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第四話 十一年前の事件  署への報告

 怪我をしていた被害者と、気を失った加害者とともに黄昏市民病院へ行ったあと、澤田は黄昏市警察署へ戻った。

「つまり? その加害者の男性は操られていただけだと?」

「はい。たぶん、目が覚めてもなにも覚えていないんじゃないかと」

 澤田の報告を聞いた柳瀬が、腕を組んでふむと深く息を吐いた。

「柊家の者のその言葉は、どこまで信じられるものなんだね」

「どこまでって、まさか主任、信じられないとか言うんじゃないですよね。柊家とは長い付き合いなんでしょう? しかもこんなに協力してもらってるっていうのに」

「いや、わかってる。わかってるんだが、加害者が明確なのに妖のせいで逮捕できないと言われても」

「じゃあ覚えてもいない男性を逮捕しろっていうんですか」

「もちろんそういうわけにもいかないこともわかっている。だが加害者男性に聴取をしないというわけにもいかないだろう」

「それは、わかってますけど」

 どこまで覚えているかはわからないが、被害者は犯人の顔を目の前で見ている。警察としても、妖に操られて何も覚えていないからそのまま釈放、というわけにはいかない。

「あとは澤田、お前に任せる。ただ、納得できるものを掴んでこなければ、加害男性を容疑者として書類送検しなければならなくなる可能性が高いことを覚えていてくれ」

「……それも、わかってます」

 澤田も警察の人間である以上、そう答えるしかなかった。



 休憩室の椅子に座り、澤田は缶のココアを手にため息をついた。

 刃物で被害男性を襲ったのは、加害男性の意思ではない。

 そう周りを納得させるようなものなど、本当に掴んでこられるのだろうか。たとえ操った張本人である妖を捕まえてこられたところで、恐らく誰も姿を見ることも声を聞くこともできないのに。

「なんだなんだ、めずらしいもん飲んでるじゃないか」

 後ろから声をかけてきたのは北野だった。

 すでに夜の九時を回っていたが、まだ残っていたらしい。

「……甘いものが飲みたくなったんだよ」

「うわ、めずらし。お前でも疲れることがあるんだな」

「あのな」

「お前、さっき柳瀬主任に妖がどうとかって言ってたけど、もしかして妖とかが見えるようになったのか?」

「いや、全然」

 澤田があっさり答えると、北野がつまらなそうな顔をする。

「ちぇ、なんだ」

「なにが、ちぇ、だよ」

「でもさ、なんかお前、あやかし関連係が板についてきた感じするよな」

「お前に押しつけられたところから始まったんだけどな」

「まあまあ、そう根にもつなって。昼メシおごってやっただろ?」

 軽く笑って、北野が澤田の横に座った。

「でもさ、気をつけろよ。お前、強行盗犯係ときから怪我多いし、この前なんて入院したりしてさ」

「あー……」

 退院してから、人に会うたびに言われている言葉だ。

 澤田がつい聞き流していることに、北野も気づいたらしい。

「わかったな! 返事!」

「わ、わかったわかった。気をつけるって」

 勢いに押されて頷いた澤田に、北野も、よし、と頷いた。


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