激走!NHKマイルカップ
時は2005年シーズンの5月2週。東京競馬場は春のG1戦線真っ盛り。ちょうどこの日はNHKマイルカップが開催される日であった。この競走は1953年から1995年までの43年間、日本ダービーのトライアル競走として施行されていたNHK杯を前身とし、1996年における中央競馬の番組改定で3歳の外国産馬が当時日本ダービーへ出走できなかったため目標となる大レースが無く、そこで3歳の外国産馬の目標となる大レースを創設する目的で3歳牡馬・牝馬限定の混合・指定の定量の重賞G1競走として新設されたものである。日本ダービーが外国産馬に開放される2000年まで通称「マル外ダービー」といわれ、3歳外国産馬にとって春競馬の最大目標と位置付けられていた。また近年では、競走馬の距離適性を最優先したローテーションを重視する考え方が定着するようになり、外国産馬の最大目標という当初の位置づけから、内国産馬・外国産馬を問わない3歳マイル最強馬決定戦へとその位置付けが変わってきた。このレースには本岡厩舎所属のオンリーゴールドが出走することになっている。馬柱表は以下の通り。
東京11R NHKマイルカップ G1 芝1600M 良 15:40~発走
1枠 1番 ダイヤプリズム 牝3 55 安城勝 栗・松木国
1枠 2番 タイガカルチャー 牡3 57 横井典 美・戸部
2枠 3番 マイルロージス 牡3 57 幸田 栗・西園寺
2枠 4番 シンダルサバイバー 牡3 57 北町 美・藤枝和
3枠 5番 サンセットガンズ 牡3 57 十和田 栗・音有
3枠 6番 カニノゼビウス 牡3 57 藤井 栗・須江
4枠 7番 ヘイザンシャウト 牡3 57 池越 栗・池越
4枠 8番 オリモライセンス 牡3 57 渡部 栗・沖田
5枠 9番 キュクレイン 牝3 55 武井匠 栗・林田
5枠 10番 ブレスレットシティ 牡3 57 佐渡哲 栗・笹見晶
6枠 11番 ニッシーカルマ 牝3 55 前藤 美・光野
6枠 12番 ヘイザンクリスタル 牡3 57 福沢 栗・尾崎
7枠 13番 ラージエルメス 牝3 55 柴畑善 美・柴畑政
7枠 14番 アドニスリンゼイ 牡3 57 三井 栗・河口
7枠 15番 オンリーゴールド 牡3 57 岡西 栗・本岡
8枠 16番 サンダーマーテル 牡3 57 勝田 美・但馬
8枠 17番 キャリアウーマン 牝3 55 吉井豊 美・千田
8枠 18番 カウンターアタック 牡3 57 中田勝 美・宗方
こちらは東京競馬場のパドック。レース発走20分前、騎乗指示が出て各騎手がそれぞれの馬に騎乗するところだった。岡西も菅野に支えられてオンリーゴールドに騎乗した。そして2周ほど周回をして各出走馬は馬番順で近場道へと進んでいった。
「いよいよ本馬場入場ね。入ってきた頃に比べてゴールドはほんとに成長したわ。脚部不安でまともにキャンターも走れなかったこの子が、G1の舞台に出れるなんて去年のわたしは夢にも思っていなかったわ。前走のアーリントンカップで重賞初勝利した時でも心臓が止まるかというくらいわたしは驚いてたし」
菅野はオンリーゴールドの手綱を引きながら岡西に自分の胸の内を語った。
「そうですね、菅野さんはゴールドが入厩した時からずっとつきっきりで世話していたので思い入れも強いでしょう。やっとコイツの父親のチャイコフスキーと同じG1の舞台に立てたし、ここから父親以上の活躍を見せて種牡馬入りできればと僕は思っています」
岡西も菅野に触発されるかのようにオンリーゴールドに対する思いを語った。オンリーゴールドの血統は滅亡寸前のマイナー血統。今は亡きチャイコフスキーの血を受け継ぐ唯一の馬としてターフに立っている。そしてなによりも本岡にG1トレーナーの仲間入りをさせるチャンスが巡ってきたため、岡西は自他共にいろんな思いを引き継いでこのレースに挑む。
「そろそろ本馬場が近づいてきたわ。では、頑張ってね」
「ええ、いいパフォーマンスを見せてきますよ」
現時点でオンリーゴールドは単勝で15番人気とかなりの人気薄。オンリーゴールドは無敗の重賞ウイナーとはいえ多頭数での競馬経験がないのと初の関東輸送、そしてレース間隔が前走アーリントンカップから中10週と空きすぎていることなどを専門家はネックに挙げている。しかし、岡西は入厩した頃からオンリーゴールドのいろんな事を熟知しているため、勝ち負けまで持っていける自信はあった。波乱を巻き起こすシナリオを頭の中で思い描いているうちに本馬場が近づいてきた。
《実況アナ》
ここ東京競馬場では今週から春のG1シリーズが5週連続で開催。その第1弾がNHKマイルカップ。今年も18頭の快速自慢が揃いました。一筋縄ではいかない府中のマイルを制するのはどの馬か?各出走馬の本馬場入場です。
前走桜花賞は直線不利に泣いた3着。得意の府中マイルで切れる末脚を! ダイヤプリズムと安城勝臣!
