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消滅の精霊士  作者: つまみ
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祝福の依代

 


「よし、こんなもんだな。終わりにするぞ」


 父さんの言葉を合図に、手を止める。カマドに材料を入れるだけの仕事だけど、高火力の炎の側は熱くて汗が止まらないし、そのそも材料のタイミングも難しい。首にかけたタオルで額を拭っただけで、あっという間に乾きが消えてしまった。

 窓から外を見ればもう夕暮れだ。遠くの空が赤と黒に混じり合っている。


「お前は机の上片付けろ」

「うん、わかったよ」


 父さんが自分の火を消している間に、机の上を片付ける。

 僕がもっと、霊力があればな……。

 自分の力で生み出すことは比較的簡単だけど、生み出したものを消すのはなかなか難しい。伝承にもあった通り、元々は精霊から恵みをもたらす力をもらっている。だからか、一度出したものを消すのはなかなかに大変みたいだ。僕の力は火を消すような風を生み出す力だから消す必要はないけど、もしこんな霊力で父さんと同じ火の能力を持っていたらそれでこそ家が火事になってしまいそうだ。

 だからこそ、水とか風を使える人がいたらいいんだけど、この村には父さんの火を消せるようなレベルの霊力をもった人はいない。父さんがすごい証拠ではあるんだけど……。せっかくの息子なんだから、父さんの力になれればよかったなぁなんて思ってしまう。


「こんばんはー!」


 大きな音を立てて扉が開く。扉に付けられた鈴が大きく振られる。


「ライカ?」


 勢いよく入ってきたのは、幼馴染のライカだった。

 僕と同じ16歳で、少し歩いた先にある森のツリーハウスに暮らしている。肩までの少し暗めの黄緑色の髪を後ろで一つ結びにして、オレンジ色の丸い瞳をしている。この村でも可愛いと言われる方……だと思っている。

 ライカは前掛けに沢山の木の実や鉱石を入れて抱えるように歩いてきた。そしてそのまま荷物を机の上にぶちまけた。


「あー!!!!掃除したばっか!」

「ダズおじさん、こんばんは!」

「おいおい、ライカ、この荷物一体どうしたってんだ?」

「ちょっとおじさんに作って欲しいものがあって!」

「営業時間過ぎてるっての……」


 父さんは机の材料たちを手に取りながら一つ一つ見ている。

 っていうか僕のこと無視?


「ライカってば!」

「あら、マナ!雑巾片手にどうしたの?」

「いや、掃除してたんだけど」

「お疲れ様!」


 とびきりの笑顔を向けられると何も言えなくなってしまう。昔からこの幼馴染の笑顔には弱い。というか、ライカの方が僕よりも少し背が高い。そのせいで強く言えなくなってしまうということもある。


 ちなみに、ダズとは父さんの名前だ。僕ら第三身分には姓はない。第二身分以上にならないともらえないものだ。だからこそ家族みんな似たような名前でかためることが多いが、なぜか僕は父さんとかすりもしていない。

 ……もしかして、母さんの名前に近いのかな。


 僕は母さんのことを覚えていない。

 父さん自身も母さんのことを話さないし、この村にきたのは僕が生まれてすぐだったらしく、村の人たちも知らないらしい。きっと離婚されて前の村に居づらくなったんだろうって村のおじさんたちは笑っている。

 1度だけ父さんにしつこく聞いたことがある。僕が霊力に目覚めた時だ。あまりにも父さんとは違う力で、母さんの力に近いんじゃないかと思って聞きたがったんだ。そうしたら、父さんは1回だけ、


