束の間の喜び
──都内繁華街にて──
時刻は17:30を過ぎたあたり。数時間前、NHKマイルカップをオンリーゴールドで制してG1初制覇した本岡厩舎の祝勝会が押切の半ば強引な提案で急遽開催されることになった。押切自身、同業者で世代も近い本岡がG1トレーナーになったことについて自分のことのように喜んでいた。押切にとって本岡は救世主的存在である岡西を自分に紹介してくれた大の恩人である。その恩人である本岡を盛大に祝いたいと思って押切はこの祝勝会を提案したわけである。
「うんうん、今新幹線の中にいて東京方面に向かってるんだね。来るのは西岡君と調教助手の3人ね。今わたし達は新宿のほうにいるんだ。わたしと菅野さんと岡西君、そして押切先生の4人だよ。東口のアルタ前で待ってるので。はい、では気をつけてね」
本岡は栗東から東京まで来てくれる自分のスタッフの人数を電話で確認していた。
「本岡さん、何人来ます?」
「ええ、わたし達を含めて8人になります。ちょうどウチのスタッフが4人こちらに向かっています」
「よっしゃ。ほな8人で取りますわ」
押切は本岡から集まる人数を知ってすぐに店に電話をかけ始めた。
「お~、店長か? ワシや! 18時半に来る! 人数は8名や~! ほな!」
わずか通話時間5秒の間で予約を完了させるという強引さに、その場にいた他の3人は唖然とする一方だった。
「あの~、押切先生。今予約を取ったところは知り合いの方の店ですか?」
岡西は恐る恐る聞いてみた。
「せや、そんなところや。まあ店員がなんか粗相かましたらワシがシバいたるさかい安心し~や。ワハハハハ!」
(なんでこの先生は他厩舎の祝い事にここまでテンション上がるんだろ? まあ妬みで嫌がらせされるよりはマシだけどな)
押切は勝ち誇ったような口調で大笑いする。押切の容姿のガラの悪さはいつものことだが、それに増してやたらとテンションが高いため岡西達は様々な不安を思い描かされていた。
──約40分後、店内にて──
「いらっしゃいませ」
「お~、店長。出迎えご苦労やな」
押切達が店内の入口に入ってきた時、居酒屋の店長らしき30歳前後の男性が出迎えてくれた。
「本日はご来店ありがとうございます。8名様、奥の和室席を準備させてもらってますので今からご案内致します」
「おう、案内せぇ」
押切達は店長の後に並んでついて行った。
「押切さん、今日のお連れさんはどういう繋がりで?」
「あぁ、みんな競馬関係者や。今日のG1レースで初出走初勝利したんや。そんでその祝勝会ってわけや~」
「え? 押切さんって競馬関係者だったんですか? 初耳です」
「はぁ? オマエ知らへんやったんか~? ワシは調教師やでぇ」
「え~、そうだったんですか! 今日は押切先生がG1トレーナーになったんですね」
「アホンダラ~! オマエはなに勘違いしとんのやぁ。今日勝ったのはこの本岡先生やでぇ! 失礼なことさらすなドアホ! ワシは本岡先生の同業者ゲスト兼客寄せやぁ!」
「す、すいません……。失礼しました」
一方的に本岡に平謝りする店長。
「いえいえ、間違いは誰にでもあります。そうお気になさらずに」
本岡は押切とは正反対で常に温厚で冷静だった。
会話からみて押切は誰の祝勝会というのを言っていない。押切自身、自分の説明不足という認識は全く持ってないという。店員にとって押切のような客を扱うのは大変な労力を要する。話しているうちに一行は酒席へと着いた。四角い長方形のテーブルが2つ繋がっていて下に敷いてある座布団に座る形となっていた。席順は奥側の右から本岡・岡西・菅野・二宮の順、通路側は右から押切・西岡・三宮・四宮の順にそれぞれ座った。
