教育1 【 自己紹介 】
魔王は倒された。 魔王を倒した勇者はいくつもの修羅場を乗り越え仲間を集め人間だけの平和な世界を取り戻す為にその今迄奮闘してきた。
ただ、人間達は魔王が倒れ世界に平和が戻ったというのに浮かない顔をしていた。
その理由が勇者の事だ。
勇者が魔王を討伐したその年齢は何と十二歳の子供だった。
世界を支配するほどの力を持つ子供に何もできなかった大人達は困惑した。 そんな膨大な力を持つ子供がこの先我々にたてつかない可能性は0ではないと。
そこでとある国の王様が1つの提案をだした。
「勇者を教育してくれる先生を探そう。」
◆◇◆◇
現代日本。 ここは日本全国で数少ない【本当の神様が住まう】神社。
昔は沢山の神様で日本にはいたらしいが著しい近代化によって神様への信仰が無くなり今では神様は数える程しか残っていないという。
そして俺はその本物の神様がいるという神社の1人息子である。 名前は悟。
今日も朝早くから神社の周りの清掃を親父に頼まれ欠伸を噛み締めながら箒で掃いていた。
「・・・サトルや。」
「ん? どしたの?」
そして神社の屋根上から聞こえて来た声がこの神社の神様。 いわゆるお稲荷様だ。 俺は【稲ねぇ】と呼んでいる。
姿は人間の形で服装も巫女のような着物を着ているが、キツネの獣耳に尻尾を見ればそれが人間ではない事は確かだ。
しかし困った事はその神様が俺以外誰にも見えていないし聞こえていないという事だ。 どうやら俺は昔から見える側に人間であるらしく幽霊やら妖怪やらとよく縁があるのだ。
稲ねぇは軽やかに屋根から飛び降りてきて俺の目の前に降り立った。
「実はな。 今別の神と話をしておってな。」
「え? いつ?」
「今先ほどまでだ。 我々神はお主ら人間と違い念力で違う世界の神同士と会話する事ができるからな。」
うわぁ。 サラッととんでもない事言ってるよこの人。
「それで? その神様と何話してたの?」
「いやな。 実はどうも頼み事を押し付けられてな。」
「待って。 その言いぐさは頼まれたとは言えない。」
稲ねぇは首を傾げて「そうなのか?」と質問してくる。
この人、今までまともに他人とコミニケーション取ってないから世間知らずなのだ。
俺は頭を悩ませながら一体何を頼まれ・・もとい押し付けられたのか聞くと稲ねぇは神社に指をさした。
「あれじゃ。」
「あれ?」
すると神社の社がピカッとまるで雷が落ちる手前の光の様に輝いた。
俺はその様子を口を開けて、稲ねぇは「派手じゃのぉ~」と今日親父がお供えした饅頭を食べながら眺めていた。
一瞬の出来事だった為ご近所には何とかバレていないらしかったが、社の中で人の声が聞こえた。
「稲ねぇ・・」
「うん? なんだ?」
「話の続きだけど・・何を頼まれたの?」
稲ねぇは食べていた饅頭を平らげペロリッと口元についた饅頭を舐めて答えた。
「実はな。 この世界とは異なる場所ではつい最近まで【魔王】なんて呼ばれる輩がその世界を支配しようとしていたらしいのだ。」
「うんうん。 それで?」
俺は稲ねぇの話を聞きながらも社から目を話せなかった。 先ほども言ったが俺は昔から幽霊やら妖怪やらの類のかなり縁がある。
「そこで向こうの人間達は生まれて来た赤ん坊に神の力の一部を取り込ませて魔王を倒す勇者へと育て上げたようなのだ。」
「なにそれ何処の異世界漫画?」
俺は昔から幽霊や妖怪といったものに縁がある。 つまりそう言った霊力とか氣とか魔力とかいうものを感じる事が出来る。
「それで向こうの神が人間達に頼まれたらしい。」
「・・・」
その頼まれた事が何なのか社の襖を開けて出て来た人物を見て俺は理解してしまった。
「勇者を教育してほしいとな。」
その内容に俺は頭を縦に触れなかった。
だって神社から出て来た人物は容姿をみればまだ子供である事は理解できたが、その纏っているオーラは神の力を持った人間の子供ではなく、人間の子供をした神のように感じたからだ。
俺にはそれがとても恐ろしく感じた。
「え~・・でもその・・えぇ~・・」
しかし頼まれた(押し付けられた)からには仕方ない。 稲ねぇにはいつもお世話になっている事だしこれくらいなら俺でも耐える事は出来る。
でも俺はその勇者という子供のオーラもそうだが身に付けている物も怖かった。
「なにあれ剣?」
「うむ。 剣じゃな。 しかも妖術、あぁ向こうでは魔法か? その強大な神と等しい力が宿っているな。」
「なにあれ鎧?」
「うむ。 甲冑じゃな。 ただあれも魔法でかなり強い魔法が寄付されておるな。」
「なんか睨まれているような気がするのだが。」
「気のせいではない。 ほれ。 剣を抜くぞ。」
稲ねぇがそう言った時には勇者は稲ねぇに剣を抜いて目の前まで走って来ていた。
「ふふっ。 元気な童じゃ。」
しかし稲ねぇは嘲笑うかのように勇者の剣を素手で掴み勇者をそのまま地面に叩きつけた。
「ぐはっ!」
「人間の童がワシにたてつくなど百年以上早いわ。」
(こ・・こえぇえええええええ!!!)
