表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レムリスの鍵~エドラスの行方~  作者: カーレンベルク
5/11

第二章 クランブルーの宿2


 「うわあ!」


 「うわあ!!」


 ドアを開いたと同時に驚きの声が響き、それにつられて少年もやまびこのように続いた。


 ドアの向こうの廊下と階段がセセルの視界に広がっていたが、人の姿はない。


 「パデット、挟んでるぞ?」


 「うん、わかってる。 それにしても、君は一体…。」


 一本の太い金髪の三つ編みの先端には、紺色か藍色とも見て取れるようなリボンがついている。


 白いシャツの中央には縦にフリルが走っていて、その下で深緑のスカートがゆれていた。


 「ちょっと! レディに対してずいぶんと乱暴じゃない! まっ、私より年下みたいだし、許してあげるわ。」


 「盗み聞きをしておいて、よく言えたものだ。」


 とんだお調子者に出会ってしまったと、セセルの困惑した目がパデットに助けを求めている。


 「あっ、こっちには年上がいる。」


 「そうだ、年上だ。 年上だったら許すなんて口をきくのか君は。」


 彼女は気まずい場面を笑ってごまかすために、ちょろっと舌を出してきた。


 「世渡り上手なのか、それとも人を見くびっているのかわからない人間だ。 ここに来たということは、何か理由がある。 我々の話を聞いてどうするつもりだったのか、教えてくれないか?」


 「あなた、持ってるでしょ?」


 「何?」


 「ランゴルロムよランゴルロム。 さっき宿屋の主人に渡してたの見ちゃったんだから。 ここにくれば必ずあるってことは前から知ってたけど、そういうことだったと知れば話は早いわ。」


 「…。 素人についてこられても困るのだが。」


 自分の考えを見透かされても彼女はしつこく食い下がる。


 「私は素人じゃないの。 これでも術師として役に立つはずよ。」


 「だめだ。」


 「どうして? そこの坊やのほうがもっと素人っぽく見えるのに、私はだめなの?」


 「パデットだよ。」


 「そうなの? パデット、ごめんなさい。 とにかく、なんでだめなの?」


 続けざまの質問に、セセルは大きくため息をついた。


 「一人すでに素人を抱えている。 我々二人の安全のために、君は不要だ。」


 力説が無駄になったとわかり、床にへたり込む彼女からそらしかけた目線を、ふとセセルは元の方へと戻した。


 「この杖は?」


 若い女性が持つには、ずいぶんと歴史のありそうな、薄汚れたルビーがはめ込まれ、先端には昇天する双子の龍が左右対称にうねっている。


 「触らないで!」


 杖に伸ばそうとする彼の手を、彼女は先程の態度を一変させて払いのけた。


 よほど大事なものらしいということだけしかパデットにはわからなかったが、セセルは確信を通り越してひらめいた時のように目をぎらつかせている。


 「素人ではないというのは、そういうことか。」


 「あなた、この杖のことがわかるのね。」


 彼女はもはや、セセルに杖を向けて警戒態勢になっていた。


 「それはウェズルトの御手。 北の大国ベリアムに伝わるというとても強力なものだ。 しかし、君のような術師がなぜそれを?」


 「私の父は、ベリアム帝国の近衛隊にいたの。 ある日その功績が認められて、皇帝からこれを授かった。 私がそれを父から受け継いだ。 でもこの子、とっても難しいの。 気を張り詰めていないとすぐに暴れだすわ。」


 「その双子の龍のように。 確かに杖は知っているが、奪う気などない。」


 和やかな宿の雰囲気が影を落としたかのように暗くなり、風もないのに彼女の金髪が逆立っていく。


 「これが…術師…。」


 「坊や、いえ…。 パデットはわかってくれたみたいだけど、あなたはどう?」


 彼女がさらに力を込めると、地鳴りにも似たうなりが響き、ルビーが輝きを放った。


 「杖を下ろすんだ。 君の力はわかった。 宿が焼けてしまう。」


 「そう…。 じゃあ。決まりね。」


 急にあたりは静かになった。


 全ての原因は杖にある。


 そう思うと、パデットは不謹慎にももう一度見たいと考えてしまった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