13
「それで、魔王さん。もうひとつ、お尋ねしたいのですが、どうやったら魔族と人間は仲良く共存できるでしょうか?」
「…………………………残念だけど、それは無理だ」
ヒスイちゃんの願いは叶えてあげたい。
俺が手助けできるなら、なんでもやってあげたい。
でも、今回ばかりはできないんだ。
この後の筋書きはもう決まっていて――誰にも変えられないんだ。
唯一、俺にできることは、ほんのちょっとそれをイジるだけ。
そして、それは俺にしかできないこと。
たとえ、勇者でもできないことなんだ。
「えっ…………そうなんですか。でもっ――」
「さっきも言ったけど、人間は魔族に大きな恨みを抱いている」
「…………」
「勇者が召喚されるまでは人間よりも魔族の方が圧倒的に強かった。でも、今の魔族は壊滅寸前だ。強い魔族は君が全部倒しちゃったからね。魔王がいなくなったら、人間たちは残った魔族に恨みをぶつけるだろうね。間違いなく魔族は皆殺しだよ、老人や子ども、そして、赤子までね」
そう、この後に待っているのは人間による復讐劇。
それを避けるのはいくら勇者でも不可能だ。
またも、ヒスイちゃんに厳しい現実を突きつけた。
悲しいけど、これが現実。
復讐を当然ととらえるか、醜いととらえるか。
彼女なら、きっと悲しむんだろうな――そう思っていたら、意外な答えが返ってきた。
「いえ、それは違います」
「違うって言ったって――」
ヒスイちゃんは凛とした表情で、俺の言葉を遮る。
「そもそも、私は一人の魔族も殺してはいません。私が倒した魔族は皆、命を奪わず封印しているだけの状態です。人間と魔族が仲良く平和に暮らせるのなら、いつでも封印は解けます。できれば彼らも救いたいというのが私の願いです」
「そうなのっ!?!?」
「はいっ」
「勇者ってすげー能力を持ってんだな……。魔王なんて壊すか、殺すしかできないのに」
「ははは」
ヴィガントス生きてんのか!
彼女の話を聞いて、嬉しくなった。
自分で思っていた以上に、ヤツには愛着が湧いていたようだ。
もう一度、ヤツと一緒にラーメン喰いたかった……スマンな。
ヤツのことだから、絶対に自分を責めるよなあ…………ほんとゴメン。
覚悟したつもりだったのに、ひとつ心残りができちゃったよ。
でも、ヒスイちゃんの夢のためだ。
ヒスイちゃんの夢は「みんなを幸せにし、世界を平和にする」こと。
そして、そのみんなの中には――。
「そっか、ヒスイちゃんが救いたいみんなの中には魔族も入ってるんだね。それに魔王も……」
やっぱり、ヒスイちゃんはすげーや。
俺が勇者だったら、深く考えずに魔王を倒してメデタシメデタシだ。
魔族も、そして、諸悪の根源である魔王も含めて世界を救おうだなんて思いつきもしないや。
「ただ、私にはその方法がわかりません。魔王のチカラならなんとかなるのでは、と思ったのですが」
「あっ、それなら――」
魔族を殺していないという彼女の話が本当なら、やりようはある。
ヒスイちゃんなら、それが可能だっ!
本来、魔族は人間を憎んだり、恨んだりしてるわけじゃない。
あっちの世界での人種や宗教の違いによる摩擦みたいなものはあるが、基本的にお互いあまり干渉せずというスタンスだった。
今回の件は、100パーセント魔王さまのせい。
魔族のみんなは魔王さまが怖いから従っていただけ。
魔王さまに歯向かうより、人間と戦う方が生存確率が高いってだけ。
歯向かったら100パーセント死ぬからね。
「――大丈夫だよ。ヒスイちゃんが言うように、魔族が封印されているだけなら問題ないよ。魔族は魔王を恐れて言うこと聞いていただけだから、魔王がいなくなったと分かれば人間と上手くやっていける。そして、人間側もそれなら戦おうとはしないはずだよ。戦ったら確実に人間側が滅ぶからね。後は放っておいても――世界は救われる」
「そうですか! それは良かったです!」
俺の言葉に飛び跳ねるように喜ぶヒスイちゃん。
やっぱり、ヒスイちゃんには笑顔はサイコーだ。
ヒスイちゃんはライブの最中は決して笑わない。
ライブ中の戦っている真剣な表情ももちろん素敵だが、最後の曲が終わって初めて見せる笑顔はホント反則で、地球上にこれより大切なものがあるのだろうかって思う。俺だったら、世界遺産に認定しちゃう。
「これでヒスイちゃんの疑問は全部解決したかな? まだなにか訊きたいことある?」
「はいっ! 解決しましたっ! 大丈夫ですっ!」
いやー、ヒスイちゃんの笑顔も見れたし、ハッピーエンドで良かったね。
いろいろあったけど、終わりよければ全てよしだね。
よしっ、あらためて後は俺が死ぬだけだ――。




