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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪い魔女

作者: belgdol

 魔王を勇者クロアが倒した。


 私はその場面をすぐ近くで観ていたけれど、特等席で鑑賞できた、と言えば彼女でしょうね。

 聖女と呼ばれ、私達の傷を癒し、戦いを円滑に進める役割を負ったリンド。

 勇者が想いを寄せる、特別な子。


「やったな!」

「世界は救われた……」

「私達の旅も、終わりですね」


 万感の思いを籠めて喝采を挙げるクロア。

 祈りを捧げる聖騎士ジャンニ。

 そして、なんだか残念そうなリンド。

 まあ、それもそうね。

 ちょっとお邪魔虫が二人ほどいたけれど、クロアと世界を見る旅なんてこの先リンドにはできないでしょうし。

 なんにしても、この旅も終わり。

 私もお役御免よね。


「皆。私は一足先にさよならさせてもらうわ」

「え、なんでんだいカタリナ」

「私は成り行きで貴方達の手助けをしていただけだもの。霧の森に帰るわ」

「一緒に凱旋なさらないのですか?」

「この旅は三人から始まったのでしょう?なら帰る時も三人なのは、道理でなくて。ジャンニ」

「あ、あの。一人で、行ってしまうんですか。カタリナさん」

「そうよリンド。クロア君と仲良くね」

「あの!だったら、これ……もっていって、読んでください。気持ち、悪いかもしれないけど」


 リンドが、金の髪の下に隠れていた背負いカバンから、本を数冊取り出して私に差し出してくる。

 なにかしら、これ。

 気持ち悪いってどういう事かしら。


「リンド、それなんだい?」

「ひ、秘密!カタリナさんと、私だけの……」


 しょぼしょぼと語尾が小さくなるリンドに、まだクロアはもの問いたげだったけれど。

 ジャンニにあまり女性を詮索するのはよくない、と窘められてだまりこんだ。


「あの、一人になったら読んでくださいね。絶対、絶対他の人には見せないで」


 なんだかやけに念押しされるわね。


「解った解った解りました。読むのは一人になってから。誰にも読ませない。それでいいわね?」

「……お願いします」

「もう。そんなに読まれるのが恥ずかしい物なら自分で持っておけば良いのに」

「それじゃ、ダメなんです。カタリナさんには、読んでもらわないと」

「そうなの?」

「そうなんです」

「あっそ。そういうものなのね。解ったわ。じゃあ私はお先に失礼するわ」

「はい。さよなら……カタリナさん」

「じゃあね、カタリナ」

「お疲れ様です。カタリナさん」


 こうして三人に別れを告げた私の中で、僅かに瞳を揺らしていたリンドの事がずっと残った。

 それから、転移で霧の森に戻って、随分留守にしてた自分の庵で渡された本を読んだ。


 そこには小さな聖女と、旅の途中で仲間になった魔女の恋愛小説が記されていた。

 聖女は、旅慣れない身体で熱を出した時に煎じ薬を作ってくれたり、材料を事欠くこともある旅の中での食事に心を砕いてくれる。

 母のような魔女に徐々に惹かれていく。

 そして、魔王との戦いを控えた夜に、魔女に告白する。

 小説は、そこで止まっていた。


 ああ、なんて馬鹿なんだろう。

 こんな小説、私に読ませる必要なかったでしょうに。

 ああ、なんて馬鹿なんだろう。

 この庵にも、少し前にリンドがクロアと式を挙げる話が聞こえて来たのに。

 ああ、本当に馬鹿。

 私は、聖女を浚う悪い魔女になりたいようだ。

 その先に、辛い事しか待っていなくても。

 私は、あの娘が好きみたい。

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