「お前は血の繋がった俺の息子だ。母さんがいなくなってもな」


 そう言った。

 だから僕はもう何も聞けなくなった。


 父さんに視線を移すと、父さんはライカの持ってきた材料たちを見て目を丸くしていた。


「こりゃあ驚いたな。随分質が良いじゃねぇか」

「そりゃあね」

「しかもこの材料……祝福の依代か?」

「その通り!」

「しゅ、祝福の依代!?」


 思わず大きな声を上げてしまった。

 でもしょうがない。祝福の依代は、祭具の一種だ。モノによって形はちがうが、大体は武器の形をしている祭具で、結婚式で用いられるものだ。2人の幸せを願い、何か困難に陥った時も2人で助け合い戦い続けるという誓いと祈りに使う祭具。結婚式の後も、家の守り具として飾られることが多い。実際に2人の霊力を結婚式で込めるからか、本当に結界のような役割を果たすこともある。


 問題は、その祝福の依代の材料を持ってきたのがライカということだ。


 もしかしてライカが結婚?たしかにグランデイルでは16歳からが成人で結婚もできる。だけど今までそんな相手がいるなんて聞いたことはない。いや、幼馴染の僕なんかには話したくなくて話してないだけかもしれない。せっかく家も近いし両親の仲も良いし、そもそも僕とライカも仲が良いし、いつかは一緒にみたいな未来を思い浮かべていないといえば嘘になるのにそんなことって……。


「……おい、うちの息子が頭回してやがるぞ」

「えぇ?」

「おい、マナト、ちゃんと話を聞け」

「はっ!」

「んで、誰の結婚だって?」

「サイカ姉さんよ!」

「え、サイカ姉が?」


 サイカ姉とはライカの姉だ。たしか今年で22歳になるはずだ。マナカの村の初婚年齢は低い。特に女性の大体は十代のうちに結婚することが多い。それでもまだ独身をつらぬいていたサイカ姉が……。

 ライカとよく似てはいるが、少しつり目の顔が思い浮かぶ。昔からよく遊んでもらった。いじめられていたという言い方のほうがふさわしいかもしれないが、お世話になったことは変わりない。


「相手は?」

「ほら、うちに遠征できてた王都の騎士さんよ」

「えっ、あのサイカ姉に張り飛ばされてた?」

「うん、何回もアタックされて姉さんも諦めたみたいよ。まんざらでもないみたいだけど」


 たまに王都の騎士が訓練やら遠征やらでこの村を通る時は多い。そんな中やってきた1人の騎士がサイカ姉に一目惚れしたとかで交際を申し込んでいた……が、サイカ姉は自分よりも身分の高い騎士様を張り倒したのだ。下手したら処罰ものだが、それであの騎士様は惚れ直したらしい。恐ろしい趣味を持った人もいるものだ。

 少し離れた遠征場から毎日のようにやってきてはサイカ姉に告白をしていて、村のおじさんたちがどうなるかを賭けていた気がする。


「すごいなぁ。騎士様の粘り勝ちだね」

「サイカもやるなぁ。玉の輿じゃねぇか。一気に第二身分か。……寂しくなるな」


 ハッと気づく。

 身分の違う男女が結婚した場合、男側の身分に女側の身分が変わる。つまり、サイカ姉は第二身分になるのだ。つまり平民の僕たちが簡単に会える相手じゃなくなる。結婚したら王都へ引っ越してしまうだろうし、僕らは簡単には王都に行けなくなる。


「……そうね。でも姉さんが幸せなら良いのよ」

「ライカ……」

「……おい、マナト、ちょっとサイカに祝いの言葉でもやってこい」

「え、今から?」

「そうだ。ついでにこのまえパン屋にもらった木苺の堅パンでももってけ」


 父さんがパンの入った袋を放り投げる。

 父さんも気を使っているのか……普通はこの村の人同士で結婚することが多いし、あっても隣の村の人との結婚だ。王都に行ってしまうなんてこと滅多にない。祝うべきことではあるけど、ずっと一緒に暮らしていたライカからしたら寂しいだろう。僕だって寂しいんだから。


「マナなら大歓迎よ。姉さんも喜ぶわ!」

「ほら、さっさといってこい。あとは俺が片付けとく」

「う、うん、いってきます」


 僕はライカと一緒に家を出た。



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