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22/22

エピローグ

 最終話です。

 ちょっと長いですが、最後までお付き合い下さい。

 目が覚めたのは、住み慣れた一人暮らしのアパートだった。

 あっちの世界に転移してから一週間がたっていた。

 部屋には薄っすらと埃が積もっている。

 きっと冷蔵庫の牛乳も賞味期限切れだろう。


「ふぅ。なんとか、帰ってこれたな」


 長い夢を見ていただけかもしれない。

 でも、身体が記憶している。

 俺があっちで過ごした一週間はまちがいなくリアルだったと。


 「ヒスイちゃんが無事だったのか?」とか、「リリアスノートはどうなったのか?」とか、不在着信や未読が溜まってるスマホとか、いろいろ気になることはあるけど、今はなにも考えられないほど疲れきっている。


 ――全部、明日起きてからだ。


 俺はベッドに横になり、目を閉じた。

 すぐに猛烈な睡魔に襲われ、俺は簡単に意識を手放した。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝。


 スッキリとした目覚めだった。

 昨日の疲れが嘘のよう。

 生まれ変わったかのような清々しさだ。


 いいね。

 なにがいいって、手が2本なのがいい。


 また魔王になってたらどうしようかと心配したけど、そんなこともなく、普通に人間の姿で安心した。


 冷蔵庫の卵も納豆も賞味期限切れだったから、チンした冷凍ご飯にフリカケで空腹を紛らわせる。

 たったこれだけでも、魔界で食っていた謎肉の百倍美味い。

 帰ってきたんだとあらためて実感する。


 睡眠欲と食欲を満たした俺は、TVを観ながら、スマホをチェックしようとし、TVの画面に釘付けになった。


 ――菊野ヒスイ、無事を確認。


 朝のワイドショーはどの番組もヒスイちゃんの話題で持ちきりだった。

 この空白の一ヶ月は病気療養していたことになっていた。


 なにも告げずに消えたことをを「無責任だ」とか「売名行為だ」とか責めるコメンテーターもいたが、まさか、本当の理由を言うわけにもいかないしな。

 ともかく、ヒスイちゃんが無事に帰れたことが分かり、俺はホッと一安心だ。


 続いて、スマホを確認。

 音信不通になった俺を心配する大学の友人やヒスイちゃんファンのヤツらから、大量の連絡が来ていた。

 俺は一人ずつに、返事をしていく。

 「高熱でダウンしていて、なにもできなかった。スマン」と。

 普段なら、面倒くさい返信作業も、日常が戻ってきたことを認識できて、楽しい気持ちでこなすことができた。

 ヒスイちゃんファンの中には「まさか、ヒスイちゃんと一緒じゃなかったよな?」と冗談交じりに尋ねてくるヤツもいた。けっこうスルドイ。「そうだよ。今も隣で寝てるよ」といつものノリで返しておいた。


 まあ、それは冗談としても、本当にヒスイちゃんと一緒の時間を過ごしたんだよな。

 今でも、まだ信じられない。

 夢だったんじゃないかと思う。


 だけど、本当だったんだ。

 俺はヒスイちゃんとともに、命懸けの戦いを乗り越えたんだ。


 一対一で話をして。

 お互い笑い合って。

 一緒に戦って。

 一緒に勝利して。

 一人の魔族を救って。

 そして、ヒスイちゃんに抱きつかれた。


 信じられるか?


