第一話 刑事と町守 通り魔とストーカー
一度警察署に戻ってきた澤田は、廊下に設置された自販機に小銭を入れて、缶コーヒーのボタンを押した。
「お、澤田。戻ったのか」
落ちてきた缶コーヒーを拾って顔を上げると、同僚の北野が片手を挙げてこちらへ歩いていく。
「あ、北野。お前、俺に仕事押しつけただろ」
「悪い悪い、今ちょっと忙しくてさ。でもお前、気をつけろよ。柊家の人間は妖の味方をするらしいから」
「妖の?」
ああ、と北野が頷く。
「じゃああの柊誠って人は本当に妖が見えるんだな」
「そりゃそうなんじゃないのか。だからうちも捜査の協力をお願いしに行くんだし……って、気にするところはそこじゃないだろ」
「だって俺、見えないし」
かこ、と澤田が缶コーヒーを開ける。
「しかし鈴邑神社の宮司も大変だな」
北野も自動販売機で同じ缶コーヒーを買いながら言った。
「あー、通り魔が出るなんて言われたら参拝者が減るかもな」
「そうじゃないんだよ。あそこの娘さん、ストーカーに遭ってるらしくてさ」
「ストーカー?」
「うん。この前それについて相談の電話があったんだけどさ」
「そんな電話があったなんて聞いてないけど」
「捜査するところまでいってないからね。手紙や電話が毎日のようにくるから何とかしてほしいっていう話だったんだけど、それ以上の被害は今のところないらしくて」
電話や手紙がくるようになってまだ一週間くらいしか経っていないということだったので、もう少し様子を見て、エスカレートするようだったら連絡してくださいと言い、相談を受けた警察官は電話を切った。
「そうしたらさ、その娘さんが父親と一緒に直接ここに来たんだよ」
「父親って、宮司のことか」
「うん。だけど相変わらず被害は手紙と電話だけだったから、日々の生活に注意してくださいって伝えて帰ってもらったんだけど」
「手紙と電話だけでも、本人からしたら十分怖いんじゃないのか」
「まあそうだろうけど。こっちとしても、明確な犯罪性がないことにはなかなか動けないんだよ」
「犯罪になるようなことが起こってからじゃ遅いだろ」
澤田の言葉に、北野が困った顔をする。
「わかってるよ。けど俺たちはボランティアじゃないんだ。仕事として組織に所属してるからには従わざるを得ない部分もあるってことくらい、お前もわかってるだろ」
「そりゃ、わかってるけど」
納得しきれない顔で黙った澤田に、北野がやれやれと肩をすくめる。
「お前、そんなだから仕事が増えるんだよ」
「そうだな。今俺の仕事を増やしてるのはお前だけどな」
「だから悪かったって。今度昼飯おごるから」
あははと笑って、北野は澤田の肩を叩いた。




