第四話 十一年前の事件 資料の記録
警察署の資料室で、澤田は一人、一冊の資料を開いていた。
「やっぱり、事故ってことで終わってるんだな」
十一年前、東条祐一が祓い屋の男に祓われそうになっていた妖を庇ったことで亡くなった一件。
柊も、彼の父から事故だと聞いたと言っていた。
和奏が嘘をついているとはもちろん思っていないが、今でも半信半疑だ。
事故死だと思っていた父が、殺されたなんて。
「江藤修吾、か」
それが,この一件の当事者。
当時二十二歳だった祓い屋の名前だった。
☆
電気のつかないその家は、走るたびに埃が舞った。
「柊! そっち行ったぞ!」
「なっ、うわっ!」
捕まえようとした柊の腕をすり抜けた上に、彼の頭を踏み台にして妖がすばやく逃げていく。
「このっ、待てって!」
澤田が追いかけようとしたところで、舞姫が花びらの風を起こして足止めした。
「ナイス舞姫! 柊、早く!」
「くっ……封!」
柊が必死で手を伸ばして、妖に封じの札を貼った。
動けなくなり、ぼとっと床に落ちたのはイタチのような妖だった。
「これで全部か」
「ああ、たぶんな」
はあー、と息を吐いて澤田が埃っぽい床に座り込んだ。
「なんとか捕まえられたな。お前、案外どんくさいんだな」
「悪かったな」
柊もぐったりと座り込んでいる。
誰も住んでいないはずの売り家に誰かがいるようだと、近所の人たちから警察に通報があった。
最初は別の警察官が家に入って捜査したが、何も見当たらず、それでも夜になると音が聞こえてくるというので、あやかし関連係の澤田に話が回ってきた。
結局イタチのような姿の妖の家族が三匹、住み着いているだけだったのだが、これがまたすばしっこくて捕まえるのになかなか苦労した。
売り出ているこの家に、カーテンはついていなかった。照明のない真っ暗な部屋にいると、窓の外の月がひときわ明るく感じられる。
「害のある妖というわけでもないし、その辺の森にでも返しておけばいいだろう。そっちまで車を回してくれるか」
「ん? ああ」
床に横たわったままで目をぱちくりさせている妖を二匹、柊がつかんで立ち上がった。
澤田も、残りの一匹の尻尾をつかんで立ち上がる。
(……そういえば、舞姫以外の妖に触るのってはじめてだよな)
澤田は眼鏡を外してしまえば見えないし触れることもできないけれど、父は妖の見える人だったから、澤田よりは妖のことにも詳しかったはずだ。
父も、こんな風に仕事をしていたんだろうか。
「何をしている。早く行くぞ」
「ああ、うん」
澤田は妖を手に、柊とともに空き家をあとにした。
第四話スタートしました。
よろしくお願いいたしmす。




