05
はい今死んだ!
――そんな感じで完全に諦めたところだったが……死んでないじゃん!?
無事じゃん! 無傷じゃん! かすり傷ひとつないじゃん!
さては、魔王の本能的パワーで無意識のうちに神速回避でもしたか?
そう思って一瞬浮かれ気分。けど、実際は全然ちげーよ。
攻撃してきたと思ったのは、単なる俺の思い違いだった。
必殺の一撃とか、恐怖心による単なる幻覚だった。
いやー、思い込みって怖いね。
血飛沫とか見えたし、上半身と下半身がバラバラになった気までしたもん。
俺、ビビりすぎ。
実際のところ、勇者は兜を脱いだだけだった。
あ、誤解しないでね。
降参したわけじゃないよ。物理的に脱いだだけだよ。
そうして、勇者は隠れていた素顔を初めて晒した。
「はじめまして。私は勇者としてこの世界に召喚された者です。魔王よ、あなたはなぜ人間との戦いを望むのですか?」
意外な展開に俺は絶句した――。
いや、嘘だろ?
まさか、こんな…………。
「菊野ヒスイ……ちゃんだよね?」
「……何のことです?」
俺の問いかけを勇者はすっとぼけたが、そんなはずはない。
この俺が間違えるわけがない! そんなことありえない!!
ついでにこの展開もマジありえねえよ!!!
興奮しすぎの俺から言葉の奔流が止まらぬ勢いで溢れだした。
「いやいやいやいやいやいや、どっからどう見ても菊野ヒスイじゃん! 菊野ヒスイ以外の何物でもないじゃん! どんな悪人でも許す深く海のように澄んだ凛とした瞳。熟練した職人が一本一本丁寧に削り出したような繊細な憂いを帯びたまつ毛。優しさ、包容力、柔らかさ、暖かさ、女性のすべての美徳を一本ずつに備え持つその秀麗な眉毛。誇り高く天を目指すスラッとした鼻梁。押しつけることなく自然に心に染み渡る福音を告げるような天使の声、そして、それを生み出す淡いサンゴ色の薄い唇。偏見にとらわれず、あるがままの言葉を受け入れる耳。どこまでも柔らかそうなトロトロの丸い耳たぶ。自己主張し過ぎることなく、顔全体の成り立ちを支える縁の下の力持ち的存在でありながらも、チャーミングさがたまらない頬骨。尖っていながらも丸みがあるという一見矛盾しているようでいて、だが、それこそが魅力となっている顎。過酷な異世界の環境にあっても傷も荒れもひとつもない乙女の純血を体現した柔肌。力強さと優しさを象徴する、ヒスイちゃんのトレードマークであるぱっつんぱっつんな短めの前髪、アーンド、ポニテ――」
そこまでまくし立てた俺は、一息ついて、
「――そしてなによりも、かつてのアール・ヌーヴォーですら到達し得なかった完璧な曲率のおでこっ!!!」
スマン、俺はおでこフェチだ。
真顔で長々と「女の子の顔のパーツ解説」とか、普通は女の子にこんなことしたらキモがられるだけだ。
「痛ポエムwwwwww」とネットに晒されて、コピペとして出回って、忘れた頃にネットでそれを見かけて死にたくなるだけだ。
嘘だと思うなら、知り合いの女の子に言ってみよう。
君の黒歴史がひとつ増えるだけだ(※ただしイケメンは除く)。
でも、ヒスイちゃんはそんな子じゃない。
俺の知っているヒスイちゃんは、誰の言葉でもあるがままに受け入れてくれる、そんな女の子だ――。




