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「ちょっと待って。早まらないで。その前に、いくつか教えて下さい」


 眼を閉じたままの俺に、ヒスイちゃんが慌てたように問いかけてきた。

 できれば覚悟が鈍る前にサクッと介錯しちゃって欲しいと願うヘタレな俺だけど、ヒスイちゃんに話しかけられて返事をしないという選択肢はありえない。

 だから、俺はそっと眼を開いた。


「あなたは本当に地球人で、私のファンだったのですか?」

「前半はイエスだけど、後半はノーかな。『ファンだった』ってのは間違いだよ。魔王になって地球人はやめちゃったけど、俺は今でも菊野ヒスイのファンだよ」

「ごめんなさい、疑うわけではないんですけど……」


 申し訳なさそうな顔をするヒスイちゃん。

 疑われても俺は嫌な気持ちはしない。

 思慮深い彼女としては当然の行為だろう。


 なにせ、世界の平和がかかっているのだ。

 もしかしたら、勇者を油断させるための魔王の罠かもしれない。

 魔王が嘘をついていないかどうか、勇者の立場としては疑ってかかるべきだ。


「たしかに、魔王がなんらかの方法で地球のヒスイちゃんの情報を手に入れたって可能性は否定できないよね……」

「…………はい」

「俺はさ、本当にヒスイちゃんが大好きだったんだ。ヒスイちゃんに生きる力をもらったんだ。俺はヒスイちゃんに出会う前はほんとダメダメだったんだ。でも、ヒスイちゃんに出会ったから、ヒスイちゃんに恥じないように精一杯に生きようって決めたんだ。ヒスイちゃんのおかげで生まれ変わることができたんだ――」


 ヒスイちゃんは俺の独白を真剣な顔で聞いてくれている。

 語っているうちにどんどんヒートアップしてきた俺は止まることができずにしゃべり続けた。


「――ヒスイちゃんの夢を聞いて、俺もその手助けがしたいと思ったんだ。ヒスイちゃんがインタビューで語った『みんなを幸せにし、世界を平和にすること』っていう夢。その夢のためには、『俺も幸せにならなきゃいけないんだ』って、そう思ったんだ。怖いこともあったし、逃げ出したいときもあったよ。でも、そんなときヒスイちゃんの笑顔が頭に浮かぶんだ。ヒスイちゃんも戦ってるんだって思ったら、俺も頑張ることができたんだよ。だから、とっても感謝している。ヒスイちゃんには世界で一番感謝してるんだ。ほんとうにありがとう」


 彼女の綺麗なアーモンド形の瞳から涙が一雫こぼれ落ちる――。


「わかりました。信じましょう。そして――」


 ヒスイちゃんは一息入れ、


「ありがとう。私の方こそ、お礼を言いたいくらいです。今のあなたの言葉を聞いて、アイドルをやってて良かったと、心の底から思いました」

「いやいや、お礼なんてもったいない。俺がヒスイちゃんからもらったものの大きさに比べたら……」

「ふふふ」


 涙の跡が残る彼女の笑顔はやっぱり、サイコーにカワイかった。


「でも、本当に信じちゃっていいの?」

「ええ。今の言葉が信じられないのなら、私は他のなにも信じることはできないでしょう」

「そっか、ありがと。嬉しいよ」


 信じられるか?

 あの菊野ヒスイが俺に向かって、俺だけに、俺のために微笑んでいるんだよ?

 しかも、一対一で会話して、お礼言われた上に、「アイドルやってて良かった」とまで言われたんだよ?


 たしかに、彼女を応援してきた気持ちに嘘はない。

 ずっと彼女の夢を叶える手助けをしてきたつもりだ。

 でも、だからといって、「あわよくば彼女と個人的に仲良くなれたらいいな」という下心がゼロであったといえば嘘になる。

 だって、男の子だもん。


 彼女と仲良くなる機会というのをイロイロと想像したこともあるけど……。

 まさか、こんなカタチでとは思ってもいなかった。

 というか、こんな想像までする奴は既に手遅れだって気もする。


 しかし、こんなシチュエーションとはいえ、嬉しいものは嬉しい。

 俺にはもう、短い時間しか残されていないだろう。

 残りの一秒一秒を噛みしめるように味わっていくことにしよう。

 それだけで、俺は十分に幸せだ――。

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