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三冠への道(皐月賞編)

 時は2005年シーズンの4月3週。場所は快晴の中山競馬場。この日は牡馬クラシックの最初の関門である『皐月賞』が行われる。このレースは三冠の中でもっとも早い時期に開催されて、最も短い距離で行われるため「最もはやい馬が勝つ」と言われる。今年も18頭の精鋭達が集結!弥生賞・スプリングS・若葉Sのトライアルレースで優先出走権を得た8頭をはじめ、抽選をくぐりぬけて出走できた馬も中にはいる。馬柱表は以下の通り。


中山11R 皐月賞 G1 芝2000M 良 15:45~発走


1枠 1番 カグラノセンプウ  牡3 57 ルベール 栗・芦口

1枠 2番 オリエンタルバード 牡3 57 蛇奈   美・鹿野

2枠 3番 アルマイヤゴールド 牡3 57 安城勝  栗・松木博

2枠 4番 カゼノナイアオゾラ 牡3 57 柴畑善  栗・音有

3枠 5番 キリンジ      牡3 57 武井幸  栗・池井朗

3枠 6番 カニノターゲット  牡3 57 藤井   栗・河口

4枠 7番 エアロモントレー  牡3 57 福沢   栗・池井寿

4枠 8番 ヴィランドル    牡3 57 池越   栗・坂内

5枠 9番 マークブリザード  牡3 57 武井匠  栗・石塚

5枠 10番 メガロアベニュー  牡3 57 吉井豊  美・古久保洋

6枠 11番 アルマイヤサンズ  牡3 57 石田   栗・殿道

6枠 12番 ニッシーパントル  牡3 57 村井   美・鴻巣

7枠 13番 ロッジマゼラン   牡3 57 横井典  美・荻沢

7枠 14番 ギガクロスブレイク 牡3 57 岡西   美・藤枝和

7枠 15番 ウインザートーレス 牡3 57 前藤   美・大東

8枠 16番 カンフーアキレス  牡3 57 大牧   栗・佐渡

8枠 17番 トリコロール    牡3 57 秋川   栗・池井寿

8枠 18番 メイトウカゲツ   牡3 57 石垣衛  栗・足立


──皐月賞発走1時間半前──


 ここは中山競馬場内の調整ルーム。奥の部屋には100種類以上の勝負服や鞍が所狭しと並べられている。ここでは「バレット」と呼ばれるレース開催時において騎乗時に使用する勝負服の準備・斤量の調節などをする騎手の裏方達が、各担当の騎手のために準備を進めていた。そのバレットの中の1人で今年20になったばかりの青年がいた。彼の名は斉藤道明。担当騎手は岡西である。元々岡西のバレット役は昨シーズンまでは岡西のいとこがやっていたが、公務員への就職が決まって昨年いっぱいでバレットの仕事をやめたため、急遽バレットの応募をして今年から岡西の裏方として働き始めた。道明はバレットをはじめて4ヶ月経ってようやく仕事にも慣れてきた頃だった。


「えっと、皐月賞はギガクロスブレイクで57キロ……。勝負服は社来レーシングで、鞍は5キロ分の鞍を作らないと…。確かまなさんの今の体重が52キロだから……。よし、できた。あとは手渡すだけだ…」

「お~い、ミッチ。準備できたか? そろそろ前検量はじまるんだが」

「あっ、はい。これが社来の勝負服でこっちがの鞍とゼッケンです」


催促してきた岡西に道明は少々ぎこちない手つきで岡西に鞍を手渡そうとした。


「おっと、ちょっと待っててくれ」


岡西は前のレースで使った勝負服を脱いで道明に手渡した。そして社来の勝負服を手にとってそのまま着た。


「まなさん、レース頑張ってくださいね」


道明はそう言って鞍とゼッケンを岡西に渡した。


「ああ、もちろんだ。ところで斤量間違ってないだろうな?」

「あっ、はい。ギガクロスブレイクの斤量は57で、まなさんの体重が52だからその鞍は5キロありますので大丈夫です」

「そうか、ならいいんだが。この仕事には慣れたか?」

「そうですねえ、入ったばかりの頃に比べて自分なりに成長はしたんじゃないかなあと思います」


道明は岡西の突然の質問に戸惑いながらも仕事に慣れてきたことをアピールした。


「なるほどな、まあくれぐれも斤量ミスだけは勘弁してくれよ。お前、この間のフェブラリーSの時だって牝馬のキタノアルタイルに危うく牡馬と同じ斤量背負わされるところだったからなぁ」