こちらはニュージーランドトロフィーの勝ち馬。持ち前の先行力で1マイルを駆け抜けるか? タイガカルチャーと横井典保!
抽選をくぐりぬけた幸運の1頭。かつて父が1着で駆け抜けた大舞台で一波乱を! マイルロージスと幸田英晴!
名門藤枝厩舎ではお馴染みのシンダルの勝負服。愛弟子は師匠にG1タイトルのプレゼントに燃えています! シンダルサバイバーと北町宏之!
2歳G1の舞台で2着の実績を持ちます。雄大な黒鹿毛の馬体に勝負服と同じ柄のブリンカー! 距離延長で巻き返しなるか? サンセットガンズと十和田竜三!
この馬も抽選を抜けた1頭。5年前2着に泣いた今は亡き母の無念を晴らすか? カニノゼビウスと男・藤井伸也!
ヘイザン2頭出しの一角。親子のタッグで悲願のG1タイトル奪取へ! ヘイザンシャウトと池越謙介!
昨年の新潟2歳Sの覇者。骨折というアクシデントを乗り越えて前走は叩き台! 本番の舞台で一発逆転を狙います! オリモライセンスと渡部薫!
1番人気馬が出てきました! 本競走の出世レースの前走毎日杯を完勝! G1タイトルは目の前に迫っているぞ! キュクレインと鞍上は天才・武井匠!
こちらもお馴染みのタッグ。前走スプリングステークスでは落鉄に泣いて不運の10着! 皐月賞に出れなかった悔しさをマイルのダービーで晴らす! ブレスレットシティと佐渡哲夫!
前走は桜花賞11着。輸送に泣いた関東馬は地元の舞台で飛躍なるか? ニッシーカルマと前藤浩行!
ヘイザンの2頭目が出てきました! 前走毎日杯2着! 2着続きの終止符をこの舞台で! ヘイザンクリスタルと福沢祐介!
前走は15番人気の低評価で2着に食い込んだ末脚を府中の大舞台でも炸裂か? ラージエルメスと柴畑善明!
オープンクラスで掲示板を外さない堅実な走りは本番の大舞台でも健在! アドニスリンゼイと三井博康!
開業3年目の新鋭・本岡厩舎初のG1出走。前走重賞初出走初勝利の勢いに乗ってG1奪取へ! オンリーゴールドと今年G1を2勝と絶好調の岡西摩那舞!
前走ファルコンSは人気薄で粘りこんで3着。陣営は逃げ宣言! サンダーマーテルと勝田樹!
前走はスタートで大きく出遅れて15着と出番ナシだった桜花賞。気分一転ホームの府中の舞台へ! キャリアウーマンと吉井豊一!
前走ニュージーランドトロフィーでは末脚不発の5着。長い直線の府中の舞台で大外一気で駆け抜ける! カウンターアタックと中田勝秋!
