障害に路線変更をしようと思ってるんですよ。障害の騎手を探してまして、見つけたのが押切先生ところのちゅん君だったんですよ。わたしは騎手の知り合いは岡西君以外面識がないためこうやって押切先生にお願いに来ました。ちゅん君をギャラクシーに乗せたいと思っていますけどお願いできますか?」
「ち、ちゅんをですか? も、本岡さん、頭おかしゅうなったんちゃいます?」
全く予想外の本岡のお願いに押切はあっけに取られていた。押切の思想ではちゅんを評価する人やファンはすべてキチガイというふうに認識する。
「いえいえ、真面目な話です。本来なら岡西君に騎乗依頼するところなんですが、当の本人は障害の免許は今持ってないんですよ。できることなら岡西君に障害免許再取得してもらいたいところなんですが……」
「うわぁ、それはあきません! 岡西君を障害という名の雑魚レースに出すなんてもってのほかですわぁ! もしものことがあったらそれは超級の一大事! トレセンに隕石が落ちること以上の一大事ですわ~!」
通常平場のレースより障害のレースのほうが落馬の危険が高い。トップジョッキーの仲間入りをしかけている岡西を不慮の落馬負傷で失うことは、押切や本岡にとっても計り知れないほどの大損害になるということを押切は懸念していた。また障害に乗る騎手は基本的に平場での騎乗機会に恵まれない騎手が集まってくるため押切の中では障害レースは雑魚扱いである。
「ちゅんやったら負傷してもなんのダメージもありまへんのでアレでよければなんぼでもお貸ししまっせ。ほな今からちゅんを呼びますのでしばしお待ちを」
「あっ、ありがとうございます。ほんとに助かります」
押切は本岡の願いをかなえるためちゅんに電話をかけはじめた。「お~、入口来い! 」と言って電話を切った。久しぶりの通話時間2秒の電話である。祝勝会の時以上の通話時間の短さを間のあたりにした本岡はあっけに取られた。
「あの~、どこの入口と言うのを言ってないみたいなんですけど……」
「あ~、大丈夫ですわ~。場所はわかってますので。いつものことですから~! ワハハハハ!」
そう言ってるうちに厩舎内からちゅんが現われた。
「あの~、押切先生。お呼びでしょうか?」
「お~、ちゅん来たか。オマエに紹介するわ。この先生は真向かいに厩舎を構えている本岡先生や~」
「あっ、本岡先生。はじめまして、騎手の鈴木中といいます……」
ちゅんは緊張した面持ちで本岡に挨拶をした。
「こちらこそよろしくね。さっそくだけど君に障害レースの騎乗依頼をしたいと思ってるんだ。ユーロギャラクシーという馬なんだけど土曜の中京5Rは空いてるかな?」
「あっ、はい。土曜は中京で乗りますので問題ありません」
「それはよかった。では出馬投票をしておくのでよろしくね。さっそくだが乗る馬の癖とかを教えようと思うので厩舎に行こうか?」
「あっ、はい! お願いします!」
「押切先生、今からちゅん君をお借りしたいと思いますけどよろしいでしょうか?」
「ああ~、どうぞどうぞ~! 厩舎の便所掃除なり本岡さんの肩もみなどいろんな雑用にもこき使ってやってくださいな~! なんか粗相をやらかしたときはすぐにワシに一報くださいな~。速攻でサウナに放り込みますので~! ワハハハハ!」
「そ、そんな~」
押切の無茶振りに困惑するちゅん。
「いやいや、そういうことはしないので心配ないよ。では行こうか」
「あっ、はい」
ちゅんは本岡の後をついていって本岡厩舎のほうへと入っていった。
(しかし本岡さんも物好きだなぁ。ホンマはオンリーゴールドが故障したショックで頭おかしゅうなったんちゃうやろかぁ? まあ障害レースやからアホのちゅんで十分や思うけどなぁ。レース当日にちゅんがアホなことしでかしたらしばいたろ……)
