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ゴール、その後

作者: 花蓮

 人が何かを始めるとき多くの場合は目標を立てる。目標はとても大切なものだと僕は思う。それは時に行動の指針に、時に原動力となるからだ。その為自分も目標を立てたのだ。

 僕は現在将棋部に所属している。本来であれば、と言うには語弊があるが僕は元々演劇部に入るつもりだった。それがどういう訳か今では将棋部の部長だ。何故僕が将棋部に所属したのか、それは直接、僕が将棋部に入った当時の目標となる。

 仮入部期間、僕は冷やかし程度の気持ちで将棋部に訪れた。自分の意志は既に演劇部にあったから、ほんの気まぐれだった。将棋のルールは知っていて、それまでに将棋で遊んだ事があったというのももしかしたら関係していたのだろう。そこで僕は彼に遭った。僕よりも背が高く、僕よりも少し整った顔立ちをしている男だ。特に理由はないが気に食わないと思った。彼は藤原という。僕と同じように将棋のルールを知っており、軽く遊んだ事がある程度で自信はないという。浅はかにも僕はその言葉にすっかり騙されてしまった。事実、彼は嘘を言ってはいないのだろう。単に僕が彼の謙遜を言葉通りに受け取り、更には過小評価を加えていたのだろう。

 彼は将棋が強かった。事実として言うならば、彼は経験者たる先輩さえ初日から負かしたのだ。先輩にハンデをもらっても敵わなかった僕とは、それこそ比べるまでもないだろう。

 勝った後の彼の態度は実に勝負師らしいものだった。謙遜を交えつつも容赦なく相手のミスを指摘していく、その姿に僕がどれ程の羨望を抱いたことか。そしてまた、僕は羞恥を堪えていた。自分と同程度と思った彼が、隣で先輩と、僕には理解が追い付かない速度で話し合っているのだ。それと、将棋が数手先を読むゲームだという事を僕は初めて実感したのだ。いかに自分が後先何も考えず将棋を指していたか。

 正直に言おう、僕は嫉妬していた。気に食わないあの男に。将棋の力だけではなく、すべてにおいて。僕が彼に勝っている所はどこにもないように思えた。

 そうなると、後は自然だった。劣った気持ちのまま引き下がることは僕のなけなしのプライドが許さなかった。今にして思うとそのささやかなプライドだけはずっと誇れる唯一の美徳かもしれない。

 気づいたら僕は打倒藤原という目標を掲げ将棋部に所属していた。

 やはり彼は圧倒的だった。僕では全く歯が立たなかった。だからこそ、彼は僕の目標であり続けたのだ。しかし、永遠に続くという事はなかった。

 いつまでも彼が僕の目標であってくれたのであればどれ程幸福だったろうか。当時は一切勝てなかった藤原に気づけば僕は勝っていた。間違っても彼を圧倒出来るようになったとは言えないが、少なくとも僕らは互角になっていた。目標は達せられたのだ。そして、僕が抱いていたあの憧憬は知らぬ間に消え去っていた。

 こんなこと言うと不思議に思われるかもしれないが、僕は藤原に勝ちたくなかった。いつまでも自分の先をいく光であってほしかったのだ。身勝手な話であると重々承知している。しかし、ライバルのような、同等になった彼に僕は一切惹かれなかった。

 簡潔に言おう。ここまで長々と書き連ねてきたが僕が最も言いたいのは一つ。今の将棋部に僕は興味がない。退屈でならない。次に目指すべきものが何もないのだ。

 目標を達した後は充実感が続くのだと思ってた。でも違った。ひたすらの虚無だった。

 意地悪くもう一つだけ。彼は、、藤原は一体今までどう思い何を目指していたのだろう、そしてこれからをどう想い何を目標とするのだろうか。

 彼が今まで、あの将棋部を楽しめていたのか。それだけが気がかりでならない。


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