「そ、そうでしたね……」

「あの時はアルタイルの鞍を持った瞬間、なんか重いなと俺が気づいたからよかったんだが、もし急いでそのまま持っていったら前斤量で引っかかってたからなあ」

「は、はい……」


道明は過去の失敗を岡西に指摘されて右手で頭を掻きながら申し訳なさそうにふるまっていた。


「まあ今回は牡馬しかいない定量だからわかりやすかったと思うけどな。では行ってくるぜ。前検量を終わらせたら藤枝先生と最後の打ち合わせもしないといけないので。今日使った勝負服はまとめて洗っておいてくれ」

「あっ、はい。わかりました」


岡西は道明が準備した鞍とゼッケンを持って調整ルームを後にして、前検量へと向かって行った。その様子を道明は心配そうに見つめていたが、目の先で自分が用意した鞍が前検量をパスした瞬間ホッと胸をなでおろした。


 現在に戻って時計は15:20分を差していて、皐月賞出走馬18頭の本馬場入場がはじまろうとしていた。


《実況アナ》


 快晴の中山競馬場。今年もやってまいりました、三冠クラシックの第一関門の皐月賞。18頭の精鋭たちが次々と馬場に入ってまいります!


前走スプリングステークスは勝馬と1馬身差の3着。本番の大舞台でイン強襲炸裂! カグラノセンプウとフランスの名手クライスト・ルベール!


2走前の京成杯は3馬身差の圧勝。同じ距離・同じ舞台であの強さをもう一度! オリエンタルバードと蛇奈正俊!


アルマイヤ軍団2頭出しの一角。前走弥生賞3着。5年ぶりのクラシック制覇へ向けて! アルマイヤゴールドと安城勝臣!


前走若葉ステークスは12番人気で2着。春満開の青空で持ち前の粘りを見せて頂点へ! カゼノナイアオゾラとベテラン柴畑善明!


オープンクラスで掲示板を外さない堅実な走り。史上初の九州産馬のG1ホースへ! キリンジと一発が怖い武井幸治!


3歳デビューで3戦3勝。狙いはもちろんG1という名のビッグタイトル! カニノターゲットと男・藤井伸也!


前走スプリングステークスは僅差の2着。父も制したこの舞台で親子制覇に向けて! エアロモントレーと福沢祐介!


昨年は2歳の重賞戦で2勝。3歳になって心身共に充実の一途。豊富なキャリアでG1ホースへ! ヴィランドルと池越謙介!


前走・前々走はいずれも同じ馬の2着。打倒ギガクロスブレイクに向けての気迫の走り! マークブリザードと天才・武井匠!


前走スプリングステークスの勝馬。不動の師弟タッグが勢いそのままG1獲りへ! メガロアベニューと吉井豊一!


アルマイヤ軍団の2頭目が出てきました。前走は不発に終わった自慢の末脚。G1の大舞台で華開くか? アルマイヤサンズと兵庫のリーディングジョッキー・石田康徳!


15分の2の抽選をくぐりぬけた幸運を元にいきなりのG1奪取へ! ニッシーパントルと皐月賞初出走の村井一成!


昨年の札幌2歳Sの覇者。怪我のアクシデントを乗り越えて夢の大舞台へ戻ってまいりました! ロッジマゼランと関東の名手・横井典保!


さあ1番人気馬が出てきました! 名門・藤枝和彦厩舎が送り出す最高傑作! 三冠ロードに向け面舵一杯! ギガクロスブレイクと岡路氏から後を継いだ岡西摩那舞!


前年度の2歳王者は3歳になっても「王者」の称号は譲れない! ウインザートーレスと前藤浩明!


地方から中央へ転厩してきてダートのオープンレースを圧勝。その圧勝劇を芝の舞台でも見せつけるか? カンフーアトラスと大牧太!


