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07

本日2話目です。

 夏が近づいてきた頃だった。

 いつものように深夜アニメを見終わり、ダラダラとネットを眺めていたある日、動画サイトでリンクをたどっているうち、たまたま彼女と出会った。


 たった数分の短いアイドルのPVだった。

 激しすぎる楽曲にへんてこな歌詞と歌メロ。

 アイドルらしからぬ黒を基調にした無骨な衣装。

 可愛さを前面に出していない暗い世界観。


 初見の印象はむしろ悪かった。

 もともと、アイドルにそれほどいいイメージは持っていなかったし。

 それに、色々やり尽くされたアイドル業界で差別化を図るにしろ、奇をてらい過ぎに感じられた。


 しかし、不思議と途中で止める気にならなかったし、単なるイロモノと受け流すわけにはいかないなにかがあった。

 その理由がなんなのか知りたくて、もう一度繰り返し再生した。

 それでもよくわからなかった。まあ、そこそこカワイイ子だなとは思った。

 けど、数多いるアイドルの中で特段抜きん出てるわけでもない。

 俺は彼女に惹かれているのかどうかすらわからないまま、何回も動画を見返した。


 ――10回以上リピートした。

 やっぱりよくわからなかった。わからなくてモヤモヤしたまま、俺は眠りについた。

 寝て起きたときには、彼女のことも彼女の歌もすっかり忘れてた。

 忘れたままいつもどおりに、ゲームしたり、ネットしたり――。

 

 ――無意識だった。

 完全に無意識だった。

 まったく意識していなかったが、気がついたら口ずさんでいた。彼女のPVの歌を。

 とたん、無性に気になった。

 すぐに、PVが観たくなった。

 繰り返し観た。何度も何度も。

 彼女の魅力の片鱗に触れた気がした。


 それから関連動画もかたっぱしから観た。

 名前で検索して情報を調べまくった。

 彼女の全てを知りたかった。

 完全に彼女の虜になっていた。


 ――何時間経ったか、何日過ぎたかわからない。

 ネットを漁り尽くし、気づいたらちょうど朝日が登るところだった。

 世界が別物に変わったことに気づいた。

 彼女の歌声は俺の体の一部となり、彼女の存在は俺の人生の一部になった。

 絶望と孤独しかない世界は終わり、希望と勇気に満ちた世界が始まっていた。

 彼女と出会い、もう一度頑張ってみよう、自然とそういう気持ちになっていた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 彼女の名前は『菊野ヒスイ』。

 俺の2コ下、16歳のソロアイドル。


 単純なルックスでは、可愛い子ぞろいのアイドルの中では並のレベルかもしれない。

 しかし、そんな彼女がステージに立つと――化ける。


 凛とした瞳は観衆の心の奥底まで見通し釘付けにする。

 澄きとおった歌声は聞き手の魂を揺さぶる。

 ダンスは皆の鼓動をシンクロさせ、力強い生のリズムで包み込む。

 なにか人ならざるモノが憑依したかのような圧倒的な存在感が、その空間を抱擁し、魅了し、支配する。


 そう、まさにステージ上の彼女は観衆に崇拝の念を引き起こさせる存在だった。

 ファンカムの粗悪な動画でも、いや、だからこそか、それが存分に伝わってきた。


 彼女の本領はライブでこそ発揮される。


 CDもDVDも買い揃え、ファンクラブに加入し、実際にライブに足を運んで。

 彼女を知るにつれて、その思いはますます強くなった。


 それまで俺のアイドルに対するイメージは――


 カワイイって言われたい。

 チヤホヤされたい。

 目立ちたい。


 ――そういった『自分が一番大好き』な虚栄心と自意識の塊だった。


 自分の欲望に忠実で、そのためだったらなんだってする。

 見下してるヲタ相手にだって平気で媚びるし、素肌の接触も厭わない。


 そう思っていたから、たまに発覚する彼氏や枕営業のウワサを耳にしても、さもありなんとしか感じなかった。


 けど、ヒスイちゃんは俺のイメージの対極にいた。

 俺の偏見を完全にぶち壊してくれた。


 ――どうしてアイドルになったんですか?


「夢を叶えたくて。そのために、わたしにできる唯一の方法がアイドルだったんです。歌うことだったんです。踊ることだったんです」


 ――夢?


「みんなを幸せにし、世界を平和にすることです」


 ――平和?


「はい。ひとりひとりができることは小さいかもしれません。でも、笑うことは誰でもできます。世界中のひとりずつがみんな幸せに笑っていれば、世界は平和になりますよね。わたしはみんなが笑えるように、そのお手伝いがしたいんです」

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