消滅の力
「……あれ?」
見覚えがある天井だ。間違いない、僕の部屋だ。
いつの間に寝たんだっけ。それに体がすごく重い。
「お。起きたんだね」
「!」
誰!?
思わず飛び上がれば、ベッド脇の椅子に腰をかけてくすくすと笑う隊長様の姿があった。
「え、な、なななんで隊長様が」
「何? 覚えてないのかい?」
「え! ぼ、ぼくたち何も!!!」
「いや、なんの話?」
……あれ?
「あ!! そうだ、火事!みんなは!」
窓へ走る。ここから森が見えるはずだ。あの日燃えていた森は……!!!
「……え?」
そこから見えた景色は想像とは違う姿だった。
綺麗な黄緑色の景色。沢山の木々や葉に包まれた森が見える。
前と変わらないように見えるけど、なんだか見慣れている景色よりも明るい気がした。
「あぁ、うちで自然系の力を持ってるやつらに協力してもらってね。元通りとはいかないけど」
「は、生やしたんですか?一晩で?」
「確かに生やしたけど……マナトくん、君はもう一週間も寝ていたんだよ」
「……え」
今なんて?一週間?
え?一週間?
「一週間!?」
「ははははは。面白い顔」
「い、いやいやいや、本当に!?」
だからこんなに体が重いの!?
てか人間って一週間も寝れるものなの!?
「混乱してるなぁ」
「じゃ、じゃあみんなは、」
「村の人たちのことはわからないけど、君のおかげで救われた人がいるのは確かだよ」
じゃあ、助かった人もいたんだ……よかった……。
いや、でもまだサイカ姉がどうなのかはわかってない。早く誰かに聞かなきゃ。
でもまだまだ体は上手く動きそうにない。
「ただド派手にやっちゃったからなぁ。良い意味でも悪いでも目立つだろうね」
「ド派手……そういえば、どうして炎は消えたんですか? あれも隊長様の力なんですか?」
「いや……見せた方が早いかな」
そういうと、棚の上に置いていた本への手を伸ばす。その瞬間、本がふわりと浮かび上がった。
「!」
「これが私の力さ」
「ど、どういうことです?」
「うーん、詳しくいうと結構専門的な話になってしまうからなぁ。じゃあ重力、引力、遠心力みたいな話聞いたことある?物が落ちる理由とか習わなかった?」
「あぁ……少し本で」
「その割合を少しいじれるのが私の霊力、ってことさ」
「いじれる?」
霊力は基本的には生み出す力のはずだ。現に村の人たちだって火を出したり水を出したり、そんなものだし……。
「マナトくんはこの国に伝わる伝承を知ってるかな」
「えっと、精霊から霊力が伝わったっていう」
「そうそう。それは本当の話でね。はじめに精霊からもらったのが生み出す力。だが、その後に死をもたらす人間を倒す話があっただろう。その時に生まれたのが、生み出されたもの、もともと存在するものを操る力なんだよ。割と高度な力だからこの辺りじゃみないかもしれないね」
「そ、そうだったんですか……」
知らないことばっかりだ。やっぱり王都の騎士団ともなるとそんなすごい霊力を使える人ばっかりなんだろうなぁ……。
「だから物を浮かすこともできるし、逆に落とすこともできるよ。人だってあっという間に尻餅さ」
「すごいんですね。怖いものなしじゃないですか」
「さすがに大きい範囲とか離れた場所はキツいんだ。力が強い分、結構使うのに苦労するんだよ」
「そういうものなんですか……」
「君も同じだよ、マナトくん」
「え?」
「君の力も強力すぎて使うと倒れてしまうんだね」
僕の力が協力?
「あの、本当に話が見えないんですが……。隊長様、僕の力は風でも水でもないって言いましたよね。じゃあ……僕の力はなんなんですか?」
ふっと、笑っていた隊長様の口角が下がった。
真っ直ぐに見つめられる。視線が反らせなかった。
「霊力を消す力」
「……け、す?」
「そうさ。君はね、風や水みたいな物理的なもので炎を消してたわけじゃない。文字通りそこに存在していた力を消したんだよ。まぁ沢山使えば倒れてしまうから、色々と試すこともできないし今まで気づかないほど小さな炎しか消すくらいしかできなかったってダズから聞いたよ。それじゃあ気づかないのも仕方がない」
霊力を消すなんてそんな話聞いたこともない。いや、また僕が知らなかっただけなのか?
「そ、そんな力があるんですか?」
「ないさ。少なくとも私が聞いた話の中ではね」
隊長様ですら、聞いたことのない力。
「君は気を失ってしまったが、あの時森を覆っていた炎はね、文字通り消えたんだ。頭上にいた鳥も炎が消えて森の中へ落ちていってしまった」
「……」
「正直、君の力は未知のものだ。だけど、霊力を消す力は絶対役に立つ。君はこの力で火事から救ったわけだからね」
僕の力で……。
正直頭が追いつかない。
「混乱しているところ悪いが、私ももう一週間もここに滞在してしまったらそろそろ王都に帰らなくてはならない」
「あ、そ、そうですよね。お忙しいですもんね」
「君も来ないか?」
「え?」
隊長様が僕の手を掴む。
「本当のことを話そう。この国は昨日みたいな謎の生き物による災害、被害が増えている。この力はその被害から……いや、この国を救える力だ。だから、騎士団に来て欲しい」
「えぇ!?き、騎士団、ですか?」
「まぁいきなりは難しいだろうが、騎士団には騎士訓練団というもの訓練所のようなものがあってね、騎士団を目指すものであれば身分を問わずに入団できる。もちろんある程度の霊力は必要だが……」
僕が、騎士団。
たしかに王都には憧れるし、ずっと弱いと思っていた僕の力で誰かを救えるなんてすごい話だ。
でも、僕には鍛冶屋を継ぐっていう夢があって。
そもそも本当に僕に霊力を消すなんて力があるの?何かの冗談じゃなくて?
「……私は明日の朝、発つ。君にその気があるのであればついてきてほしい」
隊長様は立ち上がった。
「急な話ですまないね。無理強いはしないが、よくよく考えてみて欲しい」
そう言って、隊長様は部屋を出ていってしまった。