 誰かに言ったところで、入院を勧められるだけだろう。

 でも、俺にとってはまちがいなく体験した過去だ。


 アイドルとファン。


 近いようで果てしなく遠い二人が、それぞれの人生の中で、一瞬だけ交わった。

 これからはまた、本来通り、別々の道を歩いて行く。


 俺はこれからも、ヒスイちゃんのCDを聞き、DVDを観て、ライブに参戦するだろう。

 そして、ヒスイちゃんもアイドル活動を続け、さらなる飛躍を果たすだろう。


 ステージと観客席フロア


 これが俺とヒスイちゃんの距離だ。

 これ以上近づくこともないだろうし、離れることはもっとないだろう。


 少し寂しい気もするが、これでいいんだ。

 短い時間ではあったけど、あの濃密な、かけがえのない貴重な体験ができただけで、俺は十分に幸せ者だ。


 あの場で得たものは、俺の生涯で一番の宝物だろう。


 俺はこれから、自信を持って生きていける。

 俺は俺の人生を歩むんだ。歩まなければならないんだ。

 ヒスイちゃんのおかげでその自信が持てた。

 ヒスイちゃんにはヒスイちゃんの道がある。

 俺には俺の道がある。

 ヒスイちゃんが戦い続けるように、俺も自分の人生を戦って行くんだ。

 それができるという確信を、俺は異世界で手に入れた。


 それだけで、十分だ――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ほとぼりが冷めた一週間後。


 俺は一週間という時間をかけて、少しずつ日常を取り戻していた。

 心配してくれた友人と会ったり、全国のヒスイちゃんファンとネットやメッセでやり取りしたり。

 異世界に行く前の生活に戻っていった。

 いや、戻ろうと努力していた。


 そんな頃、一通の封筒が届いた。


 ヒスイちゃんが所属している事務所の封筒だ。

 裏には可愛くて凛とした綺麗な字で『菊野ヒスイ』と書かれている。それを発見した俺の心臓がドキリと音を立てる。


 表にはなにも書かれていないし、切手も消印も存在しない。

 直接投函されたのだろうか?


 期待と不安が混じるなか、俺は丁寧に封筒を開けた。


 中に入っていたものは3つ。


 ひとつ目は、ライブのチケットが1枚。


 ヒスイちゃんが失踪した際に、初の武道館公演を含む予定されていたツアーはすべてキャンセルになった。

 そして、ヒスイちゃんが帰ってきた翌日。急遽、10日後に1日限りのライブを行うことが発表された。


――菊野ヒスイの復帰ライブ。


 ファンクラブ会員限定で、キャパ200人の小さな箱でのライブだ。

 ヒスイちゃんが健在であることを一日でも早く伝えようというスタッフの意向だろう。


 この発表にネットのファンサイトや掲示板は大盛り上がりだった。

 チケットはネットでの抽選。しかも、ファンクラブ会員限定。

 応募資格があるのは、発表以前に会員登録していた人だけだ。


 お金儲けを考えるなら、新規会員も受け付けるはずだ。

 これだけ話題になっている今なら、入会費と年会費だけでもバカにならない収入だし、新規ファンを取り込む絶好のチャンスだ。


 だけど、運営はその選択肢を選ばなかった。

 古くからのファンを大事にし、そして、ヒスイちゃんも大事にしている。

 その意志が伝わってきて、俺は嬉しかった。


 ともかく、それでも、倍率は百倍以上。

 極一部の当選者は歓喜し、ほとんどの人は悲しい涙を流すことになった。


 もちろん、俺もハズレ組のひとり。

 悔しかったけど、まあ、仕方がないと諦めていたところだった。

 そんなところに降って湧いたプラチナチケット。

 しかも、関係者席だ。


 ドキドキと高鳴っていた鼓動がどんどんと速くなっていく。

 俺は急ぐように次の内容物に目を向ける。


 ふたつ目は、直筆の手紙だった。


『魔王さんへ


 いきなりのお手紙失礼します。

 もしご都合がよろしければ、私のライブを観に来ていただけませんか?

 お話したいことがありますので、ライブ終了後に楽屋までお越し下さい。

 同封のバックステージパスをスタッフに見せれば、案内してもらえるはずです。


                    菊野ヒスイ』


 封筒に書かれていたのと同じ、ヒスイちゃんの性格を表す筆致だった。


 そして、みっつ目は手紙にあったように、バックステージパス。


「マジかよ…………」


 俺とヒスイちゃんの特別な関係。

 それはもう途切れたのだと思っていた。


 それが、再び――繋がった。


 自分では諦めたつもりだった。

 いや、諦めようと努力していた。

 本当は、諦めたくなんかなかった。

 でも、俺が悪あがきしたところで、ヒスイちゃんに迷惑をかけるだけだ。

 あれは俺の良い思い出――そう思って、割りきろうと頑張った。


 だけど、まだ終わっていなかった…………。


 また、ヒスイちゃんに会える。


 嬉しかった。


「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


 気づいたら、俺は絶叫しながら、部屋の中で飛び跳ねていた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ――ライブが終わり、熱狂冷めやらないフロアを俺は2階の関係者席から見下ろしていた。