両親共にG1ホースの超良血馬。一族のプライドをかけていざ、大舞台へ! トリコロールと秋川真二!


抽選を突破したラッキーホースの2頭目。大外から怒涛の追い込みを見せるか? メイトウカゲツといぶし銀・石垣衛!


以上18頭の本馬場入場でした。解説の井坂さんに伺いますが……。


(足取りは軽いな。これだけの大歓声に物怖じすることなく堂々としてる。ここまで自信を持ってG1レースに挑むのははじめてかもしれんな……)


岡西はギガクロスブレイクを走らせながら、この馬の能力の非凡さを鞍上から感じ取っていた。ギガクロスブレイクは現在単勝2.0倍の1番人気だが、岡西はプレッシャーというのをほとんどと言ってもいいほど感じてはいなかった。むしろすでに頭の中で勝利の道しるべを描いていた。藤枝からは仕掛けどころを間違えないようにと念を押されていても、岡西の騎乗プランの中にはそのことも最初からきちんとインプットされていた。

 レース発走5分前、正面スタンドの10万近い観客はそれぞれスポーツ紙や競馬新聞を丸めてG1のファンファーレを待っていた。ターフヴィジョンではここ3年の皐月賞のハイライトが流れていた。一方の出走馬18頭は正面スタンドのスタート地点前で輪乗りをしていた。競馬関係者・観客の1つ1つの光景がG1独特の緊張感をつくりあげている。ターフヴィジョンのハイライトのシーンが終わって、スターターの係員がスタート台に向かっていくシーンが映った瞬間、観客は歓声をあげて手拍子を始める人も出てきた。そしてスタート台が上がって、スターターが白い旗を横に振ったのと同時に自衛隊の音楽隊の生演奏で関東G1のファンファーレが鳴った。それに合わせて10万近い観客達もファンファーレに合わせて手拍子をはじめる。ファンファーレが終了したのと同時に10万人の観客が待ってましたといわんばかりにいっせいに大歓声をあげる。皐月賞の発走は間もなくである。


《実況アナ》


 お待たせしました。中山本日のメインレース・皐月賞グレードワン。三冠シリーズの初戦に18頭の精鋭が集まりました。ゲート入りは順調に行われています。奇数番の馬が終わって偶数番の馬が係員に誘導されています。1番人気の14番ギガクロスブレイクも収まりました。最後に18番のメイトウカゲツが入りましてゲートイン完了! 2005年シーズン皐月賞・最も速い馬はどの馬か? 今スタートしました! まずまず揃ったスタート。ギガクロスブレイクはいつもどおり後方からの競馬です。まずは激しい先頭争い、緑の帽子ニッシーパントルと大外ピンクの帽子メイトウカゲツがハナの奪い合い。追ってウインザートーレス、マークブリザード、オリエンタルバードも先団に加わっていきます!ギガクロスブレイクは最後方です。各馬1コーナーから2コーナーを回り向こう正面へと入っていきます。先手を取ったのはニッシーパントル、すぐ外半馬身ほど後ろにメイトウカゲツ、4馬身ほど後ろ3番手にウインザートーレス、並んで黄色い帽子9番のマークブリザード、その内にオリエンタルバード、半馬身後ろ外にロッジマゼラン、1馬身後ろ内からカグラノセンプウとヴィランドル、間を挟んでキリンジ、その後ろにエアロモントレー、半馬身後ろにアルマイヤゴールドとタニノターゲットが並んで追走。その半馬身外に10番メガロアベニュー、お終いから2・3頭目に8枠の2頭カンフーアキレスとトリコロール、そして殿に14番ギガクロスブレイクという展開……。


(よし、計算どおりだ。前の馬との差は1000Mを切ったあたりから自然と縮まってくるだろう。今のうちに外に持ち出しておかないと……)


岡西は最後方で前を走る17頭の他のライバル馬のポジション取りやペースをうかがいながら、ギガクロスブレイクを自然と大外に持ち出した。トリッキーな中山のコース形態では大外一気はあまり通用しなく、前の馬がそのまま残るというというパターンが多い。しかし、ギガクロスブレイクにはその理論はお構いなしという確信を岡西は既に心の中に持っていた。


