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03




 昼休み、山口の机近くで三人が集まり昼食を終えると、化学実験室に向かった。

「これから行く化学実験室で何があったんだ」

 晶紀は小さい声で言った。

「他の人には言ったらダメだよ。退学になるかもしれないから」

 山口は晶紀の表情を見て、ふざけているんじゃないと感じた。

「……」

「本当ですのよ。学園側は事実を隠そうとしているみたいですから」

 知世も念押ししてくる。山口は、二人に気付かれなかったが少し震えた。

「……わかった。絶対話さない」

「爆発だよ。過酸化水素水の爆発」

「あっ、理屈は言わないで。どうせわからないから」

 晶紀はあきなも佐倉と同じ、つまり、理系の話を極端に毛嫌いするタイプなのだと思った。

「でね。化学実験室に綾先生がいたんだよ。学園側の説明は、綾先生は研修で出張中だから爆発には関わっていない、と思っている。けれど、その過酸化水素の爆発を起こしたのは綾先生に間違いないんだよ。だから爆発に巻き込まれているはずなんだ」

「えっ? ま、まさか、綾先生が死んだってこと?」

 あきなは口を出て押さえながら、そう言った。

「いや死んではいないと思うけど。綾先生が爆発を引き起こしたとか、すくなくとも爆発があった時その場にいっていう、その証拠をつかみたいんだ」

「うん。わかった」

「けれど、具体的にどんなものが残っているのでしょうね。そもそも実験室であれば綾先生がいたような証拠はいくらでも残っていそうですが……」

「その場に居れば、爆発の熱や爆風を受けているわけだから……」

 晶紀は考えたが、確かに証拠と言ってもどんなものがあるのか思いつかなかった。

 そんなことを話している内に、実験室があるフロアにやってきていた。

 晶紀が一緒に吹き飛ばされた扉はもう片付けられたのか廊下からは無くなっていた。

「えっ?」

「晶紀さん。どうしたのですか?」

「扉が付いてる。朝、爆発の直後は飛ばされていたのに。しかも、扉のガラスもハマっている」

「修理されたのでしょうか」

「ケチな学園がそんなことするわけ……」

 扉を開けると、中央の実験テーブルはないものの、床いっぱいに散らばっていた瓦礫は片付けられていた。

 晶紀に続いて、知世、あきなが入ってくる。

「中央のテーブルが無くなっていますね」

「うわっ、天井穴開いてる」

「……」

 晶紀は床に広がっていたガラスやコンクリート片、粉々になったテーブルの木片などが無くなっていることを考えていた。学園側が慌ててこの実験室を片付けさせたのだとしたら、ここに綾先生がいてはいけない、いたことを隠さねばならない理由があるに違いない。

「ここを慌てて片付けたことが、逆に証拠にならないかな?」

 知世はあごに手を当て、考えてから答えた。

「……怪しくはありますが、それが証拠、という訳にはいかないでよね。やっぱり」

「床は綺麗に片づけてあるね。天井裏でも覗いてみる?」

 山口あきなが、ひょいと実験テーブルに飛び乗った。

 晶紀もそれに続くように同じテーブルに乗る。

「えっ、あの、お行儀が……」

 そう言って知世はテーブルに上るのをためらった。

「ほら、持ちあげてやるから」

 晶紀の腰をあきながぎゅっと抱きしめ、体を持ち上げた。

 晶紀はスマフォのライトを点けて、動画を録画した。

「ごめんあきな、ぐるっと回ってみて」

 あきなの体が揺れると、テーブルの下から知世が支えた。

「あっ、あきなさん気を付けて」

「ありがとう」

 一周回って晶紀を下ろし、あきなが肩で息をしていると、実験室の扉がガラッと開いた。

「うわっ、これは酷いな」

 全員がその声に反応して振り返る。

「綾先生」

「おや、知世くんに、山口くん、それに天摩くんも…… 二人はなんでテーブルの上に乗っているのかな」

 山口がポンと飛び降りると、制服のスカートの裾がまくれ上がってしまった。

 見事に下着が丸見えになった。あきなは慌てて手で押さえるが、綾先生は見てみないフリをしている。

 先生の頬が少し赤くなったせいで、あきなも恥ずかしくなった。

 晶紀も勢いよく飛び降りたが、体操着だったために被害はなかった。

「綾先生、ここで何があったかご存じですか?」

 知世が話題を振った。

「大きな爆発音がしたと聞いている。この様子だと本当に爆発があったみたいだね。で、君たちはなんでここに入っているの? 化学で分からないことが知りたいなら当然教えてあげるけど」

「爆発したという話を聞きましたので、三人でどんな様子か見に来たのですわ」

 山口と晶紀は、話を合わせるようにうなずいてみせた。

「君たちは好奇心旺盛だね。けど、本当にこれが爆発だったら、その影響でまだ何か壊れたり、崩れたりするかも知れないから、立ち入りしちゃダメだよ。危険だからね」

 綾先生が実験室を出るように手で指図する。

「は、はい」

 知世は慌てて、実験室を出て行く。

「ほら、山口くんも天摩くんも、実験室を出て」

「先生。先生は朝のこと、おぼえてないんですか?」

「朝? 今日は出張先のホテルでご飯食べたけど……」

「鈴の事も?」

「鈴?」

 晶紀は綾先生に何か動揺があるか、じっと様子を観察したが、それらしき反応はなかった。

「ごめん。何のことか、わからないな」

 本当にあの朝の綾先生は綾先生ではなかったのだろうか。こっちの綾先生が本物だとしたら、朝鈴をもって脅した人物や、エステ・サロンのある駅周辺をうろうろしていた、綾先生らしき者は誰なのだろうか。

「……」

「ほら、なんでもいいから、とりあえずここから出て」

 綾先生は両手を広げたまま、二人を押し出すような形で扉へ歩いた。

 三人とも扉の外に出ると、綾先生も扉から出て、扉を閉めると同時に鍵をかけた。

「立ち入り禁止の張り紙しとかなきゃな」

「綾先生、危険なことをして申し訳ございませんでした。それではごきげんよう」

 深々と頭を下げた。

 知世が、実験室を名残惜し気に見つめる晶紀と、不意にパンツをみせてしまって混乱状態の山口の二人を、引っ張るように去っていく。

 綾先生は繰り返し振り返る知世にニコニコと微笑みながら手を振っていた。




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