 今日のライブも凄かった。

 今までで見たライブの中で一番凄かった。

 これまでのライブも、もちろん凄かった。

 だけど、今日のは別格だ。

 完全にひとつ上のレベルになっている。

 俺だけじゃなく、今日のオーディエンスは全員それを実感しただろう。


 やはり、異世界での経験でヒスイちゃんはレベルアップしたんだ

な。

 これなら、休んでいた分なんかすぐに取り戻せるな。

 いや、それどころじゃない、この先、かつてないほどの快進撃が待っているんだろう。

 いよいよ、世界征服ってのも冗談じゃなくなってきた。

 本当に今日のヒスイちゃんは凄かった。


 フロアの盛り上がりも凄かった。

 いつもなら、俺もそこにいる。

 すぐにでも、飛び込んでいきたいと何度思ったことか。


 でも、そこはもう、俺の場所じゃない気がした。

 俺はもう既に、ヒスイちゃんに救われたから。

 あの場所は、ヒスイちゃんに救われる必要があるヤツらのための場所だから――。


 肩を組んで涙を流している戦友たちの姿を横目に、俺は近くに立っていた会場スタッフに声をかけた。

 スタッフに案内されてヒスイちゃんの控室へ向かう。

 ドアを開けて中に入った途端――。


 「おにーちゃん!!!」


 突進してきた少女に飛びつかれる。

 少女はそのまま、俺にギュッと抱きつく。


「リリアスノートッ!?!?」

「へへへっ、おにいちゃん、久しぶり」


 なんとそれは異世界で魔王となっていた魔族の女の子だった。

 腕が4本あるいかつい姿ではなく、身体を乗っ取られる前の幼い少女の姿をしている。


 リリアスノートのことは俺も心配していた。

 こっちに戻る転移術式を起動したときに、俺とヒスイちゃんだけでなく、リリアスノートも自分から巻き込まれにきた。

 転移術式は各人が望む場所に転移するはずだ。

 リリアスノートがちゃんと安全な場所に転移できたのか心配だったのだが――この表情をみるかぎり安心して良さそうだ。

 人懐っこさそうに身体を擦り寄せてくるリリアスノートの頭を俺は優しく撫でる。


 だいぶ元気になったようだ。

 あっちの世界ではボロボロで憔悴しきった姿だった。

 でも、今は、カワイイ地球産のワンピースに着替え、ニコニコと笑っている。

 その姿を見て、俺の胸が暖かくなった。


「どうやら、俺との約束をちゃんと守ってるみたいだね」

「うん。当たり前だよ。おにいちゃんから貰った、大切な大切なプレゼントだもん」


 俺との約束――「今度こそ、幸せになるんだぞ」の通り、リリアスノートは幸せそうな笑顔を弾けさせる。

 ヒスイちゃんもリリアスノートも無事なようで本当に良かった。

 俺はホッと一安心。


「ところで、ヒスイちゃんは?」


 あまり広くない控室にはリリアひとりきりだった。


「おねーちゃんは、今お着替え中だよ〜」

「ああ、そうか」


 あれだけの激しいステージ、汗だくになっているに決まってるもんな。


「こっちの生活はどうだ?」

「うん。楽しいよ」


 ヒスイちゃんを待ちながら、こっちの生活についてリリアスノートと雑談する。

 リリアスノートはヒスイちゃんと一緒に暮らしているそうだ。

 「おねーちゃん、おねーちゃん」と懐いている模様。


 リリアスノートの戸籍やらなんちゃらは事務所の力でなんとかなったそうだ。すげえな日本の芸能界。

 その戸籍によるとリリアスノートは『菊野リリア』という名前。

 ヒスイちゃんの親戚のハーフの女の子という設定らしい。

 リリアは金髪だし、異国風の顔立ちだけど、ハーフという設定でギリギリ許容範囲かな。


 加えて、戸籍によると年齢は13歳。

 もちろん推定年齢だけど、見た目にはふさわしい年齢だ。

 もう少し落ち着いたら、中学校に通うそうだ。

 日本の生活にちゃんと溶け込めることを祈るばかりだ。


 そして、驚きのニュース。

 なんとリリアは菊野ヒスイのバックダンサーとしてデビューするそうだ!

 只今、猛特訓の真っ最中らしい。

 さすがはヒスイちゃんの運営。

 ずいぶんと思い切ったことをやるもんだ。

 でも、ヒスイちゃんの後ろで踊るリリアを想像するとドンピシャで適役な気もする。

 リリアのデビューする日も楽しみだな。


 そんなこんなで、話をしているとヒスイちゃんが部屋に戻ってきた。

 ライブの興奮が残っているのか、少し上気したヒスイちゃん。やっぱり今日もカワイイ。


「あっ、ヒスイちゃん。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

「いやあ、良かったよ。今日のライブ。今日もサイコーだったよ」

「おねーちゃん、おかえりー」


 やはり、リリアはヒスイちゃんに懐いているようで、その姿を見つけるやすぐに駆け寄り、元気よく抱きついた。


「リリアちゃんもお疲れ様。退屈しなかった?」

「うん、へーき。おにいちゃんとお話してた〜」


 こうやってみると、ほんと仲の良い姉妹みたいだ。

 二人とも目を見張るような美少女だから、なんとも絵になる光景だ。


「あれから、大変じゃなかった?」

「ええ、大変でした。多くの人に頭を下げて、それでも、プロデューサーさんやスタッフの方々は、必死に『菊野ヒスイ』を守ろうとしてくれて、それで、なんとかまた、こうやってやっていけることになりました」