以上18頭本馬場入場でした。解説の井坂さんに話しを伺いますが…。
こちらは競馬関係者が入れる最上階の特別席。本岡は双眼鏡でオンリーゴールドの返し馬の様子をチェックしていた。
(ゴールドにとっては初めての関東の輸送だったけど馬体減りもしていないし脚さばきも今のところ異常は見当たらない。あとは人馬共に無事で戻ってきてもらえれば……)
本岡は自分の管理馬が晴れのG1舞台に出てることでかなり緊張気味だった。
「いや~、本岡さん~! どないですか調子は?」
突然聞き覚えのある関西弁の口調が聞こえてきた。声の主は押切だった。
「あっ、こんにちわ。今日は押切先生の管理馬は府中で出走してましたっけ?」
「いやいや、今日はG1観に来たんですわぁ! 栗東におってもオモロいことあれへんですので。やっぱG1は生で観るに限りますわ~。いや~、1ヶ月前に本岡さんが岡西君を紹介してくれたおかげで、ワシんところの厩舎経営も光が差してホンマに感謝してますわ~」
「いやいや、わたしはすべてのことを岡西君に一任させてるだけでなにもしてませんよ」
「ワシは開業してから今に至るまで振り返ったんですが、もっとはよ~岡西君と知り合えたらよかったと思いますわ~。ようやくワシの3歳の有力馬も岡西君のおかげで来月やっと重賞出走にまでこぎつけられましたし~」
押切の言ってる3歳の有力馬とはユーロステイテッドのことで、前章の八重桜賞の翌日のレースを1秒差以上で圧勝してオープンクラスに昇格して、来月のユニコーンSに出走させる予定となっている。
「そうでしたか。お互いに頑張らないといけませんね」
「ホンマですわ~。ん? そろそろファンファーレみたいでっせ。スターターのオッサンが台に向かって歩いてますので」
押切と本岡の目の先にはスターターの係員がちょうど台に向かって歩いてるのが見えた。そのシーンが映し出されて観戦に来てた観客は大歓声をあげはじめた。スターターの台が上がって係員が白旗を横にふったのと同時にNHK交響楽団の演奏による関東G1ファンファーレが鳴り響いた。その演奏は普通の生演奏に比べて少しゆっくり目のペースで音も滑らかなものだった。ファンファーレが終わったのと入れ替わるかのように、正面スタンド内の数万人の客の大歓声が競馬場内に響いた。発走は間もなくである。
《実況アナ》
お待たせしました! 本日のメインレースNHKマイルカップ、グレードワン。各馬順調にゲート入り。奇数番の馬がおさまって続いて偶数番の馬が次々とゲート入り。最後に18番のカウンターアタックが入って体制完了……。スタートしました! きれいに揃ったスタート! まずは最初の先行争い。大方の予想通りピンクの帽子16番のサンダーマーテルがハナを切りマイルロージスが続く形。先頭はサンダーマーテル、半馬身ウチにマイルロージスが追走、その横にヘイザンクリスタル、その後ろにタイガカルチャーとヘイザンシャウト、間を挟んで黒い帽子4番シンダルサバイバー、1馬身後ろ内からダイヤプリズム、その横に1番人気キュクレイン、その横外目にニッシーカルマと牝馬3頭が並んで追走。1馬身から2馬身後ろ内からブレスレットシティ、アドニスリンゼイ、そして外にオレンジの帽子オンリーゴールドが並んで追走! そのすぐ後ろにカニノゼビウス、その内にサンセットガンズ、お終いから3.4番手に8枠の2頭キャリアウーマンとカウンターアタック、お終いから2番手にラージエルメス、そして殿に8番のオリモライセンスという体制。大欅の向こうを各馬通過! 3コーナーから4コーナーに入っていきます……。
(ほぼ平均的なペースだな。人気サイドの馬は前目で競馬している。直線に入るときは置いていかれないようにしないと)
岡西は大外寄りにオンリーゴールドを走らせていた。3コーナーを通過し、各馬ペースがアップしていく。オンリーゴールドはちょうど横を走っていたアドニスリンゼイと併走する感じで4コーナーを通過しようとしていた。岡西は今回、本岡からこれといった作戦は伝授してもらってはいない。乗り方や位置取りなどすべてにおいて完全にジョッキーに委任されていた。今シーズンすでにG1を2勝している岡西の好調ぶりから、本岡はあれこれ言われなくても岡西なら必ずやってくれると信じきっていたからである。4コーナーを通過し最後の直線勝負に入った……。