「みんなビールかいな?」
席に座ったのと同時に押切は最初の飲み物を聞いてきた。
「あ~、すいません。僕はウーロン茶でお願いします」
別のを頼んできたのは酒が飲めない岡西だった。
「あれ? 岡西君飲めへんのかいな~?」
「はい、僕はアルコール類は体に合わないんですよ」
「あ~、ほんまかいな。まあ飲めへんのやったらしゃ~ないわ。おい、店長! 生7でウーロン茶1で頼むわ!」
「はい、かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
その間に食べ物を他の店員が持ってきた。かなりの豪華な内容にみんな驚いていた。押切が事前になんらかの形で気前よく振舞うことを念入りに押していたことは言うまでもない。しばらくして飲み物も届いて乾杯の準備は整った。
「ほな、本岡さん。厩舎の代表なんやから乾杯の音頭をせなあきませんで~!」
「あっ、はい……」
本岡は押切の後押しでジョッキを右手に取り音頭をはじめた。
「えっと、お疲れ様でした。今日オンリーゴールド号がG1を勝ってわたしもG1トレーナーの仲間入りを果たすことが出来ました。これもスタッフが一丸となって頑張った結果だとわたしは思っています。また今日は押切先生に場所を提供してもらってこうやって祝勝会を開けたことを感謝しています。ではさらなる飛躍を目指して、乾杯!」
「カンパーイ!」
祝勝会参加者達は料理を食べたり生ビールを飲んだりしてそれぞれ思い思いにその場を楽しみはじめた。
「料理うまいですねぇ。今日もずっとレースに騎乗しててクタクタでしたのでいい腹ごしらえになりますよ。僕はこういう祝勝会は2週間前にギガクロスブレイクで皐月賞に勝った時、オーナーの主催で参加してもらったとき以来ですね。本岡厩舎の飲み会はかなり久しぶりなのでは?」
岡西は酒が飲めない分、食べ物をたくさん食べていた。
「うんうん、飲み会は確か半年ぶりだね。あの時は厩務員に全員勝ち星を達成できたという名目だったけど今度はG1勝ちだからねえ。わたしは正直今日のレース勝てるとは夢にも思っていなかったよ。最後の直線で下がったからダメかなと思ったらそこから怒涛の追い込みでごぼう抜きしたからねえ」
本岡はしみじみとレースを振り返りはじめた。
「いえいえ、僕はパドックの時の気配からゴールドの勝ち負けは確信してましたよ。馬体も輸送減りはしてませんでしたし、イレ込みもありませんでしたし。ところでゴールドの次走はどうするんですか?」
「うーん、本音を言うとせっかくG1馬になったんだからダービーに挑戦させたいんだけど、レース間隔が狭いからねえ。たとえゴールドの脚部不安がないにしてもギガクロスブレイクとかぶってしまって岡西君も乗り鞍をどっちにするか困ってしまうからねえ。今のゴールドではとてもでないが、ギガクロスブレイクに太刀打ちできないのでたぶん夏競馬のサマースプリントシリーズあたりを目指そうかなあと思ってる」
「なるほど、わかりました。次のゴールドの目標はサマースプリントシリーズ優勝ですね。ローテは函館スプリントS・セントウルSの順番でしょうかねえ。二つ勝てればポイントで優勝圏内にいけるので」
「そうだね、そうなると思うよ。レース当日はよろしく頼むね」
本岡と岡西は次なる目標を胸の中に秘めていた。
「フフフ、今日はほんとに食事がおいしいわ。あの子がG1ホースになったんだから。あの偉そうなオーナーの驚きの顔を想像できるわ」
ちょうど岡西の隣にいた菅野もほろ酔い状態で祝勝会を楽しんでいた。
「そうですね、確かに吉原さんは計算外のG1勝利とか表彰式の時に言ってましたからねえ。あんな言い方してきますけど内心は相当嬉しいと思いますよ」