「それだけ『菊野ヒスイ』は愛されてるってことだよ」

「そうですね。本当に皆さんのおかげです。それにスタッフの方々だけじゃないです。今日も大勢のファンの皆さんが『菊野ヒスイ』を支えてくれてるんだなって、あらためて実感しました」

「『菊野ヒスイ』のファンはこんなもんじゃないよ。チケットがハズレて悔しがっているヤツらが、今日の何千倍もいるよ」

「そうですね」


 俺の軽口にヒスイちゃんがフフフッと笑う。

 その笑顔が額縁に入れて永久保存したいくらいにカワイイ。


「今日はわざわざ来ていただいてありがとうございました。リリアも魔王さんに会いたがっていたんですよ」

「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。俺もチケットハズレて歯噛みしていたクチだからね」


 約十日ぶりに聞く「魔王さん」という呼び名が、遠い昔のことのように感じられて、ひどく懐かしかった。


「それにしても、よく俺の家が分かったね」

「それはリリアちゃんが」

「おにいちゃんの魔力は分かりやすいからね」

「ああ、なるほど」


 そういえば、そうだった。

 リリアと俺は魔力の波動が似ているんだったな。

 それを辿って来たってわけか。

 人間の身体に戻った俺にはそんな芸当できないけど、魔族のリリアならそれも可能ってことか。


「魔王さんはこちらに戻ってから、大丈夫でした?」

「ああ、まあね。俺も心配されたけど、『熱出して寝込んでた』で押し通したよ。俺の場合はあっちに行ってたの一週間だし、それに、ただの大学生だからね。ヒスイちゃんと違って大事にはならなかったよ。しいていえば、冷蔵庫の中がダメになったくらいかな」


 またもや、ヒスイちゃんがクスリと笑う。


「魔王さん、3つお願いがあるんです」

「なになに、ヒスイちゃんのお願いだったら、3つに限らず何個でも聞いちゃうよ」

「またまた〜」


 俺の返事をヒスイちゃんは冗談だと捉えたようだ。

 至って本気なのだが。


「それでですね」

「うん」

「ひとつ目のお願いなんですけど」

「うんうん」

「たまにでいいので、リリアと遊んでもらえないでしょうか?」


 リリアがこっちを不安そうな顔で見つめる。

 そんな捨て犬みたいな顔しなくても……。

 もちろん、俺の返事は決まっている。


「ああ、もちろんだとも。俺もリリアに会いたいしな」

「ありがとうございます」

「やった〜。おにいちゃん、ありがと〜」

「暇なときは、魔力を辿って遊びに来てもいいぞ」

「うん。遊びに行くね〜」


 またもや、リリアがギュッと俺に抱きつく。

 大丈夫、まだ、妹みたいなもんだ。

 でも、数年後は……ちょっと心配だ。

 そんなリリアの姿を微笑ましく見ていたヒスイちゃんだったけど、急になにかを思いつめたように真剣な表情になった。


「それでっ、ふたつ目のお願いですけど」

「うん、なになに?」

「あのー……そのー……」

「うん?」


 言いづらそうにモジモジし出すヒスイちゃん。激カワイイ。


「えーとですね、……わっ、わたしと…………とっ……とっ……友だちになってくだひゃい……………………」

「…………」


 ポッと赤面するヒスイちゃん。

 噛んだよ。噛みましたよ。大事なところで噛んじゃったよ。

 やっぱりポンコツなヒスイちゃん。

 そんなところが本気でカワイイ。

 などと見惚れていたら、いけないいけない。

 黙りこんでしまった俺を、ヒスイちゃんが心配そうに見つめてる。

 そんな姿もまた超絶カワイイんだけど、早く返事をしてあげないとな。


「こっちからお願いしたいくらいだよ。俺で良ければ、是非友だちになって下さい」

「ホントですかっ!?」


 俺の返事に花を咲かせたような笑顔のヒスイちゃん。

 史上最高にカワイイ。


「ほんとほんと。てゆうか、そっちこそホントだよね? 手の込んだドッキリとかじゃないよね?」

「ホントですよ〜」


 ホントなのか。ドッキリじゃないのか――って、えええええええぇぇええぇえぇええぇえぇええぇえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?


