3 尊厳
どれくらい走っただろうか。
足場の悪い林の中を転びそうになりながら、無我夢中で足を動かし続けた。
光を隠す木々によって心の中の恐怖と理性が悲鳴を挙げ、今にも頭がどうにかなりそうだった。
真っ暗な部屋のカーテンを一斉に開いたかのように、目の前に日の光が飛び込んでくる。
林を抜けた。
すると、さっきまでひっきりなしに動いていた体が鎖で縛られたように止まり、そのまま膝から崩れ落ちた。
関を切ったように、さっきまではなかった感情がなだれ込み、震えを優しく包み込んだ。
安堵。
心のそこから、溢れんばかりの安心感と、恐怖を乗りきったことによる達成感が芽生えた。
あぁ、ヤバい。 いくらなんでも、この歳にもなってそれは。
必至に止めようとはしたが、完全に脱力してしまった体は言うことを聞かず、またとてつもない疲労感にも襲われ、私は眠るように気を失い、失禁した。
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ハッと目が開く。
写ったのは見たことのない、木でできたボロい天井だ。
体を起こそうとするが、力が入らず起き上がれない。
気絶したことは覚えている。 では、その間に何があったのか?
親切な人に助けられたのか、はたまた拉致されてしまったのか。
状況確認のため、なんとか首を動かして周りを見渡していると、足の方から立て付けの悪い引き戸がガラッと開く音がして、中柄の男が入ってきた。
時代錯誤を感じさせるような古めかしい着物に身を包んでいる。 小袖というものだろうか。
そして腰には年期が入っているのか、所々錆び付いている刀をさしていた。
「…… 」
状況を整理することで頭がいっぱいで、言葉が出なかった。
「おお、起きたか 」
起伏の少ない声の調子で、男の人はそう言った。
「どこか痛んだりしていないか? だいぶ疲れていたようだったが 」
表情もあまり変わらず、言ってしまえば無愛想な人だった。
だが、私のことをいろいろと心配してくれているのは伝わってくる。 拉致ではないと思っても良さそうだ。
「いやぁ、俺も驚いた。 道脇に何も身につけていないお前が倒れていたのだから、災難だったな 」
そう言われた直後は、理解が追い付かなかったが、だんだん言葉の意味を汲み取り始めると、顔が熱くなった。
「……それって、私は裸で倒れてたってことですか……?」
「そうだ。……ああ、今は平気だ。 この家にあった服を着せておいた 」
そんなこと心配していない。
裸でぶっ倒れていたことが問題だ。
よーく記憶をたどれ……
林をでた後に、私は気絶したんだ。 とするならば、考えられる可能性は一つだ。
誰かに脱がされる以外に制服がなくなるはずがない。
……見られた。
………最低でも二人以上の人に裸を……
ますます顔が熱くなっていく。
「さて、俺はお前にいくつか聞きたいことがあるんだが……いいか? 」
男の人は家の中を物色しながら言った。
「……はい 」
だいぶ小声で返してしまったが、声は聞こえたようで、男の人はさらに続けた。
「お前、どこのもんだ? お前みたいな顔つきの奴はここいら見かけねぇ。 それに、そんだけ美形な輩もな 」
この人……
さらっとまた恥ずかしいことを……!!
「……名前だけでも教えてくれねぇか? 」
私が恥ずかしがって声も出せずにいると、男の人は質問のハードルを下げてきた。
答えられない内容だとでも思われてしまったのだろうか。 これ以上ややこしくしないためにも、ここはちゃんと答えておこう。
「和久井 優理です。 可児出身です 」
「可児か……ここから少し離れてるな。 なぜお前が可児から離れた大垣にいるのか気になるが、まずは…… 」
そこで一旦話を区切ると、男の人は物色を止めて、こちらへ向きなおして、
「お前、女だったのか 」
たいへん失礼なことを口走った。
確かに、私はよく性別を誤認されることがある。
小学校の頃から野球をやっていた影響で、邪魔になる髪はベリーショートで切っているし、運動のお陰か背も女子の中では高い方だ。
だけど! これでも一応、女!
もらったラブレターはすべて同姓から。 男子からのアプローチはスポーツに誘われること(告白なんてない)のみだけど、私にだって女としての尊厳がある!
初対面だろうと、助けてくれた人だろうと、これだけは譲れない!
「私はこれでも、女です! 」
いろいろ調べながら書いてるので時間がかかるけど、投稿した後のアクセス数とかを見ると達成感がもらえます。
感謝をm(_ _)m