「次G1勝ったらどんなこと言ってくるかしら? 今後が楽しみね」
「ええ、僕はゴールドについてはチャイコフスキーの思い入れも含んでますのでチャンスあれば大きいところ狙っていきますよ。今さっき本岡先生と話していてわかったんですが、次の目標はサマースプリントシリーズ優勝ですので」
「地方巡りかぁ。おもしろそうね。そうそう、近い将来に海外遠征することになったらどうしようかなぁ」
「え? なんか支障でもあるんですか?」
「実はわたし飛行機が大の苦手で……」
「あ~、菅野さん飛行機ダメなんですかぁ」
「わたしだけで飛行機乗る分ならどうにか耐えれるけど競走馬と帯同で乗るのが不安で……」
「なるほど、まあゴールドは精神力は強いですので輸送は問題ないと思います。ただ脚部不安持ってるからひ弱なイメージを持ってるかもしれませんけど。なんらかの不慮の事態に陥るのが一番怖いですからねえ」
「そうね。岡西君は飛行機怖くないの?」
「僕ですか? 僕は全然大丈夫ですよ。絶叫マシーンも平気で乗れるくらいですので。僕が苦手なのは酔っ払いの対応ですかね……」
岡西は嫌そうな目で真向かいの二人のメンツを見ていた。押切と西岡である。
「ワハハハハ! いや~、押切先生いい飲みっぷりですわぁ!」
「いやいや、西岡さんもやりますなぁ。まだまだいけるんちゃいます?」
「とことんいきまっせ~! G1初勝利の恩恵でいつもよりわての肝臓が機能してるって感じですわ~」
「かぁ~、ワシもはよG1勝ち欲しいわぁ! ワシんところのスタッフは小倉橋さん以外アホばっか揃ってるから本岡さんに遅れをとる一方やわぁ」
「いやいや、これからですよ。岡西君が押切先生にぎょうさん勝ち鞍挙げてくれることやし」
「西岡さん、アンタよ~わかっとる! 本岡さんが岡西君を紹介してくれへんかったらワシ首吊っとったわぁ」
「うわぁ、押切先生。首吊りだなんて不吉なことは言ったらあきませんでぇ!」
「せやな。まあ首吊りの言葉は撤回するとして切羽詰ってたのはホンマのことや。今までは勝ち鞍挙げられず怒鳴り散らしてばっかやったからなぁ」
本岡&岡西のちょうど真向かいで飲んでいた押切&西岡は、意気投合してハイテンションで語り合っていた。どちらも大酒飲みのため、この二人はドンチャン騒ぎだった。
「そういや押切先生、最近は怒鳴り声出しまへんでしたなぁ?」
「これも岡西君が勝ち鞍をプレゼントしてくれたおかげや~。岡西君は救世主やでぇ。勝ち鞍だけでなくアホのちゅんの面倒まで見てくれるんやから」
「ほ~、いろいろあるんですなぁ。おっとビールが尽きてしまったので焼酎でも頼みまっか?」
「ええなぁ! ほな頼むか! おい、店長! 焼酎ロック2本やぁ! はよ持ってけ~へんかったらサウナ風呂放り込むぞ~!」
「押切先生、居酒屋にサウナはありませんでぇ」
「せやった、いつもの癖でやっても~たわぁ。ワハハハハ!」
押切と西岡はこの後もずっとこのテンションでいろんな種類のアルコールをベロンベロンになるまで飲み続けたという。
──JR新宿駅前にて──
時刻は21時前を差していた。祝勝会も終わりそれぞれの帰路に向かう予定だった。しかし完全に酔っ払ってしまってる押切と西岡のせいで、栗東に帰る人はなかなか新幹線乗り場がある品川駅まで足を運べずに困っていた。
「いやいやいや、今日はホンマに飲んだわぁ! 久しぶりの酒はええわぁ!」
「わてもオモロかったですわぁ! 押切先生がこんなにオモロい人やとは思ってまへんでしたわぁ」
「いやいや、西岡さんもオモロい人やないですかぁ。ワシんとこにこれだけ盛り上げてくれるのはおれへんからなぁ。これから飲みに行くときは西岡さんは強制参加やぁ、電光掲示板の赤ランプの確定やでぇ!」
