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誕生!ゴールデンタッグ

 時は2005年4月1週の木曜追い切り日。栗東は快晴。どん底の厩舎経営だった押切厩舎にも春の日差しが注がれようとしていた。昨日,小倉橋の提案で岡西を迎え入れた押切は朝から上機嫌モードだった。


「お~、オマエらきちんと掃除しとけよ!!ワシらも今日から気分一転やぁ!!」


通常の怒鳴り声とは違うが、相変わらずの野太い声でスタッフ達に激を飛ばす押切。ミーティングで中間追切の内容を調教助手の小橋・亀山に伝えて、その後、手が空いてる厩務員にいきなり厩舎内の大掃除をさせるという。押切の機嫌はいいとはいえ、小倉橋以外に対するスタッフの扱いは相変わらずひどい。


「先生どうしたんだろ急に?」

「なんかフリーの騎手が乗りに来るというのをさっき小倉橋さんから聞いたんだけど」

「え~、ウチの厩舎に? 物好きな騎手もいるもんだねえ」

「ちゅん君以外で騎乗依頼受けてくれる騎手ってここ数年間殆どいなかったのに……」


部外者を寄せ付けないと知られていた押切厩舎に、ちゅん以外の騎手が来るということは極めて稀なことで、厩務員達はかなり驚いていた。


「おい、コラ!!! なにダベっとるか~? ちゃんと掃除やれや~!」

「は、はい~~」


雑談をしていた厩務員達は押切に見つかり、一喝されたのと同時に慌てて掃除を始めた。この掃除は約30分ほど続いたという。


 その頃、岡西は春の日差しの中を颯爽とオートバイで京都の別荘から栗東トレセンに向けて向かっている最中であった。


(前から気にかけていたあのユーロステイテッド。ついに俺が乗る時が来た。俺の眼が本物か節穴かというのも今日の最終追切でわかることだ。俺はあの馬の力は一級品だということを信じてる)


岡西の頭の中はユーロステイテッドのことで一杯だった。


(それにしても昨日本岡厩舎の事務所で話していた小倉橋さんっていう厩務員すごい人だった。ああいうタイプの人は初めてだったよ。正直、押切先生より小倉橋さんのほうが調教師に見えてしまった。確か大西さんが言うには、押切厩舎はあの小倉橋さんがいたおかげであそこまで持ったって。あれだけ俺の心理を見極めれたんだからあれなら頷けるよ)


岡西はユーロステイテッドに続いて小倉橋のことを考えていた。あれこれと考えているうちに栗東トレセンの駐輪場に到着した。岡西はヘルメットとライダースーツを脱いで、目的地の押切厩舎へと歩いていった。


(今日はやけに静かだなあ。いつもだったらあの先生の怒鳴り声が聞こえてくるのに……。まあいつもこれなら平穏そのものなんだけどなあ)


岡西は他愛もないことをふと考えながら歩いていた。しばらくして押切厩舎の入口に着いた。


「おはようございます~。誰かいますか~?」


岡西は呼びかけながら押切厩舎の建物内に入っていった。しばらくして調教助手の小橋と鉢合わせになった。


「あっ、テツ~~~~!!!」

「あっ、摩那舞。久しぶり~」


岡西と小橋は約10年ぶりの再会にお互いに驚いていた。「テツ」という愛称は小橋の名前の「哲也」から来ている。


「いや~、ビックリしたなあ。騎手過程をリタイアして厩務員過程に行ったことは知ってたけど、ここで働いていたとは思ってもいなかったぜ」

「俺もウチの厩舎に新しいフリーの騎手を迎え入れるってミーティングの時に聞いて誰なのかなあと思ったらまさか摩那舞だったとは……」


実はこの二人は同じ歳で元々は騎手学校の同期生だった。しかし1年の2学期の時、小橋はある事件に巻き込まれて視力を低下させてしまって騎手の道を断念せざるを得ない状況になった。岡西はその時の状況を痛いほど知っているため、この事件についてはお互いに暗黙の了解で極力触れないようにしていた。


