数センチの世界の壁
こちらはアラブ首長国連邦のドバイにあるナド・アルシバ競馬場。1986年に建設がスタートしたが、建設当初は競走馬の調教用の馬場として使用される予定だったが、1991年からドバイで初めて競走が行われた。そしてそれから5年後の1996年に世界最高額賞金として知られる『ドバイワールドカップ』が開始されてるようになる。時は2005年シーズンの3月5週、キタノアルタイル陣営はこのドバイの地に日本代表として来ていた。長野にとっては8年前のリベンジ、岡西にとっては初めての海外G1レース出走で初の海外G1制覇という野望をそれぞれ胸に秘めて異国の地へと乗りこんできた。
「ひえ~、すごいセレモニーですねぇ。ドバイミーティングってこんなに華やかなセレモニーをするとは……。日本ではダービーの時に歌手の人が国歌を独唱するくらいですからねえ」
現在岡西達はナドアルシバ競馬場内のセレモニーに参加している。日本とは全く違う豪華な内容に岡西はただ驚くのみだった。その他にも岡西はドバイに着いてからというもの常に興奮の連続だった。初めて中東の異国の地に来たのもあるが、岡西が特に驚いたのは宿泊先の5つ星のジュメイラ・ビーチ・ホテルとそこから見えるテーマパーク『ワイルド・ワディ』をはじめ様々な観光スポットの数々。岡西はできることなら競馬を忘れて旅行したいという欲望に駆られそうになっていた。
「まあな。ドバイミーティングは現地の関係者ににとっては競馬の祭典ということで毎年この時期のナドアルシバ競馬場は大いに盛り上がる。レースの賞金だけでなくセレモニーなどいたるところで規模が格段に違うからなぁ」
「日本ではまず考えられないことですね」
「そうだな、ところで摩那舞。異国の地に来てずいぶん舞い上がってないか?」
「え?」
長野の図星の指摘にドキリとする岡西。さすがに長野は岡西との付き合いが長いだけにその点は熟知していた。
「まあいい意味でモチベーションが上がれってくれればいいんだが、あの豪華な5つ星ホテルに宿泊できたのをはじめ様々な面で不自由なく我々がここにいれるのは、吉原さんのおかげだということを決して忘れないように」
「あっ、はい。それはもちろんです」
長野のクギ刺しに気を引き締める岡西。
「まあそういうわたしもこう見えてアルタイルの状態が気になって気持ちはかなり焦っているんだけどな。日本国内の輸送だけならまだしも、海外のレースの場合は空輸中に競走馬がいろんなストレスを感じて現地で力を発揮できないというパターンがよく起きる。まあ星崎君がついてるからその点は多分大丈夫だと思うが……」
「僕自身だってここに来る前にナドアルシバのコース形態や特徴などは予習してきましたのであとは先生の作戦とレースを待つのみですよ。お互いイレ込みを解消してレースに挑まないといけませんね」
岡西は笑顔で長野に冗談混じりのことを言った。
「ふっ、言ってくれるな。摩那舞、知ってるか?中東では宗教の関係上金品を賭けたギャンブルは禁止で替わりにくじみたいなのを販売してる。そのくじが当たったら景品がもらえるという仕組みだ」
「へぇ、イスラム圏では馬券買えないんですか? 初めて知りました。だったらオッズとかわかりにくいですね」
「それについてだがわたしがさっきUAE版の英字新聞を買ってきた。ちょうどドバイワールドカップの下馬評が記載されている。このランキングから見るとアルタイルは7番手評価だ。思ったより人気してるなあ」
「そうですねえ。1番人気評価の馬すごいですねえ。これではほとんどのお客さんが13番の馬から入ってることになりますよ」
「まあそうだろうな。この馬は昨年の米国三冠馬だから」
岡西と長野が見てる新聞のランキングに1番人気の米国馬の名があった。その競走馬の名はサディスティックディザイアという550キロを越す雄大な芦毛の馬体を持つ競走馬である。鞍上の騎手は通算勝利数8000勝以上の実績を持っていて『鉄人』の異名を持つリック・シューメイク騎手であった。岡西はとてつもない強敵と勝負することに武者震いを感じた。
