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06

 ――俺が大学に入学した四月のことだ。


 入学式を前日に控え、俺はルンルン気分で浮かれていた。

 親元を離れて上京し、はじめての一人暮らし。

 この一週間で荷物の整理も終わり、慣れない自炊もなんとかカタチになり出してきた。

 そしてもちろん、長年の悲願だった「誰の邪魔も入らないソロワーク」も味わい尽くした。


 中高の六年間をむさ苦しい男子校で過ごしたが、明日からは周囲の半分は女の子だ。

 男子校育ちにとっては、身近な距離に女の子がいるだけでパラダイス。

 隣の席で並んで講義を受けたり、一緒にランチしたり、帰りに寄り道したり。想像するだけで色々と捗りすぎる。

 それに、ひょっとして彼女ができちゃったりしたら……。


 そんな脳みそお花畑状態の妄想が8割、上手くやれるだろうかという不安が2割。

 いつもはシャワーで済ますが、明日の入学式に備えて、その日はゆっくりと湯に浸かって身体を清め、リラックスしてから眠りにつくことにした。

 バスタブにお湯が貯まるのを待ちながら、右手でスマホ――ネットで「大学生活のスタートダッシュで失敗しない10のポイント」みたいなページを熟読――をいじりつつ、左手には奮発して買ったちょっと高めのバスボム――お風呂の中が宇宙になるやつだ。


 お湯が溜まり、ちょうどいい頃合い。

 俺はいざ、バスボムを投入――のつもりが、


「ぎゃああああああ!!!!!!!!」


 ――俺の右手を離れ、キレイな放物線を描くスマホ。

 そして、そのままバスタブにダイブイン!!!

 慌てて伸ばした反対の手からもバスボムが転がり落ち――、


「ビッグバン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ――新たな銀河系が誕生した。


 急いでバスタブに両腕を突っ込むも、銀河の底に沈んだスマホには中々たどり着けない。

 焦って腕を動かすほどに銀河は広がり、エントロピーが指数的に増大する。

 ドロドロのケイオスの中からサルベージされたスマホはすでにご臨終だった――。


 ――大学生活はスタートダッシュが肝心。最初でつまづくと地獄。


 俺のスマホの遺言になってしまったが、実際にその通りだった……。


 ――春のキャンパスは活気にあふれていた。みんなの顔は期待で輝いていた。

 入学式やら学部全体でのガイダンスやらの後で、新入生はクラスごとに分かれてホームルームみたいなものを受けさせられた。

 それが終わると、自然発生的にSNSの連絡先やメアドの交換会が始まった。

 仕切り役のリア充男子が俺にも声をかけてくれたが、「スマホ故障中で」と返すと、それ以上はなにも聞かれなかった。

 今なら、風呂場でのエピソードはキャラ付け充分なおいしいネタだってわかるし、それをツカミに仲良くなれるだろう。

 けど、当時の俺にそんなコミュ力はなかった。

 スマホが壊れたヘコみ感満載で、ぼそっとネガティブに返事したわけだから、拒絶の態度と受け取られて当然だ。最悪の第一印象を与えたわけだ。

 こうして一歩目でつまづいた俺は、その後もみんなの輪に入るキッカケがつかめず、みごとなぼっちになってしまった。

 後から知ったことだが、クラスコンパにも誘われなかった……。


 大学一年目は語学やら必修科目やら、クラス単位で受ける講義が多い。

 そんな時間、みんなが仲良くしている中、まるで自分がいないかのように扱われるのは、とても苦しかった。

 だから、講義も段々とサボりがちになり、ゴールデンウィーク明けには半引きこもり状態になっていた――。

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