「ゆっくり話したいのはやまやまなんだけど、押切先生どこにいるか知らないかい?」

「う~ん、たぶんそこの事務所にいるんじゃないかなぁ」

「あそこが厩舎の事務所なんだな。ありがと。また時間があったらのんびり話そうぜ」

「うん、じゃあね」


岡西は小橋と別れて事務所の入口のドアに立った。そして2回ほどノックした。


「ん? 誰や~?」


ソファーにふんぞり返ってめんどくさそうに何者かを尋ねる押切。


「あっ、すいません。岡西です~」

「ん? 岡西君か? いやいや、スマンスマン。まあ入って~な」


ノックした相手が岡西と知って、押切はさっきとは打って変わって気さくな口調で岡西を事務所内に招き入れた。


「失礼します」

「お~、岡西君いらっしゃ~い! 待っとったでぇ!!」


押切の表情は今までにないくらい嬉しそうだった。見た目とは裏腹の予想外の気さくな押切の振る舞いに岡西も少々拍子抜けしていた。


「お約束どおりユーロステイテッドの最終追切に来ました」

「ウンウン、小倉橋さんがそろそろ鞍と蹄をつけて準備も済んだ頃や思うので装蹄所のほうに行くかいな?」

「そうですね、お願いします」

「ほな、いこか」


ユーロステイテッドが待つ装蹄所に向けて押切の後を岡西がついて行った。この時、岡西はユーロに早く乗りたいという気持ちで一杯だった。


「押切先生、最終追切のメニューはどういった感じで?」

「せやな、坂路3ハロンを39.7で駆け抜けて~な」

「ず、ずいぶん速い時計ですね。3歳の未勝利クラスとは思えないくらいのタイムです……」

「まあ一般的には速すぎる思うが、あの馬やったらこれが走れるんやぁ。まあ乗ってもらえればわかるでぇ」

「あっ、はい。わかりました」


押切と岡西は装蹄所に向かいながら最終追切の打ち合わせをしていた。


(今までこれだけ普通にいいタイム出してるのになんで勝てなかったんだろ? まあレースになって力を出し切れずじまいというのもありえるしおそらく理由はそのあたりだろうな……)


岡西は押切の後をついていきながらユーロステイテッドのこれまでのレースを振り返っていた。


「小倉橋さ~ん。岡西君来ましたで~。準備はよろしゅうおまっか~?」


押切は装蹄所で準備をしていた小倉橋に声をかけた。


「ええ、今準備を済ませたところです」

「よっしゃ! 岡西君、後は頼むで~! ワシは調教スタンドからユーロの走りチェックしておくさかい」

「あっ、はい。わかりました」

「ほな、また後で」


押切はスキップしながら双眼鏡片手に栗東トレセンの施設の調教スタンドに向かって行った。嬉しそうにしてるのはわかるが、押切のスキップに岡西と小倉橋はややぎこちなさを感じた。


「あの~小倉橋さん、押切先生っていつもあんな感じなんですか?」

「う~ん、いつもなら殺気立って歩いている感じだったけど、今日は岡西君が来ているから機嫌がいいみたいだね。まあやっと厩舎の経営に光が差してきたし、あとは勝ち星がついてくれば先生の機嫌も今まで以上のうなぎ上りを見せてくると思うよ」

「なるほど、それは勝ち鞍をプレゼントしないといけませんね」

「そうだね。あっ、そうそう。ここだけの話だけど押切先生はああ見えても奥さんに頭が上がらないみたいだよ」

「ぶっ、あの人結婚してるんですか?」


突然の小倉橋のマル秘情報に思わずふいてしてしまう岡西。


「そうだよ、この間も厩務員を説教した後に奥さんからメールが入ってきて、その内容を見た途端血相を変えて帰っていったので間違いないと思うよ」

「あのイカつい容姿の押切先生を尻にひくってどんな嫁さんなんだよ……」


岡西は嫁の前で縮こまってる押切を全く想像できなかった。


「ではそろそろ向かおうかね」

「あっ、はい」


岡西は小倉橋に支えてもらってユーロステイテッドに乗った。岡西が乗ったのと同時にユーロステイテッドは次第に気合が乗ってきた。そして小倉橋に誘導され、坂路コースへと向かって行った。


──追切中──


(すごい、力強いピッチ走法のフットワークだ……。体つきがしっかりしてるのでコイツは故障とは無縁だな……。オンリーゴールドもこれくらい丈夫だったら本岡先生も楽なんだけどなあ)