「すごい、このコンビと対戦できるなんてますますレースが楽しみになってきましたよ」
「ははは、お前の頭の中はすでにレースモードだな。それはまあ明日に発揮してくれ」
岡西と長野はリラックスした状態で笑っていた。ちなみに馬主の吉原とは翌日合流することになっていて厩務員の星崎は滞在厩舎でキタノアルタイルの世話をしていたという。
──翌日──
ドバイミーティングの国際競走は全部で7つ行われてドバイワールドカップは一番最後に行われる。すでに第6競走のドバイデューティーフリーまで終わって、いよいよ第7競走のドバイワールドカップの出走時間が近づいてきた。
第7競走 Dubai World Cup G1 ダ2000M 良 発走15:40~(現地時間)
1枠 1番 レッドウォーリア 牡5 57 ロバート ENG
1枠 2番 アブドラ 牡6 57 デットルー UAE
2枠 3番 キングトルネード 牡4 57 ベラスケス USA
2枠 4番 パーフェクトイーグル セ6 57 デザート USA
3枠 5番 ディードバ 牝5 55 ルベール FRA
3枠 6番 キタノアルタイル 牝4 55 岡西 JPN
4枠 7番 オライワン 牡7 57 アジテビ UAE
4枠 8番 アポストロフィ 牡4 57 スニフ USA
5枠 9番 イースタンヴィレッジ 牡6 57 キーネン IRA
5枠 10番 オルガ 牝5 55 モンロ ENG
6枠 11番 メフィストフェレス セ7 57 ブラック HKG
6枠 12番 アルーマムルー 牡5 57 ベイルー UAE
7枠 13番 サディスティックディザイア 牡4 57 シューメイク USA
7枠 14番 ハートビートクレモナ 牝7 55 ヒース UAE
8枠 15番 ネクストストーリー 牡5 57 シュタルク GER
8枠 16番 マーシャルプラン 牡6 57 ウイリアム AUS
参加国は地元UAEの他に日本・アメリカ・フランス・イギリス・アイルランド・ドイツ・香港・オーストラリアの9カ国16頭によって争われる。この中でキタノアルタイルにとって最大の強敵はなんといっても13番の米国三冠馬サディスティックディザイアである。米国三冠とは『ケンタッキーダービー』・『プリークネスS』・『ベルモントS』の3つの米国3歳馬限定のG1レースのことで、日本で言う皐月賞・日本ダービー・菊花賞のようなものである。しかもアメリカの三冠レースは中1週で数1000キロ離れた違う会場を行き来するという超ハードスケジュールな日程で行われる。この過酷な日程を乗り越えて米国三冠に輝くというのはアメリカのホースマンにとって大変名誉な事である。
「摩那舞、レースの流れはおそらく超ハイペースになる。周りにつられて飛ばしすぎると最後の長い直線で脚が止まってしまうだろう。道中は殿近くになってもかまわん。アルタイルのペースで走らせてくれ」
「わかりました。前の集団の脚が止まってくれれば馬群をうまく抜けて勝ちに行きます」
「うむ、よろしく頼むぞ」
岡西と長野はいつもの通り確認しあっていた。打倒米国三冠馬に向けてキタノアルタイル陣営は最高潮に達していた。
「岡西君、よろしくお願いしますよ。ナドアルシバの地に日の丸を掲げてきてください」
最後の応援の言葉をかけてきたのは馬主の吉原で、このドバイ遠征の諸費用をすべて負担してくれた人でもある。
「ええ、吉原さん。世界最高峰のこのレースに勝って日本馬のレベルを証明したいと思います」
岡西は吉原の前で勝利宣言。海外レースの経験がない岡西の発言は第三者から見てかなり浮かれすぎてると思う人もいるかもしれない。しかし謙虚で引っ込み思案な気持ちで挑むと他国の騎手にナメられると言うのが岡西の持論である。世界に自分の騎手としての腕をアピールする絶好のチャンスでもあるため岡西はいつも以上に強気であった。