押切はあれこれ頭の中で考えながら、本岡とちゅんが見えなくなったのを見届けて自厩舎の事務所へと戻っていった。
──3日後──
ここは愛知県豊明市にある中京競馬場。初夏も近づいてきてやや暑い気温だが、晴天にも恵まれて絶好のレース日和だった。この日は中央開催が東京で、裏開催がここ中京というふうになっていた。ユーロギャラクシーの騎乗依頼を受けたちゅんは5Rの障害競走で出走していた。その5Rを走り終えたが、電光掲示板は審議の青ランプが点灯していた。客席のいたるところから失笑が聞こえていた。その失笑の先はちゅんが途中の飛越でタイミングを間違えて落馬、そして竹柵がちゅんの尻にザックリ刺さっていた。見るからに痛々しい光景である。ちゅんはあまりの激痛に苦悶の表情だった。しばらくしてちゅんは駆けつけた救護班達に担架に乗せた後、医務室へと搬送された。
《アナウンス》
お待たせしました。中京5R審議の内容についてお知らせ致します。1コーナーのハードルにて、2番・ユーロギャラクシー号の騎手が落馬したことにつきまして審議をしていましたが、他馬に関係なく落馬したために到達順位の通りレースは確定いたします。
こちらは中京競馬場内の競馬関係者しか入れない特別区域。岡西は自分が出走する次のレースに向けて準備をしていた。ちょうど前検量を終わらせてモニター室に入った時、見覚えのある2人の調教師がため息をついてうつむいてうなだれていた。押切と本岡である。様子をさぐりに岡西は2人に声をかけた。
「あれ? 押切先生に本岡先生。一体どうしたんですか? 2人してがっかりした表情で……」
「あ~、岡西君か~。あれをみてくれよ~」
本岡の目の先はちょうど5Rのダイジェストが流れていたが、スタートして最初の障害でちょうどちゅんが落馬して竹柵が突き刺さるシーンを見て岡西は苦笑いした。
「あちゃ~、あれは痛いですね……。しかも位置はモロに正面スタンド寄りだからこりゃ相当恥ずかしいぞ……」
「本岡さん、ホンマにスンマセン! ちゅんがとんだ失態をやらかしてしまいまして……」
この時の押切は本岡に完全な平謝り状態だった。
「いやいや、ちゅん君はまだまだ騎乗経験が浅いから仕方ないですよ。幸い競走馬は大事に至りませんでしたし次走は大丈夫だと思います」
「ホンマにお願いします。至らぬところもありますけどもう1回あのアホタレにチャンスを与えてもらえないでしょうか?」
「まあまあ、押切先生。そんなに頭を下げなくても……。どんな結果でも若手騎手を我慢して使わないといけないときもあります。わたしはギャラクシーの主戦としてちゅん君を使っていく予定ですので」
「ホンマでっか? いやぁ~、ありがとうございます。本岡さんは神様仏様や~」
普通の調教師なら怒り心頭になるはずだが本岡は常におおらかだった。ここでちゅんを切っても他の騎手の確保が困難になるからである。
「いえいえ、わたしはまだまだ駆け出しの身ですので……。そうだ、ちゅん君の容態を確認しないといけませんね」
「あぁ~、せやった。アイツ9Rはワシのところの馬で出走やったんや。ちょっとワシ医務室行ってきますわ~」
そう言って押切は一目散に医務室へと走っていった。
「押切先生かなり切実でしたね。僕もかつて障害レースに乗ってましたが障害のデビュー戦は落馬競走中止でした。平場では初出走初勝利でしたけど。やっぱり障害レースは危ないんですよねえ」
「まあねぇ」
岡西は知っての通りかつては障害に乗っていたが今は免許は返上している。なぜ障害免許を返上したのかという質問にも平場以上に落馬負傷のリスクを背負うということを理由にあげる。ほんとの理由は別にあるがある人物を除いてその理由を知る人は誰もいないという。
「僕は現在障害レースには身を引いてますけど、コース内容は全部覚えてますのでちゅん君に機会があれば教え込んでいきます」