岡西はユーロステイテッドを持ったままの状態で最初の1ハロンを通過して13.2とタイムを刻んだ。走らせてるうちにユーロステイテッドと同じ歳のオンリーゴールドのことをふと思い出していた。


(ん? コイツは俺が追わなくても自分で加速してるぞ。負けん気の強い馬なんだなあ……。ギガクロスブレイクと並ばせて直線勝負させたらどっちが勝つんだか……)


2ハロン目を通過して26.4。今度はもう1頭の同世代のギガクロスブレイクのことを思い出していた。今年のクラシックはギガクロスブレイクで三冠を獲ることを決意してるため、このユーロステイテッドの今後の活躍の場を考えていた。


(さあ、終い決めてくれよ! 小倉橋さんが昨日言ってたこの馬でのドバイへのリベンジ…。キタノアルタイルとどっちが2000Mのダートに適してるか!)


最後にキタノアルタイルとの違いを見極めるため岡西の追いに力が入った。人馬一体の状態で最後の3ハロンを通過!タイムは39.6と出た。


 その頃、調教スタンドで押切は双眼鏡でユーロステイテッドの絶好の追い切りに目を細めていた。ガラの悪いサングラスから目の形は確認しづらいが、嬉しそうに頭を何回もタテにふっていた。


「いや~、やっぱ違うなぁ。こりゃレース楽しみやわぁ。こんな嬉しい気分でレース挑めるのってはじめてかもしれへんわぁ」


押切は大笑いしながら調教スタンドを後にして自厩舎に戻っていった。その姿を見た他の調教師達は、押切の異様な笑みを見て「ついに頭おかしくなったんでは?」と噂をし始めた。


 場所は押切厩舎内に戻って、押切と岡西はユーロステイテッドのことで話をしていた。


「いや~、岡西君。ええ最終追い切りやったでぇ。ユーロに乗った感想はどないかな?」


押切は満面の笑みで岡西に尋ねた。


「すごいもなにも僕はほとんどユーロを追わなくて栗東の坂路をあのタイムであっさり駆け上がるくらいでしたから……。コイツがほんとに未勝利クラスの3歳馬なのかと疑問に思いました」

「ウンウン、トップジョッキーのお墨付きなんやから日曜のレースは勝ち鞍いただきやな」


押切は岡西の感想を聞いて、頭の中はすっかりレース勝利後の口取りのことを考えていた。


「いやいや、トップジョッキーだなんて……。匠さんに比べれば僕はまだまだですよ……」


自分を持ち上げてくれるのは嬉しいが、まだ全国リーディングになったことがない岡西にとって『トップジョッキー』という言葉に抵抗を感じていた。


「そんな謙遜せんでもええでぇ! 岡西君は誰もが認める関東を代表する騎手の1人なんやから~! G1勝ちだってそのうちザックザク挙げれるでぇ!!」


押切は抵抗を感じている岡西の気持ちを考えずに脳天気に持ち上げていた。


「あっ、そろそろ時間ですね。出馬投票もそろそろ始まりますし僕は関東に戻ります。土曜日は中山で騎乗ですので。ではレース当日にあいましょう」


岡西は厩舎の時計を見て9時を回っていた。


「あ~、せやなぁ。ほんまはゆっくりしていってもらいたいけど、レース前の騎手は調整ルーム入らなアカンからしゃ~ないわな。まあレース当日は頼むで~!」

「あっ、はい。では失礼します」


岡西は押切に一礼して押切厩舎を後にしていった。岡西が去って行った後の押切は寂しそうだった。


──3日後──


 こちらは阪神競馬場。絶好の快晴日和で競馬場内に植えられてる木々の中には、桜の花を咲かせようとしている木もあった。時計は9:30分を差していてあと30分でこの日の1Rが始まる。この出走馬達の中にあのユーロステイテッドが新パートナーの岡西を鞍上に出走してくる。