「摩那舞君、そろそろ出番よ」
「はい、では行きましょう!」
ナドアルシバ競馬場の空は真っ暗でナイター用のライトがダートコースを照らしていた。ナドアルシバ競馬場は日中は気温が高すぎるためレースはナイターで行われる。キタノアルタイルは本馬場入場でダートコースを元気よく走っていった。その踏みこみはまるで陣営の勝利に向けての執念が乗り移ったような脚さばきだった。そして数分後、ファンファーレが鳴って各馬ゲート入りを始めた。
《実況アナ》
ここドバイのナドアルシバ競馬場から国際競走の実況をします。ドバイワールドカップダート2000M良で行われ、日本からはキタノアルタイルが参戦。世界の強豪を相手にどこまで太刀打ちできるか? そのキタノアルタイルが6番ゲートにおさまりました。他の偶数番の馬も順調に収まって最後に16番オーストラリアのマーシャルプランが入って体勢完了……。スタートしました! 各馬きれいに揃ったスタート! キタノアルタイルもまずまずのスタートです! 押して押してアブドラとオライワン、地元のUAE勢がハナを切ります。そのすぐ後ろに続いてキングトルネード、パーフェクトイーグル、アポストロフィとアメリカ勢が続きます。その後ろ内からレッドウォーリア、イースタンヴィレッジ、オルガと欧州勢が並んで追走。2馬身ほど後ろにディードバ、半馬身外にアルーマムルー、間を挟んでメフィストフェレス、大外半馬身から1馬身後ろサディスティックディザイアはじっくりと脚をためている。その後ろにハートビートクレモナ、3馬身後ろお終いから3番目にキタノアルタイルはここにいました。岡西はどこで動いてくるか?最後方に8枠の2頭マーシャルプランとネクストストーリーが並んで追走という展開……。
(UAE馬と米国馬がやたら飛ばすなあ……。問題の米国三冠馬はあの位置から届くのかなあ?)
岡西はライバル馬の位置取りを確認しながら仕掛けどころを考えていた。残り800Mを切ったあたりからキタノアルタイルは先頭集団との差を少しずつ詰めてきた。
(ナドアルシバの直線は長い。そして直線に入るまでのカーブは急なのでほとんどの馬は外にふくれあがるだろう。俺は内ラチ沿いに向けてアルタイルを走らせる)
岡西の勝利へのプランは決まった。戦法は完全なイン強襲。先団の脚が鈍ってきたのと同時に内ラチ沿いから一気に前に進出してごぼう抜きするという作戦。ほとんどの馬は残り600Mで直線勝負の叩き合いに入った。キタノアルタイルも0.2秒ほど遅れて内ラチ沿いに直線に入って岡西は追い出しにかかった。先団を走っている馬が1頭また1頭と脚が止まって追い出しても伸びない馬が出始めた。残り400Mのところで岡西はキタノアルタイルにムチを打ってスパートをかけた。ズルズルと後退する競走馬を1頭1頭確実に抜き去る。残り200Mでついに先頭に踊り出る。
(よし、脚が止まった馬は抜き去った! あとはゴール板だけだ!)
岡西は渾身の追いでキタノアルタイルと人馬一体の状態でゴールへと向かって行った。しかし……。
《実況アナ》
残り600を切った! 横一線に広がっての叩き合い! 先頭はアブダビ! 2番手にオライワンとアポストロフィも迫っている! 大混戦の叩き合い! 残り400! 内からキタノアルタイル迫ってきた! 1頭また1頭と抜いて先頭に替わる勢い! 残り200を切った! 先頭はキタノアルタイル! リードを1馬身広げた! 大外から芦毛の巨漢馬サディスティックディザイアが一気にやってきた! キタノアルタイル! サディスティックディザイア! キタノアルタイル! サディスティックディザイア! 並んでゴールイン! さあ判定はどっちだ?
(俺は勝ったのだろうか?)