「ありがとう、岡西君の存在はほんとにありがたいよ。よろしく頼むね」
「はい、では僕は今日の8R以降の前検量を済ませてきますので失礼します」
「うん。ではわたしも医務室に向かわないと……」
本岡と岡西はその場で別れてそれぞれの目的地に向かい始めた。
場所は変わってこちらは中京競馬場内の医務室。ちゅんは下半身裸でお尻を看護師のほうに向けて手当てを受けていた。薬を塗ったときに極端にしみるためそのたびにちゅんは悲鳴をあげていた。
「鈴木さん、動かないで下さい。薬が濡れませんよ」
「ひ、ひぃ~~。し、しみる~~~。も、もっとやさしくお願いしますよ~~~」
看護師はやたらと痛がるちゅんに手を焼いていた。その時、押切が入ってきた。
「おい、ちゅん! 大丈夫か~?」
「あっ、押切先生。落馬してケツに竹柵が刺さって手当てを受けていますが、9Rは多分大丈夫だと思いますけど……」
「ほ~、そうかそうか……」
そう言いながら押切はあらかじめ持っていたチューブ状の塗り薬をポケットから取り出して大量に出し始めた。看護師はそれをみて驚きの声を出しそうになったが、押切は素早く右手の人差し指を自分の口元をクロスさせて静かにするようジェスチャーをした。
「まあはよ治すんやな!」
その瞬間押切はちゅんの尻に向けて一杯に盛った薬を力いっぱいクリーンヒットさせた。
ギョエエエエエ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!
ちゅんの断末魔が中京競馬内一帯に響いた。おそらくちゅんにとって生まれて以来最大級の痛みであったことは間違いない。
「あの~、押切先生……。そんなに塗らなくても……」
「は~い、失礼しました~~~」
心配そうに言う看護師に対して、してやったりの表情で押切は医務室をスキップで後にしていった。
「押切先生、あんまりですよぉ~~」
さきほどの押切の一撃でちゅんは今週は騎乗不可になったという。
医務室を後にした押切はちょうど検量室の隣の部屋で岡西とばったりでくわした。
「あ~、岡西君。ちょうどいいところに!」
「あっ、押切先生。どうしたんですか?」
「あの~、9R空いてるかなぁ? ちょっとさっきの障害レースでアホのちゅんが落馬負傷しても~たんで乗り替わりを探してるんやぁ」
「9Rだったらちょうど空いてますよ」
「ほ、ホンマかい? 頼む! 急で悪いのは承知やけど乗ってくれへんやろうか?」
「ま、まぁ僕でよろしければいいんですけどさっきすごい断末魔が響いてきたんですが」
「ああ、あれはちゅんや。あの通り状態が思わしくないんや~」
「そうですか、ではバレットに9Rの鞍や帽子などを急遽用意させますので競走馬名はなんでしょうか?」
「えっと、5枠9番のオルトロータスっちゅう馬や」
「わかりました。ではちょっと行って来ますので」
「いやぁ~、ホンマおおきに!」
乗り替りの騎乗依頼が入って岡西は道明がいるところへと走っていった。もちろん押切の手によってちゅんが騎乗不可になったことは知る由もない。
《場内アナウンス》
中京競馬場、騎手変更についてお知らせ致します。中京9R・9番オルトロータス号、鈴木中騎手落馬負傷のため、岡西摩那舞57キロに変更となります。
上記のアナウンスにより各競馬場にいたファンや投資家達は思わぬ鞍上強化に驚いていた。
「うわ~、鞍上一気に強化されたぞ~! 今日の中京9Rは岡西で流すぞ~!」
「専門誌で無印の9番がいきなりの鞍上強化……。よし!中京9Rは9番に複勝300万だ~!」
「こりゃ9Rは買わないといかんだろ~! こんなおいしい馬券はまずないぞ~!」
16頭立ての中京9Rでこれまで15番人気だったオルトロータス号は鞍上強化の影響で6番人気まで一気に上がるという異常事態が発生した。ちなみにこのレースで岡西は2着に入ったという。