「うひゃ、わて体持つかなぁ?」
「大丈夫大丈夫! ワシと西岡さんが組めば怖いものナシやぁ!」
「押切先生は単体でも無敵やないですかぁ」
「いやいや、ワシは嫁が怖いんやわぁ! ホンマにおっかないでぇ!」
「わてもカミさんおっかないですわぁ!」
「もし出くわしたときの最終手段は淀川にダイブやぁ!」
「わてもお供しまっせ~!ワハハハハ!」
周りの通行人は冷ややかな目で酔っ払い2人を見て無言で通過していく。連れの6人はどういうふうに2人を無事に帰らせるか考えていた。
「2人も酔っ払いを連れて行くの大変そうですので僕も品川駅までついて行きましょうか?」
「いやいや、ここはわたし達だけで大丈夫だよ。岡西君はまっすぐ家に帰ってゆっくり体を休めてもらえれば」
「そ、そうですか……。押切先生と西岡さん大丈夫ですかねえ? 変な問題起こされても困るんですけどねえ」
「5人もいれば大丈夫よ」
「ではタクシーを二手にわけて品川駅まで乗せましょうか」
「そうだね、押切先生にはわたしと菅野さんと二宮君。西岡君を三宮君と四宮君の2人で連れて行くことにするよ」
「わかりました。では気をつけて帰ってください。またトレセンかレースで会いましょう」
栗東に帰る一行を乗せた2台のタクシーは品川方面に向けて走り出した。走り去っていった2台のタクシーを見送って岡西は新宿駅から中央線・総武線と電車を乗り継いで新小岩の自宅に帰っていた。
──3日後──
こちらは栗東トレセンの本岡厩舎内。いつものように平穏な1日になるはずだった。菅野はオンリーゴールドを森林浴に連れて行こうとしたときに歩様がおかしいことに気づいた。菅野は応急処置をほどこした後、血相を変えて本岡に報告に行った。
「先生! オンリーゴールドの歩様がおかしいです! 昨日までは異常なかったんですけど!」
「なんだって? わかった、すぐ向かうよ」
本岡は菅野からの報告を聞くやいなや一目散にオンリーゴールドのところに向かって行った。オンリーゴールドの脚部の状態を本岡は慎重に確認していた。
「う~ん、コズミを発症させている。手術すれば治ると思うがこんな状態では調教はできない。どんなに慎重に調教しても怪我はどうしても免れなかったか。たぶんG1レースの激走が祟ってしまったのかもしれない。とりあえずトレセン内の獣医施設に移動させて適切な治療を施さないと。菅野さんは獣医に連絡して。オーナーや岡西君にはわたしから連絡をしておくから」
「わ、わかりました」
菅野は今でも泣きそうな表情だった。せっかくG1ホースとなってこれからという矢先のコズミ発症。戦意の喪失は計り知れないものだった。本岡厩舎はここ3日間で天国と地獄を経験したことになる。幸いオンリーゴールドはスタッフの懸命な処置で大事には至らなかった。診断の結果、オンリーゴールドは半年の休養を余儀なくされることになった。
場所は変わってこちらは美浦トレセン。岡西は追い切りのため美浦のほうに来ていた。ちょうど追い切りを終わらせて家に帰ろうとしていた。
(今日はギガクロスブレイクの中間の後に他の馬の最終追切に乗ったため、エンジンの性能に異常に違和感を感じた。まあそれだけギガクロスブレイクのスピードが飛びぬけてるんだろうな。2週間後のダービーが楽しみだ)
先週オンリーゴールドでG1を勝って次なる目標に向けて岡西の士気は上がる一方であった。そんな時、関西G1本馬場入場『ザ・チャンピオン』の着信音が鳴った。本岡から電話がかかってくる時はこの曲がかかるようになっている。
(ん? 本岡先生からだ。なんだろ?)
