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 知世の家の実験室を訪ねてからは、授業が終わると補習授業、補習授業が終わると知世の家に行くというのが日課になった。

 球形の底に降りると、霊力でアシストをつけて、大きな機械を持ち上げる。

 上の方から合図があると、今度は紙のような軽いものに変える。

 それの繰り返し。

 暇そうな晶紀に、知世が上の通路の方から話しかけてくれる。

 声がこの部屋の中に響く。

「今日は実験が終わった後、どうなさいますか?」

「知世はどうするの?」

 急に真下に視線を移した。

「夕食をとって、宿題をして、寝るだけです。つまらないですわ」

 晶紀は自分がいつもしている行動を思い出しながら言った。

「ゲームとかしないの?」

「一人でするあそびは、なにか寂しくてやったことがないのです」

「スマフォのゲームしようよ。ネットで繋がってるから全然寂しくないよ。だから、私と同じゲームやらない。知世が仲間になれば新しいミッションもクリアできるかも」

 晶紀が笑うと、知世もつられて笑った。

「ぜひ、帰りの車の中で、おしえてください」

「楽しみ」

 二人はそんな他愛のない会話をしてから、霊力のテストに入った。

 テストが始まると、晶紀は集中しなければならず、知世も声を掛けられなくなる。

 知世は居場所がないので、実験室のモニタで晶紀の様子をみていた。

 機械を持ちあげたり、下げたりを繰り返したり、紙を同じように持ち上げたり落としたりしている。

 退屈な繰り返しに、知世は眠ってしまわないように耐えていた。

 時が過ぎ、テストが終わると、晶紀が球体の底から通路まで上がり、実験室に戻って来た。

「おつかれさまです」

 知世が声を掛けるが、晶紀はそっけなく手を上げただけだった。

 そしてそのまま実験室にいた白衣の男の方へ近づく。

「ちょっと気になることが」

 晶紀は、白衣を着た研究員に声を掛けた。

「ここにいる霊の力、大きくなっていないですか?」

「?」

 晶紀はモニタを見て数値を指差した。

 白衣の男は何も答えない。

 一緒に晶紀が指さすモニタを見つめるだけだった。

「計測していないんですか? それとも記録をつけていないとか」

 晶紀が呆れたような声でそう言った。

 男はマウスを手に取り操作した。

「いえ、計測してますし、記録もつけています」

 フォルダをいくつか開いて、カーソルを動かしながらファイルを選んでいる。

 晶紀はイライラし始めていた。

「じゃあ、早く見てください。あと、以前お話しした、霊が暴走した時の対策は?」

「ちょっとまってください。ひとつずつやりますから」

 白衣を着た男は表計算ソフトを開くと、別のシートからコピーしたデータを流し込み、グラフを描いた。

 モニタに横の時間軸と縦に霊力をとった。中の霊力は時間につれて大きくなっていた。

「確かに、増えているようにみえますね」

 グラフは緩やかな傾きの直線を描いている。しかし、このグラフが晶紀の実感と合わないのだ。

「この縦軸は普通に考えていいんですか?」

「どういう意味ですか?」

「縦軸はデシベルじゃないですよね?」

「……」

 白衣の男は腕を組んで黙り込んでしまった。

「晶紀さん。車の準備が出来ました」

 晶紀は知世の方に手の平を広げて『黙って』と仕草で示す。

「あの。これは大切なことなんです」

 晶紀が詰め寄ると、白衣の男は組んでいた腕をとき、晶紀を押し返すような恰好をして言った。

「あ、明日までには確認しますから」

「絶対ですよ」

 知世が実験室の扉を開けて、晶紀の方を見ている。

 晶紀は扉の方に進んでから、もう一度振り返る。

「早く確認してくださいね」

「はい」

 棒立ちのままそっけない返事。

 その姿が晶紀には頼り気なく映った。


 晶紀は地下の実験室から知世の家の車に乗せてもらった。

 知世と二人で後部座席に座り、実験室でのテストの時、話していたゲームをやることにした。まずは知世のスマフォにダウンロードしてもらった。

「あれ、このアプリの開発会社……」

「えっどうかした? アプリ開発会社はH・S・Tって書いてあるね」

 晶紀は少し考えて言った。

「もしかして、これHouSenjiToysのH、S、Tってこと?」

「ええ……」

 知世の表情が少し陰ったように思えて、晶紀は言った。

「あっ、もしいやだったら別のにしようか?」

「いえ、別に構いませんわ」

 知世が嫌がった理由はすぐわかった。

 メールなどの初期登録が終わって、初期キャラが出てきた時だった。

「出てきた?」

「出てきましたわ。かわいらしいキャラです」

「見せて見せて」

 晶紀はスマフォを見せてもらうと、キャラクター表示の枠がやけに豪華だった。

「あれ、最初に出てくるキャラカードってSSRじゃなかったっけ…… えっ、これURじゃん。しかも最近出た希少度が普通じゃないやつ……」

 知世がその言葉を聞いて俯いた。

「……父のしわざですわ」

「ど、どういうこと?」

「おそらく、(わたくし)が登録するであろうメールアドレスか、端末のIDか、特定するなにかを検出して、一番いいカードを出すようにプログラムが組まれているのです。父はプログラムを書く訳ではないので、多分そういう指示をしているに違いないのですわ」

「それってチート」

「そうですよね。運営側が仕込んでいるとはいえ、これはチートそのもの。こういうことがあるのも私がゲームをしない理由なんです」

「じゃ、一度、別のメールアドレスにしてみようか。フリーメールを取得してさ」

 晶紀と知世で、宝仙寺トイズに無関係そうなフリーメールを取得してアプリも再ダウンロードし、初期登録を行った。

「さあ、これでどうだ!」

 知世と晶紀が同じ画面を見つめる。

 クルクルとカードが回って、一瞬描かれている内容が見える。

「……」

 演出が終わって表示されたカードはやっぱりさっきと同じURでしかも最近出たばかりの強いキャラカードだった。

「駄目ですね。やっぱり端末IDか何か、このスマフォを識別する何かで仕込まれているみたいです」

 晶紀は腕を組んで考えるが、別の方法を思いつけなかった。

「うーん……」

 晶紀は考えた末に、URを使わなければいいと言った。

「そうだよ。難しく考えることはないよ。使わなければいいじゃん」

 知世が操作を進めると、そもそもプレーヤーの初期値の桁が違っていた。

 何をどうしようと、このゲームの中で知世は絶対的な存在だった。

「すごい。ここまで徹底しているって……」

「こんなことをして子供がどう思うか。父はまるで分かっていないのですわ」

 知世はあきれたように窓の外に視線を向けた。

 晶紀は知世のスマフォを操作しながら、そのチートなプレイを確認していた。

「いや、けど…… こんなに作り込んでるなんて、一本、別のゲームが作れるんじゃないかって思うよ。つまりさ、それだけ知世のお父様が知世のことを考えているってことでしょう」

「……」

 と、車が静かに減速して停止した。

「天摩様。到着いたしました」

 晶紀の方の扉を知世の『家の者』が開けた。

 晶紀はスマフォを知世に返し、

「とにかく後でやってみようよ。ね? 始める前にメッセージ入れるから」

 と言って小さく手を振った。

「……はい」

 知世がそう答えると『家の者』が車の扉を閉めた。




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