しかし勇者はすぐに態勢を立て直して距離をとるとまた剣を構えた。
すると先ほど地面に叩きつけられた勢いのせいか、頭の兜が落ちた。 それで勇者の素顔がお披露目されたのだが。
「おや? お主・・」
「え・・えぇぇぇぇぇえええ!!?」
稲ねぇは裾で顔を隠してクスリッと笑い、俺は衝撃過ぎて大声を出して驚いた。
「お・・女の子ぉおおおおおおおお!?」
短く髪を切ってまるで少年の様にも見えないわけではないが、一目で美少女であると理解した。
「クソッ! 人外の類が私を笑うな!?」
「うっ!」
しかし美少女と分かってもその迫力は衰える所がより増していき、確実に怨念のような呪いの感覚まで伝わって来た。 そしてその感覚の中に確かにある殺意も確かにあった。
稲ねぇと勇者の二人は互いに睨み合いいつでも攻防を始める準備を始めていた所、俺は二人の間に割ってはいった。
「は~いそこまでそこまで! 二人共一度落ち着こうか!」
「なんだお前は! 人間であるにも関わらず人外を庇うのか!!」
「当たり前でしょ。 しかも稲ねぇは人外でも俺の家族だし。」
「なっ!? か・・家族だと!?」
勇者はプルプルと震え俺を睨みつけた。
「ふざけるな・・人外が家族? そんなわけあるか! 人外はすべて害虫だ! 信じられるのは人間だけ。 それが世界の理だ!」
「うわぁ~。 かなり変な事植え付けられて育ってんなこれ。」
ターゲットが俺に変わったのか勇者は俺に剣を向ける。
「そこをどけ! そうすれば裏切り者と言えど命は助けてやる!」
「まぁまぁそう言わずに。 どうだい? 稲ねぇに上げようとしていた朝食のおにぎりでも。」
懐から銀ラップで包んだ三つのおにぎりを取り出す。 それを聞いていた稲ねぇは「なんじゃと!?」と驚いていたが今はそんな事知った事ではない。
「はっ。 ナンダソレハ。 タベモノデ交渉シヨウトシテモ無駄ダ」
「すっげぇ棒読みですよお嬢さん。」
「おっ! お嬢!?」
勇者はロボットみたいな動きをしながら先ほどまでの殺気の雰囲気が消え何故か徐々に顔を赤くしていった。
「なんじゃ童。 お主サトルに女子扱いされて恥ずかしがっておるのか?」
「なっ! ち、違う! 私は勇者だぞ! 女などとっくに捨てた!」
「『どうしよう! 男の人に女扱いされちゃった! どうしよう! これって結婚? え? でも確か子供って・・・』と、やけに心の中は動揺しているようだが?」
「うわぁあああああ! やめろやめろぉぉおおおおお!」
「因みに人間が子供を作る方法はぁ~・・セッ―――」
「わぁあああああああ! もうやめてくれぇええええええ!!」
勇者の恥ずかしさのあまりに悶える様子を悪女のような笑みで眺めている稲ねぇの様子を俺は(えげつねぇ・・・)と体を震わせて稲ねぇと少し距離をとった。
世界を救い異世界の神が放り投げた勇者を言葉攻めで圧倒している。 そう考えたらもう稲ねぇが神様ではなく悪魔に見えて来た。
「そ、それじゃあとりあえず二人共! 朝食にしようか!」
◇ ◆ ◇ ◆
とりあえず勇者を落ち着かせて家に上げて居間で俺の手料理を振舞っているのだが・・・。
「あっ貴様人外! それは私の卵だぞ!!」
「ふん、人間なら神であるワシを讃えよ。 そして寄越せ飯を。」
「誰がやるか! あっこら! それは楽しみに置いてあった最後のお肉!!」
「ムホホホホッ! とったもの勝ちじゃ!」
「なっ・・き、貴様ぁ~!!」
なんだろう。 とても和む景色が繰り広げられています。
稲ねぇの挑発を口を噛み締めて睨んでいる所で俺と偶々目があった。 すると顔を伏せて両手の指をチョンチョンとし始めた。
「なんじゃ童。 お主サトルに惚れたか?」
「なっ! ち、違う! 私は勇者だ! こんな平凡な男に惚れるわけないだろ!!」
「『あぁカッコいい! どうしよう! 子供はいつ頃作ればいいんだろ! あっその前に婚儀の儀式をしないと!』など、かなり先の未来を想像しているようだが?」
「わぁぁぁああああ! もぉおおおおおおおお!!」
