第一話 刑事と町守 不可思議な通り魔
「お帰り美緒。今警察の方が来てくれていてね」
「警察?」
父である宮司の言葉に、美緒が険しい顔をする。
「どうせ甲冑のこととか通り魔のこととか聞きに来たんでしょ。私たちはストーカーのことを相談しに行ったのに」
「その件なら、また困ったことがあったらいつでも相談しに来ていいと言われているじゃないか。それに、最近は変な手紙が郵便受けに入っていることもないし」
「でも非通知の着信はきてるじゃない! 朝、学校に行くときだってやっぱり誰かに見られてる気がするし、今日だって友達にそこまで送ってもらったんだから」
「しかし気がするだけでは」
「高田美緒さんだよね」
澤田は立ち上がると、ポケットから出した一枚の紙を美緒に差し出した。
「俺は黄昏市警察署の澤田です。これ、俺の携帯電話の番号だから、何か怖いことがあったらいつでも電話して」
しかし美緒は、紙を見つめるだけで受け取ろうとしなかった。
「でも、どうせ非通知の電話ががきてるだけじゃ捜査できないんでしょ」
「着信があった、っていうだけでもいいよ。つけられてる気がする、っていうだけで電話してもいい。警察署でじゃなくて、俺が個人で対応するから」
「……でも」
「ま、やばそうだったら他の警官にも連絡することになるけど。それでなんか言われても俺が責任とるから。本当に電話するかどうかはおいといて、とりあえずお守りだと思ってもらっといてくれよ。な?」
澤田の笑顔に押されて、美緒がそっと紙を受け取った。
「……じゃあ、何かあったら」
「おう。遠慮しなくていいからな」
にっと笑った澤田に、美緒も少しだけ笑顔を見せる。
「甲冑の通り魔が出たのは、二回とも午後十時過ぎだったな」
柊にたずねられて、澤田が振り返る。
「ああ。もし待ち伏せするなら暗くなってからだな」
夜の十時を待つなら、まだ四時間以上も時間がある。
「高田さん、少しの間、この部屋をお借りできますか」
「ええ、構いませんよ」
柊の頼みに、宮司が快く頷いた。
「もしよろしければお二人の夕食も準備いたしましょうか」
「いえ、お構いなく。それよりお二人とも、今日はくれぐれも外へは出ないようにお願いします。高田さん、美緒さんについていてあげてください」
「わかりました。それでは私は一度失礼させていただきますので、何かあったらお声がけください」
宮司は頭を下げると、美緒とともに部屋を離れていく。
「澤田刑事。そこ、閉めてくれないか」
「ん? ああ」
澤田は障子戸を閉めると、畳に座り直した。
「甲冑の通り魔が出たのは、三日前と二日前だと言っていたな」
「ああ。通報があったのはその二回で、通報者はどちらも被害男性だ」
「昨日は、通り魔は現れなかったのか」
「通報はなかったな。その被害者の男にも、犯人が捕まるまでは神社の前の道は通らないようにと伝えたらしいし」
神社の前は、暗く狭くて人通りの少ない道だ。昨日の夜は歩いて通る人が誰もいなかったから、通報がなかっただけかもしれない。
「その通報者の男、どんな人物かわかるか」
「どんなって、三十歳くらいの会社員の男だって聞いてるくらいだけど」
「連絡先は」
「さすがに知らねえよ。まあ、聞けばわかるだろうけど」
「すぐに聞いてくれないか。その男からも話が聞きたい」
「ああ、わかった」
澤田は携帯電話を取り出すと、耳に当てた。
「おう、北野か。通り魔事件の通報の件、お前詳しいだろ。……は? いやお前、通報の電話を受けた女の警官と仲いいって……いや、お前の恋愛はどうでもいいんだって!」
女好きの北野の女性関係の話を長々と聞いている余裕はない。
「いいから聞けって。通報してきた男性の連絡先、知ってるか? ……ああ、悪いけどすぐに調べてくれ。……は? 忙しいじゃなくて。そもそもこれはお前の仕事だったんだからな」
わかったわかった、と北野が面倒くさそうに了承して、電話が切れた。
「全く、あいつは」
真面目なのか不真面目なのか、よくわからない男だ。
「わかりそうか」
「たぶんな。でも話を聞くって、何を聞くんだ? 通り魔に遭ったときのことなら他の刑事が何度も聞いてるし、何ならその書類を送ってもらうけど」
「いや、とりあえずいい。それよりも気になることがあるんだ」
畳の上に置いていた澤田の携帯電話が鳴った。
北野からのメールだ。
「連絡先、わかったか」
「ああ。仕事は早いんだよな、あいつ」
「じゃあすぐにその男と連絡を取って、夜九時以降にこの神社に来るように伝えてくれ」
「別にわざわざ呼び出さなくても、話なら電話で聞けばいいんじゃないのか」
「電話じゃだめだ。とにかく詳しくはあとで説明するから、約束だけ取り付けてくれ」
なんだかよくわからないが、柊が真剣なので、澤田は教えてもらった携帯電話の番号に電話をかけた。