《実況アナ》


 残り1000メートルを通過。ややハイペースなタイム。先頭争いはニッシーパントルとメイトウカゲツ、3番手以下の馬団が次々と上がっていって前の2頭を飲み込もうという勢い。各馬3コーナーを通過! ニッシーパントルとメイトウカゲツは一杯になったか?ここで先頭はマークブリザードに替わった! エアロモントレー、カグラノセンプウ、ヴィランドルなどが前に進出! ギガクロスブレイクは大外からスっと上がってきた! それに連れてトリコロールも上がってきた! 各馬4コーナー最後の直線勝負! ここで先頭はエアロモントレーに替わった! 1馬身のリード! 2番手争いはマークブリザードとカグラノセンプウ! ヴィランドルやウインザートーレスも懸命に追っている! 大外から一気にギガクロスブレイクやってきた! 前の3頭をあっという間に抜き去って先頭に踊り出た! 残り200を切った! 先頭はギガクロスブレイク! 2馬身から3馬身のリード! ギガクロスブレイク独走でそのままゴールイン! まずは一冠達成! 完全な横綱相撲! 残り800Mから17頭ごぼう抜き! 他馬を全くよせつけませんでした! 勝ち時計は1分59秒フラット……。


(よし、いい走りだった! 三冠の道も開けてきたぞ~!)


岡西は9年目にして初の8大競走の1つを制覇。気持ちは次走の日本ダービーへと進んでいた。レースを終わらせたギガクロスブレイクを誘導させてウイニングランへと向かおうとしていた。他の敗れた騎手から労いの言葉をもらいながら、大歓声が待つ正面スタンドへとギガクロスブレイクを誘導させた。悠々とターフを走っていくギガクロスブレイクに観客達は大歓声で迎えた。岡西は大歓声に向けて満面の笑みで右手を高々と上げて人差し指を立てて「まずは一冠」というふうにアピールした。観客の大歓声を後にしてギガクロスブレイクは地下馬道へと入っていった。検量室前ではたくさんの競馬関係者が拍手で迎えてくれた。岡西は周りに何度も一礼しながら1着のゲートへとギガクロスブレイクを誘導させた。その先には吉原・藤枝・草野の3人が待っていた。そして少し離れたところにバレットの道明が嬉しそうに待機していた。まず岡西は道明に向けてムチとかぶっていたオレンジの帽子とゴーグルを順番にポンと投げて手渡した。そして草野に支えられて馬を降りた。


「摩那舞、ご苦労さん。いい競馬だったな。わたしもお前もお互いに牡馬クラシック制覇は初めてだからなあ」


藤枝は岡西とガッチリ握手して大いに労った。


「え? 藤枝先生。クラシック勝ったことありませんでしたっけ?」


意外な事実に少し驚く岡西。


「ウチは基本的にクラシックに照準を合わせない方針だ。馬体が完成させていないのに無理使いをさせて競走馬生命を削らないように常に心がけているからな。だがコイツは3歳にしてすでに馬体がほとんど完成してるのでこうやってクラシックの舞台に立てるわけだ」

「なるほど」

「次走はもちろん日本ダービーだ。次もよろしく頼むぞ」

「あっ、はい」


藤枝の言葉にすぐに気持ちを切り替える岡西。その後、岡西は草野が取り外してくれた鞍を持って後検量へと向かって行った。後検量も問題なくパスして確定の赤ランプがついた。


