第一話 刑事と町守 通報者
コンビニで買った弁当で適当に夕飯をすませたあと、澤田と柊は一応神社の状況を確認するために、宮司に社殿の戸を開けてもらい中に入った。
拝殿の片隅に、ガラスケースに収められて甲冑はたしかにあった。窓も一枚一枚確認し、扉と錠前も見せてもらったが、割れたり壊れたりしている箇所は一つもなかった。
夜の九時が近づいてきたので、澤田は柊とともに高田家の自宅の前で被害者の男が来るのを待った。
時折吹く夏の熱気を残した夜風に、木々の葉が揺れて音を立てている。
被害者の男は、そろそろ仕事を終えてこちらへ向かっている頃だろうか。
「お前は、変わった警察官だな」
唐突に、柊が言った。
「娘さんに自分から連絡先を渡したりして、仕事が増えるだけじゃないのか」
ああ、と澤田が頭をかいた。
「それさ、同僚にも似たようなこと言われたけど、別に仕事を増やしてるわけじゃねえよ。この町の人を守るのは、元々俺の仕事だ」
「他の警察官が処理したんじゃないのか」
「そうみたいだな。けど、そういう問題じゃないだろ。美緒さんがあんなに不安がってるなら、俺たち警察のやり方が間違ってるってことだ」
事件を事務的に処理するためじゃない。
この町の人を守るために、澤田は刑事としてここにいる。
「はじめてだ。お前みたいな警察官は」
「そんなことないだろ」
「俺のところに来る警察官は、皆、事件を解決してくれさえすればそれでいいという人ばかりだった」
初めて会ったときも思ったが、どうやら柊は警察のことをあまりよく思っていない。
不躾な書類を渡されたり、自分たちはあやかしが見えないからと彼ばかりに捜査を押し付けたり。
そういった今までのことが、彼の中で積もってしまっているのかもしれない。
「お、来たぞ」
じゃり、と足音が聞こえて澤田が振り返ると、スーツ姿の男がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「木内和馬さんですね」
「はい。そうですが」
「先ほどお電話をさせていただいた、黄昏市警察署の澤田です。すみません、突然呼び出して」
「いえ、通り道ですから。それで通り魔は」
「その捜査にご協力をいただきたいと思いまして。ああ、身の安全は保障しますから大丈夫ですよ」
「はあ。ですが、何をすれば」
「来た」
木内の言葉を遮って、静かに告げた柊が顔を向けた先に、甲冑がたたずんでいる。
兜を深く被っているせいで顔は見えないが、間違いなく社殿にあった甲冑だ。夜の闇に淡く白い光をまとっているように見えるそれは、腰に刀を携えて、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
それなのに、甲冑のぶつかる音も、足音も全く聞こえなかった。