阪神 1R 3歳未勝利戦 ダート1800M 良 10:00~発走


1枠 1番 ジャパンアクロス  牡3 56.0 葛西  栗・中橋

2枠 2番 ナビゲーター    牡3 56.0 下村  栗・芦口

3枠 3番 ユーロステイテッド 牡3 56.0 岡西  栗・押切

4枠 4番 グランドプライム  牡3 56.0 藤井  栗・山口

5枠 5番 マイルチェリスト  牡3 53.0 川辺▲ 栗・宮原

5枠 6番 アサノクレイモア  牡3 56.0 三井  栗・古久保龍

6枠 7番 ケイエムアロー   牡3 56.0 十和田 栗・石本

6枠 8番 パフェブレーブ   牡3 56.0 前藤  美・松川

7枠 9番 フジコウデュラハン 牡3 56.0 池越  栗・池越

7枠 10番 ヘイザンマリウス  牡3 56.0 福沢  栗・野茂

8枠 11番 アクセスアトム   牡3 56.0 北町  美・黒田

8枠 12番 ミストルティン   牡3 56.0 蛇奈  美・国木田


 こちらは最上階にある競馬関係者だけが入れる控え室。押切は双眼鏡でユーロステイテッドの様子をチェックしていた。


「ウンウン、やっぱ鞍上が岡西君やからアホのちゅんの時と比べてみてて楽やわぁ~。なんか知らんがここ3走負け方が悪かったせいで3番人気やが、まあ岡西君が全部蹴散らしてくれるやろ~」


押切は椅子にふんぞり返ってのんびり返し馬の様子をみてていた。


「押切先生、こんにちわ」


押切は後ろからいきなり声をかけられて慌てて体勢を立て直した。


「あ~、これは福盛さん。いつもお世話になってます~」


押切は話しかけてきたのが福盛とわかって慌てて礼儀よく取り繕った。


「今日はウチの馬の騎手が乗り替わりになってるみたいですけど……」

「ええ、その通りです。ようやくウチも腕のいい騎手を確保できて必勝体勢ですわ~!」

「確かあの騎手は昨年の関東のリーディングジョッキーみたいですね?」

「そうなんですよ、今まで乗ってたのがゼンマイやったんですけど、今回はルマンモーター背負って走らせるようなもんですから勝てまっせ~! ワハハハハ!」


乗り替わりで鞍上強化は確かだが、押切はわかりにくいたとえ話で今までにない自信をみなぎらせていた。


「ず、ずいぶん頼もしいですね。初勝利楽しみにしてますよ。そろそろレースが始まりますね」


福盛はどこから出てきてるのかわからない押切の自信満々ぶりに、困惑しながらも戦況を見つめていた。


 一方、スタート地点前では12頭の出走馬が輪乗りをして待っていた。しばらくして係員のスターターがやってきて台の上に乗り、旗を振ってファンファーレの合図を送った。関西一般のファンファーレが鳴って各馬がゲートインを始めた。


《実況アナ》


 阪神1R3歳未勝利戦ダート1800M良にて行われます。奇数番の馬がゲートにおさまり、偶数番の馬が次々とゲートイン。最後に12番の関東馬ミストルティンが入って体勢完了……。スタートしました! まずまず揃ったスタート! 最初の先行争いユーロステイテッドは控えて9番のフジコウデュラハンと12番のミストルティンが前に出ます。各馬1コーナーから2コーナー向こう正面に向かっていきます。先手を取ったのはフジコウデュラハン、半馬身ほど後ろにミストルティン、1馬身ほど後ろ内にユーロステイテッド、ちょっと持って行かれ気味か……。


(コイツずいぶん行きたがるなあ……。そうか、ちゅん君がコイツに我慢を教えてないんだな……。それで今まで直線で走る気を失くしてたってことか……)


岡西は前へ前へ行きたがるユーロステイテッドを手綱を引いて落ち着かせようとしていた。競馬はただ速く走れるだけでは勝てない。道中で勝負になるまで他馬に惑わされずにいかに我慢させることができるかということも、この勝負の世界の重要なファクターをしめる。


(ユーロ、我慢だ! お前の脚を見せるのは直線に入ってからだ! 前を走ってる2頭はいつでも抜ける!)


