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俺が元地球人で彼女のファンだということをヒスイちゃんは信じてくれた。
その上で、彼女はいくつか訊きたいことがあると問いかけてきた。
もちろん、俺としては喜んで答える気満々だ。
「あなたが地球から召喚されて魔王をやらされていることはわかりました。それで、あなたがこの世界に召喚されたのはいつですか?」
「ヒスイちゃんが失踪してから35日目。こっちの世界だと、ちょうど1週間前。ヒスイちゃんが四大悪魔将軍の三人目を倒した次の日の朝だよ。あの大っきな赤いドラゴンのやつ。覚えてないかな?」
「ええ、覚えています。そうだとすると、人々を苦しめてきたのはあなたではないのですね?」
「あー、まあ、そうだね。それはこの身体の元の持ち主のオリジナル魔王さまがやったことだね」
召喚されて以来、俺は勇者対策に精一杯で人間にちょっかい出す暇なんかまったくなかった。
「それを聞いて安心しました。あなたが悪しき存在とならなくて本当に良かった」
「あー、でも魔王さまの記憶と性格に結構引きずられてるからなあ。下手したら、俺も凶悪魔王になってたかも」
俺が悪事に手を染めていなかったことを知り、ヒスイちゃんは自分のことのように喜んでくれた。
彼女に告げた通り、俺は人間を傷つけたり、殺めたりはしていない。
しかし、魔王になって日が経つ毎に、人間だった頃の倫理観が薄れていっているような気がするんだ。
魔王の身体に影響されているのか、だんだんと他者の命を奪うことに抵抗がなくなってきているし、時たまチカラの限り暴れ尽くしたいという衝動が湧き上がってくる。
もし、このまま魔王を続けていたら、俺はとんでもないことを仕出かしてしまうんじゃないか……。
「私はできれば魔王を殺しくなかったんです。改心して、罪を償ってもらえればそれで充分だと。そう思っていました」
「ああ、そりゃあ無理だね。この魔王さまはそんな殊勝なやつじゃないよ。自分以外は人間も魔族もみんな虫ケラだと思ってるもん。殺したって改心なんかしないよ」
「そうなのですか……」
「それに、魔王は死ぬべきだ。勇者の手によって葬られるべきだ。じゃないと終わらないよ。魔王はあまりにも多くの命を奪いすぎたんだよ――」
俺の言葉にヒスイちゃんは悲痛な顔をしている。
そんな痛ましい表情も彼女が浮かべると、恐ろしいくらいに美しい。
だけど、本当なら、彼女にこんな表情はさせたくない。
彼女にはなんといっても凛々しい笑顔が一番似合う。
「改心して、罪を償えばいい」という彼女の言葉は、ヒスイちゃんらしい優しさにあふれる言葉だ――でも、甘い。甘っちょろすぎる。
罪を憎んで人を憎まず――言うのは簡単だけど、実行するのはとっても難しい。
ヒスイちゃんはそれを実行しようと、世界を平和にしようと、地球で必死に頑張っていたし、俺も応援していた。
だけど、この世界ではキレイ事すぎる。
ここはあまりにも命が軽すぎる。
数千、数万の命がゴミみたいに、いとも簡単に刈り取られる。
だから、残酷かもしれないけど、俺は彼女に事実をつきつける。
「――じゃないと、人間は気持ちが収まらないよ。彼らの復讐は魔王が死ぬまで終わらない」