走り終わってゆっくりとキタノアルタイルを誘導させる岡西。右を見ると自信満々にガッツポーズして勝利をアピールするサディスティックディザイア鞍上のシューメイクが見えた。正面スタンド前ではスローVTRでゴール前の映像が流れていた。わずかに外サディスティックディザイアが内キタノアルタイルをギリギリで差し切ったシーンが流れていて、観客の歓喜の声援が一気に最高潮に達した。
(まさか、差し切られたのか……)
観客の反応から岡西は嫌な予感を感じていた。3着以下のレーンにはすでに入線した競走馬が入っていて、1.2着はまだ決まっていないという状態だった。検量室前までキタノアルタイルを誘導させて岡西は馬を降りた。
「先生、VTRどうなってますか?」
「わからん、同着に見えるがよく見ると体勢的にはこっちが分が悪いようにも見えるんだが……」
「逃げ切れたはずです! 最後の直線で独特の寒気を感じなかったので!」
岡西は頑として逃げ切ったというのを信じていた。自分の騎乗に間違いはなかったと確信していたためキタノアルタイルが2着になるという結果自体を全く信じていなかった。
「とりあえず後検量を済ませて来い。それからVTRを観てみよう」
「わかりました」
長野に促されて岡西は後検量に向かった。後検量も無事パスして岡西も他の陣営と同様に食い入るようにスローVTRを観ていた。ゴール前の瞬間、岡西が最も観たくない現実を目の当たりにしてしまった。ほぼ同時にゴールしたように見えるが、ちょうどサディスティックディザイアがキタノアルタイルをほんのわずかに差していたのを観てしまったからである。無常にも掲示板には1着に13番が点灯して2着に6番が点灯し、そしてレースが確定した。サディスティックディザイア陣営は喜びを爆発させて大歓声の前でウイニングランを始めた。一方の岡西はしばらく呆然と突っ立っていた。
(なぜだ……なぜだ……)
岡西はあの独特の寒気を感じなかったことを頭の中で自問自答していた。しばらくして目頭が急激に熱くなってきた。そして膝からがっくりと肩を落として大泣きし始めた。ちょうど甲子園の舞台でピッチャーがサヨナラホームランを打たれてマウンドでガックリと肩を落とすような感じに似ていた。
「なぜだぁ~! どうして発動しなかったんだ~~!」
岡西は狂乱して嘆き始めた。本岡厩舎に所属している大西厩務員の心配事がついに出てしまった。岡西の騎乗理論をシューメイクに打ちのめされた瞬間、岡西の自我が崩壊してしまったのである。ましてや大舞台のドバイワールドカップだっただけに、岡西の精神的ダメージは甚大だった。
「摩那舞、立つんだ。お前はよくやった。米国三冠馬をあそこまで苦しめたのはお前がはじめてだろう。2着以下は負けというこの勝負の世界は非情なものだが、わたしはこの2着については日本馬のレベルを世界に証明できたと思っている」
「岡西君、わたしも長野先生と同じ意見です。確かに負けたのは悔しいですが次に繋がる大きな第一歩だとわたしは思っています」
「摩那舞君、君もアルタイルもまだ若いんだから来年か再来年あたりにまたこの舞台に戻って来ようよ」
長野・吉原・星崎の順でそれぞれ岡西をねぎらった。キタノアルタイル陣営の周りには日本から来ていたスポーツ紙の記者数人が来ていて、岡西が泣き崩れた写真を撮ろうとしたがあまりの痛々しい光景にカメラマンはシャッターを押しづらかった。
「摩那舞、今日の敗因は海外レースの経験不足だ。人馬共に初めての海外レースで2着という結果を残したということは、この先ダート戦線で実績を積み重ねていけばさらに世界に通用する馬にアルタイルはなるということだ。アルタイルはレース経験を積んで強くなる馬だとわたしは思っている」
「もう一度……この舞台で……リベンジを……したい……」
長野の悟りに岡西は泣きながらリベンジの意思を伝えた。
「うむ、それでこそ摩那舞だ。アルタイルの今後の方針は国内に戻って地方遠征を中心に実績を積んでいく。ローテのほとんどの競馬場が中央10場以外になるだろう。それからダートの本場である米国遠征を考えている。ドバイへのリベンジはこれらの課題をこなしてからでも遅くはあるまい」
