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「――じゃないと、人間は気持ちが収まらないよ。彼らの復讐は魔王が死ぬまで終わらない」
魔王の命令によって、多くの魔族が死に、それより遥かに多くの人間が殺された。
大切な人の命を奪われた人々に「魔王は反省したから、もう許してやれ」と誰が告げることができよう。
親友を殺された男に。
恋人を殺された女に。
妻を殺された夫に。
夫を殺された妻に。
兄を殺された妹に。
妹を殺された兄に。
子どもを殺された親に。
親を殺された子どもに。
俺だって、ヒスイちゃんが殺されたら、決して許さない。
ヒスイちゃんが望んでいないことを知っていても、俺は復讐を止められない。
こう考えることしかできないのは、俺がもう既に毒されているからだろうか?
魔王に、そして、この世界に――。
「……やはり、そうするしかないのでしょうか?」
「残念だけどね。でも、大丈夫だよ」
俺が彼女につきつけた残酷な事実――それを聞いて彼女は力強くこぶしを握りしめる。
彼女も頭では理解しているのだろう。
そして、なんとか折り合いを付けようと必死なのだろう。
俺はそんな彼女を安心させてあげたい。
だから、俺はひとつ嘘をつく――。
「本来の魔王様はもう消滅しているしね」
「ほっ、本当なのですか??」
「ああ。俺が召喚されるのと同時にね。魔王の身体と記憶は俺が引き継いだけど、精神はどっかに行っちゃったよ。さすがに、ひとつの身体にふたつの精神は入らないみたいね。なんか、俺が追い出しちゃったみたいで申し訳ないけど」
「そうなのですか」
「まあ、それが魔王の罪滅ぼしってことで許してやってよ。って身体を乗っ取った俺が言うのもあれだけど」
「はい。わかりました。でも、魔王を救えなかったことが、とても残念です……」
「しょうがないよ。ヒスイちゃんでもどうしようもないことだもん。割り切っていくしかないよ」
「そうですね。わかりました。そうします」
ヒスイちゃんは俺の言葉をすっかり信じこんだようだ。
俺の心がチクリと痛む。
ゴメン、ヒスイちゃん。君を騙すようなことをして。
魔王は消滅していない。
今も、この身体の中でひっそりと息を沈めている。
だけど、それは俺が墓場まで持って行く秘密だ。
ヒスイちゃんに十字架を背負わせるわけにはいかない……。
――出し抜けにヒスイちゃんの声が耳に届く。
「あの、魔王様?」
「様付け? べつに、『魔王』って呼び捨てでいいよ。まあ、『魔王』って役職名だから、呼び捨てっていうのも変だけど。ほら、社長様とか、言わないでしょ?」
「いえ、同じ地球人ですし、それに、あなたの方が年上みたいですし、呼び捨てするのも抵抗が……」
「うーん、地球の名前で呼んでもらうのも変だし……。じゃあ、『魔王さん』あたりでどうかな?」
「はい、わかりました。魔王さん」
こんな他愛もない会話だけで、無性に幸せな気持ちになれる。
本当にヒスイちゃんは天使だ。
「それで、魔王さん。もうひとつ、お尋ねしたいのですが、どうやったら魔族と人間は仲良く共存できるでしょうか?」




