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第三話 東条と祓い屋  和奏の理由

「大変なことになったな。なんとしても指輪を無事に取り返さないと」

 病院を出たところで、澤田はやっと柊に話しかけた。それというのも、柊は登紀子の病室を出てからずっと、何か考え事をしているかのように黙り込んでいたからだ。

「なあ。なにを悩んでるんだ?」

 話しかけても返事がなかったので、気になって澤田がたずねた。

「……いや、四緑はあんな真似をするような妖だっただろうかと思ってな」

「それだけ大事な指輪ってことなんじゃないのか」

「そうかもしれないが」

「人質をとるようなことをする妖なんて祓っちゃえばいいのよ」

 突然会話に割り込んできた声に振り返ると、いつの間にか和奏が立っていた。

「そうすれば登紀子さんって人も元に戻って解決よ。ね?」

「ね、じゃないだろ」

「うるさいわね。あなたには言ってないわよ」

「あのなあ」

 あまりの言われように、さすがの澤田も顔をしかめた。

 そこへ一羽の蝶がひらりと飛んできて、和奏の肩に止まった。

「やはりお前の式神か。それを介して病室での話を聞いていたんだな」

「そうなのか?」

「病室の窓に、ずっと蝶がとまっていただろう。気づかなかったか」

 登紀子に憑りついた四緑に気を取られていて、澤田は窓の蝶になど全く気づかなかった。

「さすがは町守さまね。大学の授業、どうしても一限目は出なくちゃいけなかったから」

「一限目は、ってそのあとはどうしたんだよ。まだ十二時前だぞ。授業だって全部終わってないだろ」

「別に私の勝手じゃない。あなたなんかに言われなくてもちゃんと考えてやってるわよ」

「お前、なんで俺ばっかりにそんなに辛辣なんだよ」

「だって東条さんの息子だっていうから期待してたのに、その眼鏡かけなきゃ何にも見えてないみたいだし、全然役に立たなそうだし」

「悪かったな」

 だが役に立っていないことは事実なので、あまり否定はできない。

「それに思い出したのよ。東城さんがあなたの写真を持ち歩いてたこと」

「え」

「あなたの話をするときだっていつも嬉しそうにしてたのに、あなたったら全く東条さんに会いにこなかったでしょ。そういうの、親不孝者っていうんじゃないの?」

 和奏の言葉に、澤田の目が戸惑ったように揺れる。

「……そうだな。俺もそう思うよ」

 一言、そう返すだけで精いっぱいだった。一応いつも通りの笑みも見せたつもりだが、ちゃんと笑えていたかわからない。

「澤田。とりあえず鷲原の洞穴に行こう」

 先ほどまでと変わらない柊の声に、澤田ははっと我に返った。

「洞穴? ってどこにあるんだ?」

「場所は案内する。禍津女が封印されていた場所でな。一応確認しておきたいんだ」

「わかった。じゃあ適当に昼飯買いながら行くか」

 澤田はズボンのポケットから車の鍵を出すと、和奏のほうを向いた。

「お前も来るか?」

「なによ。敵に塩を送るつもり?」

「敵って」

 思わず、澤田は笑ってしまう。

「和奏ちゃん、俺より頼りになりそうだから。一緒に来てもらって柊の手助けしてもらえないかなと思ってさ」

「しょ、しょうがないわね。そこまで言うならついていってあげるわよ」

 どっちが先に事件を解決するか勝負だと一方的に持ちかけられていることもあるが、一人にするとどうも危なっかしい行動をしそうな気がする。

 というのが誘った本当の理由なのだが、言えば反発しそうなので伏せておいた。


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