またも心の中を読まれたせいで勇者は畳の上をバタバタと足をばたつかせる。
その様子を稲ねぇはまた悪女のような笑みを浮かべる。 よかったな稲ねぇ。 楽しそうだ。 今日は昼食を抜きにしよう。
「!?」
俺の心を読んだのか稲ねぇは驚いた顔で俺の顔を見て手をプルプルと震わせた。
「さてと。 勇者ちゃん。」
「勇者・・・ちゃん!」
ボンッと一気に顔を赤らめて勇者は顔を隠した。
「おいサトル。 これじゃあ話が進まぬぞ。」
「うん。 その原因作ったの稲ねぇだけどね。」
俺はどうしたものかと小さく息を吐き質問を変えた。
「それじゃあまずは自己紹介からかな。 俺の名前は土御門悟。 君の名前は?」
「! 名前を教えあう自己紹介。 これが恋人!」
「童よ落ち着け。 これで恋人には慣れぬ。」
勇者は口を開けて固まった。
(うん。 話が進まない!)
固まった勇者を面白そうにつつく稲ねぇはしばらくするとピタリッと動きを止めた。
「・・・サトル。 自己紹介は一時中断じゃな。」
「え~・・今? まだ朝なんですけど。」
すると勇者も何かに気が付いたのか畳の上に置いてあった剣を取り鞘から抜いた。
「気を付けて! 何か近づいてくる!!」
「わかっておる。 お主は黙って座っておけ童よ。」
「できる訳ないでしょ! この気配は!!」
勇者が警戒するのも無理はない。 この気配は【この世界の存在】するものではないからだ。
その気配は次第に段々と強くなっていき、しばらくすると家の玄関が開いた音が聞こえた。
ミシッ・・ミシッと人が歩く足音が家の廊下から聞こえてくる。
「そんなはずない・・だって確かにあの時!!」
勇者の顔は段々と青くなっていき汗が流れている。
稲ねぇは勇者の剣をソッと手に添えて降ろして勇者の体を包むように抱き込む。 その勇者の体はひどく振るえていたようだ。
そして足音が居間の扉の前で止まるとスッと扉が音もなく開けられた。
そこに人の姿はない。 しかし黒い靄のような物がゆったりと浮いている。
「なんで貴様がここにいる! 魔王!」
魔王と呼ばれたその黒い靄は勇者の言葉に反応したのか靄が一瞬早く動いた。 しかしすぐにそれh落ち着きゆっくりと俺の場所に漂って近づいてきた。
「待て貴様! その人に近づくな!」
「待つのは貴様の方じゃ童よ。」
「アイタッ!」
すぐにでも魔王に飛び掛かろうとした勇者を稲ねぇは勇者の頭をコツいた。
「な、なにするんだ人外! このままだとサトルさんが!!」
「まぁまぁ落ち着け。 よく見ておけ勇者よ。」
先ほどまでの稲ねぇの雰囲気が変わり勇者はそれ以上何も言えなくなった。
「それで、一体何の御用でしょうか。 異世界の方。 ここはアナタの様な方が来る場所ではないのですが・・」
黒い靄はしばらくユラユラと一定の場所から動かずにいると一瞬だけ声が聞こえた。
『勇者ヲ・・オ願イ致シマス。』
そして黒い靄はゆっくりとその場から姿を消していった。
「何・・それ・・。 なんで魔王の貴様が私の事を・・なんで・・なんで・・」
勇者は涙を流しながらその場に座り込んだ。 その様子を稲ねぇは黙って勇者を優しく抱いた。
勇者が来る少し前。 稲ねぇは勇者がいた世界の神に頼まれていた。
『どうか頼む稲荷の神よ。 このままではあの子供が不憫で仕方ないのだ。』
『なんだい改まって。 神の中で一番頭の固い事で有名なお主が1人の人間の子供の為に動くなんて珍しいじゃないか。』
『あぁ。 私は大層な事でなければ動きはしない。 だがあの子供については別だ。』
異世界の神は自身の世界で何が起こったのか最初っから稲ねぇの説明した。
勇者として育てらた少女は毎日が戦いの為の訓練ばかりでその他の教育を教わらなかった事。
そして無感情無表情となり育ってしまい人間の心を失い人間ではなくなった彼女を救いだしたのが人間と敵対している魔族の王であったこと。
そしてその事に勇者が気が付いた時は勇者の活躍によって疲労していた魔王に仲間が止めを刺したときだった事を。