 こちらはヒーローインタビューの会場。1人のフジテレビのアナウンサーが待機して岡西が来るのを待っていた。確定後、すぐに岡西がやってきてインタビューが始まった。


『放送席、ヒーローインタビューです。皐月賞を勝ちました岡西騎手にお越しいただきました。おめでとうございます』

「ありがとうございます」

『いや~、ふたを開けてみれば3馬身差の圧勝。しかも17頭ごぼう抜きという内容。乗ってて相当気持ちよかったんではないでしょうか?』

「そうですね。残り800Mあたりから外に持ち出して、捲くれば届くという確信は持っていました。それが見事に決まってよかったと思います」

『コンビ2戦目でG1制覇。岡西騎手にとってギガクロスブレイクの走りについてどう思われますか?』

「そうですね、とにかく強いの一言です。今まで乗った馬の中でこれだけの能力の高い馬に巡り合ったことはなかったと思います」

『岡西騎手にとって意外なことに8大競走を制したのが初めてだったということなんですがそれについて感想を一言お願いできますか?』

「そうですね、まあ純粋に嬉しいです。ここ4年間は8大競走はおろか、G1が勝てなかったシーズンが続いていましたので……」

『最後になりましたがファンに向けて一言お願いします』

「え~、次走もこの馬の強さをいかんなく発揮させるためわたしも全力を尽くしますので、応援のほうをよろしくお願いします」

『ありがとうございます。インタビューの談話は以上です。今日はおめでとうございました』

「ありがとうございます」


インタビュー席を後にした岡西はギガクロスブレイク陣営の関係者と共に表彰式の準備を始めた。インタビュー中にいつもの通り岡西に関するテロップが流れたがその内容は以下の通り。


《岡西摩那舞騎手。騎手9年目26歳美浦フリー。今シーズンの重賞制覇は5勝目。皐月賞は初制覇。今シーズンのG1はフェブラリーSのキタノアルタイルに続いて2勝目。ギガクロスブレイクとはコンビ2戦目で初のG1タイトル》


 一方こちらは検量室隣のモニタールーム。レースに敗れた騎手達が画面を食い入るように見てレースを振り返っていた。


「勝った馬強かったなぁ~」

「あんな走りされたら俺らはお手上げだ」

「あの馬に次走どうやって勝つか……」


どの騎手もギガクロスブレイクのレースぶりにお手上げ状態だった。岡西も他の騎手と同じようにモニターでギガクロスブレイクの走りを確認していた。


(こうやって見て見ると俺はとんでもない馬に乗ってるというのがよくわかるなぁ……。ダービーの時は絶対執拗にマークされるな……)


岡西の心の中にG1勝ちの余韻に浸ってる暇はなかった。強い競馬を見せるということは、次走は今日以上にマークされるのは必須だからである。ましてや次の舞台はホースマンみんなが憧れる日本ダービー。岡西の気持ちは自然と引き締まっていた。


 中山競馬場から場所は変わってここは栗東トレセン内の押切厩舎の休憩室。押切は和室で春の暖かい日差しで睡魔に襲われてのん気にいびきをかいて寝ていた。


「ぎゃ! ごっつ痛いわぁ!!! アイタタタタ……」


押切は寝返りでちゃぶ台の脚のところで思いっきり頭を打った。そして頭を抑えながら地面をのた打ち回る。


「ん~~、なんや~~~。ワシ寝ても~たんかいなぁ」


押切は舌打ちしながら頭をかきむしった。


「ったくこの時期はごっつ暖かいからやっぱ睡魔に襲われてまうわぁ」


押切は両目を右腕でこすって目を覚まそうとしていた。


「今何時や?」


押切は寝ぼけなまこで和室の時計を見たら16時半を表示していた。


「今日はなんのテレビ番組あるんやったかいなぁ」


押切はスポーツ新聞のテレビ欄を見ようとした時、ちょうど皐月賞の馬柱票の記事を見て自分が重要なことを忘れていたことに気づいた。


「あ!!!! しも~た!!! 今日は皐月賞やったんやぁ!!!! う~わ、もう競馬終わってるから見逃しても~たわ!!!!」


押切は両手を頭に抱えて嘆いた。


「ちょっと結果見てみるかぁ~。ん? う~わ、岡西君3馬身差で圧勝しとるわぁ。あ~、ワシも中山行けばよかった!!!!」


押切は携帯の競馬を扱うサイトで今日の皐月賞の結果を見てさらに嘆きの度数が増えて、地団太を踏み始めた。押切の地団太は2時間ほど続いたという。押切が嘆いている間に中山競馬場では滞りなくギガクロスブレイクの表彰式も終わり、レース終了後の夕方は社来ファーム代表の馬主の吉原のはからいで都内で祝勝会を2時間ほど関係者の間で行われたという。

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