「は、はい……」
「立てるか?宿泊場所に戻って荷物を持って日本に帰るぞ」
「あっ、わたしも手伝います」
「わたしはムチなどを持ちます」
長野と吉原はそれぞれ左右の腕を持ち上げて岡西を立たせた。右に長野、左に吉原が肩を貸す感じで岡西を連れて検量室を後にしていった。星崎は岡西のムチ・鞍・ヘルメットを持ってその後をついていった。その光景を日本から来ていたカメラマンが撮影していた。
キタノアルタイル陣営が去った検量室内でアメリカ人騎手のベラスケス・スニフ・ベイルー・ヒースの4人が今日のレースについて会話をしていた。実際は英語で喋っているが日本語に訳すと次のようになる。
「今日のレースは相手が悪すぎたなあ」
「ああ、なにしろシューメイクの三冠馬がいたからなあ」
「シューメイクの馬はともかく、俺はさっき向こうで泣き崩れていた無名の日本人に先着されたのが癪にさわるぜ」
「俺もそう思う。もしディザイアまであの日本の馬に負かされたら俺らはスポーツ記事に大バッシングされるところだったからなぁ。『日本馬にみじめに敗れたアメリカの恥さらし達』とかいう見出しでな。ほんとに危なかったよ」
「日本のジョッキーって言ったらタクミ・タケイくらいしか思いつかないなあ」
「まあ日本人は国内では通用しても海外ではまず通用しないし、テキ(調教師)もまず乗せてくれないだろう。たまにまぐれでレースで勝つ輩もいたけど、所詮日本の競馬のレベルはまだまだ発展途上だよ」
4人の騎手は大笑いしていた。海外の競馬関係者は基本的に日本の競馬レベルを見下す傾向がある。
「あまりあのマナブ・オカニシを甘く見ないほうがいいと思うんだが」
大笑いしていた4人の騎手に口を挟んできた騎手が1人いた。彼の名はクライスト・ルベールというフランスを代表する騎手の1人で日本には毎年短期免許を取得して来日してくる。日本ではお馴染みの外国人騎手の1人である。岡西とは何度も対戦していて年も近いこともあってか、ルベールは時間があるときに岡西と通訳を介して騎乗理論を話し合ったこともあるという。
「その通り、君は目の付け所が違うなあ」
ルベールに続いてもう1人岡西に肩を持つ騎手が現われた。さきほどのドバイワールドカップに勝ったリック・シューメイクである。
「リック、アンタはあの日本人を認めてるのか?」
「認めるも何も勝負に国境は関係ない。話によるとあの日本人は今まで一回も日本以外で乗ったことがないみたいだ。その初めての海外騎乗でましてはこの大舞台であれだけのパフォーマンスをする。ということは将来末恐ろしい騎手に化ける可能性もあるということだ」
「あんなのマグレの一発だよ。気にしすぎだよ」
「そのマグレの一発に先着されてるお前達はなんだ? そうやって人を見下すと必ずスキができる。さきほどのレースだってこのわたしでも最後まで全力を出し切った。その結果僅かな差で結果的に差しきることができた。お前達みたいに半端な気持ちでなお且つ偏見の目で見て挑んでいたら逆の結果もありえただろう」
シューメイクの一喝でさっきまで談笑していた4人の騎手は黙り込んだ。彼らもさすがに親分肌のシューメイクに睨まれては手も足も出ない。
「さて、こいつらは放っておいてちょっと話でもしようか?」
「あっ、はい」
シューメイクはルベールを連れて検量室を後にしていった。ちなみにシューメイクに一喝された4人はこの件で日本人騎手に対する粘着が増してしまった。この4人はいずれ岡西とダートの本場アメリカで対戦することになるがそれは後の話で……。
《モデル騎手&調教師紹介》
長野良隆→中野隆良(元調教師)
クライスト・ルベール→クリストフ・ルメール(騎手)
《レジェンド騎手について》
レジェンド騎手とは昔突出した記録を打ち立てた実在した騎手を元にしたモデル騎手のことを言います。この章で出てきたリック・シューメイク騎手は実際にアメリカ競馬会で実在したウイリー・シューメーカー元騎手をモデルにしています。