《実況アナ》
各馬4コーナーを通過! 最後の直線勝負に入った! 先頭はヘイザンクリスタル! その横をヘイザンシャウトが追走! 半馬身後ろからはキュクレインが追走! 1馬身後ろの4番手以下はドっと横に広がった! 残り400を切った! 先頭はヘイザンクリスタルとヘイザンシャウト2頭の叩き合い! キュクレインも必死に追っている! タイガカルチャー、シンダルサバイバー、あるいはブレスレットシティも上がっていく! 先頭はヘイザンクリスタル! 半馬身のリード! ヘイザンシャウト、キュクレインも迫ってくる! 大外からアドニスリンゼイなども迫ってきた! 残り200を切った! 先頭はヘイザンクリスタル! 1馬身のリード! ヘイザンシャウト2番手! キュクレインも必死で追っている! ダイヤプリズム、タイガカルチャーも迫ってきた! 大外からオンリーゴールドが一気に突っ込んできた! オンリーゴールド差しきってゴールイン! 勝ったのはなんとオンリーゴールド! 岡西してやったり! 本岡厩舎はG1初出走で初制覇! 場内は騒然としています! 勝ち時計は1分33秒フラット! 着順掲示板も上がっています! 1着は15番オンリーゴールド、2着に12番ヘイザンクリスタル、3着には7番ヘイザンシャウト、1番人気キュクレインはわずかに4着。そして最後に外から伸びてきた14番アドニスリンゼイが5着に入線。確定までしばらくお待ちください。
(よっしゃあ、ゴールドよく走った! こんなに激走するとは思ってなかったぜ)
岡西は右手に持ってるステッキを高々と上に上げてガッツポーズ、左手でオンリーゴールドの金の鬣をポンと叩いて労った。思い入れの強い馬でのG1勝利・本岡がG1トレーナーの仲間入りを果たした事・そして馬主の吉原を脱帽させる。陣営の様々な目標を同時に達成させられて岡西は喜びを爆発させていた。
「わ、わたしはほんとに勝ったんだ……」
本岡は体の震えが止まらなかった。自分の管理する馬がまさか勝てるとは夢にも思っていなかったので無理もない。本岡は目の前で起こった現実を受け止めるのに少々時間がかかった。電光掲示板の1着には間違いなく15番が点灯している。
「うわ~、岡西君やってくれたわ~! 大外からごっつええ脚使ってやってきおったわぁ! いやぁ、本岡さんおめでとう! G1勝ち先越されても~たけど、なんかごっつ嬉しい気分ですわぁ!」
押切は本岡の背中をポンポンと右手で2.3回軽く叩いて祝福した。
「あっ、ありがとうございます……」
本岡はなんで他厩舎の人がここまで嬉しそうに祝福してくれるのかを疑問に思いながらも押切にお礼を言う。
「せや、こういうめでたい日は祝勝会をやらなアカンでしょう! 本岡さん、今日レース終わったら宴会やりましょう! 宴会!」
「え、宴会ですか?」
「厩舎の初G1制覇やさかい宴会やらなアカンでしょ! 場所とかはワシがプロデュースしまっせ~!」
「え、え、わ、わたしはかまわないんですけど他の人がどうなのかが……」
断りきれない本岡は押切の押しに押されて困惑しながらも思わず承諾してしまった。
「大丈夫、大丈夫! 本岡さんの一言で他のスタッフも絶対喜んでやってきまっせ~! あっ、口取りあるから本岡さんいかなアカンちゃいます?」
「あっ、そうでした……」
「ほな、ワシは準備に取り掛かりますのでまた後で~」
押切は嬉しそうに本岡のそばを去って検量室のほうに突っ走っていった。
(押切先生のイメージが最近変わってきたような……。強引なところは予想通りなんだけど……)
本岡は押切のことを考えながら検量室前に向かって行った。
その頃、検量室前ではレースを終えた競走馬達が次々と戻ってきていた。最後にウイニングランをしてきたオンリーゴールドがやってきて1着のゲートに入った。1着のゲートには菅野と吉原が待っていた。岡西はいつもの通りバレットの道明に向けてムチとヘルメットをポンと投げて手渡す。そして菅野の支えで岡西は馬を降りた。
「すごいわ、さすが岡西君ね! 最後の直線であの末脚はわたしもビックリしたわ!」
