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第四話 十一年前の事件  電話と訪問者

 アパートの駐車場に止めて、澤田は車を降りた。

 とにかく今日はすぐに寝る。そして明日早く起きて、加害男性と遭遇した場所から捜査を始めることにする。

 先ほど、澤田に代わって市民病院に残ってくれた刑事から連絡をもらったところ、加害男性は目を覚ましたものの、やはり何も覚えていなかったらしい。

 一応柊にも伝えておこうと、上着のポケットから携帯電話を出したときだった。

「澤田」

 名前を呼ばれて振り返ると、歩いてきたのは北野だった。

「あれ? どうしたんだよ北野、こんなところで。この辺でなんか事件でもあったのか?」

「んー、ちょっとね。近くまで来たらお前の姿が見えたから。今帰ってきたのか」

「まあな。って、さっきまで署で話してただろ。お前はまだ仕事中ってことだよな」

「うん、まあ。でもそろそろ帰るかな。うん、どうだろ」

 言葉が少ししどろもどろなこともあるが、どうも表情がいつもと違う。

「どうしたんだよ。お前、なんかすげえ疲れてないか? さっきまで元気だったのに」

「そうかな。いや、うんそうかも」

 曖昧な返事をする北野は、やはり普段の元気がない。

「おいおい大丈夫かよ。体調悪いなら帰って休んだほうがいいぞ。外せない仕事なら、朝までなら俺が変わってやるから。で、どういう事件の捜査してるんだ?」

「いや、まあそうじゃないんだけど……そろそろいいかな」

「は?」

「俺、仕事の途中だからさ。ごめんな、呼び止めて」

「ああ、別にいいけど……本当に大丈夫か? なんか困ったことがあったら言えよ」

「ああ。ありがとう」

 北野が笑顔で手を振るので、澤田も軽く手を振って背を向けた。

アパートの外階段を上がっていたところで、携帯の着信音が鳴った。

「もしもし、柊か。ああ。俺もさっきかけようと……え? 目撃情報が?」

 江藤修吾を見た、という情報を得て、柊は電話をかけてきたらしい。しかも人からではなく、妖からの証言だ。

「場所は? ……そうか。あ、ちょっと待ってくれ。今アパートのドアの前なんだが、鍵が……」

 一度携帯電話を耳から離して、鞄を探っていたときだった。

「……だっ、さわだっ! 澤田っ!」

 大声で呼ぶ声に、澤田は振り返って下をのぞいた。

 すると先ほど別れたはずの北野が、駐車場からなぜか必死に澤田の名前を叫び続けている。

「な、何だよ北野! どうし……」

 ドオンッ、と爆音が響いて、思わずよろけた澤田の体がアパートの壁にぶつかった。弾みで手から離れた携帯電話が、壁を越えて下の駐車場に落ちる。

 爆音は、澤田の部屋の中からだった。

「なっ、なんだ!? どうなって……」

 思わずドアノブに手を伸ばそうとした澤田は、はっとその手を止めた。もし中で燃えていたりしたら、ドアを開けて酸素が送り込まれるのはまずい。第一、まだ鍵を開けていないドアを開けようとしたところで、開くはずがない。

「と、とにかく消防と署に……」

 電話をかけようとしたところで、澤田は携帯電話が手元にないことに気づいた。

周囲を見回しても携帯電話はなく、下の駐車場をのぞき込むと、先ほどまで叫んでいたはずの北野が倒れていた。


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