『あの子の仲間がその話を様子がおかしくなった勇者に聞いてどういうことなのか指示を出していた大人に問いだすと勇者の母親が魔族である魔王との間に子供を身ごもり勇者を生んだと同時に亡くなった。 そこで強大な力を持つ赤ん坊を利用して邪魔者の魔族を滅ぼそう企てた事を素直に話した。』
『ふ~ん。 それで天界からそれを見ていたお主はその後の人間の勇者に対する案件を飲んでその子を違う世界で教育させてもらえないか・・・という事かい?』
『その通りだ!』
『ふ~ん・・良いぞ。』
『無理を言ってるのは承知の上だ! しかし私は―――・・え? 今なんて?』
『良いぞと言ったのだ。 どうせワシは暇しとるし。』
『ほ、本当か稲荷の神よ!』
異世界の神は稲荷の手を掴み何度も頭を下げた。
『ありがとう。 本当に恩にきる!』
『ふむ。 しかし条件がある。』
『・・条件?』
『うむ。 まずはその勇者を救ったという魔王の魂をワシの世界に引き寄せる事。 以上じゃ。』
『そ、そんな事でいいのか? しかしお前の世界に強大な力を持つ魔王を向かわせれば混乱をおこすのでは?』
『そこら辺は大丈夫じゃ。 エキスパートがいるでの。』
そして今に当たる。
それはしばらく消えた黒い靄が漂っていた場所をジッと見つめて、ゆっくりと立ち上がった。
「・・・勇者ちゃん。」
彼女に対しての呼び名を呼んでも少女は目からこぼれる涙のせいで返事が出来ないでいた。
それでも俺は話を続けた。
「俺は君が魔王と呼んだ彼と君の関係がどういった物なのか事情を知らない。 でもね。 俺はあの魔王って人が君を大事に思っていた事はあの言葉だけで理解できたよ。 ・・・稲ねぇ。」
俺が稲ねぇの名前を呼ぶと稲ねぇは勇者の手をソッと握った。
―――ほら。 しっかりと目を開けな。―――
その声が聞こえて勇者が目を開けると二人の人物が立っていた。
1人は勇者と同じ黒髪ショートで白いワンピースを着ている女性。 そしてもう1人は人間とは違う紅い瞳で耳が尖っている男性。
2人は肩を寄り添って勇者を見ていた。
「・・・お母さん・・お父さん?」
勇者がそう呼ぶと女性は笑みを浮かべたまま涙を流して、男性は女性を抱きしめながら満面の笑みを浮かべた。
何故勇者がそう2人を両親と思ったのかは分からない。 しかし勇者はハッキリと理解した。
自分は今まで守られていた事を。
まるで夢を見ているかのように二人の姿は消えていき、目の前にはサトルと稲荷の神が勇者の顔を覗き込んでいた。
「・・・ちゃんと会えた?」
サトルは誰にとは聞かなかった。 だけど勇者はその質問にしっかりと「はい」と答えた。
「さて! なにやら話がトントン拍子に進んでしんみりした天界になったが! そろそろ自己紹介をきちんとしようかの!」
急にテンション高めで話をまとめて来た稲ねぇに少し呆れたが俺はその提案を飲むことにした。
「それじゃあ改めて! 俺の名前は土御門悟! この屋敷の住職の息子で幽霊やら妖怪やらの怪異によく巻き込まれる体質です! 今日から何故か君の教育係に任命されました!」
俺の紹介を終えると稲ねぇは自分の周りだけ和室の風景を作り上げて部屋にヒラヒラと桜を舞い散らせる
「ワシの名は稲荷大明神様じゃ。 主にはワシの事を稲荷様と呼ばせてやろう。 光栄に思え。」
クスクスッと小悪魔っぽい笑みを浮かべながら勇者を見ると勇者は「稲荷」と呼び捨てによんだ。
「待て童よ。 様を忘れておる。 様を。」
「それじゃあ次は私の番ですね。」
「おや? 無視? お~い童~?」
折角作った風景を維持するのが難しいのか稲ねぇはその場から離れる事が出来ずにいた。
「私の名前は希望。 異世界の勇者です。」
最初は短編で投稿しようとしていたのですが、「これ二話で・・あぁそしてこんなキャラも!」とか考えてたら連載という形にさせてもらいました。
なんか、無性に続きが書きたくなってしまいまして・・・(自己満足です。すいません)
どうか、どうか次回もよろしくお願い致します。