「まさかわたしの手持ちの今年の3歳の一番最安値の馬がG1ホースになるとは……。ここまでの大誤算は今まで馬主をやってて初めてだな」
菅野は喜びを爆発させていたが吉原は冷静だった。ハナにつくような言い方をする吉原だが、内心はほんとはG1勝利できて嬉しいものである。
「僕も正直ビックリしてます。最後の直線で追っていた時、ゴールドの脚に羽が生えたような切れ味を感じました。吉原さん、コイツは予想以上におもしろい馬かもしれませんよ」
岡西はオンリーゴールドの今後の可能性をアピールした。
「今回みたいにうまくいくかどうかはわからないが、まあ頑張りたまえ」
あくまでも吉原は冷静沈着だった。しばらくして本岡が到着した。
「あっ、本岡先生! ついにG1トレーナーになりましたね」
「うんうん、電光掲示板の1着に15番が点灯した時は正直目を疑ってしまったよ。岡西君、ほんとにありがとね」
岡西と本岡は満面の笑みでガッチリと握手をした。この後、後検量も無事に終わらせてレースが確定した。3連単では約80万ほどつく高配当がついたという。
こちらはヒーローインタビューの会場。フジテレビのアナウンサーが岡西が来るのを待っていた。レスを確定させてすぐに岡西がやってきてインタビューがはじまった。
『放送席、ヒーローインタビューです。NHKマイルカップを勝ちました岡西騎手におこしいただきました。おめでとうございます』
「あっ、ありがとうございます」
『単勝15番人気という人気薄でのG1勝利についてどう思われますか?』
「そうですねえ、あまり人気のことは考えないでリラックスして乗れたのがこの結果に繋がったと思います」
『最後の直線なんですが大外からものすごい末脚で差しきったんですが、その時どんな気持ちで追ってましたか?』
「そうですねえ、道中も折り合いがついていて気配もよかったので、馬場のいいところを走れば届くかなと思って追ってましたけど最終的に1着でゴール板駆け抜けたときは自分でも正直ビックリしました」
『オンリーゴールド号を管理する本岡厩舎は初G1出走で初制覇という記録を打ち立てましたが、それについて感想を一言お願いできますか?』
「そうですね、本岡先生とは厩舎開業前からの付き合いがありまして、いつかはG1勝たせたいと思っていました。こんなに早く達成できて嬉しく思います」
『最後にファンに向けて一言お願いします』
「え~、まだ春のG1戦線は始まったばかりでこの勢いに乗って飛躍していきたいと思いますので応援のほうをよろしくお願いします」
『ヒーローインタビューは以上です。おめでとうございました』
「ありがとうございました」
ヒーローインタビューを終わらせた岡西はインタビュー会場を後にして検量室へと向かって行った。ちょうど検量室の入口に見覚えのある男が満面の笑みで腕を組んで立って待っていた。押切である。
「あれ? 押切先生、今日出走馬いましたっけ?」
「いやいや、今日はG1の観戦に来たんやぁ。栗東におっても退屈やさかい東京にやってきたんやぁ。いや~、今日のレース凄かったわぁ!あそこまで気分がスカッとするレースはなかなかあれへんからなぁ。やっぱ岡西君は違うなぁ」
「いえいえ、たまたまゴールドが予想以上のいい脚を見せてくれたからです。僕は怪我のないように注意して乗ってただけですので」
「かぁ~。謙遜しちゃって~。せや、今日はレース終わったら本岡先生祝勝会予定してるみたいやでぇ! まあG1勝ったんやから当たり前やなぁ」
「そうなんですか? 場所とか決まってるのでしょうか?」
「まあ場所についてはゲストのワシに任せとけば大丈夫やぁ!今夜はパーと盛り上がらなアカン!」
「え? 押切先生がゲストって?」
「あ~、同じ同業者として本岡先生を祝いたいという意味でのゲストや~。もちろん岡西君は立役者なんやから参加せなアカンでぇ」
「ま、まあ今日は予定ありませんしお付き合いしますよ」
「よっしゃ! ほなワシは宴会の準備するさかい、また後でな~!」
押切は岡西と祝勝会の話をつけて検量室を後にしていった。
(なんであの先生が他厩舎のイベントに乱入してるんだか……)
岡西は押切の一連の行動に疑問を持ちながら表彰式へと向かって行った。