道中、岡西は心の中でユーロに激を飛ばしながら手綱を引くことで手一杯だった。


《実況アナ》


 1馬身ほど離れてケイエムアローとアクセスアトムが並んで追走。その後ろに6番アサノクレイモア、外を回ってヘイザンマリウス、間を挟んでパフェブレーブ、その内にジャパンアクロス、お終いから3頭目にマイルチェリスト、その半馬身後ろにグランドプライム、そして最後方にナビゲーターという体勢!各馬3コーナーに入っていきます!先頭はフジコウデュラハン、1馬身のリード!2番手にミストルティン、3番手に赤い帽子ユーロステイテッド、徐々に進出……。


(よし、よく我慢した。この3コーナーから少しずつ前に出るぞ。前を走ってる謙と蛇奈さんの馬を直線で一気に抜き去るからな)


岡西は抑えていた手綱を少し緩めてユーロステイテッドの走るスピードを上げた。次第に前を走るフジコウデュラハンとミストルティンの後ろ姿が大きく見えてきた。そして4コーナーを通過して直線に向いた時、岡西の左ムチがユーロステイテッドに入った!


《実況アナ》


 4コーナー最後の直線! 先頭はフジコウデュラハン! 1馬身のリード! ミストルティンも食らいついている! 内からユーロステイテッドすごい脚でやってきた! ここで先頭はユーロステイテッド! 2馬身3馬身と突き放しにかかる! 残り200を切った! 先頭はユーロステイテッド! 8馬身から9馬身のリード! 2番手争いはフジコウデュラハンとミストルティン! これは強い! ユーロステイテッド! 圧勝でゴールイン!


 レースを観戦していた観客達は未勝利戦とはいえユーロステイテッドの圧勝劇に唖然としていた。ふたをあけてみれば2着に1.3秒の差をつけての先着。しかし岡西はこのレースでユーロステイテッドの課題も知ることになった。レースを終わらせて誘導させている時、フジコウデュラハンが岡西に近づいてきた。


「いやぁ~、岡西先輩。参りましたよ~。あの豪脚反則ですわ~」


岡西に話しかけてきた騎手は池越謙介という岡西より1つ下の後輩。この池越も岡西に騎手学校時代から大変世話になった後輩の一人である。


「おお、謙か。未勝利戦だからあれでよかったものの、もっと上のクラスではあれでは通用せん。さっきのレースだって俺は道中ずっと手綱抑えっぱなしだったんだぞ」

「ええ~、あのレース内容で満足できないんですか~?」

「コイツはまだまだ折り合いに課題がある。荒削りなところもまだあるし……」


岡西のコメントに唖然とする池越。一般的に見たらユーロステイテッドも今後の有力馬に加えてもいいはずだが、岡西はまだまだ未完成と答える。


「やっぱ岡西先輩言うことすごいですわ~。さすが騎手学校からのスーパーヒーローですからねえ」

「お前なぁ、スーパーヒーローはやめい。昔のことだろ……」


池越のよいしょに迷惑そうな表情をする岡西。2人は話しながら検量室前へとそれぞれの競走馬を誘導させた。1着のゲートに押切・小倉橋・福盛がちょうど待ってきた。押切の表情はサングラスの下はわからないが、口元は完全に満面の笑みだった。


「いやいやいやいや~、やっぱ違うわぁ! ホンマにご苦労さん~~!!!」

「ええ、今日は圧勝できましたが、いろいろと課題もわかりました。コイツはダートでは走りますよ。本格化した時のこの馬が楽しみです」

「ウンウン、岡西君の言う通りダート路線を使っていくか~! 次走はたぶん1ヶ月後くらいになる思うさかい、その時はよろしゅう頼むで! まあこのユーロだけでなくこれからもワシんとこの馬どんどん乗って~な」

「ええ、空いていれば騎乗依頼受けますよ」

「おっしゃ! ほな、口取り行きますか?」

「あの~、後検量残ってるんですけど……」

「あ~、せやった、スマンスマン。ほな行ってきて~な!」


押切の労いをどうにか一旦とめてもらって、岡西は鞍を持って「後検量」に向かった。岡西を含め、上位入線の騎手全員の後検量も問題なく終わってレースは確定した。


「確定したな。ほな皆さん口取り行きましょか?」


久しぶりの口取りに押切は脳天気モード全快だった。写真撮影の時、観に来ていた観客のほとんどが押切の容姿を見て驚いていたのは言うまでもない。

《モデル騎手紹介》


池越謙介→池添謙一(騎手)

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