「はい、もしもし」
『あっ、本岡です』
「あっ、本岡先生おはようございます。先週はいろいろとお世話になりました。押切先生と西岡さんは無事に帰れましたか? あの後連絡してなかったもので気になってたんですよ」
『うん、あの2人はなんだかんだで特に問題も起こさずに車内でおとなしく寝ててくれたのでみんな無事に帰れたよ』
「そうでしたか、それを聞いて安心しました」
『それはいいんだけど、ちょっと別問題が発生して……。岡西君にはとても言いづらいことなんだけどオンリーゴールドがコズミを発症してしまったんだよ』
「な、なんですって? レースの時は歩様の異常はなにもなかったはず」
『さっき菅野さんがトレセン内の森林浴に連れて行こうとした時に彼女が歩様の異常を発見したんだ。菅野さんも血相を変えて驚いていた……。わたしもゴールドを怪我させないように6週以上の間隔を置いてローテを組んできたけどそれでも不測の事態は回避できなかった』
「そ、そんな……。オンリーゴールドは復帰できないんですか?」
『いや、屈腱炎のような致命傷ではないから引退はないはずだが、今年いっぱいはレースには出せないと思う』
「そうですか……。僕、NHKマイルの時に間違った乗り方してしまったのでしょうか?道中ゴールドが不利を被って他馬に接触したのは一度もなかったんですけど……」
『う~ん、岡西君の乗り方だったからあれだけの怪我ですんだとわたしは思う。岡西君が競走馬を壊さない乗り方に定評があることはわたしも知っている。もしゴールドのことを理解していない他の騎手が乗っていたら、レース中に骨折して予後不良になってたかもしれない』
「……」
岡西はしばらく言葉を失った。本岡をG1トレーナーの仲間入りさせても、肝心なオンリーゴールドが勝利の代償としてコズミを発症させてしまっては心苦しさだけしか残らない。
『岡西君に電話をかける前に吉原さんに故障のことを言ったら引退を示唆してきたが、わたしも菅野さんも念入りにお願いして現役を続行させることを願い出たんだ。多分岡西君もこの場にいたらきっと同じことをしていたと思う』
「もちろんです。G1を1勝しただけで引退では僕自身も納得しませんし、死んだチャイコフスキーも報われません。ゴールドは4戦走っただけで終わるような馬ではないことを信じています。それで吉原さんはどういうふうに言ってたんですか?」
『最初は引退を言ってたけど、わたし達が熱心にお願いして引退は思いとどまってくれた。ただし今度怪我が再発したら酷使はできないということで、引退させて種牡馬入りさせると言っていたから猶予付の現役続行だよ』
「そうでしたか。でも怪我が治っても安心はできませんね。今まで以上に注意しないと」
『そうだね、当面は療養ということでゴールドは放牧に出すけど、今後のクラシック戦線はゴールドの分まで藤枝先生のギガクロスブレイクや押切先生のユーロステイテッドで頑張ってね。今すぐに気持ちを切り替えるのを求めるのは酷かもしれないけど。ゴールドはきっと戻ってくるよ』
「わ、わかりました……」
『ごめんね、話が長くなってしまって。またなにかゴールドのことでわかったら連絡するよ』
「あっ、はい。では失礼します」
本岡との通話は終わったが、岡西はこの時間帯を10時間くらい長く重く感じた。
(なんということだ。ゴールドが不慮の怪我だなんて…。父親と同じ運命だけは勘弁してくれよ……)
オンリーゴールドの故障という事実をこの時の岡西は受け入れたくなかった。どうしても父馬のチャイコフスキーの悲劇のイメージが頭の中から離れないからである。岡西は悲痛の面持ちで美浦トレセンをあとにしていった。