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 晶紀が食事を終えると、自室に戻り、知世に連絡した。

 そして、HST製のゲームアプリで遊ぶことになった。

 とにかく、レアリティとパラメータの高さで、知世がアッという間に敵を撃破してしまう。

 ゲーム内では対戦相手のチャットや音声は聞こえないのだが「チートぉおおお!」とか「チーター!!!」と叫んでいるのが聞こえてくるかのようだった。

 知世はもしかしたら簡単すぎて面白くないかもしれないが、普段の苦労を知っている晶紀にとっては知世が一瞬で敵を撃破するさまは笑ってしまうほど爽快だった。

「すごいよ、これ。信じられない。これだけ対戦して、相手のターンが始まったことないもん」

 晶紀の方にも法外な値の経験値が降ってくる。

『そうなのですか、相手の攻撃とかも見てみたいのですが』

「無理でしょ。だって攻撃しなくても」

『やってみますわ』

 今度は戦闘が始まってもどちらもパーティも攻撃を行わない。相手のターンになったか、と思うと突然知世のキャラクターが攻撃する。

『えっ、なんですの? 攻撃を選択していませんのに』

「いまのは、カウンターだよ。知世のスキルが発動したんだ。発動すると、パラメータが上回っているから、知世から攻撃しているように見えるんだよね」

『カウンターっていうのは相手の攻撃と同時にするものでは?』

「普通はね」

 晶紀は知世のパラメータを確認する。全部、通常のキャラクターの枠を振り切って設定されている。グラフィック上は枠内に収まっているが、値の桁がMAXを振り切っている。まさにチートそのものだ。

「計算式上は相手の攻撃が絶対早く到達するはずなんだけど、知世のキャラのパラメータの値は枠を超えているから」

『……楽しいですか?』

「すごいじゃん。こんなチートみたことないから、新鮮で、楽しいよ」

 晶紀のキャラクターは、毒、炎、しびれ等が同時に入った状態になっているのだが、パーティ内にいる知世の『自然治癒』の効果が高すぎて、HPが減って死ぬことがないのだ。戦闘に入っても知世の攻撃スピードが相手を上回っているため、知世にも晶紀にすらダメージが入らない。

『それならいいですけど』

「知世にしてみたら面白くないよね。だから、今度、HST製じゃないゲームを探そうね」

『はい』

 一通りゲームのボスキャラを巡って行っても同じ調子だった。一瞬でボスを倒し、最難関のクエストをクリアしてしまった。

 晶紀はクエストの間中、笑い続けていた。

 その笑い声で、知世のこころも少し晴れたようだった。

 ゲームを終えると、晶紀が言った。

「付き合ってくれて、ありがとう。おやすみ」

 知世と通話を切って、そのままベッドにもぐりこむ。

 晶紀は『秒で』眠りについていた。

 どれくらい経ったかわからない。

 晶紀は、目覚まし時計ではない音で目が覚めた。机の上で、ガタガタ、ガタガタとスマフォが震える音がしている。

「……」

 真っ暗な部屋のなか、スマフォの画面だけが煌々と光っている。

 ベッドを抜けると、少し肌寒い。

 知世! 晶紀は画面をみるなり、スマフォを取った。

「どうしたの?」

『研究所から、何度も私のスマフォに電話をかけてくるんです』

「えっ? あの霊がいる研究所のこと?」

『ええ。研究員に番号を教えたはずはないんですが……』

 晶紀は何が起こったかは分からなかったが、自らが出向かないといけないと感じた。

「すぐ行くよ」

 晶紀は頭を傾け肩と耳でスマフォを挟むようにして通話した。

 空いた手足で、寝間着を脱ぎ始める。

『よかった。実はもう家の者を向かわせていますの』

「けど、知世は安全な場所にいて」

『私も行きますわ』

「だめだ」

 つい大声を出してしまう。

 まだ夜明け前で、昭島家の人々はまだ寝ているはずだ。

 壁の方から『ガタッ』と物音がして、晶紀は思わず口を手で押さえた。

『いいえ。研究者との連絡が取れませんから、私が実験室を開けるしかないのです』

「……じゃあ、せめて開けた後、中には入らないって約束して」

 極力抑えた声でそう言った。

『晶紀さんに迷惑をかけないようにしますわ』

 知世も引かない。

「……わかった。実験室では絶対言うことを聞いてね」

『はい!』

 二人が通話を終え、晶紀が着替え終わったころ、外で車の音がして、知世の『家の者』からメッセージが入った。

『お迎えにあがりました』




 晶紀が家の外に出ると、いつもの知世のお家の車が止まっていた。しかし、扉を開けて出てきた『家の者』が少し違った。

 晶紀と同じぐらいの身長で、左目だけ、つる(・・)の無い眼鏡をつけている。髪は白髪で、整髪料でオールバックにしていた。

 見かけない人だったので、思わず「はじめまして」と言ってしまう。

 男は胸に手を当てるように曲げ、頭を下げた。

「私はロバート・パーカーと申します。天摩晶紀様でございますね」

「はい」

「業務時間外のため、私が運転についても担当させていただきます。さあ、どうぞお乗りください」

 扉を開けて待っている。

「ありがとう」

 晶紀は後部座席に乗り込みながら、この『家の者』について思い出したことがあった。

 初めてこちらに越してきた時、公文屋の手下を見つけて戦いになった。戦いの最中、その手下が知世の屋敷に逃げ込んだ。

 バトルの末、男を倒した。男からは、一匹の黒い蛙が出てきた。どうやらこの蛙を通じ公文屋に操られていたようだった。バトルに巻き込んだ知世を助けてもらうために、三倉が屋敷から連れていたグレーの寝間着のおじさんが、この人ではなかっただろうか。ただ、会ったことがある記憶があるのは晶紀だけで、おじさんの方の記憶は、その時に神楽鈴を使って消してしまっている。

「どうかしましたか?」

 ぼんやりしていたせいか、運転席から声を掛けられた。

「いえ、なんでもありません」

「出発しますので、シートベルトを」

 晶紀はシートベルトを着けた。

「運転が少々荒くなりますが、ご容赦願います」

 直後、強いGでシートに押し付けられた。そして、知世の家の車に乗って初めて『エンジンの音』を聞いた気がした。

 稀に歩行者がいると、必要以上にスピードを落とすため、急加速・急減速が繰り返される。

 住宅街を抜け、大通りに入ると、今度は車間を縫うように車線を変えるため、横に振り回された。

 大通りを抜けて知世の屋敷に近づく。

 屋敷の門はかなり早くから開いていて、車は一切スピードを落とさずに突っ込んでいく。

 敷地の道の凸凹で、車が一瞬浮き上がる。屋敷の車回しに入ると、急に車の後部が流れる。

「うわっ!」

 ピタッと車が止まると、屋敷から知世が出てくる。

 パーカーが車を降りて扉を開けて、知世を乗せる。

「晶紀さん!」

 知世は後部座席に入ってくるなり、抱きついてきた。

「怖かった」

「お嬢様、すぐに出発します。シートベルトを」

「わかっています」

 知世は冷静にシートベルトを着けると、パーカーはタイヤを鳴らしながら車を加速させた。

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