「マジーーーーー???」

「はいっ、マジです」


 うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ。


 俺とヒスイちゃんが友だち?

 嘘だろ?

 えっ、嘘じゃないの?

 夢?

 夢か?

 夢なのか?

 ほっぺイタイ。

 夢じゃない。


「いっ、いまだに信じらんないんだけど、理由を聞かせてもらっても?」


 びっくりしすぎて、心臓がバクバクいっている。


「私って男性のお友だちがいないんですよ」

「そうなの? アイドルやってたら、いっぱい寄ってきそうだけど」

「そういう方は下心ばっかりで……」

「ああ、そうか」


 純粋なファンである俺としては、そういう『菊野ヒスイ』を踏みにじるようなヤツらには反吐が出る思いだ。

 今のヒスイちゃんの言葉を聞いただけで、無性に腹が立ってくる。


「でも、魔王さんは違ったんです」

「…………」


 確かにあの時はそれどころじゃなかったもんな。

 ヒスイちゃんを助けることしか頭になかったもんな。


「それに…………とっても…………頼もしかったです」

「えっ!?」


 微かに顔を赤らめるヒスイちゃん。

 無条件でカワイイ。


「困っている私をちゃんと支えてくれて、励ましてくれて、そして、一緒に戦ってくれました」

「――――」

「リリアちゃんを助けるために、必死で歌ってくれた姿、格好よかったです」

「――――」

「だから、あなたのことがもっと知りたいです」


 真剣な瞳でこちら見つめるヒスイちゃん。

 凛々しくて、カワイイ。


 ここまで褒められたことなんて、今までの人生でなかった。

 しかも、世界で一番憧れている相手から。


 生きてきてよかった。

 心の中にじんわりとした幸せが暖かく広がる――。


「じゃあ、あらためて、よろしくね」

「はいっ、よろしくお願いします」


 差し出したオレの手をヒスイちゃんがギュッと握る。

 暖かい体温が伝わってくる。

 ヒスイちゃんの体温が。


 嬉しいんだけど、気恥ずかしい。

 俺もヒスイちゃんも赤面して、黙りこんでしまった。


「そっ、それでっ、最後のお願いなんですが――」

「うん」


 どちらともなく、名残を惜しみながら、手を放した。

 ちょっと動揺しているヒスイちゃん。

 深呼吸してから、じっと俺の目を見る。

 そして、最後のお願いを口にする。


「あなたの名前を教えて下さい」

「うん、喜んで。俺の名は――」


 以上。俺の話はここまでだ。

 ひとりのファンが異世界で魔王になって、追っかけてたアイドルの勇者とともに戦い、ひとりの小さな女の子を救った話はこれでお終いだ。


 こっから先は、また別のお話だ。

 どうなるかはわからない。


 でも、ひとつだけ言える。

 俺はこれからも戦い続ける。

 戦いの道を歩き続ける。

 幸せになるために。


 可愛い妹と友だちができたんだ。

 だから、俺はこれからも戦っていけるんだ――。


                    (完)

 最後までお読みいただきありがとうございます。

 お楽しみいただけたでしょうか。

 ブクマ・評価でご支援いただけると、創作の励みになりますので、どうぞ、よろしくお願いします。


【連載中作品】


「貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収 〜用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート妖精と一緒に取り立てた魔力を運用して最強を目指す。限界まで搾り取ってやるから地獄を見やがれ〜」

https://ncode.syosetu.com/n1962hb/


 追放・リボ払い・サポート妖精・魔力運用・ざまぁ。


 可愛いギフト妖精と一緒に、追放したパーティーからリボ払いで取り立てた魔力を運用して最強を目指すお話。

 ヒロインは不遇なポニテ女剣士。


「勇者パーティーを追放された精霊術士 〜不遇職が精霊王から力を授かり覚醒。俺以外には見えない精霊たちを使役して、五大ダンジョン制覇をいちからやり直し。幼馴染に裏切られた俺は、真の仲間たちと出会う〜」

https://ncode.syosetu.com/n0508gr/


 追放・精霊術・ダンジョン・ざまぁ。

 ヒロインは殴りヒーラー。


 第1部完結。

 総合2万ポイント超え。

 日間ハイファン最高15位。


 ページ下部(広告の下)リンクからまさキチの他作品に飛べます。

 是非読んでみて下さい!


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