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 良かった。

 本当に良かった。

 ヒスイちゃんが生きていて。

 もう一度ヒスイちゃんに会えて。

 これでもう、思い残すことはなにもないや……。


 感激している俺にヒスイちゃんが話しかけてきた。


「――あなたは誰?」

「ん? 地球にいた時から菊野ヒスイのいちファンで、今は勇者に討伐される直前の魔王だよ」

「あなたも地球から召喚されたのですか?」

「そうそう。ある日起きたら、いきなりこの姿でさー。ビックリしたよ」

「まさか、そんな……」

「でも、こっちの世界でヒスイちゃんに会えてスゴい嬉しいよ。ヒスイちゃんが失踪してからずっと心配だったんだよ。ヒスイちゃんが無事で本当によかった――」


 まさか「倒すべき魔王が自分のファンだった」なんて想定もしていなかったんだろう。ヒスイちゃんの動揺が伝わってくる。


「――みんな心配してたよ。でも、みんな信じてたよ。きっと大変なトラブルに巻き込まれたんだろうけど、ヒスイちゃんなら必ず打ち勝って戻って来るって。みんなそれを信じて待っていたよ。まあ、異世界で勇者やってるなんて、さすがに誰も思っていなかったけどね」


 困惑しているヒスイちゃんの顔も、やっぱり世界で一番カワイかった。

 その表情ひとつで、俺の行動もひとつに決まった――。


 まだ戸惑っているヒスイちゃん相手に、俺はたたみ掛けるように一方的に話し続ける。


「よく考えたら、ヒスイちゃんほど勇者がハマり役な人もいないよね」

「――――」

「こっちに来ても全然変わってないね。アイドルやってても、勇者になっても、ヒスイちゃんはヒスイちゃんのままだ。『みんなを幸せにしたい』っていう夢に向かって真っ直ぐに生きている」

「――――」

「それにしても、ほんと、俺が魔王で良かったよ。普通の人だったら、殺されたくないもんね。そして、そんな相手をヒスイちゃんが殺せるわけがない」


 心の底から嬉しかった。

 俺が魔王で、ヒスイちゃんが勇者。この役割で出会えて。

 俺が魔王になったことにやっと納得がいった。

 こんな粋な計らいをする神様にホント感謝だ。


「俺を殺してよ。魔王と勇者の力の差はよくわかってるでしょ。今のヒスイちゃんなら、なんてことないよね。いつでもいいからちゃちゃっとヤッちゃってよ。あ、できればあんま痛くないようにお願いね」


 少しでもヒスイちゃんが重く感じないように、俺は軽い調子で冗談めかして言い切った。

 そして、最期に世界一の笑顔を網膜に焼き付けてから、俺は静かに眼を閉じた――。


 ――。

 ――――。

 ――――――。

 ――――――――。

 ――――――――――。

 ――――――――――――――――――――。


「焦らさないでよ。実はけっこう怖いんだから――」


 しばらく待っても、ヒスイちゃんが動く気配はない。

 だから――俺は全力で笑った。

 ヒスイちゃんを安心させるように。

 それが彼女から教わったことだから。

 ヒスイちゃんの笑顔とは比べものにならないだろうけど、生涯最高の笑顔ができたと思う。

 魔王の姿してるから、本当に笑顔になっているのか自信がないけど…………。


「――魔王が死ねば、みんなが幸せになる。ヒスイちゃんの夢が叶う。キミの夢を叶える手助けができるなら、俺は幸せだよ。あっちにいた時もこっちに来てからも、それだけは変わらない」


 ――それに、俺が死ぬことによって、大きな大きなメリットが他にもうひとつある。

 このことはできれば彼女には伝えたくない。

 彼女が知ってしまえば、それは彼女の残りの人生を縛る枷になってしまうだろうから。


 幸せだった。

 アイドルとしての菊野ヒスイを応援することが。

 ファンとして、ヒスイちゃんの夢を手伝えることが。

 それがなによりも嬉しかった。

 ヒスイちゃんと一緒に歩んでると思えたから、俺は人生に希望が持てた。

 だから、今度も同じように彼女の夢を手伝うだけだ。

 それが俺のなによりの幸せだ。


「ほら、みんな幸せになれるじゃん――」

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